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BLの丘
珍客の土産 3
2013-07-17-Wed  CATEGORY: 珍客
空は茜色から紫紺へとグラデーションを繰り広げていく。
オレンジ色の間接照明がバスルームを淡く浮き上がらせているようだった。
軽く唇を合わせるだけのキスが、何度も繰り返される。
だが激しく絡ませられるものではなく、スキンシップの一部でしかない。
これから共に過ごす時間の配分などがしっかり組み立てられているのだろうかと笑えてしまうくらい、がっつくこともなく落ちつきがあった。
性交は愛情を確かめるための一つの手段でしかないと、年を重ねるごとに深く感じるようになってきた。
四六時中人肌を触れ合わせていないと安心できない子供でもない。
逆に一度の行為が濃密になったような気がしている。
素直に甘える術をどこかに置き忘れてきた"大人"の本質を暴くような…。

「ん…、ふぅ…」
ジャグジーバスの水音に混じって望から深い吐息が漏れると、佳史の動きも止まってくる。
「望、のぼせそうかな」
「そろそろご飯が来るかも…」
「なんだか、色気のない会話だな」
どちらからともなくクスクスと笑って、上がりのくちづけを交わした。
それくらいの会話で全ての熱が冷めてしまうこともないと分かっているから安心して口に出せる。
ムードにこだわるわけでもなく、むしろ居心地の良さを実感し、ありのままでいられることに安堵した。
佳史がスクッと立ち上がり、望はシャワーブースへと向かっていく背中を眺める。
特に鍛錬しているわけではないのに、引き締まった体は、日々の激務を物語っているようだった。
この暑さでもバテたり泣きごとを言わない体力と精神は感服ものだ。
コックをひねり、頭のてっぺんから勢いよくお湯を浴びて、両手で濡れた髪を梳き上げてから、望に視線を投げてくる。
手のひらを上に向けてクイッと指を折り、瞳だけで「おいで」と呼ばれた。
ひとつひとつの仕草が様になりすぎていて、時々悔しくなることもある。
本当に同い年なのだろうか…。
落ち付きは昔から変わっていないだろう。
よく他の人間に盗られなかったものだ…と望の中で七不思議のひとつに挙げられるほどだ。
その優しさに甘え続けた。今は信じて頼り、追いかけていくことができる。
失うことが考えられない、体の一部となってしまった人。

風呂上がりにガウンを着用して、ソファですっかり寛いでいたところ、定刻通りに料理はワゴンに乗せられてやってきた。
ダイニングテーブルに所狭しと並べられていく数々は、ルームサービスの品としての域を越えていると二人して顔を見合わせてしまった。
どんな姿形で提供されるのかの見本があるわけではないが、食材の質からしてランクが違っていると、見た目だけで判断できる。
「すみませんが…」
邪魔をしては、と一歩離れたところから見ていた佳史もさすがに口を挟まずにはいられなかった。
従業員であるボーイに尋ねたところで詳細など知りはしないのは百も承知だが、状況も分からずに食すわけにもいかない。
佳史が声をかけると、質問事項がすでに分かっているように、人当たりの良い柔軟な態度で受け答えをしてくれる。
「レストランのご利用を承れなかったお詫びとのことです。本日限りのメニューになりますので、是非ご賞味ください」
サービスのひとつと言ってしまえばそれまでだが、客の行動を逐一把握しているホテル側に絶句してしまう。
クレームとして訴えるほど常識の外れた行動をとるわけでもない客に、ここまでの過剰なサービスが必要なのか…。
望は新たな疑問を抱くものの、佳史は納得してしまった様子だった。
ここまでされて「下げてくれ」とは言えないといった態度で素直に礼を述べている。
ホテル側にとって、受け入れ喜びを表してあげることが、最高の返事になる。
並べられた料理は全て、一組の宿泊客のためだけに作られたものだった。
『本日限りのメニュー』と、あたかも誰にでも振る舞われているように言うが、こんな手間をどこの客にも与えているはずがないだろう。
常に給仕係がいなくても最後まで美味しく食べられるように工夫がなされている。
サラダは氷の器に盛られていたし、メインディッシュにかけるソースも風味を落とさないよう別添えで、蓋付きの食器に用意されていた。
乾燥を心配する料理はガラスケースに覆われていた。
豪華すぎるセッティングに望は気後れしてしまう。
佳史が伝票ホルダーの用紙にサインをし、チップとしての紙幣を挟みこんで返すのを呆然と眺め、黙って見送った。
ボーイが姿を消すと、手招きで呼ばれた。
静かに笑みを浮かべる姿には、感慨深げな雰囲気が漂っている。
僅かに肩をすくめる仕草を見せられ、断わりようもない諦めに似たものがあったと報告されているようだ。

「いいの?」
「あぁ。あの人の手回しの良さには感心させられるよ」
「『あの人』?」
どんな裏事情があるのか、ほのめかされた第三者の存在には嫌でも気を留めてしまう。
お互い職業柄、守秘義務を背負っている分、詳細が語られることは少ないが、だからこそ聞いたことに対しての口の硬さには信頼があった。
テーブルに寄りながら口に乗せた疑問は訝しさを含んでおり、察した佳史は、嫉妬の対象ではないと更に笑う。
「三隅さん、さ」
佳史に『患者を気にかけない時間』をプレゼントしてくれた人の名を出しては、最高のもてなしをするよう事前からホテル側に自分たちのこと委ねた背景を察した。
滅多に出会うことのない出来事はより感動を増す。
三隅にとって佳史に無言で働きかけた『休日の取り方』だったのかもしれない。
たまにはこうして休息を味わいなさい、と。

常にこんなに豪華で贅沢な時間がほしいわけではないと、望は胸の内でつぶやいた。
ただ、佳史が無理なく肩の力を抜いてくれればそれでいい。
家を離れたがらない佳史の気持ちを尊重しながら、ほんの僅か離れただけで気に留めるものから解放されるとは、望にとっても喜ばしい出来事になる。
それを望にも教えた時間だった。
望からの誘いであれば、佳史も嫌な顔はしないだろう。
素晴らしいお土産をもらったものだ、と思わず頬を緩めたのは二人して意味を理解したからだった。

周りの目を気にせずに過ごせる空間はより奔放にさせてくれるものになる。
向かい合ってテーブルにつき、シャンパングラスを空け、次はワイン…と優雅な時間が流れた。
「焼き加減が絶妙」と言いながら、佳史が肉にナイフを入れる様子を眺める。
見事な手さばきだと目を奪われる動きを披露している。
「佳史って、やっぱり器用だよね」
「? そうかな?」
「うん。なんというか…。手元に狂いがない、って感じ」
口の中に入ればいいと、切り分ける自分とは違って、素材にも食器にも乱れたものが残らない。
一片を望の口元に差しだし、望は当たり前のようにパクリと噛み砕いては嚥下した。
こんなこともレストラン内ではできないものだ。
佳史は苦笑いで他の人たちと少々違う暮らしぶりを明かした。
「まぁ、練習したからね」
「『練習』っ?! ナイフとフォークの?!」
意外なセリフに目を剥けば、肩を揺らす笑いに変わられた。
時折される、本当か嘘かの判断が難しい発言が楽しませてくれる。
「そう。あと縫合のね」
そこまで言われて、あぁ…と妙に納得する。
ナイフとメスは違うだろうけれど、『切る』ことに変わりはないのか…と。
影ながら努力を続けた結果は直接人目に晒されないが、こんな形で出てくるのかもしれない。
何事も飄々とかわしてしまう佳史にも、最初からできることなどないのだと今更ながらに安心している。
今となっては全てが佳史を飾り立ててステイタスを上げていた。

夜景

優雅な一時。
窓の外に輝く光景はいつしか輝く宝石の色に変わっていた。
佳史だけでなく望を照らすものも、ひとつではないと励まされているようだ。
自分の価値を高めるために必要と思われる、素敵なプレゼントだと笑顔に込めた。

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コメント

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モー! <<o(>-<)o>> クヤシィー!!
コメントけいったん | URL | 2013-07-17-Wed 08:11 [編集]
「せっかく ルームサービスで メンバーの誰かが 部屋に入れるかと思ってたのに!」byちー
「その ギラギラした殺気が ダダ漏れでは、変えられるよねー」byさ
「そうですよー、恐ろしい位ですよー」by ni

「ん? ところで けいったんは 何所に行ったの?」byちー
「あぁ 遅れて来るメンバーを迎えにね♪」byさ
「エッ!腐レンジャーに 新メンバーですか!」by ni

「お~い、みんなぁ~!新しいメンバーを紹介しま~す」byけ
「…、初めまして すぎもとです」byす
「「「「ようこそ~ 腐レンジャーに♪」」」」
「このメンバーに 付いて行けるか…心配(←心の声)」byす

メンバーが続々増えれば アチコチもCPさん達の動向を監視できるもんねー(*`▽´*)ウヒョヒョ♪

ところで きえちん
個展している新進気鋭の画家って もしかして 彼なのかな?
彼だったら この後 『特別出演』あるのかなぁ~ヾ(≧▽≦)ノわくわく
もちろん 俺様の恋人の出演も!
б(@ω@)ヘッ、ボクノ コト?
画家
コメントさえ | URL | 2013-07-17-Wed 20:29 [編集]
すぎもとさんようこそ~♪
新進気鋭の画家は絶対にひーちゃんでしょ(*^^*)
きっときえちんがこのあと書いてくれるはず♪
またみんなで潜入だね(o^-')b
どこでも突入~ε=ヾ(*~▽~)ノ
Re: モー! <<o(>-<)o>> クヤシィー!!
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-17-Wed 20:33 [編集]
けいったんさま こんばんは。

新メンバーが加わって更に最強になりますね。
団結力が怖いわ…。

> メンバーが続々増えれば アチコチもCPさん達の動向を監視できるもんねー(*`▽´*)ウヒョヒョ♪

誰が誰を見張るのかしら。
(( ゚ ▽ ゚ ;)エッ!? それはあちこちのCPを書けとか…???)

> ところで きえちん
> 個展している新進気鋭の画家って もしかして 彼なのかな?
> 彼だったら この後 『特別出演』あるのかなぁ~ヾ(≧▽≦)ノわくわく
> もちろん 俺様の恋人の出演も!
> б(@ω@)ヘッ、ボクノ コト?

へんなところに食らいついてはいけませ~ん。
誰視点で見たら、登場人物が『珍客』になることやら…の世界になっちゃう…(もうほぼ全員?!)
淡い期待を胸にしてお待ちください。
コメントありがとうございました。
Re: 画家
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-17-Wed 20:38 [編集]
さえさま こんばんは~。
ご一緒してた~。

> すぎもとさんようこそ~♪
> 新進気鋭の画家は絶対にひーちゃんでしょ(*^^*)
> きっときえちんがこのあと書いてくれるはず♪
> またみんなで潜入だね(o^-')b
> どこでも突入~ε=ヾ(*~▽~)ノ

こ、こちらにも…/(゚×゚)\
画家って他にいなかったっけ…(ちびっ子しか浮かばないや…)
みんな、役割分担で喧嘩しないで仲良くするんですよ~。
突入途中で怪我もしないようにね。
(せっかく佳史センセ、自分の時間を持てているんですから、邪魔しないように)
コメントありがとうございました。
画家さんねえ
コメントちー | URL | 2013-07-17-Wed 21:24 [編集]
うーん、ひーくん以外でいたかしら?
私は、知らないなあ。
そうか、ひーくんだったのかあ!
佳史さんに気をとられて気が付かなかった(笑)
みんな、スゴい!

そして、ヒナパパ。ありがとうございます。
佳史さんと望さんのために素敵なディナーを用意してくださって。
おかげで素敵な一夜を激写・・・いえ、過ごせそうです。←保護者か(笑)


ちー「ねえねえ、すぎもとちゃん」
すぎ「(ちゃん?)は、はい」
ちー「地主が使用後のシーツを売れって」
すぎ「はあ」
ちー「売れるかな?」
師匠「こら、新人に何を教えてる!」
ちー「だってー、上前はねるんだもん、地主」
さえ「まあまあ、プリンでも食べて」
ni 「シーツは、売れないけどー」
一同「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」

ちー「誰のが一番売れるかな?」
師匠「周防さまっ!」
さえ「ひーくん?」
ni 「誰のでも良いんじゃないですか?」
すぎ「あの、誰が採取するんですか?」
四人「すぎちゃぁーん」

新人レンジャー、すぎちゃん(ワイルドじゃない)
何かの採取、頑張ってね♪
ちーさま こんばんは
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-17-Wed 22:49 [編集]
みんなの頭の中、すごいよね~。
しっかり私の助手してくれています(←記憶媒体が損傷している…)
佳史と望は素敵な夜を迎えられましたね。
(読み直したら コンシェルジュが登場していたのでこっちの話にも使ってみた。目が行き届く肩に周防パパはお願いしたのでしょう)

懐かしいお話を拾ってきました。
http://kiehan.blog54.fc2.com/blog-entry-1463.html

日野「ヒサシ、ほら、さっさと洗濯済みのシーツ運べよ」
久志「何枚洗濯が出ているんだよっヾ(。`Д´。)ノ」
那智「いつまで待っても種まきができないじゃん」
成俊:一葉:英人「(*´・ω・)(・ω・`*)ね~」
日野「カラス(腐女子)除けの網も張らなくちゃなんだからさ」
久志「まさかとは思うけど…、それ張るのも、俺?」
日野「当然だろう。おまえのデカイ体で視界を塞いでもらわないと」
久志「ちょっと待て、オイコラ。そんなの、業者の仕事だろっ」
英人「ねぇねぇ、このゴムはどうするの?採取?」
一葉「英人くん、せーふてぃぐっず は必要らしいよ」
成俊「撒き散らすとべたべたになっちゃうしね」
久志「…汚れもの減らしてくれるのは感心だけど…」
日野「まぁまぁ。ヒサシ、意外とマメに動いてくれるし(那智限定だけど)」(←おだてる)
久志「こんだけ働かせて、ちゃんとヤらせてもらえるんだろうな…」(←半信半疑)
那智「ヒサ、ちゃんと毎日疲れるくらい働くんだよ。昼寝は厳禁だからね」
久志「……(間違いなく、うまくコキ使われて一人寝になる)……洗濯は書く個人で……」
一葉「えー、だって動けないもん」(明らかにやる気なし)
成俊「ただでさえ疲れているのに、倒れちゃうよ…」
久志「……(おまえら…、人をなんだと思っていやがる…)……」
日野「おー、すっげぇ筋肉。ぱっつんぱっつんじゃんっ」(←ベタベタ触る。やっぱりおだてる)
那智「ヒサ、ほら、早く、干して~。見られちゃうよ~」

『シーツ』という言葉に釣られて書き直してきたヽ(゚∀゚)ノ
腐レンジャーの影でうごめく人たち、ってところでしょうか。
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