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BLの丘
木漏れ日 24
2013-08-23-Fri  CATEGORY: 木漏れ日
民宿は『貸切』という措置をとらなくても、4部屋しかないために、誰かが身を置けば埋まってしまう話だった。
ただ単に森吉たちは、人数を集めて単価を押さえたかっただけのこと。
素泊まりで宿泊して、一人で3000円、二人利用で4000円、三人利用で5100円…という一部屋の金額設定だと聞いた時、じゃあ、17名で泊まった自分たちはいくらだったのだろう…と謎になる。
もちろん他に食事代やレンタル代もあったのだけれど。
一応、「一部屋五名様まで」と言われたけれど、暇ではない社会人に予定を聞いて、集めても8人にしかならない。
そして民宿に問い合わせたら、すでに二部屋は埋まっているとの返事だった。
まぁ、稼ぎ時に予約があって当然である。
それを思っても森吉たちは随分と早い段階で予約を入れていたのだろうと想像ができた。
最初は連絡先を能代に聞いて、その後は自分たちで手配をしたのだが、あとで聞いた話、能代の遠い親戚が経営しているのだと教えられた。
どおりで好き勝手が許されたはずだ…。

八竜の友人である雄物川六郷(おものがわ むさし)がマイクロバスを用意してくれるというので、すっかり遠足気分だった。
能代に良く似た大柄の熊男はトラックの運転手をしているそうで、道に詳しいのか、住所を教えただけで「あー、あのへんねぇ」と早くも理解したようだ。
大型車は狭い住宅街に入っていけないということと、回るのが面倒くさいという理由で、客用駐車場を貸した五城目家が集合場所になる。
前回同様白神は鳥海の部屋に泊まり込んでいた。

そして出発して最初の信号に辿りつく前に、乗客は缶ビールを開けていた。
「にぃ~ぃ、運転手に悪いよ~」
鳥海が咎めてもその仲間は聞く耳を持っていない。
森吉たちと出かけたときとは違って、ゆっくりのスタートだったから、到着してちょうど昼食になる予定だった。
朝ご飯を食べてこなかったのか?という勢いで持ち寄りの食品が乗客席を巡る。
「早く食べなさい」と言って持たされた鳥海の母、手作りの惣菜タッパーもあって、意識は"腐らせてはいけない"に向かったのかも。
こんなふうに出かけることが滅多にないのだから、童心に返ってはしゃぎたい気持ちは分かるのだけれど…。
「鳥海、いいの、いいの。六郷にはメシ代奢るってことで話ついているんだから」
「でもさぁ…」
八竜は窓を細く開けて、早速煙草に火をつけて一服を始めた。
禁煙車を用意する概念は、運転手をはじめ、ここにはなかったらしく、堂々と煙をあじわっている。
世間では肩身が狭くなった愛煙家も、『貸切バス』の中は自分の城だった。
左側一人席、右側二人席、5列ある座席は、一人一席ずつ座っても余裕があるのに、鳥海と白神は最後部の二名席シートに二人並んでいる。
前の席に八竜が陣取り、隣の一人席に瀬見がいる。
その他が二名席に一人ずつ着席していた。
一番後ろで控え目に発したはずの声も、運転席にはきちんと届いていたようだ。
掠れたハスキーボイスが車内にとどろいた。肺活量はすごいらしい。
「鳥海くん、気にしなくていいよ。次の休憩の時に二人からチューの一つでもしてもらえれば」
「僕、しませんっ」
「ふざけんな、てめぇっ」
大声で返事が聞こえて、白神がむくれて即答し、八竜が苦言を吐く。
ケラケラと笑うみんなで車内が沸く。
そんな中で鳥海は心が冷えていた。
…まさかとは思うけれど…。

からかわれて冗談ばかりであまりにも簡単に口にされるのはいつものことなのに、何故かこの時鳥海の脳裏には、森吉にくちづけを許してしまった過去が過っていった。
それこそ、そんな簡単に誰とでも交わす人間じゃないのに…という焦燥。
どこでどう伝わったか分からないが、知られた過去の話は、友人たちの間でどんな話題にされているのだろうか。
尻軽な人間だとは思われたくないのに…。
周りがやんややんやと騒ぎ立てるなか、激しく後悔が渦巻く。
誰よりも聞かれたくない人…、ふと視線をずらすと、「困ったね」と言わんばかりの表情で瀬見が苦笑を浮かべて鳥海を見ていた。
その顔は、気にすることはないよ、と言っているようだ。
…そうじゃなくて…。
自分の軽薄な行動が今ほど悔まれたことはない。
さらに、瀬見はこんなことも数多く経験してきたのかという疑い。
八竜が言っていたように、誰とだって関係があっておかしくない人だから、これくらいは些細なことで許されるのか。
瀬見はどんな想いを刻んできたのか、そして、今更ながらに特定の人がいるのかとざわめきが胸を突く。
誰が誰と、どこで何をしていたって、どうだって良かったのに。
何故にこんなに瀬見が気になるのだろう。

いつだって、鳥海の味方になってくれた人だからだろうか。
ずっとこうして鳥海のそばにいてほしい甘えが蔓延(はびこ)った。
八竜の友人の、他の人とは違うのだといつのまにか刷り込まれていた。
しかし必ず離れていく。
ついこの前、初めて知り合ったからかもしれないが、過去の概念がないぶん新鮮だ。
ふざけていない人…。
優しい笑みは誰にでも向けられる。
自分だけではないから悔しくて、嫉妬するのか。

どうやったら、誤解は解けるのだろうかと、焦りだけが走り抜けていく。
みんなが賑やかに笑いあう中、なかなかそのテンションに乗れない鳥海だった。

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コメント

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??r(・x・。)アレ???…ヾ(:´Д`●)ノアワワワヾ(●´Д`;)ノ
コメントけいったん | URL | 2013-08-23-Fri 09:12 [編集]
書いたコメが無いと思ったら、
昨日のコメ欄に 今日の更新分のコメしちゃったよ~~!!

同じ事を書くのも…ですから
きえちん、お手数を掛けますが、宜しくです(o*。_。)oペコリ
けいったんさま こんにちは
コメントたつみきえ | URL | 2013-08-23-Fri 09:31 [編集]
どうやらご一緒していたようですね。

コメ欄は、こぴぺってしてくるしかないから、このままにしておきます。

> 瀬見に誤解されたくない!と、焦る鳥海
> ただ一人 テンションが ダダ下がりの姿は、雰囲気に流された自分が悪いにしろ ちょっと可哀想

そうですよ~。自業自得です。
でもその辺は割り切って見てくれる大人な人でしょうからね。
あまり落ち込む必要はないと思いますが、純情オトメンくんなので、不安なんでしょうかね。

> そんな鳥海に 優しい眼差しを向ける瀬見は、
> まだ 鳥海に 特別な感情を持って無くて 八竜の弟としか 思ってないから?

まだまだ『弟分』でしかないかなぁ。
瀬見って面倒見がいいんだよね~(←読み返してきて知った<o( ̄^ ̄)o> エッヘン!!)
由良もそうやって育てられてきたので、感覚的にはまだ同じかも。
でも森吉も惑わされたように、瀬見ももしかしたらΣ (゚Д゚;)?!

コメントありがとうございました。
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