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BLの丘
木漏れ日 37
2013-09-02-Mon  CATEGORY: 木漏れ日
その後、お化け屋敷にいこうという話になって、初めて鳥海は怖気づいた。
暗いところは嫌いなのだ。
「え…?」
鳥海の動揺に気付いたのは八竜と、瀬見もだった。
八竜は黙っていたけれど瀬見は「鳥海くん?」と心配げに覗きこんでくる。
そして先に八竜が真実を伝えてしまった。
「あー、鳥海の苦手なものにようやくたどり着いた~」
口調はからかうものであって、その発言に白神は「え~っ?」と奇声を上げ、瀬見が八竜を咎める視線を向けている。
何故そんな口調をしたのか、理由は瀬見には分かっていた。
誰から知らされるかで、受け止め方は変わってくる。
何より、鳥海から言わせたくなかった八竜の優しさになる。
予想通り鳥海は八竜に噛みついた。
「にぃってばぁっ」
バレた、というよりは、バラされた悔しさに変えていた。
案の定、暗い雰囲気になることもなく、明るい雰囲気のままで話が進む。
鳥海が落ち込むよりも不貞腐れることを良く知っているからこそできる、八竜のいつものパターンだ。

「いーよ、いーよ。お子様はそこで『の』の字でも、書いてろ。藤里くん、俺たちだけで行って来よう。瀬見、飴玉でもしゃぶらせておいて」
八竜は藤里の背中を押して、さっさと歩きだしてしまう。
それもまた、鳥海に考える時間を持たせないもので、おまえは連れていかないと鳥海から苦手なものを遠ざけており、瀬見に向けた言葉は、友達としての甘えでしかない。
瀬見の放っておかない性格を熟知しているから、迷子にもさせず、その場に留まるようお願いした結果だった。
瀬見は苦笑いのあと、軽く肩を竦めて、OKと返事に変える。こちらもまた、八竜の言いたい意味を理解していた。

白神にとっては、これ以上ないサプライズになったのだけれど。
背中を抱かれて密着したことで、「怖いのかな~」と言いながら、さりげなく八竜のTシャツに手を伸ばしていた。

残された鳥海は悔しさに地団太を踏む。
それを瀬見は微笑ましげに見下ろし、ポンと頭上に手を置いた。
「良かった。鳥海くんにも怖いものがあったんだ。天下無敵、最強サイボーグかと思ったよ」
「なんだよ、それ~っ。それに別にオレ、こ、怖くなんか…」
言ってはみるものの、結局尻すぼみになってしまう。
瀬見が、人間として普通のこと、と言ってくれるから、鳥海の気持ちは卑屈にならずに済んでいるけれど。
今度は瀬見が残念な思いをしているのではないかと心配になる。
入れないのは自分のせいだ。
またここでも、自分のせいで一つの楽しみを取り上げることになるのか。
前回は気遣えなかった、海に行った時、瀬見が鳥海たちのことを優先させた過去が甦るといたたまれなくなった。
「せ、瀬見さんは…?」
「ん?俺はどっちでも。鳥海くんが嫌なら無理することないから」
「無理…なんて…」
たかが、何が出てくるか分からない建物の中に入るだけだ。
危害があるわけでもなく、出てきた人間は一様に「怖かった~」と言いながら笑顔を浮かべている。
スリルを楽しむ、という点では乗り物と変わらないのだろうけど。
鳥海は八竜と白神が吸い込まれてしまった入口を見つめる。
瀬見だったら、どんな醜態を晒しても、からかうことなく受け止めてくれるだろうか。
八竜のように小馬鹿にせず、白神に不様な出来事として報告することもなく…。

「オ、オレたちも、行く?」
「鳥海くん?」
「だ、だって、せっかく来たのに、瀬見さんが…」
「だから俺のことはどうだっていいって」
「でも…」
動揺と困惑につつまれる鳥海の態度に、瀬見はニコリと笑って鳥海の気持ちを汲んでくれた。
「じゃあ、手をつないでいる?もうダメだと思ったら、鳥海くん、それ以上なにも見ずに、ちゃんと出口まで連れて行ってあげるから。『飴食べたら元気勇気百倍になった』って八竜に言うか~」
「もう~っ」
鳥海の不安な気持ちを簡単に蹴散らしてしまう。
膨れながら瀬見の腕を二、三度叩いたら、そのまま大きな掌に繋がれた。
ニコニコとした表情はいつもと変わらない。
この人がいてくれれば安心だと、不思議と心が休まってくる。
いつだって鳥海の味方になってくれる人。

入口の先は早速暗闇だった。
他の客とできるだけ重ならないように、少しの間隔をあけて通される。
中に入って、すぐに「ウっ」と小さなうめき声を上げると、瀬見がまたクスッと笑ったのが分かった。
後ろにだって次の客が控えているのが分かってて、入口から「やっぱりやだ~」と出るような、そんなみっともないことはしたくない。
当然瀬見も後に続くのだろうから、瀬見のプライドまで傷つけてしまう。
一旦止まった瀬見が鳥海の腰に腕を回してきて、グッと引き寄せられた。
瀬見の体温を布越しに感じる。
そして囁くように瀬見の唇が耳朶に触れた。
「勇気の出るおまじない」
聞き慣れない男らしい声だけでも身体がカッと熱くなるような血が巡って、次には唇が温かいもので塞がれた。
暗闇でも微かな明かりで瀬見の行動は見えてくる。
瀬見が鳥海にキスをしたのは確かな事実だった。
「あ…」
触れるだけですぐに離れてしまったけれど。
「大丈夫。ちゃんと守ってあげるから。さぁ、行こう」
力強い腕に押されて、鳥海もしっかりと瀬見の背中にまわした手で、瀬見のジャケットが皺になるのも忘れてぎゅっと握りしめた。
鼻腔を瀬見の香りが掠める。
瀬見に包まれているのだとはっきり分かる。
それが鳥海の脅えを払ってくれるものとなっていた。


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コメント

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瀬見ちゃん!
コメントちー | URL | 2013-09-02-Mon 05:18 [編集]
チューしたね?チュー!
あのね、仔猫にはまだ早いの~。
でも、まあ、怖い方が勝ってあれれ?みたいな感じ?

お化け屋敷、私も大好き~。
でも、あんまり入ったことはない。
TDL の、ホーンテッドマンションは楽しいよね。
あれもチューするには最適(したことないよ)

さて、少し本気を出した瀬見ちゃんと鳥海くん。
どうなりますか。あ、にぃと藤里くんもね。
Re: 瀬見ちゃん!
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-02-Mon 10:18 [編集]
ちーさま こんにちは~。

> チューしたね?チュー!

しました~♪
とりあえず、しないと先に進まない(^_^;)
鳥海の記憶にないチュー(とは言わないが)だけじゃダメでしょ。

> お化け屋敷、私も大好き~。

私も遊園地大好きなんですけど、混雑が…(ノд-。)クスン
待ってるのがとにかく嫌いな人で…。
いいところ、30分が限界ですね。
TDRはすっかり遠のいております。

> さて、少し本気を出した瀬見ちゃんと鳥海くん。
> どうなりますか。あ、にぃと藤里くんもね。

もう…スピンオフの域を越えましたね…(汗)
去年は何かに追われるようにバタバタと書いていたから全体的に短かったものが多かったんですね。
100話になることはないと思いますが。
気付いたら9月だし…。
がんばりま~す。
コメントありがとうございました。
チュウした!゚+.○o。.( ゚ ρ ゚ ;)ノ【・・・】
コメントけいったん | URL | 2013-09-02-Mon 11:04 [編集]
お化け屋敷が怖い鳥海が 無理しているのが分かってるからって
瀬見…、…、
手をつなぐ←そ・それは 仕方がないわねー(←まだ余裕の私)
体を引き寄せる←ま・まぁ そ・それも許すわ(←若干焦るも 余裕をブチカマス私)
おまじないのチュゥはーーー(←余裕なんか ぶっ飛ぶ私…il||li_●/ ̄|_il||li ガーン)

皆が 汗水たらして 必死に集めてくれたストローやペットボトル等々が、
今まで 私には キラキラ光って見えてたものが 途端に色あせて見える。。。

だって 生身に接触に 勝るものはないでしょ(T▽T)

えぇ~い こうなったら お得意の 白塗りで オバケになって トコトン 鳥海を 脅かしてやるわぁ~~~ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ

腐友1.「えっ!」
腐友2.「それって…」
腐友3.「逆効果…」
腐友4.「まさしく!」
と、 腐友の声も 聞こえないほど 焦っていた私であった…

オバケだぞ~~~ m( ` ▽´)mケケケ~大丈夫!o(`・ω・´)ェ-`*)ピタッ♡

Re: チュウした!゚+.○o。.( ゚ ρ ゚ ;)ノ【・・・】
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-02-Mon 14:23 [編集]
けいったんさま こんにちら~

> 手をつなぐ←そ・それは 仕方がないわねー(←まだ余裕の私)
> 体を引き寄せる←ま・まぁ そ・それも許すわ(←若干焦るも 余裕をブチカマス私)
> おまじないのチュゥはーーー(←余裕なんか ぶっ飛ぶ私…il||li_●/ ̄|_il||li ガーン)

けいったんさまの常識を外れた~ヽ(゚∀゚)ノ
瀬見ってどこまで紳士?!
いや、こいつ、かなりの○○氏と思います。(←)
(職場で)数字強いなら、応用編も得意技そう…な瀬見です。
(私の頭の中は、数字強い=理数系 なんですけどね…。鳥海、そっちは弱そう…)
ゴミ拾いボランティア、募集していますよ~。もちろん。

くじけずにゴミ拾い(コレクション集め)してね~。

> だって 生身に接触に 勝るものはないでしょ(T▽T)

気持ちは時空を越えるよ(←)
でも得意技はいらないと思う…。
(かえって脅えられる~からやめた方がいいと思いますよ~。忍者のように隠し扉に隠れて、必殺(あらぁん♡由美かOhり)シーンを観察した方がいいと思います)
> えぇ~い こうなったら お得意の 白塗りで オバケになって トコトン 鳥海を 脅かしてやるわぁ~~~ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ

> オバケだぞ~~~ m( ` ▽´)mケケケ~大丈夫!o(`・ω・´)ェ-`*)ピタッ♡

その努力をきえちんは認めます(`・ω・´)ノ

コメントありがとうございました。
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