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BLの丘
月あかり 5
2013-09-24-Tue  CATEGORY: 木漏れ日
仲介役になれるのは瀬見しかいない。
八竜は持ち前の人の良さ、客の接待に慣れた態度でさっさと馴染んでしまった。
高畠と同い年だったことも追い風となる。
瀬見の友人である八竜に、瀬見の何かを暴きたい社員の根性が見えては、瀬見は苦虫をつぶしている。
…普段、会社でどんな存在として君臨しているんだろう…。
鳥海は次々と高畠や由良から八竜に向けて投げかけられる質問を、やっぱり興味深げに耳を傾けた。
「新庄って昔っからあんな高慢ちきなヤローだったわけ?」
「なんだよ、それ…」
「新庄さんってさぁ。うまぁく人を使うよね。あとでやらされたぁって思うもん」
「仕事に、やる、も、やらされる、もないだろ」
どうしても社内話に偏ってしまうのは、この面子では仕方ないことなのか…。
その中でも、知らない世界が垣間見えてくる。
仕事に対して妥協しない精神と厳しさをきちんと持っている人。
だけどそれだけではなく、優しさがあるから信頼に繋がって、こうして付いてきてくれる人がいる。
由良の言葉に辛辣な部分があっても、先輩に対して堂々と発言できるのは、相手が瀬見だから。
変な上下関係を持たせない雰囲気も、自然と伝わってきて、鳥海は自分のことのように嬉しくなれた。

「人を巧く懐柔するんだよね~、コイツ。理に適ったやり方されるから、丸めこまれているっていうかさぁ」
「八竜さんっ、良く分かりますっ、分かる~っ」
八竜の発言に由良が興奮したように同意してくる。
酷い言われように、瀬見は口を挟んでも墓穴を掘るだけだ、と沈黙することに決めたようだ。
自分を犠牲にして、人のことをあれこれ言い叩かないのも瀬見の優しさなのだろう。
苦笑いを浮かべながら鳥海が飽きていないか気にかけてくれる。
「飲み過ぎて眠くなっちゃうかな。ソフトドリンクにしておく?藤里くんも。食べたいものがあったら遠慮なく注文していいからね」
すでに食べ散らかされた皿は、後から手を付け辛いのも分かるのか、藤里にも促していた。
憧れの若美庵に、藤里も興味津々でメニューを覗きこむ。
鳥海と頭を寄せ合っては、「何が美味しかったの?これ、食べたことある?」とやりとりして、新しくオーダーした。
届けられた料理は当たり前のごとく鳥海たちの前に置かれて、他の人たちには、"食べたかったら自分たちで頼め"と無言の眼差し。
何を差し置いても鳥海たちを優先させる。
こんな席にしてしまった瀬見なりの詫びのようにも見えた。

ふたりでは食べきれない、と鳥海と藤里が判断しみんなに差し出すまでは、自分たちのものにしてくれる。
「あ、そうだ、鳥海。この前の問題、終わった?」
藤里が話しかけてきた内容に、露骨に嫌な顔を浮かべてしまった鳥海だ。
何故にここにきて小難しい話になるのか…。
「途中まで。変換、逆変換で訳分かんなくなった…」
「あれさー、…」
あっちが仕事の話で盛り上がっている状況で、嫌な内容でも鳥海と藤里は自然と自分たちに降り注いでいる現実問題に辿りついてしまう。
周りの会話の邪魔をしないようにより密着しては、箸や皿、グラスなどを移動して図を作ってみたり、指先で流れを描いて説明してみたり。
鳥海たちの話なんて誰も聞いていないと思っていたけれど、瀬見と羽後が向こうの話に相槌をいれながら耳を傾けていたようだ。
瀬見が聞き耳を立てている羽後に気付き、顔を見て「羽後さん、分かるんですか?」と尋ね、羽後が「おおよそは…」と答えたところで、由利が「何が?」とはっきりと疑問を口に乗せた。
その声に由良がやっぱり「なにが?」とこちらは由利に聞いている。
連鎖的に由利の視線が羽後、羽後の視線が鳥海たちに向けられると、一斉に黙った空気に、さすがの鳥海と藤里も顔を上げた。
真っ先に目をパチパチさせた双子と視線が合ってしまい、それから周囲を見回して不思議そうなみんなの顔に出会う。
「あ…」
戸惑う鳥海と、少しの場違いさに気付いた藤里が同時にお互いを見つめあった。
束の間の沈黙を破ったのは羽後だった。
「随分と勉強熱心だね」
「「勉強の話なんかしてたの?!」」
出る言葉が同じなら反応ももちろん同じ。由利と由良は心底驚いた表情で鳥海と藤里を見比べる。
「ここまで来て、なにやっているんだか…」
ため息の八竜に高畠が、まぁまぁと宥めた。
場の雰囲気を読むのは高畠のほうが長けているのは一目瞭然で、鳥海はまた兄に対しての情けなさを感じる。
こんなところが組織の中にいる人と、自由業(←いえ、自営業ですから)の違いだろうか。

「鳥海たちの会話内容は俺には全く理解不能だったけど、さすがに羽後さんは分かったみたいだよ」
瀬見が鳥海の頭上をポンポンと叩き、俯き加減になる姿勢を、後ろめたさを感じることはないと笑顔で迎えてくれる。
「「何の話してたの?」」
「「回路設計…?」」
ふたりして疑問形なってしまうのは、一般的にあまり馴染みのあるものではないと知るからだ。
瀬見も意味不明とはっきり口にしている。
やはり双子は同じ仕草で首を傾げたが、八竜は「あぁ、鳥海がこの前から躓いているやつか…」と理解した吐息をついた。
その反応から羽後が「え?お兄さんって仕事は?」と質問が飛ぶ。
小難しい話が分かる間柄がここにも生まれた。
自慢できるものではないと、なんだか身分の違いを晒しているような気分になってしまう。
そして家庭事情が分かれば羽後が「血筋か…」と流れを飲み込んだ。
「鳥海は頭で考えることが苦手なんだよ。実地で物事を覚えていくタイプだからなぁ」
弟の性格を暴露されることで鳥海は不貞腐れたが、他の全員は「ふぅん」と人間性として受け止めてくれる。
藤里が八竜の言葉を継いだ。
「そう。鳥海って実験とか研究は動きがいいんだよね」
「とーりーぃ」
…まるでその他はダメみたいじゃないか…。
「なんでもチャレンジするっていうのは褒められるべき点じゃない?」
瀬見に庇われて、また羽後にも頷かれては認められているようで嬉しくなる。
何より羽後が進んでいる道が一つの憧れとして宿ったからだろうか。
八竜が思い出したように続けた。
「伊達に1、2歳からドライバーや盤陀(ハンダ)で遊んでいないよな」
「「なに、それ?」」
「由利、頼むから工具の名称を少しは覚えてくれ…」
相変わらず同じ反応をした双子に、羽後は初めて由利をため息で諭していた。
聞き慣れない名前とはどこのジャンルでも存在するものだが、仕事に関わっている人には致命的だろう…と、鳥海と藤里、八竜は胸の内で呟いたが、誰からも音になって喉から零れることはなかった。
鳥海の幼い頃の遊び道具が、父親が客先から回収してきた不用品の分解だったことを語られると、鳥海はおもちゃを買ってもらえなかった貧乏家庭事情を露呈したようで恥ずかしくなったし、他の面々は無意識のうちに叩きこまれた要項に感心している。
「鳥海くんって、物作りがしたいの?」
羽後からの質問は、具体的に将来の夢を尋ねるものであった。

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コメント

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盗聴中~!(ーーэ│フムフム、ナルホド…
コメントけいったん | URL | 2013-09-24-Tue 13:02 [編集]
瀬見の人柄の暴露大会も ひとまず終了~!
反論もしないで 大人の対応とは、さすがですね(*^-')b

どんな些細な事も漏らさない様に イケメンズの動向に 目が話せない私たちですが、仕事の話しも 勉強の話しも チンプンカンプン!

ならば 目の保養を重視しちゃおうっと♪(* -∇-) ジーッ!

あぁーでも 双子が 四つ子に見える
老眼って?
いえいえ、酔いが回ってるだけですから!d( ゚ェ゚ )ビシッ!

市「若美さん、あの人 怒っちゃったんじゃない?」
若「ん?  確かに 睨んでるなー」 
市「担当代わって 気分を悪くしたのかな? ど・どうしよう!」
若「いやぁ 気にするなって それは 大丈夫だからな♪」
≪俺の可愛い市を怖がらすなよ!あのクソババァーー!≫←若美の心の声

(; ̄ー ̄)...ン?
何故か 若美に ガン飛ばされてる私
だからぁ~睨んでるじゃなくて 見難いから 目を細めて ガン見しているだけですってぇ~!!( =_=) ジィー・・・・・>
Re: 盗聴中~!(ーーэ│フムフム、ナルホド…
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-24-Tue 15:51 [編集]
けいったん様 こんにちは~。

> 瀬見の人柄の暴露大会も ひとまず終了~!
> 反論もしないで 大人の対応とは、さすがですね(*^-')b
>
> どんな些細な事も漏らさない様に イケメンズの動向に 目が話せない私たちですが、仕事の話しも 勉強の話しも チンプンカンプン!

瀬見の落ちつきとは、どんな場面でも発揮されちゃうようです。
無駄に鳥海たちを興味の対象にさせたくないもんね。
オドオドする仔猫ちゃんたちは守らなければなりませんから<(`^´)>エッヘン
でも難しい話をされちゃったから、結局注目の的になっちゃった…。

> ならば 目の保養を重視しちゃおうっと♪(* -∇-) ジーッ!
>
> あぁーでも 双子が 四つ子に見える
> 老眼って?
> いえいえ、酔いが回ってるだけですから!d( ゚ェ゚ )ビシッ!

老眼はまだ早いです~。
近視です、近視。
あれ、4人いるんだから、ちゃんと見えているんじゃ?!(双子が四つ子なんだからズレているんだって)
きえちんは超ド近眼なので、裸眼のときは、鏡に映っている自分の顔が見えないのでお化粧できません。

若「やたらに近づいて因縁つけられても困るからな。関わらないのが一番だ」
市「触らぬ神にたたりなし ですね」
若「市~。おまえ頭いいなぁ」(頭ぐりぐり撫でる)
市「…な、なんか、また視線感じる…」

腐『ねぇねぇ。あっちもイチャイチャしてない?』
腐『どれどれ』
ジィィー (;¬_¬);¬_¬);¬_¬);¬_¬) (‥;)

コメントありがとうございました。
老眼?
コメントちー | URL | 2013-09-24-Tue 20:01 [編集]
な、何やら難しい話をしてるなあ。
数学嫌い、物理も嫌い!

ハモる双子ちゃんは、可愛いなあ。
一人欲しい・・・いや、セットだった。


ち「師匠?師匠ったらあ」
し「ん?ナンダイ?」
ち「イチが怖がって下がっちゃったよ」
し「け、つまんねーの」
さ「でも、若美さんが何だか頭グリグリしてる」
に「あ、ちゃんと録音出来てるー♪」

瀬見ちゃんも鳥海くんにベッタリ。
にぃは、まあ、あんな感じか。
藤里くん、ここはデザートも美味しいみたいだよー。
四人で半分こしあって(笑)

し「バカあ、瀬見のバカァ。佐貫のバカァ」

師匠。イイ人呼んであげるよ。
Re: 老眼?
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-24-Tue 21:55 [編集]
ちーさま こんばんは~。

> な、何やら難しい話をしてるなあ。
> 数学嫌い、物理も嫌い!

私も大っ嫌いな科目です。
この話を書くために、チラッと調べたけれど、何一つ分かりませんでした。
数学どころか、算数の時代から挫折したからなぁ…私…。
(小学生の姪っ子の宿題を見て 回れ右しましたよ…)

> ハモる双子ちゃんは、可愛いなあ。
> 一人欲しい・・・いや、セットだった。

双子って、驚くくらい、同じ反応するよね~。
何故か、まず最初に顔を見合わせてから、一緒に喜んだり驚いたりするの。
不思議だ…。
二人一緒にいるから、良く分かる。

4人でデザート半分こ…。
はんぶんこ???
4人で食べても半分こなのかなぁ(←そんな細かいことはどうだっていいじゃんねぇ)
あ、サツマイモポテトのことは、別宅に書いておいたよ~。

> 師匠。イイ人呼んであげるよ。

えっ?! 誰、誰~っ?!

……(*゚ロ゚)ハッ!!ま、まさか……
天国から呼び戻すの~???

コメントありがとうございました。
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