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BLの丘
月あかり 6
2013-09-25-Wed  CATEGORY: 木漏れ日
具体的に何かをしたい、という方向性は決まっていない。
漠然と、何かをいじっていたい、ということくらいだ。
その曖昧さを口にすれば、「あくまでも参考に」と羽後がかいつまんで話をしてくれる。
「必ずしもその仕事で一生過ごさなければいけないわけではないし、途中で方向転換するのも薦められる。どんな仕事もそうだけど、過去の経験がものを言うところは多い。ただ、どんなにやりがいのある仕事だったとしても、付いて回る生活環境などで追い詰められる可能性も出てくる」
「『追い詰められる』?」
好きな仕事であればそれだけで充分じゃないかと考えていた鳥海には、まだまだ社会の厳しさなんて想像もできていなかった。
やりたいことはもちろんだが、就職するにあたっての注意事項とでも言うべきか。
「会社によって異なることばかりだから、そこのところは先に確認しておいたほうがいいよ。技術系の仕事ってその腕を求められるものだからさ。『もの作り』っていうのは、要するに一枚の真っ白な紙に色を付けて、それを立体的にしていくものだろ。ただの一枚の紙を目で見ても触れても分かる『物』にする。現場に携わることになれば、頻繁に勤務場所が変わるっていう場合も出てくる。まぁ、転勤・異動・出向なんて言葉で言われることだけどね。それを繰り返すことで無駄な疲労感を生み、精神的な負担を強いられることになる人も出てくる。そうすると良い仕事はできなくなる」
自分の価値も落ちる…。
逆に一つの仕事を終えて、達成感を味わい、更なる新天地を求める人間になる可能性も秘めている。
人それぞれの感じ方、考え方で生き様は変わってくる。
新しい環境に順応することが苦手な人には、あまり向かないかもしれない、と。
そこは仕事の話ではなく、暮らしぶりのことだった。
『生活環境で追い詰められる』意味が、鳥海の頭でも理解できるようになった。
生活拠点が変わらずに、現場だけが変わるのなら、まだ救われるところはあるだろう。
近所、友人などまでもが一転してしまう環境など、鳥海には想像ができるものではなかった。

少なからず、羽後はその経験者だ。
「出来上がったものを維持管理していく側になればまた違う。一つの例としては、お兄さんみたいな職種だよね。俺らもそうだけど。うちの会社みたいに、各支店の管轄に全てを任せて、入社時の契約内容の中に『転勤一切無し』って盛り込むことで人材確保するところもあるからさ。そういうとこも頭の隅に置いて検討するのもいいんじゃ…」
「はぁっ?!ちょっと待ってよ。『転勤無し』?」
羽後の説明を静かに真面目に聞いていたところで、突如声を上げたのは由良だった。
真剣に聞いていたからこそ、聞き捨てならない重要な内容に気付いた感じだ。
その途端に、一段上ににいたような雰囲気の羽後の表情が俄かに崩れた。
それこそ、"墓穴を掘った"そのまんまだ。
鳥海の将来に向けたアドバイスの話は、一気に現実の世界を突きつけた。
由良の饒舌になる口は止まることがない。
「それって多少距離のある担当箇所が増えたり変わったりするくらいなもので、今みたいに、あーんな遠くに引っ越さなくていいっていう意味でしょ。なんで雄和さん、『転勤』なんてことになってんのっ?会社側が契約を反故にしたってこと?管轄がそれぞれに分かれているのなら、支社間同士の連絡だって濃密にされているわけじゃなさそうだし、人員的に多少困った状況になったとしたって、『ちょっと行ってきます』で済む話になるんじゃないの?全然話が分かんないんだけどっ」
更に驚かされたのは、その会社に勤めることになった由利が、何の話も聞かされていなかったことだった。
どうしたって羽後にうまく丸めこまれた感は否定できない。

こうなっては鳥海たちの存在は二の次に回され、絶対に誤魔化されない態度で由良は切りこんでいく。
真実はさておき、今となってはもうほじくっても仕方ないから…、なんていう気持ちは微塵もないことがありありと見てとれた。
なんだったら、離婚話に進展させようという勢いすら感じられる。
「ゆ、ゆらぁ…」
「ユーリは黙っててっ。それに今現在、ユーリの身がそっちの"管轄"に入ったってことは、この先も戻ってくる可能性はほとんどないってことっ?!何がどうなってるんだよっ、説明しろっ!!」
最後、由良の怒鳴り声は店中に響いたと言っても過言ではない。
由良の剣幕に気圧されて、鳥海たちは黙って状況を見守るだけになった。
一瞬店内がシンとなり、居合わせた客の視線が振り向いたが、由良は気にしてもいなかった。
高畠が今にも掴みかかりそうになる由良の体を抱き寄せては宥めに入る。
「由良、ほら、他の客もいるんだからさ」
「ウルサイッ。ユーリは騙されたんだっ」
「あのなぁ…」
呆れたため息と苦笑と、どこか羨ましげな憂いが漂った気がした。
由良の表情は怒りの中に不安さを滲ませている。
どれだけ気丈に振る舞ってもそこに潜むものまでは隠せないのが、高畠はもちろん、羽後にもまた瀬見にも伝わったようだ。
決して頭ごなしに抑えつけようとはしない。
由良は高畠の腕を振り払って由利をぎゅーっと抱きしめた。
「ユーリっ、詐欺にあったんだよっ。アイツ、痴漢男は詐欺師だったんだっ」
「由良…」
由良はどこかで認めたくない、駄々っこのようにも見える。
悔しさなのか、嫌味なのか…。
由利はもう一度「由良…」と名前を呼んでこちらも抱きついて鎮めようとしていた。

双子がギューギューやっているのを瀬見が制止する。
「由良。感情的にならないで、とにかく羽後さんに話してもらおう。これだけの人間の前で逃げも隠れもしないだろ?」
瀬見の態度は由良をたしなめるものでもある。
高畠と大きく違うのは、客観的に見ることができるところだろう。
普段の職場での立場も関係してくる。
由良も瀬見には一目置いているのが、こんな時に教えられる。
和やかな雰囲気とはまた違うものを鳥海も直に感じた。
また瀬見が羽後を庇わなかったのは、就職についてここまで話し、鳥海に聞かせてしまったからだった。
道理に合わない"嘘"を鳥海の中に残したくない。
転勤をさせない会社があると言っておきながら、この結果は矛盾でしかなく、猜疑心を呼びこんでくる。
不安を宿し迷わせるようなことは避けたかった。
大人の間ではびこる汚い世界を知るのは、まだ先の話でいいと思うのは、"守り"に入った証拠だろうか…。

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SS…、SSだよね…ぇ???(←誰に聞いているんだか…)
目標10話だったけど、妄想予定の半分にようやく文章が追いついた気がする…。
こっちも長くなるのかしら…(不安)
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トラックバック0 コメント6
コメント

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まだ、半分
コメントちー | URL | 2013-09-25-Wed 00:19 [編集]
あー、雄和さんバレたあ。
私も何となく変だなとは思ってたんだよね。
さあさあ、どうなの!
早く言ってちょうだい!

由良だって、由利を思えばこそ送り出したのにねえ。
そりゃ、怒るわ。
でも、訳があるんだよね、雄和さん。

「訳を言えーっ!!」

すでにまったりモードの腐レンジャー(と、お姉さん)
由良の怒鳴り声にビクッ。

ち「 由良あ、可哀想。泣きそうじゃん」
し「たく、子供なんだから←いつも冷静」
さ「何々?どうしたの?」
に「カクカクシカジカ」

一気に酔いから覚めた師匠。

し「ちぇ、せっかく良い気分だったのに。イチっ!おかわりっ!」
に「イチは、来ませんてばぁ」
し「つまんねー!」

て、事でまだまだちーの電話はかけません(笑)
Re: まだ、半分
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-25-Wed 07:54 [編集]
ちーさま おはようございます。

> あー、雄和さんバレたあ。
> 私も何となく変だなとは思ってたんだよね。
> さあさあ、どうなの!
> 早く言ってちょうだい!
>
> 由良だって、由利を思えばこそ送り出したのにねえ。
> そりゃ、怒るわ。
> でも、訳があるんだよね、雄和さん。

変だと思っていたのか…。
私は読み返したときにひらめいたのに…(読者様の妄想力、すんばらしいぃぃ!!!)
なんかあるんだね、雄和も。
まぁ、勘の良い人なら、読み返してくると気付く方もいるかもしれませんね。

> すでにまったりモードの腐レンジャー(と、お姉さん)
> 由良の怒鳴り声にビクッ。

お姉さんで思い出した(←こっちも今頃になって思い出す)けど、
若美の家って女性がいたよね。
若美の妹で、真室のお姉ちゃんだよ。
そっか、たまに手伝いに来るんだ~(←)

> て、事でまだまだちーの電話はかけません(笑)

まだまだかかりそうです。
電話もまだ先ですね。
暴対法があるので、お友達とご来店ってことはないはずだから…。
誰と来るんだろう。
子供が寝たら あとは大人の時間?
たまには…って、家政婦さんとかなぁ。(そして腐レンジャーの仲間入りしちゃうの????)

清『…(あら、良い雰囲気のお店ね。家政腐会にはもってこいだわ…←心の声)』

コメントありがとうございました。
(:@∇@)b ナ、ナニガ アッタノ?!
コメントけいったん | URL | 2013-09-25-Wed 09:49 [編集]
若美庵に流れる 楽しい空気(←市と若以外の)をぶった切る 由良姫の怒声!

一人、飲みに集中していた私は 分かるはずも無く、 しっかり観察していた ちーさんに詳細を聞くと...
≪さえさんは、彼氏に 美味しい料理を写メして送信中だし、
niったんは ボイスレコーダーの録音時間が気になってるし≫

進路に悩む鳥海に 親切&丁寧な話しは良いけど、余計なひと言を!
(。ノω<。)ァチャ-、雄和ったら~~!
半身半心の双子ちゃんたちを離した訳を 由良姫と由利姫が 納得できる様に 説明しなくてはね。

あー 由良姫は 何を言っても ムダかもしんあいけど…

ち・さ・け「「「niったん、しっかり録音してね!」」」
ni「責任重大で 心臓が潰れそうです・・・(T▽T)」

市「今日は いつもの店と 何か違う…」
若「…市」
と、不安がる市を落ち着かせる様に 見えない所で 市の手を強く優しく握る若美であった。。。

でも そこは抜け目のない ちーさん
「しっかり 撮りましたよ、市くん 若美さん♪(=艸=。)クククク(。=艸=)クククク」
Re: (:@∇@)b ナ、ナニガ アッタノ?!
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-25-Wed 16:07 [編集]
けいったんさま こんにちは。

> 若美庵に流れる 楽しい空気(←市と若以外の)をぶった切る 由良姫の怒声!
>
> 進路に悩む鳥海に 親切&丁寧な話しは良いけど、余計なひと言を!
> (。ノω<。)ァチャ-、雄和ったら~~!
> 半身半心の双子ちゃんたちを離した訳を 由良姫と由利姫が 納得できる様に 説明しなくてはね。
>
> あー 由良姫は 何を言っても ムダかもしんあいけど…

何があって双子は引き離されたんですかね。
そりゃ由良は黙ってはいないでしょうよ。
こんな秘密事項があったらねぇ。
え?!魚の骨が飛んでって刺さっているかも?!
そこは控えの騎士が未然に防いでいると思います。

> ち・さ・け「「「niったん、しっかり録音してね!」」」
> ni「責任重大で 心臓が潰れそうです・・・(T▽T)」

> 「しっかり 撮りましたよ、市くん 若美さん♪(=艸=。)クククク(。=艸=)クククク」

声! 声いいよね~♡(←声フェチ)
写真もスキー♡
にっちんは『音声販売』でもするのかなぁ。

≪妄想販売所≫
○サンプル
  【写真 (手を取りあうふたりが映ってる)】
  【声 『あっ』 『大丈夫だ』 『でもいつもと違う…』 『たまには違うのもいいだろ?』】
続きは妄想で。

写真とセット販売か。売り上げ倍増するかしら。
コメントありがとうございました。
録音時間が。。。
コメントnichika | URL | 2013-09-25-Wed 21:05 [編集]
ギュワーン 一気に冷気が来た= エアコン少し上げます?

「え?!魚の骨が飛んでって刺さっているかも?! 」
昔 お店で鉢合わせしたご夫婦 浮気性のご主人に 気の強い奥様
宙を飛ぶ白いもの  山芋すったもの 投げました 
笑うに笑えない 引きつったゎ  食べ物は大事にしましょう
Re: 録音時間が。。。
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-26-Thu 08:55 [編集]
nichika様 おはようございます。

> ギュワーン 一気に冷気が来た= エアコン少し上げます?

すっかり肌寒くなって…(ってお天気じゃなくて 笑)
由良前線が店内を覆ってしまいました。
でもまぁ、手懐け方を学んでいる騎士団ですからね。
(・・)ヾ(- - )ヨチヨチ

> 「え?!魚の骨が飛んでって刺さっているかも?! 」
> 昔 お店で鉢合わせしたご夫婦 浮気性のご主人に 気の強い奥様
> 宙を飛ぶ白いもの  山芋すったもの 投げました 
> 笑うに笑えない 引きつったゎ  食べ物は大事にしましょう

食べ物は投げちゃいけませんよ~っ。
私も以前、ラーメン屋で夫婦喧嘩をしている熟年CPを見かけましたが。
いきなり奥さんがコップの水を旦那さんにぶっかけているのを目撃した時は目が点になりました。
一緒にごはん 食べに来たのだろうに。
何が原因でこんな空気になっちゃったんだろうね。
あーゆーときって 店員も周りの客もどう反応していいのか困っちゃいますよね。

魚の骨はもう食べ物じゃないかもしれないけれど、汚しちゃいますから、やっぱりやめましょう。
コメントありがとうございました。
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