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BLの丘
月あかり 8
2013-09-27-Fri  CATEGORY: 木漏れ日
瀬見の一言で、まったりとした時間は終わりを迎えた。
「じゃあ由良、また来週。本荘くんも元気でね」
「瀬見さんもお元気で」
瀬見はニッコリと微笑んでは軽く手を上げて由良と由利を見やり、羽後にはちょこんと頭を下げて、高畠にも「またな」と声をかけた。
4人はタクシーで帰るというので店の外で別れた。
最後まで手をつないでいた双子に、心底仲の良さを見せつけられていたが、最初の頃抱いた恥ずかしさが今では薄れて、むしろ、自然のものとして受け入れられるようになっていた。
本当はずっとそばにいたい、いてほしい存在なのかもしれない。
だけどお互いのことを思うから、そしてもう一人の大事にしてくれる人がいるから、幸せを求めて手を離していく。
二人にとって自然だったものは、離れてしまっても繰り返されることで、恋人が許容しているところに、より一層の愛情を感じた気がした。
鳥海と藤里も、瀬見と八竜に見守られていることに変わりはないだろう。
自分たちも近くに居すぎる存在。
ただひとつ違うことは、離れていく時は鳥海一人だけということだ。
おこがましくも例えで上げるのなら、羽後と鳥海が似た立場に当たる。
羽後はしっかりと将来を見据え、環境を整えたが、鳥海にはそんな能力も技量もない。
すでに生活の基盤を作り上げた瀬見に、鳥海に対してどうこうしてほしいなどとは、口が裂けても言えるものではなかった。
それは藤里や八竜に対しても同じこと。
藤里の未来は多少変わることがあったとしても、瀬見と八竜は余程のことがない限り、今の生活に波風をたてることなく過ごしていくのだろう。

…羽後さんか…。もっと話してみたかったな…。

鳥海が触れ合う社会人など、近所の人や八竜の友達ばかりで、『会社』という堅苦しさなど微塵も感じられない人ばかりだ。
出会いが出会いだから、羽後の前で緊張しなくて済んだことも良かった。
組織の中で自分を確立した人の話など滅多に聞けることなどないし、本当だったらカチコチになって、聞きたいことも聞けず、自分の意見も発することなどできなかっただろう。
更に内輪事情なんて、軽く口にされることではないことなのに、羽後は語ってくれた。
『あくまでも参考に』と言って。
鳥海が漠然とした未来像しか描けないでいるからこそ、強力なアドバイザーになってくれそうな期待もある。
瀬見が頼りない、という意味ではなくて…。
違った意味で、"話を分かってくれる人"。
車に乗り込んだ4人に、鳥海はとりわけ、助手席に座った羽後に向かって深々と頭を下げた。
発進する車の中から口端を上げた羽後の表情が見えただけで、すぐに視界から消えた。

誰からともなく、足が前に出る。
鳥海と瀬見、八竜と藤里は一緒に駅に向かった。
歩きながらふと視線を空に向ければ、明るい月が輝いていた。

十五夜

雲が一つもなくて、街灯が邪魔に思えるほどの明るさを放っている。
「こういう日は月見酒といきたいところだな」
「八竜さん、まだ飲むの?」
情緒ある光景に八竜のポツリとした呟きは藤里の呆れた声によって非難された。
見知らぬ人を前に、普段のペースで飲めなかったのは理解するが、どこまで飲みたいんだか…と藤里に同情してしまう。
あんな話の後だからか、鳥海ははしゃぐ気持ちもどこか失せていた。
せっかく待ちに待った瀬見との時間だったはずなのに、迎え来る将来を具体的に突きつけられたようで、焦燥と不安にかられる。
この暗がり、昼間の太陽とは違う明るさで照らしてくれているところが、尚更気分をセンチメンタルにさせてくれた。
先を藤里と八竜が歩く。数歩遅れて瀬見と鳥海が並んで進んだ。
悩む鳥海に気付かない瀬見ではない。
だけど深く踏み込んでこないのは、まだ八竜たちがいる手前かもしれない。
「鳥海…」
静かに囁くように名前を呼んで、頭上にポンと大きな掌を乗せられる。
まるでこの手が傘の役割を果たし、降り注ぐ全てのものから守ってくれるような気になるのは、単なる自惚れだろうか。
声に誘われるように顔を上げ、瀬見を見上げると、穏やかな笑みを湛えつつも、淋しそうな表情も見え隠れする。
自分が上の空でいたのだとハッとさせられ、申し訳なさが募っては、「ごめんなさい…」と小さく呟いて俯いた。
瀬見は「なにが?」といつもと変わらない声で返してくれる。
鳥海は思わず足を止めてしまった。
同じように瀬見も立ち止まる。
どんどんと離れていく、先を歩く存在…。

…ここから離れることになったとき、自分は耐えられるのだろうか…。それより、こんな気持ちの中で、就職活動なんてできるのだろうか…。

瀬見は鳥海が抱えるものが何であるのか分かるのか、掌を滑らせて鳥海の頬をつまんで引っ張った。
「ひぇひは(せみさ ん)…?」
突然のことにどうしたのかと訝しがれば、「うちに帰ろう」とニッコリ微笑まれた。
今日は瀬見の家に行くのはすでに決まっていたことで…。
八竜と藤里を呼んだから、改めて確認しているのかと思う。
目をパチクリさせると、瀬見は前方を歩く背中に呼びかけ振り返らせた。
「八竜っ、俺たち、ここでっ」
「はっ?!」
返事を聞くまでもなく、瀬見の手が道路に向かって振り上げられると、通りかかったタクシーが停まった。
「じゃあ、ここで」
鳥海の腕を掴んで開かれた扉の奥へと押し込まれる。
「瀬見っ!!……」
八竜の声は聞こえたけれど、その後に続けられた言葉までは聞きとることができなかった。
二人の間では何かの会話が交わされたらしい。
車内から見ていた鳥海は、笑っている瀬見の横顔だけを視界に入れる。
今度は八竜に向かって手を上げた瀬見は、少しだけ遅れて鳥海の隣に乗りこんできた。
運転手に住所を伝えて…。
体温が感じるほど近くに寄った瀬見の手が、そっと鳥海の手を包んで瀬見の太腿の上に乗せた。
温かさがじんわりと身体に沁みてくる。
暗がりの中でも、月あかりはきちんと届いて照らしてくれた。
ぎゅっと握ってくれる手は、力強い…。

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コメント

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わお、帰っちゃった
コメントちー | URL | 2013-09-28-Sat 07:12 [編集]
大好きな双子ちゃん、帰っちゃった。
淋しい・・・
モドキーズのイチャイチャも無かった・・・
つまらん!つまらんのー。
(どんだけ可愛いのが好きなのか(笑))

瀬見ちゃんは、鳥海くんと自宅に。
にぃは、藤里くんとこに。
今日は、おかーさんも、おとーさんと久しぶりにのんびりかな?鳥海くんに弟が出来たりして(笑)


半ば酔っぱらいの師匠の耳に飛び込んできた、「三隅」の言葉。
チラリと見れば素敵なヒナパパ・・・いや、周防さんと、能生?ん?なんで五泉兄が?

ち「ねえねえ、あの二人どんな関係?」
さ「社長繋がり?(そんな事よりお鍋美味しっ)」
に「あ、そうかもですね」
し「周防さまぁぁぁ」

あ!双子ちゃんとモドキーズが帰っちゃう~。
バイバイ(/_;)/~~。淋しい・・・
よし、周防さんと能生を観察だ!
ね、師匠。ん?師匠?

ち「師匠は?」
さ「あれ?どこに行っちゃったの?」
に「さっきまでウダウダ飲んでたのに」

キョロキョロと師匠を探していると、目に入ったのは周防さんたちに飲み物を持って行こうとしている、市ヶ谷くんにこっそり耳打ちしてる若美さん。
若「イチ、油断するなよ?わかってるか?」
市「僕、ちゃんと運べるよ。いつも、やってるもん」
若「(コイツわかってない)」
市「大将、早くお料理作ってください!」

スルリと若美さんから離れてお酒を運ぶ市ヶ谷くん。

妹「お兄ちゃん、心配症なんだからあ」
若「そんな事ない」
妹「ま、良いけど~。ヤキモチ焼きすぎると嫌われるよ♪」


にっかたんの盗聴機より・・・

そして、消えた師匠はどこに?
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