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BLの丘
月あかり 12
2013-10-01-Tue  CATEGORY: 木漏れ日
痛みで顔がしかめられる。
でも、声を上げる勇気も湧かなかった。
何かを口にしたら、逆に責められそうな気がしてくる。
キッチンにいた瀬見が、電話片手に雑事をこなしていた。
どこにかけているのかが分かるだけに、鳥海は黙るしかない。

昨夜、遅くまで情事に溺れた鳥海は、相変わらずリビングのソファでゴロゴロとしていた。
遅くまで…とはいっても、全然満足していない瀬見がいたようだが、さすがにアルコールが入った後での行為は返って酩酊状態にしてくれて、鳥海は途中でバテた。
事の起こりは鳥海の何気ない(つもりの)一言。
酔った時の気の緩みが、幸か不幸か、いらない言葉を運んでしまった。

放出の快楽を味わい、半ばぼうっとしながら、束の間の会話を挟む。
その時、ピンク色の世界から深海の底に突き落としてしまった。
やはりどこか鳥海の心の中に悩めるものがあったのだろう。
「また羽後さんの話、聞いてみたいな…」
世間話のひとつ、として口からこぼれただけで、今のこの状況で話す内容ではないと気付けなかった。
これまでも『藤里が』とか『学校で』とか、雑談をしていたから、その延長のようなものだったのだ。
腕枕をされ、横に並んだ瀬見が手持無沙汰を埋めるように鳥海の髪を弄っていた時。

優しい眼差しで鳥海の回復を待っていた瀬見の動きが止まり、目つきは一瞬にして厳しいものに変貌を遂げる。
「鳥海?」
「あの人、また遠くに行っちゃうんでしょ?次、来た時にまた会えるかな?」
この時鳥海の目はどこを彷徨っていたのか、空中を見るともなくみていた気がする。
単純に、同じ専攻をとっていたから親近感が湧いた、程度の感覚だった。
そして普段では接触などない、役職まで手に入れた人。
瀬見の会社繋がりでも、出会えたことの嬉しさは、違った意味で鳥海の胸を温めた。
羽後が面倒くさがらずに、真剣に話を聞き、曖昧にせず答えてくれたことが一番大きい。
自分の将来のために、できるだけの情報がほしい。
羽後に期待する他力本願なところは、『与えられ続けてきた』鳥海の短絡的思考が成せる業(わざ)か…。

瀬見は、「明日、予定を聞いてあげてもいいけど…」と、鳥海に乗りあげながら、羊の皮をかぶった。
言葉だけで鳥海は目を輝かせた。
「ほんとっ?!」
「……、まぁ…。…今はこっちに集中してくれたら、そのご褒美にね…」
くちづけられながら、鳥海は素直に頷く。
そして、集中もなにも、瀬見はそれ以降、『休憩』などといった間は取らせてくれず、思考は全て快楽を得るために働いた。
あともう少しで達ける、という時に逸らされて、涙を浮かべる。
何度瀬見を求める声を上げたことか…。
注がれる熱の温度を全身で感じ、最後には許しを乞うていた気がする。
疲れきった体は、あっという間に深い眠りに誘われてしまった。
瀬見が満足したかしないか、起きた時に一瞬だけ見えた、忌々しげな態度が、後者だと教えてくれる。
それでも瀬見は鳥海の体を気遣ってくれたし、善は急げとばかりに時計に目を走らせていた。
さすがにこの時間になれば失礼にはあたらないだろう、と電話を手にしたのは10時ジャスト。

かけた先は後輩の由良らしく、由良はやはりその立場を利用(?)して、瀬見との会話を取りつないだようだ。
プライベートな時間に会ったとしても、どこかで瀬見の立ち位置が優位な気がするのは、会社関係が大きいのか。
『次回来た時に…』の話は、この直後、ランチを共にしようという話でまとまってしまったらしい。
電話を切りながら、小さなため息が瀬見から漏れた。
それを聞き、せっかくの休日に、余計なことを口走ってしまったと後悔してももう遅い。

「な、なんで?そんなに急がなくったって…」
「羽後さん、年内は忙しくて戻ってこられないんだって。由良がものすごい不機嫌で、『由良とユーリをふたりきりにさせるからすぐ来い』…ってさ…」
それは間違いなく、羽後と由良のどちらも発したものではないと悟ることができる。
羽後も時間のつぶし方に手をこまねいていた様子で、寧ろ、歓迎されていた。
もちろん、もう一人の男の心の叫びだ。

首筋の噛み痕の上に、でっかい絆創膏を貼られ、瀬見が持っていたストールをシャツの襟外で巻かれて、襟が立つよう仕込まれる。
こんな小物一つで見せる印象が随分と変わることにも驚かされたが、似たようなことを幾人の人に施したのかの疑問は、今だけは飲み込んだ。
気だるさは、「鳥海は動かなくていいから」という瀬見の言葉で封じ込められる。
鳥海が『また話したい』なんて言わなければこんな展開にならなくて良かったことで…。
瀬見が鳥海のために動いてくれていると分かるから、何も意見なんてできない。

初めて訪れたマンションは広々としていて、瀬見の部屋とは違う『大所帯』を思わせた。
玄関から廊下を進み、リビングまでに、すでに部屋を思わせるドアがあった。
隣合ったダイニングに、一応テーブルはあったが、こまごまとしたものが乗せられていて、すさまじい生活感を漂わせている。
そこを気にしないのは、母親とは違った、男ならではの自慢のようでもある。
リビングにあるソファを進められて、瀬見は持ってきたデパ地下の食材を差し出した。
外での話…にならなかったのは、瀬見を迎えている間だけ外に出した、とのことで。
その双子は鳥海が訪れた時にはすでに外出していた。
今日の午後にはここを発ってしまう羽後たちのため、一刻も早く家に呼び戻したいのだろう。
最悪、自分たちが追いかけていくのでもいい。
「ついていかなくていいのか?」の瀬見の質問に、高畠は「行けば行ったで、文句言われるだけ。無視の連続と会計処理、荷物持ち係にされるだけだし、余計機嫌悪くなられる…」とうなだれた。
どうやら、由利がいるときは、散々な扱いにされるようだ。
…本当に気の毒に思うけど…。
嫌がっていないんだよね…。

何やらあるあちらの事情はともかく。
羽後が畏まった空気を一瞬にして蹴散らしてしまった。
この展開に鳥海は、不機嫌にさせたのではないかとタジタジになる。
「で?さっさと聞いちゃおう。鳥海くんだっけ?」
昨日、見た羽後とはまるで別人で、気遣いのなにかが欠けている気がした。
いや、大人の貫録はあるのだ。
だからこそ、聞いていた"会社での立場"が無になるような…。
…ひとつ離れたら、実力主義の世界???
今は、羽後のほうが有利な立場か…。

焦りは、羽後には関係のない話に付き合わされる苛立ちでもありそうだ。
そのことを瀬見が一番感じたのかもしれない。
「すみません、突然。鳥海がどうしても転勤する仕事になるっていうイメージが強すぎて…」
言葉を濁しても伝わるものはあるのだろう。
自分で発言した物事の回収の意味もあって、羽後は現在ある、社会、加えて自社の状況、就職活動の現実を語ってくれた。
無下にして、恋人の兄である由良から、瀬見の恋人を蔑ろにしたと喚き立てられる最悪な職場状態を避けたかった意味もあるのかもしれない。
瀬見が職場にプライベートなことを持ち込まないと分かっていても、ぎくしゃくしかねない要素は充分含んでいる。
瀬見の不満が由良に伝われば、最後に責められるのは羽後だ。
また由利に大人げない対応をとった、と思われたくないプライドもあるようだ。
誰だって、恋人には良いところをみせたいだろう。
後に瀬見から由良に、「ありがとう」と感謝されれば、全てが丸く治まる。
かなり酷い扱いにされている羽後を見る由良の目も良くなる(かもしれない)。

鳥海ひとりでは頼りない記憶力も、瀬見の脳も借りてあとで振り返ることができるだろう。
羽後の説明会は一時間もかからずに終了した。
ご飯を食べている余裕もなく、土産として置いていけばいいと、何も言わなかった。
ほぼ同時に高畠が由良を呼び戻そうと電話をすれば、案の定「早すぎ」と怒られたような会話が漏れ聞こえてくる。
それから、「は?何、入社説明って?…面接?」と、理解できていない声が発せられる。
残された三人の目が一斉に高畠を追い、腰を上げかけた鳥海たちも動きを止める。
高畠が羽後を見て、機械越しの声を伝えた。
「……、雄和さん、由良が『採用するよう細工して、内定出して、問題解決に持って行け』、だって…」

今度理解不能に陥ったのは鳥海たちの方だった。

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コメント

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-月影-
コメントけいったん | URL | 2013-10-01-Tue 10:21 [編集]
今まで 何事にも 達観した風を見せていたのに 
鳥海限定で  度量の狭さを 唯今絶賛中で ビシバシと発揮している瀬見

以前にも書いたけど、
きえちん作品の「攻メンズ」は、愛しい存在には 激甘になるもんねー
う・羨ましくないもん!(。・`ε´・。)ブゥーブゥー

鳥海の 何気ない言葉で 意識飛ばすまで 執拗な行為を強いた瀬見は、きっと 一人ベランダで 猛省中…かな?


真夜中、空を見上げれば 儚げに輝く月 
慰めてくれ この憂う心  凪さめてくれ この乱れる心

欠けては満ち 満ちては欠ける その移り変わる姿は 自らの心模様か
過去 過ぎた人に 後悔を馳せ、此今 訪れた人に 想い募らせ

君…いつまでも その手を離さないで 俺から
君…いつでも その瞳で見つめていて 俺を



※月影とは…漢字そのままの 月の影という意味と、真逆な 月の光という意味もあるそうです。
光りがある所には 必然的に 影も存在するからでしょうか
瀬見の光りと影なる心情を表しているような言葉だと 思いませんか?


今日の 月の影は 泣いているような…微笑んでいるような…
*✧:.*。✫.。.* ☽ *:.。✫..*。✧.*



みなさま こんにちは~。
コメントたつみきえ | URL | 2013-10-01-Tue 16:58 [編集]
レスが全然できない…(汗)

前話、あそこまで書いたから、ちょっと チュン気味だけど、まぁいっかーと次に進みました。

あれ?! 酒盛りは終わっちゃったの???
パパは家族を心配して早い帰宅だったのでしょうか。
で、あ~れ~???
無銭飲食で全員タイホにはならないのか…(残念←コラコラ)


けいったんさま
またまたスンバらしい詩をありがとうございますっ!!
なんだか、タイトルを今から変えようかと思いましたね。
ホントにうまく表現できないでおります。
そのとおりですよ。
木漏れ日の次は月あかり。
ギラギラ感無しの…。
でも、時に狼になるけど。

えぇ、うちの攻め君はすぐ甘やかそうとするんです。
対等でいてるのって、日野と神戸くらいじゃないかな。


ちーさま
最中は、いろいろと言葉を聞き間違えるようです。
無意識に誘って強請って甘えて…。

> それにしても、瀬見ちゃん。
> まあ、良いけど。うん。

( ゚ ▽ ゚ ;)エッ!? イメージが…???
翻弄されてんなぁ、瀬見。


さえちゃん 毎日お疲れさまでーす。
お仕事では仕方ないけれど、あまり無理しないでね~。
お寿司で英気を養って…。


みんなが頑張っている中、きえちんはまた(←)お出掛けしてました。
詳細はいつものところにありまーす。

もう10月ですね。
皆さまコメントありがとうございました。
若美庵にて
コメントちー | URL | 2013-10-05-Sat 20:27 [編集]
師匠が一人月を見て詩を作っている頃。

ち「師匠、いないね」
さ「きっと、周防さんに送ってもらったのよ」
に「えー、良いなあ」
ち「じゃ、うちらも迎えに来てもらおうか」

きみだけにただきみだけに♪

ち「古っ。あ、佐貫さん?えっとー………」

さ「どうしたの?」
に「顔、赤いですけど?」
ち「や、や、何でもないよ?」
さ「言いなさあい!」
に「怪しいですよ。何ですか?」
ち「実は~かくかくしかじか」
さ「そ、それは・・・」
に「いやーん」


若「もう、閉店なんだけどな」
市「ぼ、僕行きたくないよ?若美さぁん」

師匠は、素敵な詩を詠んでるのにとことん腐るレンジャー達。
どうなる、若美庵(笑)
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