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BLの丘
月あかり 9
2013-09-28-Sat  CATEGORY: 木漏れ日
車の中では終始無言だった。
瀬見のマンションに着いて、一度は手が離れたが、誰もいないエレベーターに乗ると、今度は背後から抱きしめられた。
「鳥海…」
耳の奥に注ぎ込まれる低音がゾクッと鳥海を戦慄かせる。
「一人で悩まないで。何でも話してほしい…」
不安や心配を抱えているのは鳥海だけではない。
鳥海が黙って一人悶々と考えこんでしまったことが、瀬見の不安を煽っていたのだろう。頼っていないと捉えられていてもおかしくない。
たぶん、瀬見の前でこんなふうに悩んだことがなかったから、余計に瀬見はどうして良いのか分からなくなっていたのか…。
ずっと何でも思ったことは口にして、感情表現も露骨なところがあった。
素直、と言えば聞こえが良くて、我が儘でもある証拠。
だけど瀬見にとって、その姿が隠し立てしないと感じられて安心していたのかもしれない。
「うん…、ごめん…」
「謝られることではないけれどね」
微かに笑ったのが、耳元に寄せられた話ぶりで感じられた。
エレベーターはポーンと音を立てて止まる。

部屋に入って、瀬見はホットココアを淹れてくれる。
甘い香りは瀬見と同じように優しく包んでくれる空気を漂わせた。
ソファの前のラグにペタンと座り、隣に瀬見も寄ってくる。
瀬見はカフェオレの入ったマグカップを口元に寄せて一口飲んだ。
ドーム型をしたネイビーのマグカップは、瀬見と一緒に選んで購入したものだ。
色違いで瀬見は深緑色のものを使っている。
中央部分に一周ぐるりと銀色の幾何学模様が入っていて、鳥海はその模様が気に入っていた。
その時瀬見は「化学の記号図みたいだね」と笑った。
別にそういったものばかりが好き、というわけではないのだけれど、瀬見の頭にはしっかりと"理数系"と位置付けられたようだ。
他にも生活に必要となるものが、少しずつ増えていっている。
鳥海の家に瀬見のものはほとんど置かれていないが、瀬見の部屋は違った。
着替えはもちろん、日用雑貨やテキストなどまでもが新調されたり引っ越ししてきたりしている。
徐々に生活空間が移動してきているような…。
藤里の部屋だってこんなに物を置くことはなかった。
初めて家以外の場所に自分の落ちつけるところを見つけたばかりだったのに…。

鳥海もすするように飲んで、一度カップをテーブルに置く。
ここから離れる時がくるのだろうか。
そんなことばかりが頭を占領して、顔を上げられず俯いてしまうと、瀬見がまた鳥海の頭を撫でて、少しだけ鳥海のほうに向いて、手に力を込めた。
グイッと引き寄せられては瀬見の広い胸板にもたれかかる。
かぶさるように瀬見が抱きしめてくる。
「鳥海は何を思っているのかなぁ」
努めて明るく振る舞っているのが伝わってきた。
瀬見に負担をかけるようでつい口をつぐんでしまうのだが、背中をトントンと叩かれると、「言って」とうながされているようで、ポツリポツリと言葉が漏れた。
正面に瀬見の顔が見えないけれど、でも包んでくれる温かさを感じるから安堵もする。

「もしかしたら瀬見さんと別れなきゃいけないのかな…って思っちゃって…」
「『別れる』?」
さすがにこのセリフは聞き捨てならなかったのか、包んでくれるような和やかさが消えた。
瀬見の体が強張って、自分で伏せさせたはずの顔をあげるよう、顎に手がかかった。
どこか力任せのところはあったが、正面に見た瀬見の表情には焦りと共に怒りの感情が浮かんでいた。
「せ、瀬見さ…」
「鳥海、なんでいきなりそんな話になるんだ?仕事のことで悩んでいたんじゃないの?」
「それはそうなんだけど…」
どこからどんなふうに説明したらいいのだろう。
作文が苦手だった鳥海は理路整然たる説明を求められても困ってしまう。
顔を俯けることはできなくても視線だけは瀬見から反らされて、瀬見の口元に移った。
「ずっと考えていたのは俺のこと?重荷になった?俺が何か言うと思った?」
普段の落ちつきは少々削がれているのか、いつもであれば聞かれない尖った声音が耳に届いてくる。
だけどそんなものより、鳥海の胸にズンと響いたのは、最後の一言だった。
…どこにでも行けって…?

反らしたはずの目が瀬見を追う。
引き留めてもくれないのだろうか…。
瀬見にとって自分は離れてしまっても平気でいられるくらいの存在なのだろうか…。
自分だけが一生懸命追いかけて、優しくされて舞い上がって、うまく手の上で踊らされて、瀬見は大人の余裕をかざしてひらりと掌を返してしまうことができるのだろうか…。
何事もなかったように、八竜の友人に、友達の弟にしてしまうのか…。
不安が胸の中に渦巻く。
鳥海を引っ張っていってくれる人だと思っていたのに…。
この時になって初めて、鳥海は瀬見にあれこれと言ってほしい自分がいることに気付く。
八竜が何かを言えば口やかましいだけだが、瀬見はいつだって鳥海が納得する説明を加えてくれた。
だけどほとんどのことは鳥海が相談を持ちかけるまで黙っていてくれる。
瀬見の、見守ってくれている優しさなのだろう。
鳥海は瀬見の手が届く範囲で好きに過ごしてきた。
瀬見はその都度、何を思ってきたのか…。そして今は…?
…『俺が何か言うと思った?』…。
意見する気などもともとないと言いたいのか…。
それだけで突き放されたと思えてくる。

「瀬見、さ…」
知らずに声が震えてしまった。
瀬見には辛そうな表情も映ったけれど、人の感情を気遣える余裕なんて鳥海にあるわけがない。
瀬見の人の良さを今ほどうっとおしく思ったことはない。
鳥海のように感情を吐露してきてくれたことが、これまでに何度あったかと思い出そうとしても、別れなければいけないんだという思考がはびこって、まともな捜索活動なんてできなかった。
ただひとつ、瀬見はいつも鳥海を優先させていたことだけが浮かぶ。
その胸の内はどんな心境だったのだろう。
『感情を抑える』と言った羽後の言葉まで甦った。
自分が瀬見をそうさせていたのかと思ったら居たたまれなくなった。
だから、『離れたほうがいい』と瀬見自身が思うのか…。

感情が高ぶって、こみ上がってきた勢いに押されるように視界が歪む。
自分が何を思い考えるのかさえ、曖昧になってくる。
溜まった涙は滴となってぽろぽろとこぼれおちていった。
「鳥海?」
眉間を寄せた瀬見が次々と表情を変えていく。
驚きと焦りを隠しもせず、慌てたように胸の中にかき抱いた。
「鳥海っ、どうしたんだ?何を思っているの?言ってごらん。でなきゃ、俺も分かんないよ…」
苦しそうに吐き出される声は、瀬見の気持ちの、どの部分なのだろう…。
頭を撫で、背をさすってくれる腕は鳥海だけのものだと信じたかったのに…。

泣き声を上げるつもりなんてなかったのに、呼吸しようとした時に喉が鳴ってしまった。
「…っひっ…くっ」
「鳥海…」
一度堰が崩壊したら止めてくれるものがなくなる。
瀬見はそれ以上何も言わなくなった。
とりあえず落ちつかせようとするのか、抱きしめたまま髪にくちづけを落として、ただ腕の力を強めていくだけ。
抱きしめてくれる腕の強さも包んでくれる温かさも、今の鳥海には、瀬見が詫びているようにしか受け取れなかった。
何故に瀬見は言葉を噤むのか…。
…自分が子供すぎるから、瀬見は大人でいようとする…。
泣いて喚いたらきっと瀬見はそばに居てくれるだろうけれど。

仕事を選ぶことが、こんなにも周りを変えていくことだとは想像もしていなかった。
これほどまで自分を悩ませてくれる問題となるとも思っていなかった。

…心が苦しい…。誰か助けてほしい…。
他人を求めるのは鳥海のいつもの癖かもしれないが。

真っ先に頭をよぎったのは、知りあった、と言えるかも分からない羽後の存在だった。

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目標、15話にしてみるか…。
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コメント

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おや?
コメントちー | URL | 2013-09-28-Sat 07:37 [編集]
何か変な事になってる。どうしたんだ!
そして、何故雄和が・・・
まあ、確かに仕事の事話してくれたし。
双子使いの名人だけど(ハギーもね)
まずは、二人の誤解を紐解きましょうかね。
しかし、瀬見ちゃんから「重荷になった?」なんて言葉が聞けるとは(笑)
どんだけ好きなの?瀬見ちゃん。


その頃の若美庵。

ち「はあ、ヒナパパカッコイイ」
さ「今日は、遅いからひなちゃんいないわね」
に「能生もまあ、イケてます?」
ちさ「あはー、言うよねー←古い」

さえさんに作ってくれた美味しいお鍋を頂きながら、またしてもワイワイと話し出す。

ち「つばめちゃんが良かったなあ」
さ「清音さんでも良くない?」
に「それは、次回ですよ(笑)」

そんな我々の前に現れた師匠。
さっきまで、市ヶ谷くんにクダを巻き怖がらせていた師匠だったのに。
どこで着替えたのか素敵奥様風に。
しかも、向かった先は・・・

「社長、お久しぶりです。お元気ですか?」
「ん?あなたは・・・」
「私、社長にスーパー掃除婦(腐でしょ?)って」
「ああ。いつも綺麗にしてくれてた。いやあ、見違えてしまって。悪かったね」

師匠、突撃してました・・・
Re: おや?
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-28-Sat 17:19 [編集]
ちーさま こんにちは。

モドキーズは帰っちゃいました。
さっさと話を進めないとならないので、イチャコラしている暇はないのです(←)

> しかし、瀬見ちゃんから「重荷になった?」なんて言葉が聞けるとは(笑)
> どんだけ好きなの?瀬見ちゃん。

こんだけ好きなのです(笑)
これでも瀬見は自粛しているつもりなんだと思いますよ。
なかなか瀬見の心情は聞かれないからねぇ。
このすれ違いもいい刺激になるんじゃないかしら。
突如訪れた試練(おおげさな…)でしょうか。

> その頃の若美庵。

まさか能生とはっ!!!
そっか、社長繋がりか…。
変に顔が広いのね、能生ってば…(そこじゃないだろっ)

そして師匠っ、また変身して~~~。
今度こそは堂々と隣の席に?! 吸われる(座れる…だよね…。この誤変換PC…)のでしょうか。

若「…ちゃちゃっと料理作れ、ってイチはうるさいしよぉ…」(←拗ねている)
市「若美さん、お鍋の追加、入りましたよ~」
若「市、鍋に材料を入れるのを手伝ってくれないか?(接客は誰かにやらせてさぁ←心の声)」
市「えー、だってあちらのお客さん、男の人だよ。あのうるさい(腐)女性はお姉さんにお願いしたし…」
若「…(ま、まさかよそ見されているんじゃ…(焦))…市、その方が早く客にだせるだろ?」
市「それもそっか…」
若「ほっ…」

みなさんはまだまだ若美庵で楽しんでいってくださいね~。
コメントありがとうございました。

市く~ん
コメントさえ | URL | 2013-09-28-Sat 18:39 [編集]
お鍋お代わり~♪
あ、お姉さんのグラスも~(*^^*)
師匠はあっち行っちゃったし~。
更に盛り上がるぞ~♪
若美兄さんつまみ追加~(*^^*)
日本酒もいいな~♪
Re: 市く~ん
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-28-Sat 20:59 [編集]
さえさま こんばんは~。

> お鍋お代わり~♪
> あ、お姉さんのグラスも~(*^^*)
> 師匠はあっち行っちゃったし~。
> 更に盛り上がるぞ~♪
> 若美兄さんつまみ追加~(*^^*)
> 日本酒もいいな~♪

日本酒、いいよね~♪
お鍋には冷酒が好きなきえちんです。
市ヶ谷はさえちゃんに 師匠はパパによそってあげているのかしら。
え?!ちーちゃんとにっちんは二人淋しく(仲良く)慰めあって(分けあって)お鍋、楽しんでいるって???
まぁ、盗撮機材と盗聴機の話で盛り上がっていそうだけどね(笑)
コメントありがとうございました。
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