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BLの丘
陽炎―かげろう― 4
2013-10-11-Fri  CATEGORY: 新しい家族
 子供一人の存在が、確実に家の中での会話を増やしていく。日生が水を吸いこんでいく乾いた大地のようだったから尚更だった。
 清音は毎日日生の相手をし、今日は何をした、どんな反応だったと報告を入れてくれる。それを聞いては、周防はそばにいる日生に話しかけ、確認をとって一緒に喜んだ。失敗したことがあっても、また次に頑張ればいいと励ます。
「日生さんは、もうひらがなが全部書けるようになって…」
 清音が笑顔で発言すれば周防も相好を崩す。
「そうか。日生は頭がいいなぁ」
 頭を撫でてやると日生も褒められたことが嬉しいと、にっこり笑った。それから歪んだ字体で『みすみすおう』と書かれた紙を見せてくれる。和紀と清音、日生の名前も並んでいた。周防の名前は丸めるところが多いせいか、全体的に似た文字に見えなくもないが…。

 身体だけが成長した子供は、最初に周防が「何の知識もない」と言った通り、世間の年相応の子とは違っていた。八歳と聞いたところで言動全てが幼児のままだ。
 和紀があれこれと世話を焼きたがるのを微笑ましく見守ったり、時には咎めたりした。毎日響き渡る元気にはしゃぐ声は、周防と清音の心をほんわりと温めた。
 確実に清音の労働時間は増えていたし、手をかける内容も濃密なものになっている。周防が懸念していた清音の精神的ストレスは取り越し苦労だったようで、寧ろ一緒に楽しんでいる光景が見られれば、周防も安堵するのだ。少しずつ日生の感情も素直に表されるようになっていった。
 周防は日生のために何人も家庭教師を入れ替えた。中学に上がる年までには、同等の教育レベルに並べた。教育機関に通わせようかと思いもしたが、日生の希望で個人授業を受け続けることになった。それは返って日生の知能指数を上げていくものとなる。
 清音の計らいで近所のコミュニティースクールに一緒に参加していたから、少しばかりの友達もできた。協調性などを養ったところはあっても、年を追うごとに日生は勉学に集中しだして、繋がりは薄くなっていった。

 和紀が就職し働きだしてからも生活に変化はなかった。家の中で周防はできるだけ仕事の話はしないようにしていたし、和紀も何かと日生を構いたがる。
 だがそれも数年もすると、和紀と日生の間に明らかに分かる違和感が生じ始めた。少しずつ和紀が距離を置き始めている。
 見ている世界が違うのだから、幼い弟を邪険にする気持ちも分からなくはない。
 スキンシップが激しすぎるくらいだったのに、他愛もない会話を交わすだけで、和紀はすぐに自室に籠ろうとするか、外に出かけていくことが多くなった。
 そんな時、決まって周防と清音は視線を合わせて、小さく吐息を吐きだすのだ。
「和紀さん、どうされちゃったのかしらね…」
 和紀が部屋に入り、しばらくは日生も周防たちの前にいるものの、「勉強するから…」と部屋に向かってしまう。
 いつまでも子供のままではいられない。成長するにつれて、変わっていく環境があることを漠然と感じとるのか、日生はこれといって質問してくることもしない。現状をありのままに受け止める順応性は時に痛々しいほどだと植え付け苛ませる。
 部屋に残された清音が心配げに小さな声を上げるのを、周防は複雑な気持ちで聞いていた。
 同じ男として和紀が抱く感情がそれとなく理解できる。日生は日を追うごとに中世的な色香を纏い始めている。それが和紀にとって言い難い性欲をかき立てるのだろう。
 だからといって感情のままに突っ走っていいはずもなく、回避するにはこうするしかない苦肉の策だと思えるのだった。
 人間として欲求がコントロールできるところは褒められるが、同じ屋根の下にいる以上、危機感も持っていた。和紀の執着心は父親である周防が良く知る。
 一人っ子として育った和紀は、日生を"自分のもの"として見守ってきた節がある。何かにつけ、日生を内に隠そうとする態度が和紀の気持ちの表れだと察知していた。他人に譲る気などさらさらないだろう。
 日生が和紀に答えてくれれば何の問題もないが、日生は如何せん、まだそういった感情まで頭が回っていない。今和紀に向けられるものといったら、純粋に信頼している思いだけだ。
 無条件に与えられる愛情を、これが"普通"なのだと教えたのは周防と和紀で、あとどれくらいの時を待ったら日生が"注ぐ愛"の違いに気付く日が来るだろうかと頭を巡らせる。
 外部との接触が少ない分、日生にとって和紀は何にも代えがたい存在であるのが分かるから、和紀は絆が崩壊することを恐れていた。日生を失えないのは和紀のほうだろう。だから距離を置いて関係を保とうとする。

 周防は自分が全ての罪を被ろうと決意する。
 日生の能力を買い、仕事を持たせることで生涯の恩を売る。それは日生の意としないものになるかもしれないが、日生の服従しようとする精神を逆手に取るものでもあった。
 いずれ和紀は周防の後を継ぐだろう。その時日生が隣にいるようになるのだと今から日生を洗脳してしまえば…。
 同じように育てているつもりでも、こんな時に贔屓する心がはびこる。
…恨むなら、自分を恨んでほしい…。
 日生だけではない。この運命を引き寄せてしまった自分に対して、和紀に向けられた言葉でもあった。

 清音の声に周防は口角を上げ肩をすくめて見せた。
「色々と考えることがあるんだろう。少しくらい悩んでもらわないとな。親の脛かじりでいられたんじゃ、安心して隠居生活も送れなくなる」
 いかにも"仕事上"に限定した物言いをすれば、敏い清音はそれ以上口を挟んでくることはなかった。
 清音は問題がそこにないことを分かっているが、周防が言うことに僅かでも笑みを交えながら話題の矛先を変えてくる。
「隠居だなんていつの話をされているんですか。和紀さんは優秀なお人ですから三隅さんは胡坐をかいて、左団扇で扇いでいればいいんですよ」
「あっという間に身上を潰されそうだ。清音さんに給与の先払いでもしておくかな」
「何をおっしゃるかと思えば…。もう私は充分いただいていますから、お気遣いは結構ですよ。……日生さんもきっと和紀さんに負けず劣らず、立派な方になられるでしょうね」
 どこか深みのある言葉に、周防も張りつけた笑顔を崩した。清音は周防が抱えたものの大きさを悟ってしまったのだろうか。
 また、同じ方向に向かっていく意味を含んでいることに気付かされる。"立派な人"にするために自分が何をすべきなのか、清音は判断がついている。
 日生を育てていくのは"自分たち"なのだと。
 清音まで巻き込む苦い思いと、隠せない洞察力の良さに諦めも漂った。清音に隠し事はできないと改めて思わされた瞬間だ。
 同じ罪を背負おうとする。言い方は悪いがこれまで周防に加担した過去もある。
 清音の芯からくる強さと思いやり、周防を影で支える優しさ。
 自分たちは日生の人生にレールを敷いた『運命共同体』。

 周防は静かに口を開いた。
「できるだけ日生の行動を見ててもらえませんか?きっと今以上に淋しがるはずだから。彼の心が悲鳴をあげないように…。少しでも和紀が接触を持っていてくれていることが、まだ救いかな…」
「そうですね。和紀さんが忙しくされていることは日生さんも良くご存知ですから…」

 清音は単純に、周防が自分の会社のために利用するのだと思ったのかもしれないが…。あながち間違っていないのだから真意を告げる必要はないだろう。
 最後の後片づけをして清音は三隅家を後にしていく。
 周防は誰もいなくなった部屋でようやく大きな息を吐きだす。
 清音もまた、この家に縛り付けてしまった一人になる。後悔は共に生きることで赦しを得たかった…。

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コメント

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そうだよね。
コメントちー | URL | 2013-10-11-Fri 04:22 [編集]
パパと清音さん。この二人がお兄ちゃんの気持ちをわからないはずはないよねぇ。
でも、黙って見てきたんだね。
スゴい人達だなあ。

ひなちゃんが書いた

みすみすおう

目に浮かぶ~。ウルウルする。
ひなちゃん、あんなバカな○○オヤジのとこにいなくて良かった。例えお兄ちゃんの為に一緒にいろと言われてもね。
モチロン、そんな事は言わないだろうし万が一ひなちゃんが他の人を選んだとしても受け止めてくれるんだろうな、この二人だったら。

そして、いけない妄想に辿り着いてしまった(笑)

ひなちゃんとカテキョが恋に落ち、それを知ったお兄ちゃん。これいかに!
夢オチで良いから、きえちん、書いて~。
みんなに叱られそう(笑)
Re: そうだよね。
コメントたつみきえ | URL | 2013-10-11-Fri 13:25 [編集]
ちーさま こんにちは。

> パパと清音さん。この二人がお兄ちゃんの気持ちをわからないはずはないよねぇ。
> でも、黙って見てきたんだね。
> スゴい人達だなあ。

そんなスゴイところが伝わってくれたら私もすごく嬉しいです。
気付いていても、それぞれの意思にまかせて、ひたすら見守ったんでしょうね。
パパの隠れた感情 ってところですか。
周防と清音は、日生を育てる影で、和紀の願いを叶えるべく、重い十字架を背負いこみました。

> ひなちゃんが書いた
>
> みすみすおう
>
> 目に浮かぶ~。ウルウルする。
> ひなちゃん、あんなバカな○○オヤジのとこにいなくて良かった。例えお兄ちゃんの為に一緒にいろと言われてもね。
> モチロン、そんな事は言わないだろうし万が一ひなちゃんが他の人を選んだとしても受け止めてくれるんだろうな、この二人だったら。

日生は周防と和紀が喜んでくれるように、必死に頑張りました。
表立って発言はされなかったけれど、ひしひしと伝わるものは感じたはずです。
過去の辛い幼少期から救ってくれた周防たちに応えようと、無意識のうちに湧いた感情を周防はうまく利用してしまった話になってしまうけど。
日生が他の道を選んだ時、それはそれで赦す余裕は誰しも持っていたと思います。
……、いや、和紀以外は…。

> そして、いけない妄想に辿り着いてしまった(笑)

(爆)

> ひなちゃんとカテキョが恋に落ち、それを知ったお兄ちゃん。これいかに!
> 夢オチで良いから、きえちん、書いて~。
> みんなに叱られそう(笑)

恋には落ちなかったけれど、カテキョに襲われたことはありましたね~。
見境なく激怒したから…。
うーん。和紀、人類、滅ぼしそうです(笑)
コメントありがとうございました。
周防さま… 清音さんまで…(o。o;) ソンナ・・・
コメントけいったん | URL | 2013-10-11-Fri 16:19 [編集]
和紀の気持ちを推し量って ヒナちゃんを囲い込み育てる
結果として ヒナちゃんは 和紀の事が好きだったから 良かったけれど...

そうじゃなかったら…と、考えると
純粋培養のヒナちゃんに 刷り込み教育するなんて 容易いだけに 怖いお話しかも!

阿吽の呼吸で 十字架を背負う同盟を組んだ周防さまと 清音さん
それでも だくさんの愛情を持って ヒナちゃんの成長を見ていたのに 違いないはずだよね。
十字架って( ;-ω-)ノヘ(; -ω-)重いよね



Re: 周防さま… 清音さんまで…(o。o;) ソンナ・・・
コメントたつみきえ | URL | 2013-10-11-Fri 20:49 [編集]
けいったんさま こんばんは~。

> 和紀の気持ちを推し量って ヒナちゃんを囲い込み育てる
> 結果として ヒナちゃんは 和紀の事が好きだったから 良かったけれど...
>
> そうじゃなかったら…と、考えると
> 純粋培養のヒナちゃんに 刷り込み教育するなんて 容易いだけに 怖いお話しかも!

本編でも(14話で)チラぁぁぁぁっと書いたんですけれどね。
サラッと流してしまえる程度のものだったので、ここら辺で改めて…(←)
いや、でも本当にこんなにはっきりとは書いていないから誰も気付かないと思います。
(ここにきて、一気に悪者になった気がする……汗汗汗)
結果的にですよ、結果的に
もともとは和紀がやっていたことだし…。

> 阿吽の呼吸で 十字架を背負う同盟を組んだ周防さまと 清音さん
> それでも だくさんの愛情を持って ヒナちゃんの成長を見ていたのに 違いないはずだよね。
> 十字架って( ;-ω-)ノヘ(; -ω-)重いよね

そこのところはさすが清音です。
片棒を担ぎました。
清音も周防に対して恩を感じるところがあるのでしょうね。
あとはやっぱり和紀が可愛いのか…。
いえいえ、日生も可愛いですよ~。
二人とも温かい目で見守っておりますよ~。
和紀が興味を示さなかったら、フツーに育ったかもしれませんが…。
(読み返したら、日生、結構早い段階で喰われたんだね。17歳…、和紀29歳か…。うん、我慢できないお年頃かもしれませんね)
まぁ、日生は最初っから和紀にポップコーンとプリンで釣られて好きになっていたんだから今更洗脳されても問題ないです(←)
コメントありがとうございました。
夢オチ
コメントたつみきえ | URL | 2013-10-11-Fri 23:44 [編集]
だって ちーさまが書け書けヽ(`Д´)ノ と脅すから…(ウソです)


和紀は日生の元にやってくる家庭教師には、全員直接会う。
清潔な格好であるか、いやらしい目つきをしていないか、妙な言葉遣いをしないか、まるで確認項目が100くらいあるのではないかという厳しさで見極めた。
日生の脳は乾いた大地なのだ。見たもの、聞いたこと、全てを吸収してしまう。変な知識は入れてほしくない。

「おにいちゃん」とテトテトと後をついてくる日生はとても可愛い。
思わず抱き上げて頬ずりしたくなる。
この穢れのない日生のそばに寄る人間には、いつだって『要注意』マークが貼られた。

和紀以外の人間に、いつか興味を持つ日が来るかもしれない…。
それを考えるととても悔しくて醜い感情に見舞われる。
机に向かって、隣に家庭教師がいる光景だけでもムカつくのに…。
その日生が「せんせがね…。…せんせいはね…」と口にするたびに危機感が募った。

ある日、そっとドアの外から部屋を覗きこんだら、日生が家庭教師とチューしていた。
いつも和紀がしているから、日生は誰にしても良いと思ってしまったのかもしれない。

そんなわけがあるかぁぁぁ!!
その権利は和紀だけが持つのだっ。

ドアをバタンッと勢いよく開けて、構わずに腕を振り上げた。


ドンと身体に衝撃が走った。
自分の体が横になって、床とごっつんこをしている。
勢い余って転がったのだろうか…。

良く良く考えると、寝ぼけてベッドから落っこちた現実に気付いた。
和紀はすぐさま起きあがると、日生の部屋に向かった。
そして隣に潜り込んだ。

目が覚めたら日生にきちーんと教えなければいけない。

『チューをしていいのは和紀だけなのだ』と。
和紀はぎゅっと日生を抱きよせながら、再び眠りの世界に浸っていった。
チャンチャン♪


これでいい?
わおっ!
コメントちー | URL | 2013-10-12-Sat 00:07 [編集]
あらん、きえちん。
ありがとうっ!ビックリしたあ。
(実はこっそり書きなぐろうとしてました)
やっぱり、きえちんのは優しいねえ。
そして、ほのぼのする・・・

でも!
お兄ちゃんたら、ひなちゃんとチューしてんの?
えー、ダメじゃん。
兄弟でして良いのは双子ちゃんとモドキーズのみっ!
あ、モドキーズは他人でした(笑)
ふふ、でも得したなあ。
一日に二本も読めたし。お兄ちゃん、本当ひなちゃんが好きなんだねえ。
嫌な夢見たら、ひなちゃんのベッド?
二人が洗脳しなくても大丈夫な訳だよ(笑)

きえちん。本当にありがとう。
また、書いてね←こらっ
Re: わおっ!
コメントたつみきえ | URL | 2013-10-12-Sat 07:14 [編集]
ちーさま おはようございます。

> あらん、きえちん。
> ありがとうっ!ビックリしたあ。
> (実はこっそり書きなぐろうとしてました)

↑ そんなことだろうと思ったよ…。

いえ、私も思い浮かんだことをサラッと書いただけですので、こんなので喜んでもらえたらなんだか申し訳ないくらいかも…。

> でも!
> お兄ちゃんたら、ひなちゃんとチューしてんの?

してます、きっと。
たこ焼き編で舐めちゃったくらいだし(笑)

ちなみにモドキーズはチューはしていないからね。

> 嫌な夢見たら、ひなちゃんのベッド?
> 二人が洗脳しなくても大丈夫な訳だよ(笑)

日生も怖い夢を見たら泣いて和紀のところに潜り込むんでしょう。
(そう。どっかに書いたよ)
親が頑張らなくても、自然と良い方向に動きますよ。
コメントありがとうございました。
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