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BLの丘
雛鳥の巣立ち 2
2009-12-15-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
英人は車の中から千城に電話をかけてみた。仕事中では繋がることもないが留守電に残しておけば迎えに来ることに対して無駄足を踏ませずに済むだろう。
さすがに榛名家からの許しをもらった今では聖は強引なところがあっても手出しをしてくる気はないようだ。
単純に「可愛い」と英人をかまっているだけなのは英人でも分かる。年下の男に可愛い呼ばわりされても嬉しくもなんともないが…。
もちろんそれを千城は良しとはしなかったが、何を言われても気にしないのが聖だった。
「夕食まだなんでしょ。知っているお店があるから行こうよ」
呼び出し音を聞いていた英人に、またもや勝手に次の行動を決めてしまった聖が告げる。
「え?」
『英人か?どうした?』
聖に問いかけた声と、千城の声が聞こえるのが同時だった。
「あ、千城…」
「電話繋がったの? 千城さんっ、英人と一緒にご飯食べて帰るからちょっと遅くなるねっ」
運転中ということでわざと大きな声を上げた聖の声はしっかりと千城に届いている。
『どこに行くんだ?店の名前と場所を聞け。携帯の電源を絶対に落とすなよ』
千城が止めたところで聖が言うことを聞かないのはもう承知している。千城は忌々しげに声を荒げた。
聖にこれから行くお店のことを聞いてみれば「心配するようなことなんか何もないよ…」と呆れていた。
英人の携帯電話はGPS付きのものに変わってしまったし、千城が居場所を知るのは時間の問題だ。嘘がないかを確かめたいのだろう。
聖が告げる店名などをそのまま千城に伝えると「迎えに行く」といつもの台詞が帰ってきた。千城も知っているお店らしい。

「もうっ。ドライブもできないじゃん」
『行かせるか』
最後まで英人と共に居られず途中で千城にさらわれることを悟った聖からやけくそな声が上がる。電話の向こうでは千城が小さく呟いていた。
英人だけが双方の声を聞いていて思わず笑みがこぼれた。

フレンチレストランとは聞いていたが、カジュアルな雰囲気で店内は若い人が多かった。
さっきまでアンティークな部屋の中といい、数本とあるカトラリーを眺めていたから非常に気分が楽に感じる。
一通りのオーダーを聖に任せているとコックコートに身を包んだ調理人が英人たちのテーブルに近づいた。50代くらいの温和な顔立ちをした恰幅の良い男性だ。綺麗に剃り落とされた髭と短く刈り込まれた髪に清々しさが見受けられる。聖が『知り合い』と言っていた人物がこの人なのだと直感で知った。
「楯山(たてやま)さん。お久し振りです」
「やあ。聖君が来てくれたと言うからね。ちょっと抜けてきたよ。…こんばんは。本日はようこそいらっしゃいました」
聖に挨拶を済ませた後、英人に向き直って丁寧に頭を下げてくれる。この店のオーナーでもあるらしい。
英人も慌ててお辞儀をした。
「学校のお友達かい?」
「違うよ。一世さんちの養子になった人」
「一世のところの?おいおい、なんだいその話は…」
「正確には千城さんの…なんだけど」
聖の言うことに目を見開いた楯山は英人と聖を交互に見比べていた。
千城の父の名を気兼ねなく呼び捨てにしているところをみると榛名家との繋がりも深いのだろうか。
聖は曖昧に濁してしまったが長年の勘からか状況を理解したらしい楯山は「それはそれは…」と目を細めて英人を見ていた。
「それなら千城君も一緒に来れば良かったのに」
「呼ばなくったってもうすぐ来るよ。まったく嗅覚の優れたドーベルマンみたいにどこにいたって嗅ぎつけてくるんだから。ちょっと連れ出したらワンワン吠えられて大変だよ」
呆れ返ったと言いたげに聖が茶化せば楯山が笑顔を見せる。
「身勝手な子猫が一緒では心配にもなるだろうよ。あの子は昔から執着心と独占欲の強い子だったからね」
英人に向き合いながらにっこりと微笑まれては、英人はなんとなく恥ずかしさに身を縮めた。
楯山が『子猫』と揶揄したのは聖のことであって英人のことではないと分かるが、この人はどうやら千城の性格まで良く知っているらしい。千城が英人に対してどんな扱いかたをしているのか想像されているようだ。
それに榛名家のことに詳しいと知れば、今日繰り返された『お習いごと』が思い出され、自分の情けなさを披露することに気後れする。
「それでは私も腕を振るわせてもらおう」
楯山は話を切り上げると店の奥へと姿を消した。

コース料理はゆっくりと出してもらったせいか、千城が到着するまでメインディッシュは出て来なかった。
千城は前菜を省き、3人揃っての食事が始まる。
席に着いた頃は不機嫌な様子だったが、楯山や従業員の手前、あからさまな機嫌の悪さは見受けられなかった。
楯山は料理を出し終わるとしばらく席の隣に立ち、久し振りの再会を喜んでいた。
楯山と千城の父一世とは学友であることを知らされ、フランスで長きに渡り修行もしていたようで、千城も留学時には現地で色々と世話になったそうだ。
英人にとって千城の昔話を聞けるのはとても楽しいものだった。
楯山は接客にも慣れているようで、特にこの場ではジョークもたくさん出たし、英人はすっかり寛いでいた。

大まかな英人の紹介を済ませ、現在はCMプロダクションに在籍していることを伝えると、「いつかうちの広告も作ってほしいね」と社交辞令まで受けた。
こうして人との繋がりが増えていくことが嬉しいもののように感じる。
千城はこの時間まで運転手を拘束していたから気軽にワインまで飲むことができた。車に乗るなり船を漕ぐ英人をそっと寄りかからせ帰路につく。
結局思い通りにならなかった聖だけがブーブー文句を言い、楯山に宥められていた。
夢見心地の世界で、英人は聖も悪い人ではないのに…と思う。
ただ千城にしてみれば、英人が本邸に拉致(?)されたときに、何も知らなかった聖から素早い行動を起こされたことが許せなかったらしい。
彼の手の早さや強引さは充分なほど理解しているから心配なのだろう。
英人は千城以外の誰にも傾くことはないと心の底から思いながら、寄り添う恋人に安堵の息を漏らした。

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話がなかなか進んでいかない…
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コメント

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なんだか今日も遊ばれてるひーくん
コメント甲斐 | URL | 2009-12-15-Tue 15:24 [編集]
英人君は最近、強引、気まま、自己ちゅうーみたいな性格の人たちに囲まれて気の休まるときがないような気がします。
もちろん千城さんの強さには自分から流されていきたいと飛び込むほうだからいいのだけれど・・・。
『身勝手な子猫』な英人君ではかわいいひー君じゃなくなっちゃうけど、すこーしだけ聖をみならってもいいかも?あんまり深く物事を考えずに欲求に赴くまま飛んで行きそうなところ(の1/100くらいね)
Re: なんだか今日も遊ばれてるひーくん
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-15-Tue 16:59 [編集]
甲斐様

こんにちは。

今日も遊ばれているひーくん。

> 英人君は最近、強引、気まま、自己ちゅうーみたいな性格の人たちに囲まれて気の休まるときがないような気がします。
> もちろん千城さんの強さには自分から流されていきたいと飛び込むほうだからいいのだけれど・・・。

流されていますね~。
意思の弱さが顕著に表れています。
先日ご指摘いただいたように、もうちょっとしっかりした子になってほしいのに…。
阻むのは甘やかしすぎるナイトの存在なのかしら…?

> 『身勝手な子猫』な英人君ではかわいいひー君じゃなくなっちゃうけど、すこーしだけ聖をみならってもいいかも?あんまり深く物事を考えずに欲求に赴くまま飛んで行きそうなところ(の1/100くらいね)

聖のような行動に出られる精神はまだまだ英人にはございません。
でも千城にしてみたら素直な行動は目じりが下がっちゃう行為でしょうね。
甘えてくれているんだ~頼ってくれているんだ~とますます抱きかかえ込みたがりそうです。
他人様が絡めばなおさら…。(自分の腕に縋りなさいって)

いつもコメント感謝しております。ありがとうございます。
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