2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
雛鳥の巣立ち 4
2009-12-17-Thu  CATEGORY: 淋しい夜
「ジョージ?」
紹介などしなくても千城はジョージの名を呼んだ。
流れるようなお互いの動きがとても自然なものに見えて、英人は思わず震えた。
英人だってこの場では千城に寄り添う仕草すら出来ずにいたのに、ジョージは堂々と千城の首に両腕を回していた。千城も引き離そうなどという態度も雰囲気も持っていない。それどころかさりげなくジョージの背中に千城の手が回るのが英人の視界に飛び込んできた。
驚きながらも懐かしそうに笑った千城にジョージは素早く英語で何かを囁いていた。千城もそれに答えている。英人は蚊帳の外だった。
そんな目の前の光景を目にしていたくなくて、クルリと踵を返した背後に戸惑ったような千城の声を聞いた。
「英人、待て…」

ジョージが千城に抱く特別な感情を英人は知ることができた。
ただの知り合いなんかじゃない…。
千城だってあからさまなジョージの思いくらい感じ取っているはずだ。それなのに、拒むこともなければ逆に受け入れているくらいの態度で…。
優しく抱え込むような仕草は自分だけに向けられていると思っていたから、あんな光景を目にすればショックだった。
英人は弾かれたように駆け出した。物悲しさが心を埋め尽くしていく。

「英人っ!!」
会場を飛び出しイルミネーションで飾られた広い庭に出た英人を追ってきたのは聖だけだった。
聞こえた声が、追ってきたのが千城ではないのだと知った時、全身の力が抜けた。
見捨てられたのだと思えて仕方がなかった…。
「な…んで…?…なんで聖なの?…何で千城…」
英人の目から大粒の涙が零れ落ちた。
庭にもたくさんの人が出ている。こんなところで泣き喚くようなみっともない姿を晒したくなかったが、痛む心を抑え込むことができなかった。
何故千城は英人を追ってきてくれなかったのだろう。

千城に対する恨みごとが膨れ上がっていくようだった。
追いついた聖は英人の手首を取って、去ろうとする英人の動きを止めた。涙に濡れる英人の顔にそっと指を這わせられる。こうやって宥めてくれるのはいつも千城だったはずなのに…。
英人の泣き顔を見た聖に辛そうな表情が浮かんだ。
いまでもあの男を腕に抱いているのかと想像すれば、英人は聖の胸を叩いた。
「あの人、誰?…なんで千城にあんな…っ」
人が多くいる会場の中で、何の抵抗もなく自然と寄り添った二人…。
嗚咽を上げる英人を聖の腕が包んだ。大人びた声が上がった。
「千城さん、来ないよ。ジョージに止められてた。…このまま英人を連れ去ってもいい?」
聖の言葉を聞いて英人は愕然とした。聖の中にも千城に対する憤りが見えるようだった。

待機していた車に乗せられる。
聖の言葉に頷いたのは英人だった。
これまでの千城の気持ちを信じられなかったわけではないが、ジョージに止められたというだけで英人を追ってこなかったと知ればここに居たくなかった。聖の憤慨する姿をみればまんざら嘘でもないのだろう。見せられた光景に受けたショックも大き過ぎて会場に戻る勇気も、千城と顔を合わせられる自信ももうなかった。

英人のことを手のかかるお荷物だと思われているのかもしれない。英人はいつまでたっても榛名家にふさわしい人間になれない。教えられたことだってなかなか飲み込めない。
こんなに大きなパーティーに出席したことはなかったけど、放っておかれたのも初めてのことだった。今までは必ず英人の傍にいたしきちんとエスコートもしてくれた。千城の立場を思えば仕方がなかったと理解できることでも、過ぎてきた時間が負の連鎖となって英人を苛んでいった。
そして自分を手にせず、違う男に笑いかけた千城…。
そんな時に、強引なほど英人を引っ張ろうとする聖の存在が温かいものに感じて縋ってしまいたかった。

聖も千城とジョージの関係については知らないようだった。先程まで和やかに会話をしていた時に知ったことが全てのようで初対面でもあったらしい。
走り出した車の中で聖は英人のポケットから携帯電話を取り出すと電源を落とした。
「後悔、しないでよ」
いつもの幼さを交えた強気なだけの瞳ではなかった。包み込むような温かさを立ち上らせた雰囲気は大人を思わせた。
聖も人の上に立つことを教えられたような人間だ。全身から醸し出されるものは、もう年下の男などではない…。
英人が選んだ答えなのだと言いたげに腕の中に抱きこまれる。
千城に捨てられ聖に拾われたようで、惨めさに英人の心は潰れ、涙は止まることがなかった。



英人は何も考えられずにいた。
ただ千城に見捨てられたのだという悲しさだけに襲われていた。もう自分などどうなってもいい。そんな投げやりな気持ちしか持てない。
郊外にあったパーティー会場からさらに田舎へと一時間ほど車を走らせてある一軒家の前で止まった。
都心のようなネオンも何もない静かなところだった。
立川家が持つ別荘の一つに来たのだと教えられた。
聖は門扉の前で降りると、車を帰してしまった。公共機関も何も無さそうなこの場所で、聖と二人きりになってしまったのだと英人は改めて感じた。

ここまで来て、英人はまた千城のことを思っていた。電源の切られた携帯電話は車の中に放り投げられていた。
千城が英人を探す手段はなくなっている。第一、英人を探してくれているのだろうか。もしかしたら心配もしていないのではないだろうか…。
あの男は何者だったのだろう。千城とどんな関係なのだろう。頭に浮かぶのは千城のことばかりだ。
連れられるがまま上がり込んだカントリー調のリビングで、いまだ千城へと思いを馳せる英人に気付いた聖が忌々しげに英人を腕の中へと招き入れた。
「もう千城さんのこと考えるのはやめて」

英人は自分が聖に縋ってしまった罪を清算しなければいけないような気分に陥った。
聖の英人に対して持つ感情は良く知っている。
長いこと、千城のものとして見守ってきてくれていたが、一度の綻びを見逃してなどいなかった。
隙さえあればいつだって英人を奪い取ると様々なところで伺わせていた。それを知りながら悲しい、淋しいという感情を持て余した今の英人は聖を頼ったのだ。

「聖、あのさ…」
「何も言わないで」
抱きしめられた胸に向かって申し訳なさを伝えようとすれば見越したような聖に止められた。
きっと聖は分かっている。どうやったって英人の気持ちが千城から離れないことを…。
理解していながら強引にここまで連れ出したのはどんな意図があるのだろうか。
いつの頃からか触れられることに嫌悪感がなくなった。聖がもたらすものは友人同士が触れ合うスキンシップの一つなのだと捉えられるようになっていたから親しみすら沸いていた。
それはいつか「頼れる男」へと変化を遂げている。
だからといって千城と同じように特別な愛が芽生えるかと言えばまた違った話だった。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
トラックバック0 コメント3
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
千城さんのバカーーーーーーーーー!!
コメント甲斐 | URL | 2009-12-17-Thu 16:13 [編集]
そりゃあ、二人でパーティーを楽しみに来たのではなくてホスト側なのだから千城さんは何かと忙しいのでしょうが、英人君を放っておくってどうよ。
じゃあ何のために連れてきたのでしょうね。見せびらかせたいとか、紹介したいって訳でもなさそうだし。
つまんなくても手持ち無沙汰でも一人で頑張ってたご褒美がこれですかぁ。
いまさら、英人がめんどくさくて邪魔ってことはないにしても、旧知の友人(?)にあったからってそれはないんじゃないですか千城さん。
フレンドリーだし知人の誰一人いないこの場で親切にしてくれる聖くんに頼ってしまっても仕方ないっと思います。
何がおこっても、英人君はぜーーーったい悪くない。
と、何も言えないひーちゃんの代わりに千城さんにおねーさんから文句言っときました。
(でも、いい子のひーちゃんはほんとに『何か』あったら、自己嫌悪で死んでしまいたくなっちゃうだろうなー)
Re: 千城さんのバカーーーーーーーーー!!
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-17-Thu 16:53 [編集]
甲斐様

こんにちは。

文句、たっぷりと言ってやってください。

> そりゃあ、二人でパーティーを楽しみに来たのではなくてホスト側なのだから千城さんは何かと忙しいのでしょうが、英人君を放っておくってどうよ。
> じゃあ何のために連れてきたのでしょうね。見せびらかせたいとか、紹介したいって訳でもなさそうだし。

立場的に千城にも千城父にも誘われたようなところです。
身内はもとより、たくさんの方々が集まっていますからね…。
千城父にしてみたらちょっとしたお試し期間みたいなのもあったのでしょうか…(教育係を離れたし)
千城にしてみれば何気ない仕草でも(海外生活もあるので)英人にしてみたら石に頭を割られたようです。

> フレンドリーだし知人の誰一人いないこの場で親切にしてくれる聖くんに頼ってしまっても仕方ないっと思います。
> 何がおこっても、英人君はぜーーーったい悪くない。
> と、何も言えないひーちゃんの代わりに千城さんにおねーさんから文句言っときました。
> (でも、いい子のひーちゃんはほんとに『何か』あったら、自己嫌悪で死んでしまいたくなっちゃうだろうなー)

たとえどんなに嫌った人物だって、見慣れない場所では親近感が湧いてしまうものと思います。
ましてや最近の英人にとって聖はとても仲良し。
ええ、どんなことがあったって英人は悪くないですよ~。
甲斐様のお叱りの声もきっと千城に届くと思います。

コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-17-Thu 23:11 [編集]
MO様

こんばんは。

>いつも英人の気持ちを理解してくれる千城なら、自分が忙しくて相手をできないなら、誰か相応しい人を、英人のそばに置くべきでしたよね。千城にとっては、想像できない落し穴って感じかな?さ~、どうやって英人を取り戻すのでしょう?英人が出て行ったあとの焦る千城の様子と気持ちを、千城視点でお願いしたいですぅ。

千城、完全に油断していました。
というより、相手をする気でいたのだと思います。
けど英人のほうから離れるかたちになっちゃったから複雑な気分だったのでしょう。

ち、千城視点ですか…(-_-;)
きっと焦っています(←これじゃだめですよね 汗)
書けるかなぁ。あまり期待せずお待ちいただきたいと思います。
コメントありがとうございました
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.