野崎と神戸は同じ時を持って店を出ようとした。
「ごちそうさま」
神戸が日野にかけてくる言葉は今夜の逢瀬はないと伝えているものだった。
日野とは関係を持たなくても、野崎と闇夜に消えるのだろうか。
神戸をそういった人間として見たくなかったが、二人の親密さを改めて見せつけられたようで、日野に充分なほど疑心を抱かせた。
「ありがとうございます」
日野は答えたものの、並んで出ていこうとする二人の後姿に足の先から込み上げるものがあった。
客を追いかけることなどこれまでの日野には体験したことがない。
今の日野はここが『店』という場所でなかったら、神戸に近づいていたのではないかと思った。
平静を装うことがこれほど難しいものだったとは…。
オトコに対してこのような感情を持ったことなどもちろんない。
ドアが閉まってしまえば、出ていく神戸に『すべてを終わりにする』といわれているような雰囲気があったのではないかと振り返ってしまったりする。
誘われなかったことはこれまでもあったはずなのに、今日はそれが淋しく感じて仕方ない。
何故こんなに気になるのだろう。
…キスをしたから…? 初めて自分の後ろを開け渡した人間だからだろうか…?
初めて知った”快感”の後、神戸とは幾度か寝たが、神戸が日野を再び組み敷くことはなかった。
再びあのような姿勢にさせられることに恐怖をいだきながらも、逢瀬をやめられなかったのは、心のどこかでそうなってもいいと許している自分がいたからだろう。だが神戸は日野を抱かなかった。
それを神戸が物足りないと思っていたかどうかまでは分からない。
聞くのが怖かったし、神戸も明らかにしようとはしなかった。
曖昧な関係でいることは、一種の自己防衛だ。
深みにはまることに脅えていた。神戸には一度取り憑かれたら逃げ出せないような魔性がある。堕ちたら日野は確実に『明確な位置』を求める人間になるだろう。
神戸がそうなった日野との関係を続ける人間だとも思っていない。
お互い納得の上での関係だったのだ。心までは求めていないような…。
その関係を崩したくないと漠然と思っていた。
思っていたはずなのに、込み上げてくるこの感情は…?
認めたくない思いを募らせながら、日野は空いた酒瓶を手にすると裏に出してくるというように、店の裏口から出た。
店の裏口に入ってくるための路地裏にはこれといった外灯もない。通りから少し入ったばかりの場所で人目に付かないのをいいことに、重なるシルエットが見えた。
抱き合っているとかではなかったが、相当近い位置で話をしているのは確かだ。
日野は咄嗟に扉を閉じた。
…見たくなかった…
暗がりではっきりとは認識できなくても、あの場所にいたのは今ここでグラスを手にしていた二人だろう。
忙しさに負けて寄り添えなかったのは誰だったのか…?
恋人がいる…とは確かに神戸は言わなかった。
日野についても言及されることはなかった。
交わした口付けは一度だけといっていい。
恋人のいない空間…。肌に触れあえない淋しさ…。
人間がそういった感情を抱えることは充分なほど理解している。
神戸は日野を利用していたのだろうか…。
そして胸に沸いたちくちくとする痛み。
にほんブログ村
ほちしていだくとうれしいです。
「ごちそうさま」
神戸が日野にかけてくる言葉は今夜の逢瀬はないと伝えているものだった。
日野とは関係を持たなくても、野崎と闇夜に消えるのだろうか。
神戸をそういった人間として見たくなかったが、二人の親密さを改めて見せつけられたようで、日野に充分なほど疑心を抱かせた。
「ありがとうございます」
日野は答えたものの、並んで出ていこうとする二人の後姿に足の先から込み上げるものがあった。
客を追いかけることなどこれまでの日野には体験したことがない。
今の日野はここが『店』という場所でなかったら、神戸に近づいていたのではないかと思った。
平静を装うことがこれほど難しいものだったとは…。
オトコに対してこのような感情を持ったことなどもちろんない。
ドアが閉まってしまえば、出ていく神戸に『すべてを終わりにする』といわれているような雰囲気があったのではないかと振り返ってしまったりする。
誘われなかったことはこれまでもあったはずなのに、今日はそれが淋しく感じて仕方ない。
何故こんなに気になるのだろう。
…キスをしたから…? 初めて自分の後ろを開け渡した人間だからだろうか…?
初めて知った”快感”の後、神戸とは幾度か寝たが、神戸が日野を再び組み敷くことはなかった。
再びあのような姿勢にさせられることに恐怖をいだきながらも、逢瀬をやめられなかったのは、心のどこかでそうなってもいいと許している自分がいたからだろう。だが神戸は日野を抱かなかった。
それを神戸が物足りないと思っていたかどうかまでは分からない。
聞くのが怖かったし、神戸も明らかにしようとはしなかった。
曖昧な関係でいることは、一種の自己防衛だ。
深みにはまることに脅えていた。神戸には一度取り憑かれたら逃げ出せないような魔性がある。堕ちたら日野は確実に『明確な位置』を求める人間になるだろう。
神戸がそうなった日野との関係を続ける人間だとも思っていない。
お互い納得の上での関係だったのだ。心までは求めていないような…。
その関係を崩したくないと漠然と思っていた。
思っていたはずなのに、込み上げてくるこの感情は…?
認めたくない思いを募らせながら、日野は空いた酒瓶を手にすると裏に出してくるというように、店の裏口から出た。
店の裏口に入ってくるための路地裏にはこれといった外灯もない。通りから少し入ったばかりの場所で人目に付かないのをいいことに、重なるシルエットが見えた。
抱き合っているとかではなかったが、相当近い位置で話をしているのは確かだ。
日野は咄嗟に扉を閉じた。
…見たくなかった…
暗がりではっきりとは認識できなくても、あの場所にいたのは今ここでグラスを手にしていた二人だろう。
忙しさに負けて寄り添えなかったのは誰だったのか…?
恋人がいる…とは確かに神戸は言わなかった。
日野についても言及されることはなかった。
交わした口付けは一度だけといっていい。
恋人のいない空間…。肌に触れあえない淋しさ…。
人間がそういった感情を抱えることは充分なほど理解している。
神戸は日野を利用していたのだろうか…。
そして胸に沸いたちくちくとする痛み。
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ほちしていだくとうれしいです。
日野くん、自分の気持ちに気付いていないようですね~
野崎さんにも幸せになって欲しいですが、野崎さんですら
神戸さんには翻弄されそうな、勝手な心配をしています。
これからの神戸さん、日野くん+αの行方にドキドキします。
野崎さんにも幸せになって欲しいですが、野崎さんですら
神戸さんには翻弄されそうな、勝手な心配をしています。
これからの神戸さん、日野くん+αの行方にドキドキします。
ちぃ様
こんにちは。
> 日野くん、自分の気持ちに気付いていないようですね~
> 野崎さんにも幸せになって欲しいですが、野崎さんですら
> 神戸さんには翻弄されそうな、勝手な心配をしています。
全ての人間が神戸に翻弄されていそうです。
唯一立ち向かえるのは千城?!
日野はすっかり神戸がもたらす魅惑みたいなものにはまりおちてしまいました。
無意識のうちに手懐ける神戸、恐ろしや…。
> これからの神戸さん、日野くん+αの行方にドキドキします。
どんな人間模様が出来上がるんでしょうかね…。
応援感謝いたします。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 日野くん、自分の気持ちに気付いていないようですね~
> 野崎さんにも幸せになって欲しいですが、野崎さんですら
> 神戸さんには翻弄されそうな、勝手な心配をしています。
全ての人間が神戸に翻弄されていそうです。
唯一立ち向かえるのは千城?!
日野はすっかり神戸がもたらす魅惑みたいなものにはまりおちてしまいました。
無意識のうちに手懐ける神戸、恐ろしや…。
> これからの神戸さん、日野くん+αの行方にドキドキします。
どんな人間模様が出来上がるんでしょうかね…。
応援感謝いたします。
コメントありがとうございました。
そうですね神戸さんって”気持ちよく遊べる相手なら誰でもいい、でも軽く付き合えて、心は求めない”が大原則って感じする。
「好き」だなんていったり、求めすぎたら嫌われそう・・・
ですよね、日野さん。
果たして見かけどおりなのか、以前はそういう人だったのかは、分りませんけどね。
誰かを忘れために利用されたのかとかいろいろ思っちゃう日野さんで案外乙女だったのね。
「好き」だなんていったり、求めすぎたら嫌われそう・・・
ですよね、日野さん。
果たして見かけどおりなのか、以前はそういう人だったのかは、分りませんけどね。
誰かを忘れために利用されたのかとかいろいろ思っちゃう日野さんで案外乙女だったのね。
甲斐様
おはようございます。
日野ってばいいように使われたんじゃないかと思いはじめちゃいました。
> そうですね神戸さんって”気持ちよく遊べる相手なら誰でもいい、でも軽く付き合えて、心は求めない”が大原則って感じする。
> 「好き」だなんていったり、求めすぎたら嫌われそう・・・
> ですよね、日野さん。
ええ、そうなんです。
そう思うからずっといい関係でいられたはずなのに、日野にとって"大事件"があったので揺れ動きだしました。
> 果たして見かけどおりなのか、以前はそういう人だったのかは、分りませんけどね。
> 誰かを忘れために利用されたのかとかいろいろ思っちゃう日野さんで案外乙女だったのね。
神戸がかなり謎の人物になってきちゃった…。
ま、おいおい明かされていくでしょう。
日野も他人のことにはビシビシ言うのにね。
自分のことになれば怖気づいちゃうというか…。
未知の世界なだけに、そして小悪魔な神戸だけに翻弄されっぱなしです。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
日野ってばいいように使われたんじゃないかと思いはじめちゃいました。
> そうですね神戸さんって”気持ちよく遊べる相手なら誰でもいい、でも軽く付き合えて、心は求めない”が大原則って感じする。
> 「好き」だなんていったり、求めすぎたら嫌われそう・・・
> ですよね、日野さん。
ええ、そうなんです。
そう思うからずっといい関係でいられたはずなのに、日野にとって"大事件"があったので揺れ動きだしました。
> 果たして見かけどおりなのか、以前はそういう人だったのかは、分りませんけどね。
> 誰かを忘れために利用されたのかとかいろいろ思っちゃう日野さんで案外乙女だったのね。
神戸がかなり謎の人物になってきちゃった…。
ま、おいおい明かされていくでしょう。
日野も他人のことにはビシビシ言うのにね。
自分のことになれば怖気づいちゃうというか…。
未知の世界なだけに、そして小悪魔な神戸だけに翻弄されっぱなしです。
コメントありがとうございました。
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