店を出てから3日もたたずに水谷から電話が鳴って、野崎は通話ボタンを押すことに躊躇った。
宮原の言葉に意識を向けたつもりはなかったが何故か耳に残っていた。
店に向けば宮原とも顔をあわせることになる。
水谷に簡単に身体を許す、と捉えられているようで顔を合わせづらいというのもあるかもしれない。
寝たのはたった一度だが彼の想像の中でそんなことはおもわれていないだろう。
最後に見た、何かを諦めたような表情も脳裏をちらついていた。
彼の過去など知りたくないと思うのに、あまりの豹変ぶりは少々気になる。
宮原ごときに気を反らされるなど…と何度も自分を戒め、新規事業も始まり多忙になったと理由付けて店に足を向けなければこの結果だ…。
夕闇で薄暗くなった窓の外を眺めながら社長室のデスクの上に翌日のスケジュールを置いていた最中で、千城が、躊躇いを見せた野崎を不思議そうに見上げてきた。
一瞬の躊躇まで感づいてしまうこの男もどこか憎い…。
「明日の予定を…」
平然を装い携帯電話のディスプレイに表示された名前を無視し、続きを促せば、千城が顎をクイっと扉に向けた。
外で電話をしてこいという意味だろう。
神戸に連れられて遠方に出かけた英人の帰りが遅いから時間は急がないと言いたい千城の気持ちが分かる自分もなんなのだが…。
普段なら早く帰りたがって、ついでに次の日にどれだけ重要な件があるのか知りたがるくせに(当然出社時間を調整するためだ)こんな日は余裕を見せる。
これまで次ぐ日の予定などどうでもいいというくらいに確認もすることなく、それとなく察せられればいいという態度が、分単位で事細かに聞いてくるようになった。
すべてはただ一人のために向かっている。
どっちを向いても忌々しいと思いながら野崎は溜め息一つ零すことなく、「失礼します」と一礼して廊下に出た。
そしてふと思った。
…そもそも誰が原因だ…????
水谷から相談されたことは、最近変動の激しい株式の件で、こればかりは野崎も先は読み越せないと断りをいれる。
取引のために必要となりそうなことなどは簡単に手に入れられても利用できない部分もある。
数々の情報を水谷に与えてしまったことを今更ながらに後悔した。
法に引っかからないというものでさえ、最新の情報を常に入れることができる野崎の存在が水谷にとってはありがたかったのだと思うから余計に手放せないのだろう…。
利用されているのは分かっている。全てを承知している。
単純にここまで関わっていたのは千城のためでしかない。
業務外の用件を押し付けられた(というより、解決策として自ら名乗り出た)野崎は、宮原が言っていた言葉を深く認めていた。
宮原が店に出た今、もう、水谷の傍にいる必要はないと…。
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宮原の言葉に意識を向けたつもりはなかったが何故か耳に残っていた。
店に向けば宮原とも顔をあわせることになる。
水谷に簡単に身体を許す、と捉えられているようで顔を合わせづらいというのもあるかもしれない。
寝たのはたった一度だが彼の想像の中でそんなことはおもわれていないだろう。
最後に見た、何かを諦めたような表情も脳裏をちらついていた。
彼の過去など知りたくないと思うのに、あまりの豹変ぶりは少々気になる。
宮原ごときに気を反らされるなど…と何度も自分を戒め、新規事業も始まり多忙になったと理由付けて店に足を向けなければこの結果だ…。
夕闇で薄暗くなった窓の外を眺めながら社長室のデスクの上に翌日のスケジュールを置いていた最中で、千城が、躊躇いを見せた野崎を不思議そうに見上げてきた。
一瞬の躊躇まで感づいてしまうこの男もどこか憎い…。
「明日の予定を…」
平然を装い携帯電話のディスプレイに表示された名前を無視し、続きを促せば、千城が顎をクイっと扉に向けた。
外で電話をしてこいという意味だろう。
神戸に連れられて遠方に出かけた英人の帰りが遅いから時間は急がないと言いたい千城の気持ちが分かる自分もなんなのだが…。
普段なら早く帰りたがって、ついでに次の日にどれだけ重要な件があるのか知りたがるくせに(当然出社時間を調整するためだ)こんな日は余裕を見せる。
これまで次ぐ日の予定などどうでもいいというくらいに確認もすることなく、それとなく察せられればいいという態度が、分単位で事細かに聞いてくるようになった。
すべてはただ一人のために向かっている。
どっちを向いても忌々しいと思いながら野崎は溜め息一つ零すことなく、「失礼します」と一礼して廊下に出た。
そしてふと思った。
…そもそも誰が原因だ…????
水谷から相談されたことは、最近変動の激しい株式の件で、こればかりは野崎も先は読み越せないと断りをいれる。
取引のために必要となりそうなことなどは簡単に手に入れられても利用できない部分もある。
数々の情報を水谷に与えてしまったことを今更ながらに後悔した。
法に引っかからないというものでさえ、最新の情報を常に入れることができる野崎の存在が水谷にとってはありがたかったのだと思うから余計に手放せないのだろう…。
利用されているのは分かっている。全てを承知している。
単純にここまで関わっていたのは千城のためでしかない。
業務外の用件を押し付けられた(というより、解決策として自ら名乗り出た)野崎は、宮原が言っていた言葉を深く認めていた。
宮原が店に出た今、もう、水谷の傍にいる必要はないと…。
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ミコっちゃんイラついてますね。
そもそも誰が原因だ?って今更だしねぇ。
”そうだ、千城が英人を傍に置きたくて、仕事中でも安心したくて、避難場所も安全安心な目の届くところで何処までも広い鳥籠を作りたかったからで、その代償としてあるいは生贄として千城のために自ら身を差し出したんだった”って思い出したら、やり切れなーい気持ちになったかな。
プライベートはよく分からないみこっちゃんですけど、なんだか人としてあまり楽しい生き方はしてないみたいで淋しそう。
たぶん、彼にとって今が幸せかなんてこと考えたことないし、これからもどっちでもいいことみたいですね。
水谷さんは、同情も詮索もなしにその場限りの発散や癒しをくれた謂わば切り傷用の絆創膏。治ったら剥がしてポイすればいい。それ以上でもそれ以下でもないって感じ。
だから完璧に仕事をするための仮面をはがそうとする宮原は苦手身が手な人種なんでしょうね。
そもそも誰が原因だ?って今更だしねぇ。
”そうだ、千城が英人を傍に置きたくて、仕事中でも安心したくて、避難場所も安全安心な目の届くところで何処までも広い鳥籠を作りたかったからで、その代償としてあるいは生贄として千城のために自ら身を差し出したんだった”って思い出したら、やり切れなーい気持ちになったかな。
プライベートはよく分からないみこっちゃんですけど、なんだか人としてあまり楽しい生き方はしてないみたいで淋しそう。
たぶん、彼にとって今が幸せかなんてこと考えたことないし、これからもどっちでもいいことみたいですね。
水谷さんは、同情も詮索もなしにその場限りの発散や癒しをくれた謂わば切り傷用の絆創膏。治ったら剥がしてポイすればいい。それ以上でもそれ以下でもないって感じ。
だから完璧に仕事をするための仮面をはがそうとする宮原は苦手身が手な人種なんでしょうね。
甲斐様
こちらにもありがとうございます。
> ミコっちゃんイラついてますね。
精神状態を乱されるのが一番ストレスですしね。
でも彼には珍しい現象です。
> そもそも誰が原因だ?って今更だしねぇ。
大本は千城のわがままと言っていいんですけど引き受けたのは自分ですしね。
いやぁ、甲斐様が書いてくださった方が意味の通り方がいいですよ。
> プライベートはよく分からないみこっちゃんですけど、なんだか人としてあまり楽しい生き方はしてないみたいで淋しそう。
だって仕事が生きがいですから…。
って、まぁこれまでも書く機会なんてありませんでしたけどね。
途中から全く登場しなくなったし。
水谷には「違う方法で息抜きをしています」って言ってたから何かあるんですかねぇ。想像できないけど。
> 水谷さんは、同情も詮索もなしにその場限りの発散や癒しをくれた謂わば切り傷用の絆創膏。治ったら剥がしてポイすればいい。それ以上でもそれ以下でもないって感じ。
> だから完璧に仕事をするための仮面をはがそうとする宮原は苦手身が手な人種なんでしょうね。
うまいなぁ…。
表現力素晴らしいです。
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうございます。
> ミコっちゃんイラついてますね。
精神状態を乱されるのが一番ストレスですしね。
でも彼には珍しい現象です。
> そもそも誰が原因だ?って今更だしねぇ。
大本は千城のわがままと言っていいんですけど引き受けたのは自分ですしね。
いやぁ、甲斐様が書いてくださった方が意味の通り方がいいですよ。
> プライベートはよく分からないみこっちゃんですけど、なんだか人としてあまり楽しい生き方はしてないみたいで淋しそう。
だって仕事が生きがいですから…。
って、まぁこれまでも書く機会なんてありませんでしたけどね。
途中から全く登場しなくなったし。
水谷には「違う方法で息抜きをしています」って言ってたから何かあるんですかねぇ。想像できないけど。
> 水谷さんは、同情も詮索もなしにその場限りの発散や癒しをくれた謂わば切り傷用の絆創膏。治ったら剥がしてポイすればいい。それ以上でもそれ以下でもないって感じ。
> だから完璧に仕事をするための仮面をはがそうとする宮原は苦手身が手な人種なんでしょうね。
うまいなぁ…。
表現力素晴らしいです。
コメントありがとうございました。
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