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BLの丘
想―sou― 一夜物語 9
2010-06-18-Fri  CATEGORY: 『想』―sou―
「英人、遅くなってすまなかったな」
「ちしろぉ…」
誰もが、まさに誰もが見ている目の前でスツールに座った英人に何の迷いもなく、目尻を細めた男が英人の全身の温かさを求めるように抱きついた。
一部の隙もない、誰をも圧倒する風貌だというのに、英人を前にすれば相好を崩し、縋りつくように英人を手にした。
ついでに、髪とこめかみと鼻先と頬と唇に、軽く唇を落としている。
確かに外国映画の中などでは見たことがある光景かもしれない…。
そして今ここで繰り広げられても違和感すら浮かばない。
だけど、目の前で繰り広げられるには一葉には刺激が強すぎた。
今にも発火しそうな照れが肌の上を滑って行き、俯きたいのに口を開けて凝視していた。

だが、そんな光景などどうでもいい男が一人いた。
野崎だ…。
「何故あなたがここに…っっっっ?!!!」
「誘拐された」
「はぁぁぁっ?」
英人と千城とは全く異なった再会ぶりに、困惑の表情を表すのは野崎だったし、意味が分からないと呆然とする従業員(神戸含む)がカウンターの中から物事を見送っている。

「寄り道をする野崎が心配だというから連れて来てやったんだ。彼もこの店にはきたことがないと言うしな」
口角を上げて笑みを浮かべる『千城』には、何を言われても返せるような余裕さがあった。
さっき『誘拐された』と野崎の隣の男は呟いていたが、『千城』に言わせれば『連れてきてやった』らしい。
なにより、この人物が『野崎』をまどわせた(虜にした)人間かと思えば嫌でも視線が向く。
そもそも『野崎』自身を知らないから興味本位という部類ではあるけど…。
千城はさりげなく英人の隣に座り、一緒に入ってきた男を顎先で自分の隣に促している。
『野崎』の意見は完全に無視状態だった。

「っていうか、宮原さん、髪の毛染めたんだね。水谷さんのお店で見た時と全然印象変わったし…」
「美琴さんの立場考えるとね」
神戸から放たれる言葉には親近感がある。
以前顔を合わせたことがある…とは話の流れから聞いてはいたが、それとも誰に対しても同じような”神戸スタイル”なのだろうか。
神戸にも視線で『座って』と促され、”一見チャランポラン男”は野崎の背に手をかけるものの、拒絶する細い身体がある。
「冗談じゃないですっ!帰りますよっ!!」
「マンションの改装費用、経費から落としたのは知っているんだぞ。別に金を取るわけじゃない。たまには付き合え」
傍若無人な態度で『部下』を促した『社長』がちらりと視線を送っただけで、その眼はすぐに隣の英人に戻っていった。
…あぁ…どこまで変わるのか、この社長は……と一葉は思った。
他人に向ける目つきと英人に向ける表情は全く異なる。
何やら弱味を握られているらしく、諦めたように盛大な溜め息を吐く『秘書』とその相手が社長の隣に腰を下ろすのを呆然と見ていた。
嬉々とする神戸を喜ばしそうに千城が眺めているのを視野に入れて、無言で企てられている世界を目の当たりにする。
ここに揃えたのは友達思いの社長の仕業?!

たぶん……、絶対に……、こわい…。

そうやって凝視してしまった一葉に気付いた『千城』が、なにか?と問うように一葉を睨んで(いや、みつめて)きて、一葉は縮こまった。
こんな鋭い目線の男とまともに視線を合わせられる度胸はない…。

「あ、一葉くんっていってね。今、友達を待っているところなの。びっくりしちゃった。神戸さんの知り合いの画廊で働いているんだって。しかもね。俺と同じ年だったんだよ。今度、顔を見せにいってもいいでしょ?」
千城の視線に英人の追ってくる言葉が嫌でも耳に刺さってくる。
英人が声をかけてきた瞬間に、一葉を見ていた視線が優しさを含んだように緩んだ。
英人が触れ合って危険ではないと判断できるものには千城も気を許すと言った感じだ。
お客様をお迎えするのはいいとしても(しかも篠原が望む画家となれば文句もなく)、明らかに存在価値が違う人間のようでここで個人的に声を掛けられてどうしたらよいのやら…。
一葉の心の中では『なちぃぃぃぃぃ』という悲鳴がとどろいていた。
那智さえあらわれてくれればこの”不思議なつながり”から解放されるような気がしていた。

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また最近一気読みの方がいらっしゃって…。
一話ずつ拍手いただくのはとても嬉しいのですが、ご面倒であれば最後にポチでもいいですからね。
読んで頂ける方がいる、それだけで私満足です。
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コメント

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”誘拐”か”招待” か微妙なところか
コメント甲斐 | URL | 2010-06-18-Fri 08:46 [編集]
いらっしゃーい千城さん。
初対面の人にとって威圧的で逃げ出したくなるような目で睨んじゃ駄目じゃないですか。
心やさしくウブな一葉ちゃんなんだから。
事情を知らない第三者視点での進行は結構好きです。
振る舞いや言動が尋常を逸していて
それについて密かにツッコミいれたり、おたおたする様子が面白くて。
これだけらぶらぶカップルが集まってしまうと、一葉ちゃんも相方がいないと寂しくなっちゃいますね。
那智くんも遅いけど、こんな妖しいバーで一人でいること知ったらパパが心配して早めにお迎え来ないかな?
そして、ひーちゃんみたいにいっぱいチューしてくれないかな。(人前では無理ね)
No title
コメントきえ | URL | 2010-06-18-Fri 09:36 [編集]
K様
こんにちは~。
>誰はばかることなく どこまでも英人に甘々な千城。見たこともないような光景に お口あんぐりの一葉ですね。そして出た!久々の『なちぃぃぃぃぃ』 なぜか これ ちょっとツボです。だって 那智と一葉のツーショットって 想像しただけで可愛くて… ここに英人が加わったら 無敵の26歳トリオですね!これからの展開にワクワクしてますが、一葉視点だから ズレる可能性もあるんですよね?そのズレさえも楽しみたいと思っています。

一葉の心のわめきに共感していただいたようで嬉しいです。
このお店には、人様に抵抗のない人間ばかりで、あっちでもちゅっ、こっちでもチュッみたいな人ばかりですね…。
(日野が抵抗してももう充分『アヤシイお店』ですから)
那智と一葉もいいコンビですよね。
普通に軽く、ごあいさつチュウをしてもいいと思うんですけど(え?だめ?!)
一葉視点、たぶんズレます。確実に。
コメントありがとうございました。
Re: ”誘拐”か”招待” か微妙なところか
コメントきえ | URL | 2010-06-18-Fri 09:43 [編集]
甲斐様
こんにちは~。

そうですよね、誘拐か招待か…ですよね。

> 初対面の人にとって威圧的で逃げ出したくなるような目で睨んじゃ駄目じゃないですか。
> 心やさしくウブな一葉ちゃんなんだから。

ちーちゃんの目線は慣れない人だと怖いですよね。
本人は睨んでいるつもりはないのでしょうが。
英人の一言で全てが変わります。

> 事情を知らない第三者視点での進行は結構好きです。
> 振る舞いや言動が尋常を逸していて
> それについて密かにツッコミいれたり、おたおたする様子が面白くて。
> これだけらぶらぶカップルが集まってしまうと、一葉ちゃんも相方がいないと寂しくなっちゃいますね。
> 那智くんも遅いけど、こんな妖しいバーで一人でいること知ったらパパが心配して早めにお迎え来ないかな?
> そして、ひーちゃんみたいにいっぱいチューしてくれないかな。(人前では無理ね)

人前でちゅー?!
大人な安住さんの性格といい、テレやな一葉の立場といい、難しい…。
もうらぶらぶかっぷるに囲まれた一葉ですね。
『お友達との時間を大切に』とか言われて「はい」とか答えている時ではないですよね。
パパお迎えにきてくれるかな。
コメントありがとうございました。
No title
コメントきえ | URL | 2010-06-18-Fri 15:41 [編集]
MO様
こんにちは~。

>悲鳴を上げたいのは一葉だけじゃないですよね?ましてマンションの改築費用のことまで持ち出されちゃったらね~(>_<) 一刻も早く逃げ出したい野崎でしょうが、案外 宮原は嫌じゃないんじゃないのかな?楽しい夜は、まだ始まったばかりですからね~♪

千城ってば弱み握ってますね~。
逃げたい野崎としりつつ、友人思いですから、神戸のためにもそう簡単に逃がしません。
たぶん宮原は、お仕事ではない触れあえるこんな夜も好きなんだと思います。
こうやって想―sou―の常連客は増えるのでしょう(あれ?自分の店は?!)
楽しい夜?!まだ続いても怒られませんかね?!
コメントありがとうございました。
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