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BLの丘
一番近いもの 8
2010-07-17-Sat  CATEGORY: 一番近いもの
目を覚ましたとき、カーテンの隙間から夕焼けが差し込んでいた。
見慣れた部屋ではない。
だけどシンと静まり返っていて、人の気配はなかった。
のそっと起き上がると、下半身に鈍痛が走る。
昨夜の松島との行為の疲れはまだ残っていた。
そして手当てをしてもらった手首に白い包帯が巻かれているのを見て、隣人の部屋に来たことまでを思い出した。
寝ていた所はベッドの上だ。
殺風景な部屋は一度見た…と振り返った。
間違えでなければ、鳥羽健太(とば けんた)と呼ばれた男の部屋なのだろう。
勝手…とは思いながら部屋を出て隣の部屋をノックし、覗いてみた。
こちらも物数の少ない整頓された部屋だった。
やはり、誰もいない…。

…見知らぬ人間をおいて、普通、出掛けるか?!

何気なく寝ていた部屋に戻ると、一度脱いだスーツの上着がカーテンレールに掛けてあった。
そして小さなテーブルの上にメモ用紙と部屋の鍵が2つおかれていた。
一つは自分の部屋のものだ。
『許可もなく人の家にあがるのも失礼と思い、こちらの部屋でおやすみをとっていただきました。砺波さんの家の玄関には鍵をかけておきました。うちの鍵はポストに入れておいてください。医学会が夕刻までかかると思います。お部屋に帰られても電気がついていなければおやすみされていると思ってご訪問は致しませんのでご安心なさってください』

…医学会…って医者?!
学生なんじゃないのっ?!
整理整頓された救急箱を思い出し、また鳥羽のそつの無い動きにもなんとなく納得がいく。
だけど明らかに自分よりも年下と感じさせる見目の若さには、『医学生?』と思わされるものも浮かんだ。
病院事情になど詳しくなかったから、何年通えば…とか、どんな過程をえて医師免許が取れるのか…など知りはしない。
だいたい、海斗は人を相手にするよりも、コンピュータばかりを相手にして過ごしてきた人間なのだ。
コミュニケーションをとるのも得意な方ではない。

「なんか、すっげー、迷惑かけた気分…」
ぽつり呟いた言葉が部屋の中に響く。
物が少ないからなのだろうか。
意外と声が響いた気がした。

両手首に巻かれた包帯がいやに痛々しく見える。
実際、傷を負って人目にさらせる状況ではなかったし、剥き出しのままとどちらがよいのか…。
なにより、明日、松島と顔を合わせることに恐怖を抱いて、また休みたいと心痛が襲った。
仕事を辞めるのは経済的に問題だが、松島の本性を知った今、彼の下で働きたい気持ちは湧かなかった。
これまで信頼を置いてきた感情が一転しているのである。

とりあえず海斗は、他人の部屋に居座るのもなんだ…と思って出て行こうとした。
そんな時、外を歩く足音を耳にした。
新しく越してきた『花巻』とかいう人間が帰宅したのだろうか…。
それとももっと奥の住人だろうか。
そう思いながら耳を澄ませば、すぐ隣の部屋の呼び鈴が聞こえた気がした。
嫌な予感…とはあたるものである。

「ちょっと、かいちゃーん、どこ行ってんの?寝てんのー?」
がしゃがしゃとドアノブを回す音すら聞こえた。
松島の声に、一気に全身を駆け上がってくる鳥肌がある。
まさか、ここまで追いかけられて来るとも思ってもいない。
海斗はもう、動けなかった。
いないと分かればどこまでも追いかけてくるような執拗さを、松島は持っていた。
同時に手にしていたスーツの中から音を消した携帯電話が鳴った。
バイブレーター機能にしておいてよかったと思った時はこれほどないだろう。

立ち去る足音を聞いても、海斗はキッチンの床にうずくまったまま、時を過ごした。
全身を襲う震え…。
確かに快楽に溺れた夜だったが、耐えさせられたアレコレや、機械を使って嬲られる行為は受け入れられなかった。
写真まで撮られて脅されているという状況に、服従するしかない自分を改めて知れば、人間として生きる価値を奪われたようだ。
今でこそ信用する大希がささやかな小道具を取り出しても、たぶん、取り乱すだろう…。
生身の身体だけで充分なのだと再確認した。
それよりも握られた『弱み』に竦んだ。

だから、鳥羽と有馬がコンビニの袋を携えて帰宅したとき、海斗は今にも泡を吹きそうなほど脅えてキッチンの床で丸くなって震えていたのだ。
もう、尋常ではないこの行動に二人とも黙ってはいなかった。
二人は、精神学科を学ぶ、医師を目指す卵だったのだ…。
若いとは思っていても24歳。
学生生活だから自分とは違った社会人並みの生活感を感じられなかったのか…。
海斗はその夜、隣の部屋に帰ることをとても嫌がった。

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