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BLの丘
白い色 4
2010-10-22-Fri  CATEGORY: 白い色
グラスが割れた音に反応した店員が駆け寄ってきた。
菊間が取り繕ったような言い訳を口にした。
「すみません、連れが酔ってこちらの席になだれ込んじゃって…。このお客さんとはクリーニング代を払うことで話がついていますから。すみませんけど、タクシー、呼んでもらえますか?」
北野にも店員にも何一つ言わせない雰囲気がありありと伺えた。
美祢をぎゅっと抱きこんだ腕によって、美祢の表情は店員にも見られることはなかった。
相当酔っていると思われたのだろう。
だいいち、もう二度と北野の姿など視界に入れたくない。
その場を立ち去ろうとする美祢と菊間に「ちょっとぉっ!!」と甲高い声が追いかけてくる。
一方的な言い草が気に入らないのはすぐに分かる。
「サトッ!!」
その声を押し留めたのは北野だった。
続いて自分たちに問う声が静かに響いた。
「少し、話をさせてもらえないか?」
「秀樹さんってば何考えてんのっ?!今更っ、この人に何の話があるって…っ…、っ!!」
軽くおしぼりで拭いただけの濡れた姿で立ち上がった北野は、止めようとする『サト』と呼んだ男を無言で黙らせた。
だが、北野も菊間に一睨みされ続く言葉を飲み込む。
「もう充分でしょ?」
「俺は美祢と話が…っ」
「話って言い訳?そんなの、聞かせて、これ以上美祢に期待を持たせるのも傷つけるのも、俺は嫌だね」
「君は美祢の…?」
「ただの同僚です。後ろで目くじら立てて待っている人がいますよ」

菊間の声はあまりにも静かだった。そして冷たかった。
それ以上、何も言わせず、美祢は菊間にもたれかかるように抱き締められて店を出た。
男を相手にしかできない美祢の性を改めて突き付けられても、菊間の態度は変わらず、それが美祢には酷く嬉しいものだった。
連れて行かれたのは菊間が暮らす、一人暮らしの2階建てのアパートで、1階の一番奥にあった。
タクシーの中で美祢はすでに泣きやみ、現実に意識を戻していた。
泣いたって今更なにが解決するわけではない。
北野には新しい恋人ができていた…。自分は振られた…。それだけのことだ。

あまり物がないせいか片付いているように見える。
玄関を入って正面の扉を開ければキッチンと小さなテーブルがあり、ソファの上には読みっぱなしの雑誌が転がっていた。
その奥に続く引き戸があった。
ここに寝具がないところをみれば奥が寝室になっているのだろう。
泣きはらした目の美祢を、小さなテーブルの前に座らせる。
「まだ全然呑んでないんだろ?呑みたくないか?それとも呑みたいか?」
冷蔵庫を開けながら、つまみになりそうなものと自分用の缶ビールを取り出している。
『呑みに出よう』と言ったものの、美祢の騒ぎで喉もお腹も満足していない様子だった。
しかし、責めるわけでもなく、突っ込んで聞いてこないところが、また菊間らしい。
何もなかったように、今から飲み始めようとする姿勢は、菊間の良いところのような気がする。
美祢は「飲みたい」とぼそり呟いた。
「おうっ!」
元気よく返事をされれば思わず笑いが漏れる。
「大して食うものがねぇなぁ…。ピザでも頼むか。ついでにビールも運んでくれねーかなぁ」
ちらっと振り返って見えた冷蔵庫の中には、ぎっしりと缶ビールが詰め込まれているようにしか見えなかった。
一体どれだけ飲むつもりなのか…。

思わず笑う美祢の隣に座り込み、ビールを渡しデリバリーのピザのメニューを見せながら「どれがいい?」と問う。
泣いていたことなど、まったく気にせず…だ。
「これ。チョリソー。辛いの食べたい」
美祢が言えば「マジで?!酒、進みそうだな…」と口にしながらもオーダーしてくれる。
半分にメニューを変えられるシステムを利用して、大きなサイズのピザのもう半分はトマトとチーズがふんだんに乗せられているものだった。
ついでに唐揚げとポテトまで頼んでいる。
「たべきんないよ~」と美祢が呆れれば、「朝飯でいいじゃん」とあっさり返された。
酔い潰れた翌日に食べたいメニューではない…と美祢は思っていたが…。

気分を変えたいことに変わりはなかった。
菊間は忌々しい態度を取った二人を忘れたく、美祢は過去をふっきってしまいたい思いが重なって、ほとんどやけ酒に近い二人だった。
正確には、飲んでいるのは美祢のような気がしなくもないが…。

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キリ番リクもらったことないんですけど。
次、77777です。
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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2010-10-22-Fri 08:34 [編集]
数日ぶりに訪問がかないました。
と思ったら、こんな切ないお話が始まっていたんですね。
美祢かわいそう。
何も告げられず捨てられて挙句ストーカー呼ばわりとは。
北野なんて酷い男、自分の方から切ってやればいい。口先だけで情のない最低男なんだから。
対照的な菊間の大人で男らしい態度にほれぼれしました。
Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-10-22-Fri 12:51 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 数日ぶりに訪問がかないました。
> と思ったら、こんな切ないお話が始まっていたんですね。

私が書くと全てシリアスになる…。(;一_一)

> 美祢かわいそう。
> 何も告げられず捨てられて挙句ストーカー呼ばわりとは。
> 北野なんて酷い男、自分の方から切ってやればいい。口先だけで情のない最低男なんだから。
> 対照的な菊間の大人で男らしい態度にほれぼれしました。

健気にも待っていた美祢には痛い出来事でした。
将来に希望がないならさっさとポイッてすればいいんですよね。
でもきっといろいろなアレコレが美祢の中には棲みついているんでしょう。
菊間も本当は一発くらい殴ってやりたかったはず。
そこを抑え込む人、さすがです。
コメントありがとうございました。
No title
コメントきえ | URL | 2010-10-22-Fri 13:01 [編集]
MO様
こんにちは。

>北野は言い訳をしたかったのか、まだ美祢に未練があったのか?いづれにしても、誠実さに欠けますよね。弱ってる時に、恋愛感情ある無しに関わらず、そばで優しく 寄り添ってくれる存在は、本当に嬉しいものですよね。菊間が居てくれれば、美祢も早く立ち直れますよね。

北野、何を言いたかったんでしょうね。
黙ったままで通り過ぎてきた日々はひどすぎますよね~。
こんな時、菊間がいてくれて良かったです。
最後までちゃんと面倒を見てくれる菊間、いいなぁ。
コメントありがとうございました。
No title
コメントかや | URL | 2010-10-22-Fri 13:43 [編集]
おお!菊間さん、ナイスフォローです!
自分でシカトしておいて、呼び止める北野は、かっこ悪い。飽きたオモチャも、横取りされそうになると惜しくなる心理でしょうか?
ヤなヤツ~(--;)

私が言うと再起不能?
そうかしら~Ψ(`∀´)Ψケケケ
軽~く、
連れの男に愛想つかされて、その店に二度と近づけない程度にするだけなのに(笑)
ほら、私やさしいから♪

ピザ食べたくなったよ~(*´∀`)
Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-10-22-Fri 16:07 [編集]
かや様
こんにちは。

> おお!菊間さん、ナイスフォローです!
> 自分でシカトしておいて、呼び止める北野は、かっこ悪い。飽きたオモチャも、横取りされそうになると惜しくなる心理でしょうか?
> ヤなヤツ~(--;)

おもちゃ…。
美祢はたぶん、とってもかわいかったんだろうなと思います。
会社でもいーこいーこされている存在だし(←後で書く)
飽きても人に取られると思ったら悔しいんでしょうね。
美祢はきっと健気に慕っていたのだろうから。

> 私が言うと再起不能?
> そうかしら~Ψ(`∀´)Ψケケケ
> 軽~く、
> 連れの男に愛想つかされて、その店に二度と近づけない程度にするだけなのに(笑)
> ほら、私やさしいから♪

尻尾はえてるし~っ(ノ≧O≦)ノ
怖いわ~、かえちん。
そ、そうね、優しいわ。かえちんは…(←そう言っておく)
コメントありがとうございました。
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