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BLの丘
白い色 5
2010-10-23-Sat  CATEGORY: 白い色
人の前では滅多に口にされることがない愚痴。
それは仕事のことであったり、”元”恋人のことであったり…。
菊間は頷いて「そうか…」と応えてくれるだけに留まっていた。
その全てが公にされないと分かるから、安心して美祢も口を滑らせた。
酔いが回って何を話しているのかも分かったものではない。

「秀樹さんとはさぁ、3年も付き合ったんだよ~。大翔(ひろと)の紹介ってこともあったしぃ、一緒にいて生活も全然違ってたの、感じてたしぃ、生きていく世界が自分とは合わないのは最初からわかってたけどぉ…」
菊間の人間性のおかげか、話し続けていた美祢の中から悔しさや恨みが消えて、ただの思い出と変わりつつある。
「大翔…って国分寺大翔…?!副工場長の紹介ぃぃぃ?!」
ソファにもたれ込みながら、おなかいっぱいになった身体を丸めて美祢はすでに眠りの体勢だった。
改めて知らされた事実に菊間は驚きを隠さない。
社長と副工場長との親子関係、また同級生であった美祢と大翔のあれこれを知るとはいっても、深いプライベートまでは晒したこともなかった。
つまりは国分寺も同類と言っているようなものだ。
平気で口にできたのは酔いのためか、安心感からか…。

国分寺は色々な経験をしろと社長に言われているらしく、美祢と一緒に入社してから幾度か部署が変わっている。
現場を把握するのは当然のことで、現在は現場監督として工場内を一巡している。
「副工場長?…へへっ、笑っちゃう。あのやんちゃ坊主が」
美祢は過去を思い返しながらくすくすと可愛らしい笑みを浮かべた。

菊間に『やんちゃはおまえだろ』などと思われていることはいざ知らず。
菊間は眉間を寄せた。
国分寺の紹介ともなれば、北野が平社員ではないだろうし、それなりの地位が確立されている人間なのだとは理解できる。
実際、美祢も彼との生活感の違いを体験してきたと口にしているわけだし。
そんな人間に対して美祢はドリンクをぶっかけ、菊間は返答のしようもないほどのキツイ言葉を投げつけてきた。
まぁ、全ては美祢の為だったのだが…。
少しだけ恐ろしいものを感じる。
尤も自社の社長の性格を考えれば、そんなことくらいで社員をどうにかしようなどとは思わないだろう…。たぶん。
北野という男がどれほどの存在なのかは分からないが。

「もう、忘れろよ、あんな男」
「うん。とっくの昔に忘れてる。分かってたんだ…。こうなるの。…あの子、可愛かった…」
「美祢の方がずっと可愛い」
眠りにつく寸前の美祢の髪をそっと梳いてくれる。
こんな優しさを浴びるのはいつぶりだろうか…。
菊間の手の温かさが気持ちいい。

菊間の思いも少し感じた。
菊間は辛辣な言葉を吐いた男を到底『可愛い』などとは思えなかった。
人を傷つける暴言を吐く人間を嫌っていたのだ。
何より普段大人しい美祢が、衝動的にあれだけの行動を起こした。
その怒り具合は計り知れない。
あの店に連れて行かなければ、こんなことにはならずにいただろうか。
だが、美祢がまだ悩み苦しみ続ける時間が延びていたことも確かだ。

美祢の身体がふわりと浮いた。
菊間に抱きあげられてとんとんと歩く振動に合わせて揺れる。
だけど意識はすでに夢の中で…。
温かな羽毛布団にくるまれた途端、安らかな吐息を纏った。
つまり、眠りについたのだ。


それから2週間ほどがたった。

酔い潰れた次の朝、後ろめたさを感じる美祢だったが、菊間はまったく気にしていない。
むしろ、そんな時も人には必要だ、とでも言いたげで、昨夜の出来事については何も言われないことに安堵感を募らせていた。
北野からは何度も携帯電話が鳴っていたが無視を決め込んだ。
一度だけ開いてしまったメールには、「話を聞いてくれ」と入っていた。
今更何が言いたいのか、改めて別れ話を聞かされるような辛いことを体験などしたくない。
それからは届いたメールも見ずに全て削除した。
言い訳じみた言葉を残され終わりにされるのは嫌だった。
北野ならきっと、巧みな言葉遣いで美祢を納得させるだろう。
『振られた』という事実だけで充分だった。

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キリ番77777様、ニアピンも含めリクがありましたらお答えできる範囲で受け付けたいと思います。
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コメント

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おはとうございます
コメントmiki | URL | 2010-10-23-Sat 10:09 [編集]
ココに書いていいのかわかりませんが、書かせてもらいます。今訪問するとカウンターが「77778」だったのですが、リクしていいのでしょうか…
もし、もし可能なら『秋の夜長に~』の続編が読みたいです。こんな厚かましい事をココに書いてスイマセン(-_-)
菊間くんやさしい
コメント甲斐 | URL | 2010-10-23-Sat 10:48 [編集]
3年も付き合っていればいくら巧妙に隠していても
人間性も本性も少しはわかりますよね
不信感を抱きつつも離れられずに
いつ別れることになるかと怯えていた美祢の
寂しさや不安を思うと
”とっくに別れているべきだったのに、そんな男3年も付き合う価値なかった”
ときっぱり言いたいけどかわいそ過ぎて言えないかな
北野がどんな言い訳したいのか聞きたい気もする
美祢には聞かせたくないけど
だって優しいから絆されれそうだし
誰もが騙されてると思われるようなウソでも信じてしまいそうだから

OH!7が5つも並んだところ見たかったぞ~
いま87番でしたから10人前の人ですね
秋の夜長の続編、賛成!
受験のあとだったら冬か春でしょうか
そんな待てないよ~
いえ、ワタシがじゃなくて若いあの二人がですよ…
Re: おはとうございます
コメントきえ | URL | 2010-10-23-Sat 11:10 [編集]
miki様
こんにちは~。

> ココに書いていいのかわかりませんが、書かせてもらいます。今訪問するとカウンターが「77778」だったのですが、リクしていいのでしょうか…
> もし、もし可能なら『秋の夜長に~』の続編が読みたいです。こんな厚かましい事をココに書いてスイマセン(-_-)

OH!!ニアピン!!
リクありがとうございます。
「秋の夜長~」は続編希望の方が結構いるのでいつか書きたいな~とは思っていました。
ただ、どのタイミングで書こうかな、と悩んでいるところで。
もうちょっとお待ちいただけたら、と思います。
ハイ、なんでも書いちゃってください。
コメントありがとうございました。
Re: 菊間くんやさしい
コメントきえ | URL | 2010-10-23-Sat 11:19 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 3年も付き合っていればいくら巧妙に隠していても
> 人間性も本性も少しはわかりますよね

もともとはいい人だったんでしょうか。
だから大翔も反対しなかったんだと思います。
いつか別れることを想像しながら付き合うっていうのも辛かったでしょう。

> 北野がどんな言い訳したいのか聞きたい気もする
> 美祢には聞かせたくないけど
> だって優しいから絆されれそうだし
> 誰もが騙されてると思われるようなウソでも信じてしまいそうだから

信じちゃいそうですね~。
周りが止めても「うん、大丈夫」って言っていそうです。
天然ボケ要素も持ち合わせていそうだし。
まだ物語の始まりの部分なので謎も多いですが…。

> OH!7が5つも並んだところ見たかったぞ~
> いま87番でしたから10人前の人ですね
> 秋の夜長の続編、賛成!
> 受験のあとだったら冬か春でしょうか
> そんな待てないよ~
> いえ、ワタシがじゃなくて若いあの二人がですよ…

たくさんのお客様に訪問してもらって感謝感激です。
馬の前ににんじんぶるさげて、ひたすら走らせる、って感じでしょうか。
若い二人ね…、どうするんでしょう。
コメントありがとうございました。
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