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BLの丘
策略はどこまでも 4
2009-07-01-Wed  CATEGORY: 策略はどこまでも
休み明けの月曜日は忙しかった。先週の売上やこれからの目標など、いろいろなことが報告される。
短い、会議ともいえないような打ち合わせのため小一時間ほどを会社内で過ごし、得意先回りに出掛けていた那智は、昼食を取ろうと通りかかった定食屋に足を踏み入れた。

営業なんていう仕事をしていると、一人で食事を取ることに慣れてくる。最初の頃は『淋しい』なんていう気持ちもあったが、気づけばすっかり慣れっこだった。
こうやって店に入ることもあれば、公園のベンチでコンビニの弁当をかきこむ時もある。昼食時間もマチマチで、ひどい時には何も食べられずに一日が終わった。

「いらっしゃいませーっ」
元気のいいおばちゃんの掛け声が聞こえて、一人だと言えばカウンター席を勧められた。
すでに自分と変わらない数人のサラリーマンが、いい匂いを漂わせた定食を頬張っていた。
空いた席に着くと今日の日替わりは何かと聞く。一人暮らしの自分では絶対に作らない煮魚と聞けば、迷いもなくそれを選んだ。
「今日のこれ、絶品ですよ」
隣に座ってすでに食していたサラリーマンが、何の気なしに話しかけてきた。一見して自分とは違う職種なのだろうと思われる。
少なくとも外回りで疲れ果てているようには見えない。
こうやって話しかけられるのも日常茶飯事のこと。
お互い淋しい身なのか、ちょっとした仕草にも反応をしめしてしまうこの頃だ。話しかけられて無下にする気もない。
営業っていう仕事に就いていれば、いろいろな角度から情報を得るものだと教えられたこともあるから、相手の気を悪くしないようにニッコリ笑顔で「楽しみです」と呟き返せば、何故か相手の男は那智を見詰めたまま、箸に乗せた煮魚をポロリと落とした。
落とされた先が左手に持ったごはん茶碗の上だったからよかったようなものの、スーツにシミを作るぞ、と那智は箸から魚が逃げたことを目で促す。
「あ、あぁ…あ…。すいません、…つい見とれて…」
語尾は小さく、賑やかな店内では聞き逃しそうな声。
もちろん、こんなそばで聞いていれば届いてしまった声に、那智は一瞬眉を顰める。

見とれるって…なにに?

相手の男は30代半ばだろうか。ピッチリと紺色のスーツを着こなして、からし色のネクタイは少々華やかさすら窺える。
だが、何をとっても彼を惹き立たせているのはその顔だと那智は気付いた。
彫りの深い、どこか西洋人を思わせる鼻の高さと色の白さ。短く刈りあげた髪は清潔感を漂わせているが、全身を纏う雰囲気は『サラリーマン』と呼ぶには失礼な気がした。

「いつもこの店には来るんですけどね。今日のは本当に美味しいです」
隣の男は那智のちょっとした眉の動きに反応したかのように、話を定食に戻した。
見るところ、煮魚となっては何の魚なのか、魚に詳しくない那智はその正体を見破れずにいたが、先ほどの女将が「たら」と言っていたのを思い出す。
「じゃあ、常連さんをうならせるほどのものに出会えた僕はラッキーですね」
那智も話を合わせた。
この界隈にくることはあっても食事時を逃しているので寄ったこともない。たまたま偶然寄った先で、常連客にも「美味」と言われるものであれば、当たりくじをひいた気分になれた。
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