打ちひしがれたのは佐貫と娘と、どちらのことに対してだろうか。
疲れた体に鞭を打ってまで、「もっと…」と成俊は言い続けていた。
成俊の『欲しがる』思いを、成俊は直接言葉にできないもどかしさを抱えながら、結局最後は佐貫の腕の中で意識を飛ばした。
繋ぎとめておきたい、最後の手管のようだ…。
男を知らない体では、満足させるのは無理なのか…。
後日、成俊は家族の写真を持って譲原のもとを訪ねた。
隠そうと思ったことを、譲原に告げようとしたのは佐貫の存在があったからだろう。
『依頼主の意向に沿う』と佐貫に背中を押されたことで、真実を打ち明け、今後をどうしたいのか、初めて自分の希望を聞いてもらいたい気になった。
今までは、譲原の手腕に任せきりだった。
相変わらず仕事帰りの姿で夜の事務所に立ち寄れば、いつものように温かな笑みを浮かべて迎えてくれる。
佐貫のことも少々気にはなっていたが、佐貫の『無駄な話をしていない』という言葉を信じて、また、電話で話したときにも譲原は佐貫の話題を一切持ち出さなかったから安心した部分もあった。
だけど、穏やかな笑みの下、今まで成俊に向けてくれた視線とは違うものがあるように思えて仕方がなかった。
佐貫が何も語らなくても、長年の付き合いで感じるものもあるのだろう。
もちろん、そんなことを口に出す譲原ではなかったが…。
少々の気まずさを纏いながら、ソファに向かい合わせで座り、今後の出方をどうしようかと話し出す譲原に、成俊は「先にこちらを…」とアルバムを差し出した。
娘の莉音(りおん)の生後からの記憶を順に綴ったものだ。
自宅のマンションから黙って拝借してきたものだが、成俊の手には渡らないだろうと思われる。
持っているだけでも辛さが込み上げるものになりそうでもあった。
譲原は「拝見しても?」と手に取る前に成俊を正面から見据えて、頷くのを確認してから最初のページを開いた。
生まれたばかりの頃の写真では分からないだろうが、進むにつれて譲原の表情が硬くなっていくのが傍目にも分かった。
最初は単に、家族を思う人間として捉えられていたのだろう。
家族写真を見せるとは、愛情がまだあると教えたいのか…と。
だが、似ても似つかない娘の姿に、譲原も何が言いたいのか気付いたようだった。
成俊は何も言わずに、広げられたアルバムを懐かしそうに見守った。
「これは…」
興信所に探らせた写真の男が譲原の記憶の中に残っているはずだ。
ポツリと呟かれた言葉の後、緊張した面持ちで譲原が顔を上げた。
「娘です。ずっと…育ててきた…」
どのような結婚だったのか、生活がどうだったのか、隠すことなく譲原には伝えてきていた。
子供ができたことがきっかけで学生のうちに籍を入れたことも承知している。
「確認…しなかったのか…?」
決して責める口調ではないが、安易に認めたことを不思議に思っているようだ。
疑いもしなかった。
当時の高音の付き合いなど、自分だけと信じて疑っていなかったのだから…。
成俊は問いに頷くしかない。
まだ若かりし頃を振り返れば、否定したり疑惑を持つことが罪になったと、そんなことも思ってしまう。
譲原がアルバムを見ながら小さく首を振るのが見えた。
一番の、悩むべき場所に到達したといった感じだった。
「このことを奥さんとは?」
「何も言ってません」
譲原に個人での話し合いを止められていたこともある。
迂闊に話をすれば、譲原の足手まといになるような気もしていたからだ。
娘のために…。たとえ血のつながりがなくても、あの子には何かをしてやりたかった。
佐貫と出会ったことで、冷静になれた自分もいた。
自分が同じ立場に堕ちたから…かもしれない…。
譲原の静かな溜め息が聞こえた。
額に手をあて、少し考えるような仕草を見せる。
しばらくの沈黙が流れたあと、譲原は困惑を露わにしながら、言いづらそうに口を開いた。
「その…。君の今の考えは、佐貫の影響を受けたってことかな?」
いきなり核心を突かれたようで成俊は動きを止めた。
この瞬間にも、譲原は成俊がどうしたいのか、汲み取っていたようだった。
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相変わらずお待たせです~。
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疲れた体に鞭を打ってまで、「もっと…」と成俊は言い続けていた。
成俊の『欲しがる』思いを、成俊は直接言葉にできないもどかしさを抱えながら、結局最後は佐貫の腕の中で意識を飛ばした。
繋ぎとめておきたい、最後の手管のようだ…。
男を知らない体では、満足させるのは無理なのか…。
後日、成俊は家族の写真を持って譲原のもとを訪ねた。
隠そうと思ったことを、譲原に告げようとしたのは佐貫の存在があったからだろう。
『依頼主の意向に沿う』と佐貫に背中を押されたことで、真実を打ち明け、今後をどうしたいのか、初めて自分の希望を聞いてもらいたい気になった。
今までは、譲原の手腕に任せきりだった。
相変わらず仕事帰りの姿で夜の事務所に立ち寄れば、いつものように温かな笑みを浮かべて迎えてくれる。
佐貫のことも少々気にはなっていたが、佐貫の『無駄な話をしていない』という言葉を信じて、また、電話で話したときにも譲原は佐貫の話題を一切持ち出さなかったから安心した部分もあった。
だけど、穏やかな笑みの下、今まで成俊に向けてくれた視線とは違うものがあるように思えて仕方がなかった。
佐貫が何も語らなくても、長年の付き合いで感じるものもあるのだろう。
もちろん、そんなことを口に出す譲原ではなかったが…。
少々の気まずさを纏いながら、ソファに向かい合わせで座り、今後の出方をどうしようかと話し出す譲原に、成俊は「先にこちらを…」とアルバムを差し出した。
娘の莉音(りおん)の生後からの記憶を順に綴ったものだ。
自宅のマンションから黙って拝借してきたものだが、成俊の手には渡らないだろうと思われる。
持っているだけでも辛さが込み上げるものになりそうでもあった。
譲原は「拝見しても?」と手に取る前に成俊を正面から見据えて、頷くのを確認してから最初のページを開いた。
生まれたばかりの頃の写真では分からないだろうが、進むにつれて譲原の表情が硬くなっていくのが傍目にも分かった。
最初は単に、家族を思う人間として捉えられていたのだろう。
家族写真を見せるとは、愛情がまだあると教えたいのか…と。
だが、似ても似つかない娘の姿に、譲原も何が言いたいのか気付いたようだった。
成俊は何も言わずに、広げられたアルバムを懐かしそうに見守った。
「これは…」
興信所に探らせた写真の男が譲原の記憶の中に残っているはずだ。
ポツリと呟かれた言葉の後、緊張した面持ちで譲原が顔を上げた。
「娘です。ずっと…育ててきた…」
どのような結婚だったのか、生活がどうだったのか、隠すことなく譲原には伝えてきていた。
子供ができたことがきっかけで学生のうちに籍を入れたことも承知している。
「確認…しなかったのか…?」
決して責める口調ではないが、安易に認めたことを不思議に思っているようだ。
疑いもしなかった。
当時の高音の付き合いなど、自分だけと信じて疑っていなかったのだから…。
成俊は問いに頷くしかない。
まだ若かりし頃を振り返れば、否定したり疑惑を持つことが罪になったと、そんなことも思ってしまう。
譲原がアルバムを見ながら小さく首を振るのが見えた。
一番の、悩むべき場所に到達したといった感じだった。
「このことを奥さんとは?」
「何も言ってません」
譲原に個人での話し合いを止められていたこともある。
迂闊に話をすれば、譲原の足手まといになるような気もしていたからだ。
娘のために…。たとえ血のつながりがなくても、あの子には何かをしてやりたかった。
佐貫と出会ったことで、冷静になれた自分もいた。
自分が同じ立場に堕ちたから…かもしれない…。
譲原の静かな溜め息が聞こえた。
額に手をあて、少し考えるような仕草を見せる。
しばらくの沈黙が流れたあと、譲原は困惑を露わにしながら、言いづらそうに口を開いた。
「その…。君の今の考えは、佐貫の影響を受けたってことかな?」
いきなり核心を突かれたようで成俊は動きを止めた。
この瞬間にも、譲原は成俊がどうしたいのか、汲み取っていたようだった。
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相変わらずお待たせです~。
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s様
おはようございます。
> 頑張れ~佐貫!!!
> と、応援したいです。
佐貫に声援ありがとうございます。
ためらってたら先に進めないですよね。
成俊だって前を見始めたのに、言い出しっぺが引っこんでたら立場ないです。
頑張らせていただきます(私が…汗)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 頑張れ~佐貫!!!
> と、応援したいです。
佐貫に声援ありがとうございます。
ためらってたら先に進めないですよね。
成俊だって前を見始めたのに、言い出しっぺが引っこんでたら立場ないです。
頑張らせていただきます(私が…汗)
コメントありがとうございました。
譲原は、何でも お見通しですか!
いくら佐貫が 話してなくても 絶対に 感じ取っているようですねー。
核心に バキューンと撃たれた成俊、どう答えるの?
オロオロ((;ω;))オロオロ...byebye☆
いくら佐貫が 話してなくても 絶対に 感じ取っているようですねー。
核心に バキューンと撃たれた成俊、どう答えるの?
オロオロ((;ω;))オロオロ...byebye☆
譲原さん、直球ですね
けど、成俊さんには答えにくい質問で・・・
心身ともに慰めてもらっちゃって
空虚な心にあったかいものを注いでくれた人ですものね
けど、成俊さんには答えにくい質問で・・・
心身ともに慰めてもらっちゃって
空虚な心にあったかいものを注いでくれた人ですものね
けいったん様
こんにちは。
> 譲原は、何でも お見通しですか!
> いくら佐貫が 話してなくても 絶対に 感じ取っているようですねー。
所詮、長年の友情のナンチャラでばれているんでしょう。
成俊にしてみれば「話が違う~ぅ」状態かもしれませんが。
譲原の人を見極め守ろうとする性格もあるんでしょうね。
> 核心に バキューンと撃たれた成俊、どう答えるの?
> オロオロ((;ω;))オロオロ...byebye☆
オロオロな成俊です。
痛いところをつかれてどうするんでしょうか。
こっちも浮気発覚?!Σ(T▽T;)
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 譲原は、何でも お見通しですか!
> いくら佐貫が 話してなくても 絶対に 感じ取っているようですねー。
所詮、長年の友情のナンチャラでばれているんでしょう。
成俊にしてみれば「話が違う~ぅ」状態かもしれませんが。
譲原の人を見極め守ろうとする性格もあるんでしょうね。
> 核心に バキューンと撃たれた成俊、どう答えるの?
> オロオロ((;ω;))オロオロ...byebye☆
オロオロな成俊です。
痛いところをつかれてどうするんでしょうか。
こっちも浮気発覚?!Σ(T▽T;)
コメントありがとうございました。
甲斐様
こんにちは。
> 譲原さん、直球ですね
> けど、成俊さんには答えにくい質問で・・・
> 心身ともに慰めてもらっちゃって
> 空虚な心にあったかいものを注いでくれた人ですものね
ゆずぴー、隠し立てしないです(笑)
確かに聞かれたところで返事に困る成俊ですね。
佐貫の存在をどう打ち明けようか…。
離婚問題で関わってきた成俊の性格と、長年の付き合いの佐貫の性格、
どちらも譲原にとっては理解しているものだと思います。
そこから何かに気付いたんでしょうね。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 譲原さん、直球ですね
> けど、成俊さんには答えにくい質問で・・・
> 心身ともに慰めてもらっちゃって
> 空虚な心にあったかいものを注いでくれた人ですものね
ゆずぴー、隠し立てしないです(笑)
確かに聞かれたところで返事に困る成俊ですね。
佐貫の存在をどう打ち明けようか…。
離婚問題で関わってきた成俊の性格と、長年の付き合いの佐貫の性格、
どちらも譲原にとっては理解しているものだと思います。
そこから何かに気付いたんでしょうね。
コメントありがとうございました。
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