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BLの丘
やすらぎ 5
2011-03-08-Tue  CATEGORY: やすらぎ
佐貫が、一生かけて守りたいと思った伴侶を再び得たことで望の心の中は整理されたように思えた。
だが、あまりにも短い期間で逢瀬を重ねて想いを通じらせた二人に、まだどこか、希望の光を失えなかったのかもしれない。
それくらい急展開を見せての付き合いだしは、佐貫たち二人の奥底までは探れなかった。
何かを知ったような佳史ですら、口を開こうとはしない。
無駄な努力…。分かっているのに…。

佳史が口を閉じるのはたぶん、きっと、望を傷つけたくない気持ちと、二人を守ろうとする意思からなのだろう。
甘え縋ってしまう態度は以前と変わらないものの、望の心には今まで以上の深い溝ができた気分だった。
佳史が必要以上に甘く接してくる。
赤子を不安がならないように見守る保護者のようだった。

それを申し訳ないと思ってしまう。
まだ完全に、佳史を頼れないでいる心のふらつきが望の中にあった。
そんな望でも佳史の態度は変わらないし、包んでくれる温かさに酔えてしまえればどれだけ楽になれるのだろうと自身の気を向けようと努力したけれど、思いのままにならないのが心なのだ…。

半年という月日はあっという間に流れて行った。
佳史の傍にいながら、全てを預けられずにもどかしさだけが渦巻いていく。
心の一部は佳史に寄せた…。

そんな日のあること。
佳史から連絡を受けた電話に心が凍りつくかと思った。
『佐貫が事件に巻き込まれた…。生死が危ぶまれる…』
刑事という仕事柄、何かと物騒なことはいくつもあったけれど、命に関わることはこれまでなかった。
…”いなくなる”…
わなわなと震える身体が、まだ彼への想いを残していることを改めて感じさせた。
分かっていながら連絡してきてくれた佳史の行動まで、気が回らなかった。

病院に駆けつけた時、すでに佐貫の意識はなかった。
当たり前のように居座る”彼”を佳史が支えている。
決して二人は離れないのだと、望に言い聞かせているようでもあり、望の為を思っても佐貫を助けたい一心の佳史の心が知れた。
生死の境目を彷徨った佐貫の魂を呼び戻したのは、誰が何を言うまでもなく、”彼”だったのだろう。
もう、本当に、どこにも付け入るすきなど残っていない…。
なによりも、崩れそうになる自分を、二人、と共に支えてくれた強靭な佳史の精神。
佐貫が守りたいもの支え、佐貫を守りたいと思う自分をまもってくれた。
佳史が守ったものは、彼らの幸せと、自分への愛情。

佐貫の意識が戻った時、もう心に巣食ったなにもかもを諦めた。
生き帰ることが”奇跡”だったと教えられ、戻してつながる魂を感じる。
自分では絶対にできない”奇跡”をみた。
横たわる佐貫にしがみついた。
包んでくれる腕が、「すまない…」とあやまる。
佐貫に抱き締められた瞬間、全てがはがれおちた。
最初で最後の、ふれあい。
恋心の別れ…。

誰にも秘密にした時間は、きっと佐貫にとっても辛かったはずだった…。
彼の腕から伝わったのは、無言の「幸せになってくれ」と願う気持ちだった。

なにより、生きていると見せてくれたことに感謝するべきなのだろう。
決して揺るがない想いはもう離れない二人をあらわした。
何もかもが、望の頑なな心を解きほぐしていく。
「しあわせ…」

導いてくれる人間を佐貫は知っていた。
そこに収まることを望まれた今…、彼の為なのか自分の為なのか、もう分からなかった。

次の日、見舞いに訪れた病室の外で、佳史に抱かれた肩から強い温もりを感じた。
「もう、会わなくていい」
冷たいようで優しい言葉。
友人として時を刻めと、言われた瞬間だった。

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明日から更新無理状態が続きます。(水木金臨時仕事はいったーっ)
週末明けまで何もなくても心配しないでください。
どこかで生きていますw

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コメント

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決別、そして 出発
コメントけいったん | URL | 2011-03-08-Tue 11:07 [編集]
望の揺れ動く心境が 伝わって来ます。

佐貫を 長年 愛しすぎて 成俊の存在や 佳史への情を 分かっていても もう自分では 如何にもならなくってしまってるのでしょうね。

そんな時に 佐貫の生死に関わる出来事が起こって 改めて 分かったこと。
佐貫と成俊の唯一無二の関係...
何所までも広く暖かい佳史という人間...

積年の恋に別れを告げても 引き摺るものが あるかもしれませんが、いつか 大切な友達として 笑って話せる様になれば いいですね。
佳史、頑張ったねーΣd(゚∀゚d)イカス!

きえ様、不順な天気が続いて 体調管理が難しい時 お仕事で 大変でしょうが、無理をしないで お過ごし下さいませ。更新は いい子で待ってますからね~~♪
では ゚.+:。(^ω^)ノ"゚.+:。またねぇ...byebye☆

No title
コメントきえ | URL | 2011-03-08-Tue 16:15 [編集]
s様
こんにちは~。

>了解で~す。2人のこれからを妄想しながらお仕事が終わられるのを楽しみ?に待ってま~す。

ふたりの今後を妄想しながらお仕事がんばってきまーす(笑)
お待たせしてすみません。
少しずつでも書けたらいいかなぁ。
コメントありがとうございました。
Re: 決別、そして 出発
コメントきえ | URL | 2011-03-08-Tue 16:23 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 望の揺れ動く心境が 伝わって来ます。
>
> 佐貫を 長年 愛しすぎて 成俊の存在や 佳史への情を 分かっていても もう自分では 如何にもならなくってしまってるのでしょうね。

鬱積したものがありすぎて、望自身がどうして良いのか迷っていたって感じです。
佳史のもとに来てしまったのは良いけど…と。

> そんな時に 佐貫の生死に関わる出来事が起こって 改めて 分かったこと。
> 佐貫と成俊の唯一無二の関係...
> 何所までも広く暖かい佳史という人間...
>
> 積年の恋に別れを告げても 引き摺るものが あるかもしれませんが、いつか 大切な友達として 笑って話せる様になれば いいですね。
> 佳史、頑張ったねーΣd(゚∀゚d)イカス!

あの事件はふたり(3人か?)の関係を大きく変えましたね。
佳史の努力を改めて見せられて、また佐貫と成俊の関係も痛いほど知らしめられて、望は新しくできた道を見つめ直すことができたのかもしれません。
みんながみんな、優しい心遣いの人間ばかりですから。
大切なお友達に戻って、平穏な日々を送れればいいです。

> きえ様、不順な天気が続いて 体調管理が難しい時 お仕事で 大変でしょうが、無理をしないで お過ごし下さいませ。更新は いい子で待ってますからね~~♪
> では ゚.+:。(^ω^)ノ"゚.+:。またねぇ...byebye☆

どーもです。お待たせしてすみません。
ちびちびとでも更新できたらいいなぁなどと考えておりますが…。
けいったん様もお気をつけくださいね。
コメントありがとうございました。
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-03-08-Tue 21:07 [編集]
譲原さんは長い暗闇のようなトンネルを抜けて
ようやくその先に栗本さんの姿を見ることができたんですね

佐貫さんが大切にしたい人を見つけそれを告げることで
譲原さんにも踏ん切りをつけさせたいという場面の
譲原さんの心境を思うと苦しくて苦しくて・・
でもそうしないと
栗本さんも譲原さんも
捕らわれたまま先に進めないですものね
本編の最後の方で二人の中が深まったんだなと思わせるようになったのは
こんな過程があったんですね
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-03-09-Wed 06:54 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 譲原さんは長い暗闇のようなトンネルを抜けて
> ようやくその先に栗本さんの姿を見ることができたんですね

はい。
栗本の努力がようやく報われました。
改めて栗本と正面から向き合う気持ちが持てましたね。

> 佐貫さんが大切にしたい人を見つけそれを告げることで
> 譲原さんにも踏ん切りをつけさせたいという場面の
> 譲原さんの心境を思うと苦しくて苦しくて・・
> でもそうしないと
> 栗本さんも譲原さんも
> 捕らわれたまま先に進めないですものね
> 本編の最後の方で二人の中が深まったんだなと思わせるようになったのは
> こんな過程があったんですね

二人が新しい道に進むために通らなければならなかった場面です。
(この二人の話を書くにあたって『心と魂』を書いた……わけではありませんが…Σ( ̄□ ̄;)今頃気づく…
なんで書いているうちに次の話ができあがっちゃうんだろう…(トボトボ))
本編から続く、なんだか紛らわしい書き方をしてしまってすみません。
ストーリーを理解していただけて感謝です。
コメントありがとうございました。
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