日野は今更言い訳もしない、といった態度で、いつもと何ら変わらなかった。
あまりにも潔く開き直った立ち振舞いに、先程見かけた人間は”女性”だったのではないか?と幻覚を見た気分にもなる。
だが、見間違うような容姿をしていたわけでもなく、目にした行為は錯覚とは言えず、覆しようのない事実だった。
日野の好み、というか、淡白さは成俊も知るところだ。
なかなか身を落ちつけようとはせず(夜の仕事をしているから、と本人は良く言っていたけど)、コロコロと女を変えていた。
いつか自分のように失敗するのではないかと肝を冷やしたことすらある。
ゲイバーに勤めていた時だって、男に興味があるような素振りはこれっぽっちも窺わせなかった。
「しょ…尚治、おまえ…」
小さく肩を竦めただけで、動揺する成俊に向かって日野が口を開いた。
「俺もこんなことになるなんて思っていなかったけどさ」
「な、何で?いつから…?」
「あー、誤解しないでほしいけど、俺、別に”そういう”趣味、ないから」
“そういう”が、男を性の対象として見る人間なのだとは、さすがに成俊にも意味が通じた。
だけど、あんなものを見せられては素直に認めることもできず、成俊はどう返事をしていいのか悩む。
「あの人がこの店の本当の『経営者』になるんだ」
成俊の脳内はますますこんがらかっていくだけだった。
日野自身の店ではないとは話に聞いていたが、その経営者と何故堂々と人前でキスなんてできるのだろう…。
「それって、この店の為に自分をあげちゃったってこと?パトロンとかヒモとかそんなところまで落ちちゃったってこと?」
本来なら噤まれるべき発言がすんなりと口から零れてしまうのは、相手が日野だからというのと、ショックで一般常識の境目が分からなくなったからかもしれない。
さすがに、成俊のこの言葉には日野も苦笑を見せた。
「そんなんじゃない。成にどう説明したら分かってもらえるか…、分かってもらえないことのほうが多いかもしれないけど、成が思うようないい加減な関係でも適当な付き合いでもない。きちんとした意味で付き合っていることは認めるよ。でも惹かれたのは人間性であって、男とか女とかの括りじゃない。あの人だから全てが許せるし生きていく上で共に居たいと思う。ノーマルな人間にとって受け入れがたい現実なんだろうし、これで成が俺を軽蔑するならそれも仕方ないと思ってる。それでも俺はあの人を取るだろうし、たとえ別れることになったとしても、恨みも後悔もしない」
何がここまで日野に自信を持たせるのかと身震いを感じた。
迷いもなく確信を持って生き抜いていこうとする思いがあるからこそ、この揺るがない清々しさを身に纏うのか。
これまで培ってきた友情を捨ててまで共に生きたいといい、全てを失った時ですら、過ぎた道を悔やまないと断言できる精神の強さ。
男を相手にすることで、日野は新たなる”覚悟”をも受け入れている。
全ては先程の男がいるからだろう。
日野に自信を与えるのも支えるのも彼であり、しかし、日野は彼に全てを委ねているわけではない。
きっと彼もまた、日野がいるから日々を充実して過ごしているのだ…。
同じ歳と侮っていたが、日野は成俊の知っていた頃よりもはるかに成長し先を歩いていた。
不甲斐ない自分を見捨てることなく親身になってくれる日野に対して、逆にそんな理由で『軽蔑』するなどできるはずがなかった。
日野が言うように、個々の人間であって、趣味嗜好に応じて付き合いを変える人間の方が愚かだと思えてくる。
たとえ日野がどんな人間と付き合おうが、日野は日野であり、自分にとって失えない友人に変わりはない。
「そっか…」
日野の発言を認めながら、心の隅の方で少し羨ましく感じている本音があるのを知った。
こんなふうに思い思われてみたい。
今の成俊が辛酸を嘗めるような状況にあるだけに、憧れるのだった。
「悪いな。成が一番大変だっていう時にこんな話になっちゃって…」
成俊は小さく首を横に振った。
どんな形であれ、人の幸せを恨むのは筋違いだ。
「おめでと…って言ってやるべきだよな…」
今、自分はどんな顔をしているのだろう…。
ここでもまた、敗北者の気分を味わっているようだ。
卑屈に考えてしまう自分が、本当に情けなかった。
俯く成俊に日野の言葉が降り注いでくる。
「成の話、あの人にしてもいいか?たぶん、絶対に力になってくれるはずだから」
自分の恥を晒すのは避けたかったが、八方塞の今、縋れるものなど何一つない。
店の一つも回せるほどの実力者ともなれば、日野が言っていた”繋がり”というのも納得ができた。
成俊が抱えるものは、どう転んだって一人で解決するには難しすぎる問題だった。
わらをもつかむ思いでいる現在、日野からの申し出はこちらから頭を下げたくなる。
小さく頷く成俊を見れば、言葉はなくとも日野は全てを悟ってくれる。
「今日はゆっくりしていけよ」
その言葉の裏には、後でもっと詳しく流れを聞かせろと言われているのが分かり、『他人事』にしない日野の優しさをつくづく思い知らされた。
にほんブログ村
4← →6
今更何が変わるわけじゃないけど、あんけーと締め切りまーす。
(丸2日以上チャットで遊び過ぎてて報告が遅れました…m(__)m)
あまりにも潔く開き直った立ち振舞いに、先程見かけた人間は”女性”だったのではないか?と幻覚を見た気分にもなる。
だが、見間違うような容姿をしていたわけでもなく、目にした行為は錯覚とは言えず、覆しようのない事実だった。
日野の好み、というか、淡白さは成俊も知るところだ。
なかなか身を落ちつけようとはせず(夜の仕事をしているから、と本人は良く言っていたけど)、コロコロと女を変えていた。
いつか自分のように失敗するのではないかと肝を冷やしたことすらある。
ゲイバーに勤めていた時だって、男に興味があるような素振りはこれっぽっちも窺わせなかった。
「しょ…尚治、おまえ…」
小さく肩を竦めただけで、動揺する成俊に向かって日野が口を開いた。
「俺もこんなことになるなんて思っていなかったけどさ」
「な、何で?いつから…?」
「あー、誤解しないでほしいけど、俺、別に”そういう”趣味、ないから」
“そういう”が、男を性の対象として見る人間なのだとは、さすがに成俊にも意味が通じた。
だけど、あんなものを見せられては素直に認めることもできず、成俊はどう返事をしていいのか悩む。
「あの人がこの店の本当の『経営者』になるんだ」
成俊の脳内はますますこんがらかっていくだけだった。
日野自身の店ではないとは話に聞いていたが、その経営者と何故堂々と人前でキスなんてできるのだろう…。
「それって、この店の為に自分をあげちゃったってこと?パトロンとかヒモとかそんなところまで落ちちゃったってこと?」
本来なら噤まれるべき発言がすんなりと口から零れてしまうのは、相手が日野だからというのと、ショックで一般常識の境目が分からなくなったからかもしれない。
さすがに、成俊のこの言葉には日野も苦笑を見せた。
「そんなんじゃない。成にどう説明したら分かってもらえるか…、分かってもらえないことのほうが多いかもしれないけど、成が思うようないい加減な関係でも適当な付き合いでもない。きちんとした意味で付き合っていることは認めるよ。でも惹かれたのは人間性であって、男とか女とかの括りじゃない。あの人だから全てが許せるし生きていく上で共に居たいと思う。ノーマルな人間にとって受け入れがたい現実なんだろうし、これで成が俺を軽蔑するならそれも仕方ないと思ってる。それでも俺はあの人を取るだろうし、たとえ別れることになったとしても、恨みも後悔もしない」
何がここまで日野に自信を持たせるのかと身震いを感じた。
迷いもなく確信を持って生き抜いていこうとする思いがあるからこそ、この揺るがない清々しさを身に纏うのか。
これまで培ってきた友情を捨ててまで共に生きたいといい、全てを失った時ですら、過ぎた道を悔やまないと断言できる精神の強さ。
男を相手にすることで、日野は新たなる”覚悟”をも受け入れている。
全ては先程の男がいるからだろう。
日野に自信を与えるのも支えるのも彼であり、しかし、日野は彼に全てを委ねているわけではない。
きっと彼もまた、日野がいるから日々を充実して過ごしているのだ…。
同じ歳と侮っていたが、日野は成俊の知っていた頃よりもはるかに成長し先を歩いていた。
不甲斐ない自分を見捨てることなく親身になってくれる日野に対して、逆にそんな理由で『軽蔑』するなどできるはずがなかった。
日野が言うように、個々の人間であって、趣味嗜好に応じて付き合いを変える人間の方が愚かだと思えてくる。
たとえ日野がどんな人間と付き合おうが、日野は日野であり、自分にとって失えない友人に変わりはない。
「そっか…」
日野の発言を認めながら、心の隅の方で少し羨ましく感じている本音があるのを知った。
こんなふうに思い思われてみたい。
今の成俊が辛酸を嘗めるような状況にあるだけに、憧れるのだった。
「悪いな。成が一番大変だっていう時にこんな話になっちゃって…」
成俊は小さく首を横に振った。
どんな形であれ、人の幸せを恨むのは筋違いだ。
「おめでと…って言ってやるべきだよな…」
今、自分はどんな顔をしているのだろう…。
ここでもまた、敗北者の気分を味わっているようだ。
卑屈に考えてしまう自分が、本当に情けなかった。
俯く成俊に日野の言葉が降り注いでくる。
「成の話、あの人にしてもいいか?たぶん、絶対に力になってくれるはずだから」
自分の恥を晒すのは避けたかったが、八方塞の今、縋れるものなど何一つない。
店の一つも回せるほどの実力者ともなれば、日野が言っていた”繋がり”というのも納得ができた。
成俊が抱えるものは、どう転んだって一人で解決するには難しすぎる問題だった。
わらをもつかむ思いでいる現在、日野からの申し出はこちらから頭を下げたくなる。
小さく頷く成俊を見れば、言葉はなくとも日野は全てを悟ってくれる。
「今日はゆっくりしていけよ」
その言葉の裏には、後でもっと詳しく流れを聞かせろと言われているのが分かり、『他人事』にしない日野の優しさをつくづく思い知らされた。
にほんブログ村
4← →6
今更何が変わるわけじゃないけど、あんけーと締め切りまーす。
(丸2日以上チャットで遊び過ぎてて報告が遅れました…m(__)m)
- 関連記事
日野が 益々 素敵に~(*・・*)
日野の公私ともに 充実している姿を 目の当たりにして 成俊が、卑屈に感じる気持ちが 分かる!
そんな 心身草臥れた成俊には どんな出会いが 待ってるのかな?
(^^)ゞbyebye☆
日野の公私ともに 充実している姿を 目の当たりにして 成俊が、卑屈に感じる気持ちが 分かる!
そんな 心身草臥れた成俊には どんな出会いが 待ってるのかな?
(^^)ゞbyebye☆
けいったん様
こんにちは~。
> 日野が 益々 素敵に~(*・・*)
わ~っ♪
日野っちをお褒め頂きありがとうございます~。
> 日野の公私ともに 充実している姿を 目の当たりにして 成俊が、卑屈に感じる気持ちが 分かる!
> そんな 心身草臥れた成俊には どんな出会いが 待ってるのかな?
> (^^)ゞbyebye☆
どうしてもうまくいっている人間と、自分のことを比べてしまう成俊ですね。
今現在、弱りに弱り切っている成俊には酷なことですが、これをバネに飛びあがってもらいたいと思います。
成俊の次の出会いを、さっさと出せって感じですよね(汗)
いいところで年末になっちゃうんだな…きっと…。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
> 日野が 益々 素敵に~(*・・*)
わ~っ♪
日野っちをお褒め頂きありがとうございます~。
> 日野の公私ともに 充実している姿を 目の当たりにして 成俊が、卑屈に感じる気持ちが 分かる!
> そんな 心身草臥れた成俊には どんな出会いが 待ってるのかな?
> (^^)ゞbyebye☆
どうしてもうまくいっている人間と、自分のことを比べてしまう成俊ですね。
今現在、弱りに弱り切っている成俊には酷なことですが、これをバネに飛びあがってもらいたいと思います。
成俊の次の出会いを、さっさと出せって感じですよね(汗)
いいところで年末になっちゃうんだな…きっと…。
コメントありがとうございました。
| ホーム |