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BLの丘
白い色 11
2010-10-29-Fri  CATEGORY: 白い色
ブルブルッと震える身体を大翔が抱き直してくれる。
そこには「心配しなくていい」という雰囲気が嫌と言うほど含まれていた。
それをみてますます駆の溜め息が深くなる。
駆に向けた頬を、大翔の胸の中に押し戻される。
「『言い分』?!ふざけんじゃねーよっ!!」
「俺も今回の件は秀樹を責めた。これは人としてやるべきことじゃないだろ」
「分かっているんだったら何で肩を持つ?!」
「肩を持つつもりはない。ただ、美祢ちゃんのことも聞きたかったんだ」
美祢が飲んでいたグラスに日本酒を注いだ駆は、そのままグラスを口につけて空けた。
何かを吐き出したい気持ちがあるのがはっきりと分かる。

怒りで目の前が見えなくなっている大翔を、美祢がぎゅっと抱きしめることで押さえた。

「美祢ちゃん、秀樹に本気じゃなかったんだろ?」
突然問われた言葉の意味を、美祢は理解できなかった。
自分はずっと北野を想い続けていたと疑っていなかった。
差し伸べられる手に一喜一憂し、囁かれる言葉に胸を躍らせた。
これを『恋』と呼ばずに何と言うのだろう…。

「兄貴」
「おまえはちょっと黙っていろ。…秀樹ももう随分前から気付いていたんだよ。美祢ちゃんは決して秀樹とは並ぼうとしない。秀樹はいつも虚無感を抱えていた。一緒に居ながら同じ世界を生きられないことに絶望を味わっていたんだ。共に生きることを最初から拒否した人間は、どれだけ思っても近付いてこない。誘ったのが自分だから待つ気でいたらしいが、美祢ちゃんは変わることがなかったって、な。
自分には表面上しか寄り添おうとしないのに、明らかに自分に向けるものとは違って、当たり前のように並んで心も肌も許す人間がいる。話を聞いた時に、すべての原因が大翔にあることを知った。無意識でやっていることは理解できても、それがたとえ『親友』という立場だったとしても、秀樹には重い壁だったんだ」
美祢は目を見開いた。
自分が『釣り合わない』と常に意識を向けたことが、北野を追い詰めていたのか…。
そんなふうに北野が感じていたなど全く気付いていなかった。
大翔との接触が『恋愛事情』に大きな影響を及ぼすとも思ってもいなかった。
なにより、北野との全てが『恋』ではないと言われたことのほうがショックで…。
自分が抱えていた想いはなんだったのだろうか、と改めて突き付けられる。
同時に北野を失えても、大翔を失うことは考えられず、大翔に依存している自分に初めて気付いた気分だった。
だけどそこに、北野に寄せたような恋心は微塵もない。

「当時秀樹が継ぐ会社は資金繰りに困窮していた。昔からの取引先だった銀行の頭取の娘と縁を作ることで援助を約束されたんだ。会社の半分を売るようなものだ。今ではだいぶ持ち直しているが。だからといって、秀樹は会社の為に身を捧げるような奴じゃない。結局1年ほど相手と付き合いながら考えていたそうだ。先の見えない将来に期待するよりも、確実な道を選んだ。その間、美祢ちゃんとのことをはっきりさせられなかったことは秀樹自身の不実としか言いようがない。
最後美祢ちゃんと連絡を絶っていたのは心の整理をつけたかったからなんだろう。だけど先に誤解を与えた。
美祢ちゃんが会った人間はその家族(弟)らしい。彼は美祢ちゃんの存在を知っていたんだな。別れられなかった自分が悪いとは言っていたが、秀樹の立場から勝手な勘違いを起こした彼が酷い言葉を放ってしまったこと、もっと早くに話をつけるべきだったと秀樹本人も悔いていた。美祢ちゃんから最後の返事をもらえなかったことで、今日決断したそうだ」
「そんな馬鹿な話があるかよっ!!美祢の気持ちなんか無視か?!正当化してんじゃねーぞっ!!」
「美祢ちゃんは最初から『北野』に収まる気はなかった。全ての原因であり結果だよ」

駆の言うことは正しかった。
北野の想いを受け止めていながら、心の隅では拒絶していた…。
生きていく世界が違うとか、生活感にズレがあるとか…。
無理が生じる生活が分かるから、いつも諦めていた。
だからこそ、すんなりと受け入れられた『別れ』。
最後に会った居酒屋で抱いた感情は、嫉妬よりも酷い言葉を投げつけられた『悔しさ』だった。

北野の行動を振り返る。
与えられる高価なプレゼント。
連れられて行った生活感のないマンション。
かけ離れた世界を見せることで、美祢からの別れ言葉を耳にしたかった…。
自分からは振れない、情けなさだ。

そんな行動を取らせてしまった美祢の方が後悔していた。
耐えきれずに美祢は大翔のシャツを掴んだ。
「ひろと…」
掠れる声が美祢の口から洩れた。
お互い、傷つけあうだけの恋だったのか…。

美祢の声を聞いて、駆は北野が告げた言葉を反芻し、その正しさを知った。
『…あのふたりは離れない…』

どんな恋人に出会おうが変わらないだろう。
出会った恋人をただ傷つけるだけだ。
それが分かった時、駆は美祢に対して、思っていたことを告げた。

「美祢ちゃん、俺と付き合うか?」

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今日も?!お兄様っ!!\(◎o◎)/!
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白い色 12
2010-10-30-Sat  CATEGORY: 白い色
再び酒瓶を傾けてグラスに注いでいた駆から、突拍子もない台詞が吐かれれば、美祢は意味が理解できずに思考が停止した。

…誰と誰が付き合う…???

「ふざけんなよっ!!何馬鹿な事、言ってんだっ!!」
すぐに大翔が反撃に出た。
興奮し続ける大翔とは対照的に駆は落ち着いた態度のままだ。
「馬鹿なことでもないだろう。美祢ちゃんが今フリーで俺も気に入っているとなれば誘いをかけて何が悪い」
「だからって何で兄貴なんかにっ!」
「じゃあ、誰ならいいんだ?」
「美祢を大事にしてくれる人に決まってんだろ」
「俺だって美祢ちゃんのことは大事に思っている」
「ちょ、ちょっと待って!駆くんっ!!」
…どこまで本気なんだ…???
駆が男を相手にできる人種だなんてこれっぽっちも思っていなかった。
それだけでも充分な驚きである。
酔っているわけではないし、勢いで冗談めいたことを言う性格ではないのも承知している。
兄として憧れるところはあるが、それが恋愛感情に発展するかと考えれば疑問である。
とはいえ、これまでの美祢の付き合い方は、相手から誘われ付き合っているうちに感情が追いついてくるというパターンばかりだった。
もちろん、そんなに多くの人間と付き合った経験があるわけではないが、一緒にいれば情も移る…といった感じだ。
結局最後は振られる結果になるが、その原因は今駆に説明されたことが理由だろう。

「なんで、僕なんか…」
「『僕なんか』?おいおい、本気で言っているのか?美祢ちゃんほどをもってそんなことを言われたら他の奴らは何て発言すればいいんだ?」
「自分がそれに釣り合うと思っている兄貴の方が身のほど知らずだろう」
美祢の質問はどこかはぐらかされたようで、困惑は大きくなる一方だ。
真剣に声をかけられているというのであれば、こちらもきちんとした答えを出してやるのが筋というものだろう。
駆のことを嫌っているわけではないし、駆のことだから、無理に強要してくることもないと思う。
今までの付き合いに少しの親密さがプラスされるだけでいいような気もしなくない。
だけど、本当にそれを『付き合う』と言えるのだろうか…。
そんなもので満足されるのだろうか。
「おまえはいちいち煩いよ。まぁ今は秀樹のこともあったしいきなり気分を切り替えて考えられることじゃないだろうけどさ。少しくらいは頭の隅に置いておいてよ」
北野が取った行動の全てを白状してしまえば、駆には開き直ったような態度が見え隠れした。
「美祢ちゃんの性格ならもう充分なくらい理解しているしな。それとも俺に”抱っこ”をされるのは嫌か?」
揶揄されて、美祢は改めて自分の今の状況に視線を下ろした。
先程言い当てられたばかりだというのに、美祢はまだ大翔の膝の上から降りていない。
慌てて大翔から離れようとするのを、「みね~ぇっ」と大翔に押し留められる。

それを見ながら駆がフッと口角を上げた。
「あぁ、おまえたちの”それくらい”は充分許してやるよ」
やけに恐ろしく寛容な”告白”だった。



「意味がわからん」
会社近くの蕎麦屋で向かい合わせに座った菊間が、ランチの天麩羅蕎麦とかつ丼のセットを頬張りながら溜め息をつく。
美祢は他人事のように、『相変わらず良く食べるな~』などと頓珍漢なことを思っていた。
体格を思えば納得もいくのだが…。
美祢と菊間が話していた内容は美祢のことだった。

美祢はこの1カ月ほど、駆にかけられた言葉に返事をすることはなかった。
嫌でも社内で顔を合わせるために美祢はぐるぐると頭と心を悩ませていた。
肝心の駆はそんな美祢を見ても人前では普段通りでこれまでと変わることはない。
あれは本気のことだったのだろうか…と給湯室で溜め息などをついていれば、さりげなく隣にいたりして優しさを見せられる。
そんなところは確かに今までと違ってはいたが…。
大翔との関係を知る社員は当然駆とのことも承知しているので、多少の歩み寄りは今更気にされていない。
寧ろ、大翔の時のように意識的に目を向けられないだけ、他の社員と話をしているのと同じ感覚だった。
美祢は返事を先延ばしにしていることに、日を重ねるごとに曖昧にするのは失礼になると思い始めていた。
そう思えるほど、自然と駆との関係が親密さを増していたのだ。
それが余計に美祢の中で渦巻いて心を締めつけてくる。
駆と付き合うことに抵抗がないと感じ始めているのも正直なところだ。

思い悩む日々の美祢に気付かない菊間ではなかった。
いつもならば社員食堂で食べる昼食、心配した菊間に誘われこうして社外へと足を向けている。
当然社内で話したい内容ではない。
信頼を持って、ぽつりぽつりとあれからの出来事を話してしまえば、あからさまに不思議な顔をされた。

「美祢ってば、逆玉狙いなの?ってか良くもこう、上流階級の人間が集まってくるよな~」
それは感心なのか呆れなのか…。
自分の意思ではないと、例のごとく美祢が唇をとがらせれば、いたって真剣な眼差しが美祢に向けられた。
「ところでさー、何で美祢は副工場長とそういう関係にならないの?」
最大の疑問だと、目の前の瞳は語っていた。

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本日も?!兄上~~\(◎o◎)/!?
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白い色 13
2010-10-31-Sun  CATEGORY: 白い色
菊間の質問に、美祢がそれこそ意味が理解できないとキョトンとすれば、一瞬考えるように菊間が動きを止めた。
「あー、ごめん。俺、そっちのことって良く分かんないから。普通に誰でも対象になるのかと思ってた」
ノーマルの人間にすれば、相手を探す基準値なんて想像ができないのは分かる。
大翔との親しさを考慮すれば当然湧く疑問なのだが、生憎、美祢には大翔に対しての恋愛感情は皆無だ。
それは大翔も同じだと思っている。
付き合う意味での『抱く、抱かれる』が、全く想像できないのだ。
美祢は静かに首を振った。
「ううん。僕こそ、こんな話をしちゃってごめんね」
気持ち悪いとか思われないだけ良いはずである。

それから美祢は食べるわけでもなく、どんぶりに入ったきのこ蕎麦を箸先でつついた。
「大翔とはなんてゆーかさー。”そういうこと”できるって考えられないんだよね…」
「"そういうこと”?えっち?」
単刀直入に質問されて美祢はボンッと赤くなり視線を伏せた。
美祢の反応で答えを貰った菊間は、まぁなんとなく理解できるかな、と頷いた。
男女間だって、好みというのはあるし、全ての女を抱きたいと思うわけではない。
「けどしょっちゅうその辺でイチャイチャしているじゃん。”そういうこと”したい感情とは別なわけ?」
「そんなの当然じゃんっ。それにイチャイチャなんかしてないしっ!」
言い切るあたり、強者だと菊間は内心で思ったが口には出さなかった。
きっと大翔に聞いても同じ答えが返ってくるのだろう…。

「で、常務ならいいわけ?」
美祢は俯いたまま、また蕎麦を箸でいじった。
「わかんない。でもそういう気持ちをもったら転がっていける感覚はある」
そう、美祢の中で大翔と駆に対して持てる違いはそこだった。
具体的に言葉に表すことは難しかったが、駆との逢瀬は想像できるのに、大翔とはただの会話なのである。
あくまでも駆は『他人』だった。
「ま、美祢がそれでいいっていうのなら別に俺が口を挟むことじゃないし。でもさー。そんなことになって副工場長は何も言わないの?」
「別に。最初だけ、なんか、猛反対したけど、今はそんなに。…でもいつもだよ。僕が『○○と付き合うことにした』って言えば『大丈夫か?』って聞かれて、その後は放っておかれるし」
余程悪い噂でも耳にしない限りは止められることはない。
その辺りは美祢の意思を尊重してくれているのだと思っていた。
ただ、必ず一度は会わせろと強要はされたが…。
その点、駆とは兄弟という、お互い知り過ぎた仲なだけに、確認する必要もないのだろう。

兄弟ともなれば多少の抵抗を持ってもいいものではないかと菊間は思わず考えてしまうのだが、考え方はどうも異なるらしい。
「はぁ、そんなもんですか…。…余談だけど、副工場長って今付き合っている人、いるの?」
突然何だろう?と思いながら美祢は正直に首を振った。
「今はいない、かな。昔営業やってた頃はしょっちゅう相手、変えてたけどね」
「何で?」
「さぁ、そんなの知らないよ。『性格が合わなかった』とか『好みじゃなかった』とか色々聞いたけど」
「まさかとは思うけどさ、その相手、美祢、全員会ったことあるの?」
「うん。いつも紹介されるから」
菊間は頭を抱えたい気分になるのをかろうじて堪えた。
『無意識』もここまでいけば恐ろしい。
振ったか振られたかはともかく、原因は『美祢』にあるのだろう…。
それにたぶん、大翔の基準値は美祢なのだ。
営業に出ていれば出会う数も増える。
大翔の容姿をもっていれば声を掛けられる数も半端ないのも合点がいく。
社内に籠る今だから余計に美祢を構うのか…ともたやすく浮かんでくる。
そんな二人が、どうしてそれ以上の関係になれないのか、菊間にはやはり疑問でしかない。
かといって、重ねて問うたところで返ってくる答えは変わることがないし、本人たちもその先を望んでいないのだろう。

食事を終えて社屋に戻り、コーヒーでも…と二人で給湯室に向かえば、ぱったりと駆と出くわした。
即座に居辛さを覚えた菊間の空気を感じ取った美祢は、「貴宏さん、持って行ってあげる」と”年配者”を気遣った。
駆にしてみれば『常務』という存在が窮屈に感じられるのだろうという感覚でしかない。
美祢もまさか菊間に打ち明けてしまった、とは言いづらかった。
「うん、じゃあ」とその場を去っていく菊間の背中を見送った。
駆が美祢のコーヒーカップを用意してくれる。
その隣で美祢が菊間のカップを取り出した。
「社食にいなかったけど、二人でどこかに行っていたの?」
コーヒーのデカンタを持った駆が静かに問いかけてきた。
美祢と菊間の仲の良さも事務所内では知れ渡っていることだった。
改めて問われて、少しだけ後ろめたさが湧く。
「うん、前のお蕎麦屋さんに…」
「そう。じゃあ今度は俺と行こうか」
「そ、そんなことしたら…」
「何?」
半分からかわれているような気もしなくない。
平社員が常務などと…と戸惑いを見せる美祢に、だけどいたって真面目な表情で、駆は言葉を続けた。
「今夜あたり、夕食でもどう?」
それは、国分寺家で奇妙な”告白”をされてから、初めての誘いだった。

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兄ちゃん、動くか?!
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白い色 14
2010-11-01-Mon  CATEGORY: 白い色
一瞬戸惑う美祢に、駆がクスリと笑う。
「無理に誘っているわけじゃないから。それにただの夕ご飯だよ。もし美祢ちゃんが『大翔も一緒がいい』って言うのなら、あいつの都合も聞いてみようか?」
さすがに個人的な誘いに『弟を…』というのもどうかと思うが、緊張感を持たせないための駆の配慮なのだとは分かる。
だが、こんな状況で、大人しく大翔がついてこないのも美祢は承知していた。
たぶん、駆も同じように感づいているのだろう。

「べつに、大翔は…」
「まだ秀樹のことは心の整理がつかない?」
言い淀む美祢の言葉にかぶさるように駆が質問を重ねた。
あれから詳しく北野とのことを聞かれることもなかった。
故意的に避けているのも知っていた。
改めて聞かれたのは、駆との関係を曖昧にし過ぎている美祢への確認に近いのだろうか。

「秀樹さんとのことは、もうあの時からずっと…」
「そう。でもまだ前向きには考えられないっていうところかな?」
「駆くん、あのね…」
「何?」
小首を傾げられて、正面から見つめてくる瞳を、美祢は初めて恥ずかしく感じた。
優しいのは以前からだったが、温かさを含んでいる瞳はまた別格だった。
こうやって過去の男に堕ちていった美祢をまるで知るかのように…。
「駆くんのことは、まだ、正直、自分でも良く分からないけど、…でも、嫌じゃないのは、確かだから…」
今にも消えそうな声でぽつぽつと告げれば、それでいい、と満足したような駆の笑顔が見える。
「ありがとう」
コーヒーの香りが漂う中、駆の唇が美祢の額に降りた。
突然のことに思わず周りを伺ってしまうが、給湯室に入ってくる人の気配はなさそうだった。
何よりキスの一つに、心臓をバクバクさせたのも久しぶりだ。
ポウと赤くなる美祢が唇を尖らせれば、ククッと笑われるだけである。
たまにイタズラを仕掛けてくる『お兄ちゃん』だったと、ふと思い出した。

給湯室を出たところの壁際に背を預けて腕を組み、一部始終を聞いていた菊間は、足音を立てずにその場を立ち去って行った。


ホテルの上層階にあるレストランからは夜景が見下ろせる。
窓際に寄せられたテーブルに向かいあって着き、出てくるフルコースを前に、美祢と駆の話はいつもと変わらなかった。
意識せず過ごせるのは駆の技量なのだろうか。
慣れ親しんだこれまでの雰囲気が持たせるものだからなのか。
こういった席は以前から国分寺家と射水家(美祢んちです)で共にしたことがあったし、北野とも過ごした。
親からも最低限のマナーは教えられていたから恥をかかせない程度の振る舞いはできた。
ワインを注いでもらって会話も楽しむ。
「美祢ちゃん、本当はもっとカジュアルな方がいいんだよね」
「そりゃ、できれば…。駆くんたちと違ってこういうところ、あまり馴染みがないし…」
「俺だってそう頻繁に来るわけじゃないさ。あまり気を使わせるのも嫌だけど。ま、最初って言うことで今夜は許して。今度は美祢ちゃんのエスコートっていうことでどう?」
「そ、そんな、無理っ!僕が行くのなんか、近所の居酒屋とかファミレスくらいで」
「いいんじゃない?俺も好きだよ」
「ホントに?!駆くん、そういうところ、行かないと思ってた」
「おいおい、どんな大臣様だよ。どんなところにでも顔を出すって感じかな」
「それって半分仕事?」
「ま、そんなところもあるかも」
小さく肩を竦められて二人して笑いあう。
自然と肩の力が抜けていくのを美祢は感じていた。

北野ともこうして肩肘を張らずに過ごせたら、また違った未来があったのだろうか、とふと頭を過る。
駆の立場を考えれば、北野とそう変わらないはずなのに、この落ち着きと未来を心配しない違いは何なのだろう。

コース料理を食べ尽し、お腹も満足になったところで、駆が明日の天気でも聞くかのようにそっと口を開いた。
「美祢ちゃん、今日は泊まっていけるの?」

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兄ぃぃぃっ?!\(◎o◎)/!?
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白い色 15
2010-11-02-Tue  CATEGORY: 白い色
「はいっ?!」
泊まっていけるのか?と聞かれて、まさかそんな展開は予想もしていなかった美祢から、上ずった声が上がってしまう。
それを駆にまた笑われた。
「別に取って喰おうとしているわけじゃないよ。せっかくだから場所を変えてもう少し飲んでいこうかなと思って。そしたら帰るのが面倒じゃない?」
駆の言う「もう少し」が美祢にとっては全く少しではない。
当然動くことなど嫌になる。
だけど、たぶん気分が良いのであろう駆の誘いを無下に断るのも悪い気がした。
何よりも駆に対してはこれまでに培ってきた信頼がある。

「うん。駆くんと一緒にいるって言えばうちの親は何も言わないし」
「正確には”うちにいる”っていうほうかな?」
昔から大翔に連れられて国分寺家に宿泊するなど幾度もあったことだ。
両親も『国分寺』と名前を出せば何も言わず、他の場所に泊まるときにも美祢はアリバイとして利用させてもらったことが何度かあった。
美祢と大翔の暗黙の了解で成り立っていた話なのに、駆にしっかり見透かされていたようだ。
「もう…」
弟たちの行動を把握する『兄』に反論できる言葉も見つけられず、美祢は赤くなりながら俯いた。
悪さを咎められた気分だ…。

「じゃあ、ちょっと待っていて。部屋、取ってくるから」
そう言い置いて立ち上がった駆は、離れた場所でウェイターと何かを話していた。
その後ろ姿も壁の向こう側に消えて見えなくなる。
手持ち無沙汰になった美祢は窓ガラスの外に広がる夜景を目にした。
同時にガラスに映った自分を見やる。
自分では『落ち着いている』と思っていたのに、そこにはどこか不安げな瞳が移ろいでいた。
『本当にこれでいいのか?』
自分で自分に問いかけているようだった。


夕刻過ぎの事務所に顔を出した大翔は、珍しい光景に眉をひそめた。
営業部のデスクには3人の男がいたが、目当ての人間の姿は見当たらない。
「貴宏さん、美祢、どうしたの?」
菊間の隣の椅子(美祢の席)に腰かけ、当たり前のように質問する。
美祢の席の前に座った営業の目梨(めなし)と、菊間の前に座った東御(とうみ)が、不思議そうに顔を上げた。
目梨はこの会社で重要な戦力となる男で美祢が担当している営業社員である。
一方東御はまだ25歳になったばかりの、ようやく慣れてきたという可愛げのある青年だった。
35歳のベテラン営業員に話しかけるより、30歳の美祢も慣れ親しんでいる菊間に自然と顔が向いてしまう大翔だったが、質問に答えてきたのは目の前の目梨だった。
「大翔くん、一緒じゃなかったの?常務と一緒に帰って行ったけど」
「え?!」
週末に、しかも担当営業がまだ事務所にいるのに、先に帰る美祢ではない。
上からの圧力(この場合、意味は全く異なるが)がかかれば、目梨だって「どうぞどうぞ」と事務員を送り出した。
綺麗に片付けられた美祢のデスクを見れば、帰れるようにうまく処理されたことを表しており、当然夕刻に告げられた話ではないことを物語っている。
「貴宏さん、この話、いつ聞いたの?」
大翔の質問には棘があった。
菊間は、どうしてとばっちりがこっちに来るんだ?!と目頭を押さえた。
「いえ、何も…」
「ふ~ん。美祢が週末のこの時間に帰れるなんて、絶対にどこかの”誰かさん”の協力があってのことなんだと思ったけどぉ。気のせいかぁ」
ちくちくと棘が刺さってくる。
何気に美祢の仕事量まで把握しているこの男に感心すら覚えたが…。
しかし、もちろん菊間は何も答えなかった。

苛々とした感情を隠しもせず、携帯電話を取り出した大翔はポチポチと弄っては一旦耳を離し、またポチポチと指を動かす。
「クソッ!あいつらっ!どっちも出やしねぇっ!」
低くドスのきいた声が響けば、若い東御は竦み上がっていた。
菊間と目梨は、社長と比べて、『やっぱり親子だなぁ』なんてのんきなことを思っている。

菊間は昼間の美祢との会話を振り返りながら、やっぱり美祢の言うことが信じられずにいた。
この光景を見れば、どうしたって大翔にはそれなりの愛情があるように感じられてならない。
これは本当に、美祢の言うとおり友情の延長線なのだろうか。
それに、狙いを定めたような駆の行動。
駆に何かの考えがあるのは美祢に触れる態度でそれとなく理解した。
美祢はたぶん、気付いていないのだろうが…。
菊間の脳は、他人事ながら活発に思考を巡らせていたが、行動や心理を全て聞いていたわけではなく、今一つのところで止まってしまう。

大翔も、意味不明な告白をした駆が何も動かない訳はない、とそれとなく感づいていた。
ただずっと行動を起こさずにいたのは二人の関係を見ていれば知れたが、今日突然やってくるとは予想していなかった。
このことは、美祢が完全に駆を受け入れたと言えることなのだろうか。
美祢が『これでいい』と言えば、何の反論もない。
…はずなのだが…。

駆と美祢が付き合いだしたなどと言えるわけもなく、大翔は当たり障りのない返事をした。
「ま、兄貴が一緒なら、何の問題もないだろ」
自分は心配などしていないと強調するように言い捨てた大翔の台詞を、菊間は本心などとは思っていない。
そしてみんなに挨拶を済ませると、大翔は事務所を後にしていった。

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私にしたら珍しい書き方で進行中です。試行錯誤繰り返してます。
間もなく80000hit様お迎えのようです。
お気付きの方がいらっしゃいましたら一声おかけください。
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