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BLの丘
白い色 15
2010-11-02-Tue  CATEGORY: 白い色
「はいっ?!」
泊まっていけるのか?と聞かれて、まさかそんな展開は予想もしていなかった美祢から、上ずった声が上がってしまう。
それを駆にまた笑われた。
「別に取って喰おうとしているわけじゃないよ。せっかくだから場所を変えてもう少し飲んでいこうかなと思って。そしたら帰るのが面倒じゃない?」
駆の言う「もう少し」が美祢にとっては全く少しではない。
当然動くことなど嫌になる。
だけど、たぶん気分が良いのであろう駆の誘いを無下に断るのも悪い気がした。
何よりも駆に対してはこれまでに培ってきた信頼がある。

「うん。駆くんと一緒にいるって言えばうちの親は何も言わないし」
「正確には”うちにいる”っていうほうかな?」
昔から大翔に連れられて国分寺家に宿泊するなど幾度もあったことだ。
両親も『国分寺』と名前を出せば何も言わず、他の場所に泊まるときにも美祢はアリバイとして利用させてもらったことが何度かあった。
美祢と大翔の暗黙の了解で成り立っていた話なのに、駆にしっかり見透かされていたようだ。
「もう…」
弟たちの行動を把握する『兄』に反論できる言葉も見つけられず、美祢は赤くなりながら俯いた。
悪さを咎められた気分だ…。

「じゃあ、ちょっと待っていて。部屋、取ってくるから」
そう言い置いて立ち上がった駆は、離れた場所でウェイターと何かを話していた。
その後ろ姿も壁の向こう側に消えて見えなくなる。
手持ち無沙汰になった美祢は窓ガラスの外に広がる夜景を目にした。
同時にガラスに映った自分を見やる。
自分では『落ち着いている』と思っていたのに、そこにはどこか不安げな瞳が移ろいでいた。
『本当にこれでいいのか?』
自分で自分に問いかけているようだった。


夕刻過ぎの事務所に顔を出した大翔は、珍しい光景に眉をひそめた。
営業部のデスクには3人の男がいたが、目当ての人間の姿は見当たらない。
「貴宏さん、美祢、どうしたの?」
菊間の隣の椅子(美祢の席)に腰かけ、当たり前のように質問する。
美祢の席の前に座った営業の目梨(めなし)と、菊間の前に座った東御(とうみ)が、不思議そうに顔を上げた。
目梨はこの会社で重要な戦力となる男で美祢が担当している営業社員である。
一方東御はまだ25歳になったばかりの、ようやく慣れてきたという可愛げのある青年だった。
35歳のベテラン営業員に話しかけるより、30歳の美祢も慣れ親しんでいる菊間に自然と顔が向いてしまう大翔だったが、質問に答えてきたのは目の前の目梨だった。
「大翔くん、一緒じゃなかったの?常務と一緒に帰って行ったけど」
「え?!」
週末に、しかも担当営業がまだ事務所にいるのに、先に帰る美祢ではない。
上からの圧力(この場合、意味は全く異なるが)がかかれば、目梨だって「どうぞどうぞ」と事務員を送り出した。
綺麗に片付けられた美祢のデスクを見れば、帰れるようにうまく処理されたことを表しており、当然夕刻に告げられた話ではないことを物語っている。
「貴宏さん、この話、いつ聞いたの?」
大翔の質問には棘があった。
菊間は、どうしてとばっちりがこっちに来るんだ?!と目頭を押さえた。
「いえ、何も…」
「ふ~ん。美祢が週末のこの時間に帰れるなんて、絶対にどこかの”誰かさん”の協力があってのことなんだと思ったけどぉ。気のせいかぁ」
ちくちくと棘が刺さってくる。
何気に美祢の仕事量まで把握しているこの男に感心すら覚えたが…。
しかし、もちろん菊間は何も答えなかった。

苛々とした感情を隠しもせず、携帯電話を取り出した大翔はポチポチと弄っては一旦耳を離し、またポチポチと指を動かす。
「クソッ!あいつらっ!どっちも出やしねぇっ!」
低くドスのきいた声が響けば、若い東御は竦み上がっていた。
菊間と目梨は、社長と比べて、『やっぱり親子だなぁ』なんてのんきなことを思っている。

菊間は昼間の美祢との会話を振り返りながら、やっぱり美祢の言うことが信じられずにいた。
この光景を見れば、どうしたって大翔にはそれなりの愛情があるように感じられてならない。
これは本当に、美祢の言うとおり友情の延長線なのだろうか。
それに、狙いを定めたような駆の行動。
駆に何かの考えがあるのは美祢に触れる態度でそれとなく理解した。
美祢はたぶん、気付いていないのだろうが…。
菊間の脳は、他人事ながら活発に思考を巡らせていたが、行動や心理を全て聞いていたわけではなく、今一つのところで止まってしまう。

大翔も、意味不明な告白をした駆が何も動かない訳はない、とそれとなく感づいていた。
ただずっと行動を起こさずにいたのは二人の関係を見ていれば知れたが、今日突然やってくるとは予想していなかった。
このことは、美祢が完全に駆を受け入れたと言えることなのだろうか。
美祢が『これでいい』と言えば、何の反論もない。
…はずなのだが…。

駆と美祢が付き合いだしたなどと言えるわけもなく、大翔は当たり障りのない返事をした。
「ま、兄貴が一緒なら、何の問題もないだろ」
自分は心配などしていないと強調するように言い捨てた大翔の台詞を、菊間は本心などとは思っていない。
そしてみんなに挨拶を済ませると、大翔は事務所を後にしていった。

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私にしたら珍しい書き方で進行中です。試行錯誤繰り返してます。
間もなく80000hit様お迎えのようです。
お気付きの方がいらっしゃいましたら一声おかけください。
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コメント

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美祢~(_ _ ii)
コメントけいったん | URL | 2010-11-02-Tue 21:21 [編集]
駆の雰囲気に 流されてるよ~。

大丈夫なの?このままだと 北野との付き合いの様に なってしまいそうでは・・・

それにしても 何だか 気になる人ですね、菊間って!!(脇キャラに 食い付く私って どうなんだろう...)
(^o^)/byebye☆
Re: 美祢~(_ _ ii)
コメントきえ | URL | 2010-11-02-Tue 21:49 [編集]
けいったん様
こんばんは。

> 駆の雰囲気に 流されてるよ~。
>
> 大丈夫なの?このままだと 北野との付き合いの様に なってしまいそうでは・・・

はい、またなんだかアヤシイ雲行きに巻き込まれそうな美祢でございます。
駆も引っ張っていきますね~ぇ。

> それにしても 何だか 気になる人ですね、菊間って!!(脇キャラに 食い付く私って どうなんだろう...)
> (^o^)/byebye☆

菊間っちに食らいついてくださいましてありがとうございます♪
脇キャラもやがてスピンオフとかで登場しちゃう我が家です。(いつになることやら…)
いい仕事してくれたらいい菊間なんですけど…。
コメントありがとうございました。
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