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BLの丘
眼差し 11
2010-12-21-Tue  CATEGORY: 眼差し
渡された封筒から写真を取り出し、視界に入れた時、成俊の手が震えた。
そこに映っていたのは、高音と見知らぬ男がシティホテルに入っていくところだった。
娘の姿がないことを思えば、きっと両親にでも預けて、二人の時間を楽しもうという風にしか見えない。
『浮気の現場』と譲原が言いたがるのが分かった。

「君に黙っていたのは悪かったと思うが、この前から相手側がやけにこちらの提示に従順になり始めたことに疑問を持った。こんな仕事に就いているとね、話し声だけで状況とは見えてくるものなんだよ。こちら側に知られたくない事情が起きたから、現状維持で事なきを得ようとする態度が垣間見え、これ以上引きずったらもっと最悪な条件しか突き付けられないと判断したんだろう。その忙しなさに僕が勝手に興信所に依頼した結果、出たのがこれだった」
高音に不倫相手がいると分かれば、成俊が離婚を言い出したことも不貞があったという理由で覆されるという。
長きに渡り、夫婦生活がなかったこと、これまでの冷めた日々。
起因するものがあると分かれば、完全にこちら側に有利だった。

だが、成俊の精神を苛めたのはそんなことではなかった。
写真に映った男に見覚えはなかったが、面影は見えた。
何枚にもつながって撮られた写真、高音に向かって微笑む表情。
笑った時に下がる目尻や、上唇が膨れているように見える姿は、娘と変わらなかった…。

「う、そだ…」
かろうじて掠れた声が成俊から漏れた。
譲原にしてみれば、不貞を信じたくない夫としか思われていないのかもしれない。
「武田君…」
成俊の心情を察してなのか、優しい声が掛けられるが、成俊の耳には届いていない。
「うそだ…」
幾度も呪文のように呟かれる声と共に、呆然とした成俊の目から訳も分からない涙がこぼれた。
最初から、高音には裏切られていたのだ…。

ずっと、自分の娘だと信じてきた。
自分と似ている部分がどこか分からなかったが、高音に似たところが見えればそれだけで嬉しかった。
歩き始めた時、言葉を覚えた時、常に見てきたのは自分だったはずだ。
何の疑いもなく、自分の子供だと愛情をこめて育ててきた。
それが今、この瞬間に、『父親の勘』というそれだけで、娘は自分の子ではないのだと知らしめられた。
どんな意図で成俊を『父』にしたのかは知らない。
でも、娘と信じて疑わなかった時間を、この瞬間にも裏切られ、自分と離れることで本来の『父』と共に生きようとしている姿に打ちのめされた。


向かいのソファから成俊の隣に移動してきた譲原が、ただ零れていくだけの目にハンカチを当ててくれる。
「許せないのは分かる。だけど、これが表ざたになれば、慰謝料を払うどころかむしろもらう側へと変えられるんだ。これまでの全てが覆る。辛いだろうけれど、『離婚問題』ってこういうことなんだよ」
譲原は知らない…。
娘の莉音(りおん)に会ったことがないのだから、この写真に映った男と繋がりがあるなど、これっぽっちも思ってはいないのだろう。
それが分かった時、譲原はどれほどの戦略を立てるのか…。
高音には何一つ渡してやろうなどという気は、今更起きなかったが、せめて、数年でも自分の娘であった莉音にだけはできることをしてやりたかった。
たとえ、自分の子でなくても、共に生きてきた時間があったのだ…。

成俊はその事実を譲原に伝えることができなかった。
この弁護士は現在戦う戦士だ。
高音の不貞を暴き、いかに成俊に負担をかけず、有利に持っていくかしか考えられていないように思える。
呆然としながら事務所を後にした。
心配そうに見送る譲原から発されたのは、「決して二人で話をしないでくれ」ということだった。
たぶん、きっと、言いようのない口約束を結んでしまう成俊を懸念したのだろう。

成俊は確かめたかったが、マンションに戻る気力も無くしていた。
目にした写真はホテルであって、自宅ではない。
成俊がいない間に、万が一でも見つかることを恐れたのか、きっと二人がマンションに訪れることはないだろう。
現場でも押さえれば何かしら言うことができるかもしれないが、その可能性は薄いし、子供に聞かせたくないことだった。
父親が二人いたなど、誰が聞いて喜ぶ?!

ふらふら、と夜の街を彷徨った。
空を見上げればネオンに隠れて月も星も見えない。
自分が行きつく先はどこなのだろう…。
ふと立ち止まり、方向を失って呆然と空を見上げていれば、ドンッと背後から当たってくる体によろめいた。
「なに、立ち止まってんだ?!オラァっ!!」
チンピラと見紛う男数人に囲まれている状況を、ようやく成俊は知った。
殴られでもするかと思ったのに、見定めるように覗きこんだ顔は欲にまみれている。
「あんた、結構、綺麗どころじゃん」
告げられた意味も分からなかった。
「ぶつかった落とし前、金がなきゃ身体で払ってもらおうかぁ?」
卑下した笑いに、背筋に寒いものが流れる。
身なりからして、とても金を持っているようには見えないはずだ。
そして、彼らが意味する言葉を…、日野の店に通ったことで知ってしまった…。
具体的に何を告げられたわけではないが、男を相手にできる存在があることは日々の中で覚えた。
だからといって、自分が男を相手にできるはずなどない。
恐ろしさに声が震える。
「な、に、いって…」
「いいから、こっち来いよっ!!」
通り過ぎる人は関わりたくないと言わんばかりに素通りしていった。
暴れたら左頬を殴られた。
「大人しくしてりゃぁ、いい気分にしてやるってーのに」
ボソッと耳元で囁かれた言葉に、全身に虫唾が走る。
自分を囲む男は3人しかいなかったが、細身の成俊に逃げ出せるチャンスなどこれっぽっちもなかった。

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眼差し 12
2010-12-22-Wed  CATEGORY: 眼差し
「やっ…っ!!」
伸ばされた掌の冷たさに全身が硬直する。
両脇から腕を取られて、正面から顎を掴まれ上向かされた。
「こういう、脅えているとこってゾクゾクするよなぁ。いかにも”初めて”ですっていう無垢さがあってぇ。可愛がってやるから、これでも飲んどけよ」
鼻をつままれて、苦しさに開けた口の中、意味も分からない粉が降ってきた。
口の中にまとわりつく不快感に、思わずむせる。
全てを零したくても、張り付いた粉は口の中からは出て行かなかった。
誰が持っていたのか、ペットボトルの水を押し付けられた。
口腔内に張り付いていた粉を洗い流すように注がれ、吐き出しそうになった口を掌で塞ぎこまれる。
「全部、飲んどけよ。ラクになれるんだからさぁ」
冷たい声が耳元と首筋を撫でた。

「いやぁ…やぁ…やぁ…っ」
掠れるような声がかろうじて漏れていく。
それを蚊が鳴いているとでもいいたそうに叩きのめされる頬の痛さを感じた。
「これ、超いい、ウリもんになりそう」
何のことか意味が分からない…。
ただ、”普通”の世界でないことだけは分かる。
意識が混沌とし始めれば、囲っている男たちは、周りから見て酔っぱらいを介抱する”親切な人”たちへと変化を遂げた。

…逃げ出したい…
そう思うのに、いつしか身体の自由などなくなる。
自分の力で立つこともできなくなり、両脇から抱えられて道端から近くに停まった車へと担がれようとしていた。

「今日は、ナンパした女もつかまらなかったしなぁ」
「でもまぁ、『男に襲われた』なんて言いようもない奴、手に入れたし」
「訴えたくったって情けなくって言えネェよなぁ」
グサリグサリと成俊の胸をせめてきた。
どんな立場に立ったって、泣き寝入りするしかない自分自身なのだろうか…。
妻も娘も、違う男にとられる。
果てには男に凌辱されて惨めさだけを味わされる。
騙されて、自分の人生とは何だったのだろうかと絶望の日々…。

「おいっ」
突然湧いた声に、車に担ぎ入れようとしていた男どもの動きが止まった。
「…んっだぁ、おっさんっ!!」
一人の男が、スーツを着込んだ体格の良い男にたてつくのが視界の隅に見えた。
「そいつをどこに連れていく気だ?」
「かんけーねーだろっ!!」
「ドラッグか?」
単刀直入に告げられる内容に、3人の男が身を怯ませた。
だぶん、『勘』というものなのだろう。
最初に乗りこんだ男を車に入れただけで、勢いよく車が発進した。
呆然としたのは残されたチンピラ2人だ。
「話は署で聞いてやろう」
二人のチンピラから手を離され、崩れ落ちた成俊は地面に突っ伏す前に、声をかけてきた刑事の腕に抱き抱えられた。
その隙に、二人には逃げられたが、「時間の問題だ」と佐貫は余裕を見せる。
「見たこと、あると思ったんだ。享利のとこにいた奴だろ?なんだってこんなことになってんだ?」
物事を隠そうともしない直接的な言い方が、今の成俊には有り難かった。
誰もが気を使う…。
駆け引きを取ろうともする…。
その全てを取り払った物言いには気遣いの無さと、本音を曝け出せる図々しさが潜んでいる。

「ぁあぁあっ…っ…」
こぼれたのは誰にも向けられることのなかった弱音か…。
縋りついた胸の温かさと囲ってくれる腕の強さ。
先程まで触れていた男たちの手とは全く異なる人肌に、訳も分からなく縋りつきたくなる。
ボロボロと泣き崩れる成俊を、佐貫は放置しなかった。
しっかりと腕に抱きとめて、「何があったんだ?」とその質問すらしない。
今はただ、苦しむ成俊を包んでくれるだけだった。

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昨夜は記事が重複してしまい申し訳ございませんでした。(知らない方はスルーしてね♪)
確認ミスです。
続き書けたからまぁ良かったようなものの…。
いつ、書けなくなるのか(パソちゃんとご対面を拒絶されるか)不安になりつつ、年末を迎えます。
キリ番90000様いらっしゃったら一言~ぉ。

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眼差し 13
2010-12-24-Fri  CATEGORY: 眼差し
佐貫は、チラッと見ただけの車のナンバーと、逃げた男たちの特徴をどこかに連絡していた。
成俊は泣いたことだけで体温が上がっているのではない、身体の奥からせり上がってくるような熱さを感じた。
この、湧きあがってくる熱は何だろう…。
ドクドクと体の中心へと集まってくる気がする。
初めて触れた男の身体が、見た目以上に逞しいのを、布越しの筋肉の硬さで知った。
ただ触れている…、それだけのことなのに、そこから広がっていく熱さ…。
「あ…っ…」
泣き声とは違う反応に、佐貫の覗きこんでくる表情が見える。
涙目で見上げた先の顔は少し歪んでいた。
そんな成俊に、佐貫は一瞬怪訝な顔色を浮かべた。
しかし、すぐに状況を理解したように成俊の背をさすった。
「”その手”のモノを入れられたのか…。この辺で出回っているクスリは想像がつく。あんたには無縁だろうが『催淫剤』っていうのがあるんだよ」

佐貫は成俊の持った反応でそれとなく気付いたようだった。
そんな薬物の存在など、これまで生きてきた人生では全く知ることのない話であり、成俊自身佐貫から何を告げられているのか理解に苦しんだ。
ただ、襲ってくる”興奮”はもう逃しようがなくなっている。
「近くに車を停めてある。とりあえず、…うちが一番近いな…」
何やら頭を巡らせていた佐貫だが、すぐ答えを出すと成俊を促した。
どうなるのかと脅える成俊に、佐貫の自宅に向かうのだと説明されれば頷く以外のことができるはずもない。
道端での惨めなやりとりをこれ以上人目に晒すのも嫌だった。

クスリのせいなのか、先程まで心の中に燻っていたものが一時的にも消えていく。
悩むよりも今は身体をどうにかしたい方へと気が向いてしまっていた。
自分が壊れていくような恐ろしさがあるのに、何もかも投げ打ってしまいたい自棄もある。

抱え上げられるようにして連れ去られたコインパーキングの中で、助手席に横にされ離れていきそうになる人肌に無意味に縋ろうとする。
手を伸ばせば、納得したような、そして諦めたような切なげな顔が見えた。
「すぐ、家に着く」
その”すぐ”がもどかしい。
なんなのだろう、この感覚は…。

辿り着いたところは見栄えの良いマンションだった。
日野の家もそれなりに良かったが、こちらは”家族”が暮らすような『広さ』がある。
安らぎがあるような空間の作りの良さに反応するのは父親だったからなのか…。
全身から力が抜けた成俊はただもたれかかるように佐貫に支えられて部屋へと辿り着いた。
身体は火が付いたように熱くなっていて、しかも肌をすべる布の感触まで敏感に感じ取るくらいだ。
ソファに座らせられて、「ラクにしたほうがいい」と上着とネクタイをとられた。
だけど、触れてくる指の動きに信じられないほど身体が反応し戦慄いた。
「な、なに、これ…、…俺、へん…」
自分の体のことを佐貫に言って理解してもらえるはずなどないのに、洩れた声に佐貫の視線が成俊の全身に走らされる。
下半身には、自分の意思とは関係なく硬さを持ち始めた性器の存在があった。
「う…そ、…や、だ、…おかし…ぃ…」
羞恥であるはずなのに、そんなことにまで興奮した性欲が生まれる。
「クスリのせいだ。切れるまではちょっと辛いだろうが…」
「はぁ…ぁあぁぁ…」
だがあっという間に性器は大きく成長し、衣類の中に閉じ込められている窮屈感を味わう。
「ど、どうしよ……」
セックスレスな生活の中、自慰をすることも多々ありはしたが、佐貫が状況を理解している中で、トイレに籠るのも嫌だ。
「あぁぁぁ…」
恥ずかしいと分かりながら股間を抑えれば、それがまた新たな刺激となってしまった。

「出した方がラクになれるだろ」
隣に座った佐貫の、淡々と告げられる言葉の中には同情も込められているのだろうか…。
幼い子を宥めるように髪を撫でられ、その手が頬に触れる。
人肌の温かさに、掌に頬を寄せようとして思いとどまった。
「や…」
今触れられたら、もっと淫らになってしまうようで怖い…。
「ベッド、使うか?俺は出ていってやるから」
蔑むわけでもなく、当然のことと言ってくれる潔さには感服するが、そんなことになったらこの先どんな目で見られるのかとも思う。
ただでさえ、先程わぁわぁと泣き喚いて恥を晒しているのだ。
プルプルと首を振れば、「意外と強情だな」とクスリと笑われた。
だが佐貫は立ち上がると、ひょいと成俊を抱きあげてしまった。
「吐き出したい時は全部吐き出すのが一番良い」
佐貫の言葉は、身体のことも精神のことも言われているようで、成俊はまたグズグズと崩れていく自分を感じた。

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クリスマスなのにまた暗い話に…
表記が曖昧でしたね。前話に『享利』という名前が出てきましたが、安住のことです。
安住享利(あずみ きょうり) 佐貫光也(さぬき みつや) 譲原望(ゆずはら のぞむ) いつのか分からないけど同級生です。

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眼差し 14
2010-12-25-Sat  CATEGORY: 眼差し
至極丁寧な扱いで寝室のベッドの上に下ろされた。
抱きかかえられて歩いている間だけでも擦れる肌が痛いくらいに反応する。
人肌が心地いいなどと思ったのはいつが最後だろう。
佐貫が男であるのに、そんなことはどうでもいいくらいに、今は誰かに縋りつきたい気分になる。
これも薬物が影響しているからなのか…?

「クスリが抜けるまでにしばらく時間がかかるはずだ。ここなら疲れてもそのまま眠れる」
『疲れ』とは何が?という疑問よりも、離れて行こうとする態度に、途端に不安が生まれた。
「や…、俺、どうなっちゃうの…?」
「常習性はないはずだから安心しろ。誰かに、ここにいることを伝えておいたほうがいいヤツっているのか?」
佐貫はあくまでも身体を気遣ってくれる。
今夜は帰れないという意味か、そんなに何がどうなってしまうのかと考えれば考えるほど、未知の世界に成俊は脅えた。
日野はいちいち成俊の行動を気にかける人間でもなく、連絡はなくても問題ない。
譲原にしたって、今日のあの写真のあとですぐに成俊に連絡を取りたがるとも思えない。
首を振れば、「一過性のものだ」と安心させるかのように、やはり何も聞かない佐貫がいる。

淋しがる感情を隠すこともできずに、成俊は目に涙を溜めると、「行かないでほしい」と態度だけで訴えた。
一人にされるのは心細い。
しかし、持て余す身体があるのも事実で、その狭間でどうしていいのか自身でも分からないほど混沌としていた。
「そんな目で見るな。いくら俺でも耐えられなくなる」
佐貫の言葉の意味を理解するのに、時間がかからなかったことが、成俊には不思議なくらいだった。
この男も、”そういう目”で男を見ることができるのだと知る…。
自分がソッチ系の眼鏡にかなうこと自体驚きだったが、それが分かっても彼を拒否しようとも思えず、嫌うこともない。
今となってそういった人間がいるのだと自然と受け止められる自分がいた。

「ど、していいのか、わからない…」
今更精通もなかった頃のガキではあるまいし…と、成俊は口に出してから思ったが、洩れた言葉は確実に佐貫に届いていた。
困惑した表情の佐貫が一度静かに瞼を閉じた。
それからフッと息を吐き出される。
自分よりもずっと多くの人生を見てきた人間だ。
「自分を見捨てるな。俺は、今のおまえに付き合ってやることはできる。でもこんなことで後々後悔させるようなことはしたくない。ましてや享利の」
「親子じゃなかった…」
突然発せられた脈略のない成俊の発言に、佐貫の台詞が途切れる。
何の話か?と不思議がるのが分かるのに、説明をするよりも先に溜めていた思いが口をついていた。
佐貫からも置いて行かれそうになる、言いようのない恐怖。
佐貫はこれまでも何も聞いてこなかった。
何故自分があんな場所でチンピラに捕まってしまったのか、それ以前に、あんな場所をうろつく原因があったこと…。
誰にも言うつもりがなかったのに、口にできた理由はなんなのか成俊にも説明などできない。
ただ、初めて出会った時から佐貫は言葉を選ばず核心を突いてくれるストレートさがあった。
なのに決して否定せず貶しもしない。
成俊が言ったことが佐貫の耳に入れば当然のように譲原にも聞こえることとなるだろう。
真の親子でなかったことは自分だけの秘密にしておきたいと思うのに、呟いてしまったのは、心のどこかで誰かに縋りたい弱さがあるせいだ。
そしてきっと、佐貫は譲原に言わないという勝手な思い込み…。
道端で抱きしめられた時、ずっと耐えて燻っていたものが一気に弾けるように泣き喚けたのも、佐貫の人柄を感じ取れたからだ。

…たぶん、この男なら信じられる…。

「わかんない…よ…、もぅ…、どうしたらいいか…、わかんな…」
心にかろうじて残っていた枷が崩壊した。
同時に触れた体温にドクンと肌が粟立つ。
「はぁぁあぁぁっ…」
自分の声とは思えないような喘ぎ声なのか泣き声なのか、成俊はもう止められなかった。
気遣うように抱きしめてくれた佐貫の腕に不安が宿るのを、成俊は己の『我が儘』という力で封じ込めたかった。
こんな風に人を見たことなど、かつて一度もない。
弱みに、完全に付け込んでいるのだ…。
自分の我が儘は常に胸の奥に隠してきた。

成俊が女と結婚していることを知っている。
男など相手にしたことのない人間なのだとも気付かれている。
道を踏み外させるような気持ちが佐貫にはあるのかもしれない。
職業的な立場から、背徳感もきっと存在しているのだろう。

だけど佐貫は、成俊の感情を汲み取ってくれた。
何かを確かめるわけでもなく、無言で成り行きの行為に付き合ってくれる。
「今からのことは全て忘れればいい」
佐貫の指先がシャツのボタンにかかる。
身体が発火するように熱いせいだろうか、触れる肌が冷たくて心地よくて…、同時に纏う欲望。

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素敵な週末を~♪(さりげなくまた放置するらしい…)
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眼差し 15
2010-12-27-Mon  CATEGORY: 眼差し
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。

裸にされることに羞恥心が湧くのに、今は吐き出したい欲求の方が強い。
ずっと疼いて、窮屈だった下半身が空気に触れると、それだけでホッとした。
ベッドに横たえられ、上着だけを脱いだ佐貫が、成俊の脇に腰を下ろす。
成俊の分身はすでにたらたらと滴を垂らすまでに成長していて、こんな形で興奮したこともなく、別人の体を見ているようだった。
伸ばされた佐貫の掌が成俊の脇腹から中心に向かって這った。
「見た目よりもずっと細かったな」
佐貫が言いたいのは体格のことなのだろうか。
触れられた場所がジンとして言葉の意味まで理解できるほどの余裕はもうない。
「あぁぁぁ…っ…」
徐に握り込まれると更に蜜がこぼれ出てくる。
「やめ、だめ…、出ちゃ…」
人の手とは、こんなに刺激の強いものなのか、と焦りも生まれた。
いくらクスリのせいとはいえ、触れただけでイくなど、これまでの成俊に経験はない。
「かまわない。誰に言うわけじゃないから安心しろ」
成俊の抵抗など気に止めることなく、佐貫に数度扱かれてしまえば堪えることなどできずに、首を仰け反らせてあっという間に吐精した。

流れる血液が沸騰でもしたかのように、もっと全身が熱くなる。
内側から燃やされているようだ。
恥ずかしく思いながらも、佐貫の手を汚してしまったことを申し訳なく、そっと伺い見れば、意外だと言いたげな驚いた顔が見えた。
それから「チッ」と舌打ちする音が聞こえた。
いくらなんでも呆れられているのかと、フィと顔を佐貫とは反対側に背ければ、汚れた手を拭っているのだろう、動きが視界の隅を走る。
「ご、ごめんなさ…」
咄嗟に泣くような声で謝ると、「おまえのせいじゃない」と少し苛立だしい口調で答えられた。
佐貫が「一人にしてやる」と言ってくれたのに、自分の弱い心を晒し、甘え縋ってしまったことを今更ながらに後悔した。

今吐き出したばかりだというのに、成俊の性器は鎮まらなかった。
もうこれ以上、どうしたらいいのか、自分の体を丸めるようにして背を向ける。
「あー、悪い。勘違いさせてるよな」
佐貫の手が再び伸びてきて、成俊の項から肩甲骨をたどった。
その瞬間にも、ビクビクっと快感が走り抜けていく。
「あんたの今の顔があまりにも良くて…。俺の方が自制できなさそうなことにイラついたんだ」
成俊の暮らしてきた生活や今の心情を読むことができれば、頭を巡ったことも佐貫には判断がついたのか。
声音はひどく優しかったし、素直な気持ちを表していた。
成俊の体を撫でてくれる温かさは嫌う者のものではないと、肌を通して感じられるようだった。
「?」
またしても意味が分からず、だけど振り返ることなどできない。
ゾクゾクと粟立つ肌を戒めたくも、佐貫の指の動きは止まらない。
「男との経験なんてないんだろ?」
視線を合わせることなどなく、コクリと頷く。
そんなことは分かり切っていてこんなことをしているのではないのかと、逆に聞きたくなってしまう。
けど、身体を撫でてくる指先に僅かな躊躇いがあることに気付き、佐貫の台詞を振り返った。
佐貫が男を相手にできる人種なのだとはすでに知ったことだ。
てっきりこれ以上の何かをされると思い込んでいたが、“自制できなさそう”とは、佐貫は最初から自分の欲求は抑える気でいたのだろうか。
たぶん、全ては成俊の、昂っていく身体と参っている精神が生み出す一時的なものと思って、この行為だけで済ませるつもりなのだ。

成俊はくるりと顔だけを佐貫に向けた。
苛立つ表情よりも耐え忍ぶ色の方が濃くなっているようだ。
「その顔も、な…」
男が男の何に対して興奮するのか、成俊には理解できない。
ただ確実に言えることは、佐貫は今、お預けを喰らって指を咥えているところ、ということだ。

自分を救ってくれようとした佐貫を追い詰めているのは成俊自身だった。
何よりも自分から願った。
どんなことをされてもいい…と。
人肌が恋しくて、温もりを求めて、それは佐貫の手だけを汚すことではないはずだろう。

「好きにして、いいから…」
自分からこんな台詞がこぼれたことも信じられなかった。
戸惑いを隠しもせず、佐貫の指が、紅潮する成俊の頬に触れる。
「引き返すなら、今だぞ」
成俊は首を横に振った。
「いい…。もう、おかしくなりたい…」

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お待たせいたしましたー。
焦らしプレイ、放置プレイですみません。
♪もーいーくつねーるぅと…な時期ですね。
次はいつupできるのか…。

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