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BLの丘
待っていたから 10
2013-10-30-Wed  CATEGORY: 待っていたから
 香春と嘉穂が自宅に帰ったことに母親は驚いたようだが、勉強が終わったのだと伝えれば納得もしてくれた。
「お友達はどうしたの?」
「置いてきた」
「あ、いや…。なんか福智さんが『勉強したい奴には教えてやるから』って…」
 母親の現状確認に、香春は冷たい言葉を発するが、嘉穂はしっかりと状況を説明してくれる。
 それに感心した眼差しを浮かべるのは、とても筑穂に似ていて、途端に『一緒に勉強してきなさい』と言われるのではないかと脅えた。
 中学校に上がってから、何かと勉強にうるさくなった。どんどんと嘉穂と離れていく成績を心配するのは分かる。この先に待ち構える『高校受験』は大げさな言い方をすると人生を分けてくれる。
 夏から塾に通わせようというのも、"より良い"環境を求めてのことなのだろう。
 当然喜ばれしことなのだが、時間を拘束される危機感の方が香春には強い。
 とりあえず、嘉穂の家に戻れと言われなかったことに心がホッとしていた。

 香春は嘉穂の背中ばかりを追い掛けて育った。そのため、どこかおろそかになった部分があったことも否めない。それらは顕著に普段の成績に表れてくれている。常に教えてくれる人が家庭内にいる津屋崎家は、学問に疎い鞍手家とは雲泥の差があるのだと知らぬ間に刷り込まされていたが…。
 香春の父親は最終学歴が"高校卒業"となっている。母親も短大卒だ。何がどう違うのか分からないが、筑穂や福智と違って簡単に問題を解いてくれない現状は、確かに香春にも伝わっていた。もし兄姉(きょうだい)がいたとして、津屋崎家のように同じく教えてもらえることがあっただろうか…。
 だから香春が嘉穂の家に遊びに行くことは、小さい頃から"許されていた"ことだった。その影には、必ず宿題が片付けられることと、筑穂並みの頭脳を求められていたことがある。
 それを意識するよりも独占欲が働いた。幼い独占欲は、何よりも嘉穂を求めていたのだ。
…そう、今日のような、小さなイザコザの解決を優先にしてしまうほど…。
 何より香春が恐れていたのは、もちろん嘉穂が自分の知らない世界に飛び立ってしまうことだった。
 先を歩く人は、一番身近で、嘉穂の兄、穂波の存在がある。彼は飲食業の仕事に就きたいと言い張って、長兄の筑穂の希望ではない道を進んだ。もちろんそれだけの意思があったから、どんなことがあってもと言いきった背景がある。最終的には筑穂が折れていた。
 香春には何があるのだろうか…。まだ何も見えてこない。
 勉強の話をされるたびに、離されていく現実を知る。胸に燻っていくものは日々大きくなるが、まだ現実のものとして降ってはこなかった。
 八女の"勉強熱心"な存在が今、尚、危機感を強めてしまったのだろうか…。
 嘉穂がただ幼馴染としてそばにいてくれる時期は、そろそろ終焉を迎えるのかもしれない。
 昨夜、嘉穂が何かとこれまでと違う行動を取った態度がまた脳裏を過る。…いつまでも、子供のままではいられない…。


 その日を境に何より一番変わってしまったことは、次の機会から嘉穂が鞍手家に泊まらなくなったことだった。
 嘉穂は食事に来たとしても、すでに身を清めた状態で、鞍手家では風呂には入らない。確かに暑くなるこの頃、真っ先に汗を流したい気持ちは充分理解できている。鞍手家の手を煩わせたくない結果だということも…。
 夕ご飯を一緒にしても、「帰る」と嘉穂は言う。平日であれば当然のことだったが、週末の宿泊も筑穂からの連絡で必要がないと伝えられた。そうなれば、鞍手家から何かを言うこともできず、大きくは出られない。
 学校の中で八女が何かと動き出していることは一切聞かなかったから、少しだけ安堵もしていた。でも教室の壁に阻まれた世界は遠い。

 あの日、嘉穂と香春が福智の『勉強会』から逃げてしまった日、あとで福智に聞いたところ、八女はひたすら嘉穂の生活についてのことを聞いて帰ったそうだ。当然勉強など一つもしていない。
 その内容が何であったのか、どんな答えを言ったのかは、うまい具合にはぐらかされてしまった。香春の不安を絶対に知って、協力してくれる人だと思ったのに、肝心の部分では頼りにならない。香春はムスッとしたが、誰とて構ってはくれなかった。所詮、ただの『ガキのたわごと』なのだろう。
 津屋崎家を訪れれば、いつだって福智は不敵な笑みで迎え、帰りには筑穂が困惑気味に送りだしてくれる。最初の頃は事故を心配されているのかと思ったが、それもまた違うようだ。日が暮れれば嘉穂がついてきてくれた。嬉しいのに、義理のようで悲しい。
 まるで切り離されているようで不安だけが襲ってきた。嘉穂の地位に見合わないと思われ、すでに"幼馴染み"の領域を越えたと、見限られたのだろうか。
 津屋崎家は"学"に厳しい。自分は嘉穂にふさわしくないと、まるで宣告でもされているようだった。
 そんな中で、唯一の救いは、朝のお迎えと、放課後の逢瀬。これらは何も変わらなかった。
 サッカー部は大会に向けて、朝連も放課後の練習メニューも厳しくなっていったが、嘉穂は音を上げることなく張り切っていく。むしろ、水を得た魚だった。その姿は余計に凛々しく見えていくものになった。
 朝、筑穂は温かく出迎えてくれるし、放課後、時々香春の家で長居をしていると、筑穂か福智のどちらかがお礼を言いながら嘉穂の迎えにくることもある。
 学校の帰り、嘉穂が走り回るサッカー部の練習場の金網の外で待っていても、嘉穂の態度は変わらない。夏の大会でレギュラーになったから、下級生にもその人気は高まっていった。その中でも必ず嘉穂は香春に視線を向けてくれた。誰に言葉をかけられても軽い返事だけで、"あいさつ"するだけに留まっている。もちろんそこに八女の姿もあったが、扱いは"ただのクラスメイト"の域を越えていない。
 嘉穂と肩を並べて帰れることが、香春の中で優越感となって宿る。その仕草、態度だけが香春を"特別な存在"に押し上げてくれる。
 徐々に香春は、もっと嘉穂を独占したい欲求に見舞われ始めた。スキンシップを過度にとらない嘉穂と手をつないでみたいとか、いつかの日のようにキスをしてみたいだとか…。
 こんな自分は『インラン』なのだろうか…。胸の中に溜まっていく得も知れぬ不安感は、そばに居るはずなのに大きくなっていく一方だ。
 何か確たる証拠がほしいのに、いつの頃からか、並んで歩く距離まで間があいたような気がする。
 嘉穂の体温が、感じづらくなってきた…。
 それでももう一歩が踏み出せない。
 香春が何かを口走って、本当に嘉穂にウザイ奴と嫌われ、遠くに行ってしまったら…と、恐れるものが胸に蔓延(はびこ)った。
 無邪気に笑えなくなった、時の移ろいを肌で感じる。

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* あくまでも記述上のことで、学歴について何かをいう意味はありません。もしも不愉快になられた方がいらっしゃったならお詫び申し上げます。
私自身、そんなことより、生きていける人生の中、見方に重きを置いております。人それぞれ、感じたものが全ての糧だと思っておりますので…。
なかなか書ききれないところがありますが、お許しください。
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待っていたから 11
2013-10-31-Thu  CATEGORY: 待っていたから
 日々の繰り返しの中、どんどんと離れていく嘉穂の存在は、少ない時間でも嘉穂の機嫌を伺い、また自分の意見も言い、少ないながらもっと近づけたいと思い始める。
…もう、嘉穂は泊まってくれない…。
 どんどんと間をあけられているようだ。

 そんな時、筑穂と福智が"出張"になったのだと聞いた。それも一泊の…。
 絶対に帰ってこない状況に香春はどうしても嘉穂を一人、家に残すことを危惧する。それは筑穂にとっても同じことのようだった。
 別に嘉穂が誰かを家に連れ込むことはない。そう信じてはいても、どこかでハメを外したがる年頃。香春が嘉穂に触れたいと思うように、嘉穂も誰かにそういう感情を抱くのだろうか…。
 会社上のお付き合いがあり、上司から求められては我が儘も言えない状況がある、社会人としてのマナー(←?)も教えられた。
 時には不本意でありながらも、赴かなければならないこと…。そうやって人は、辛いことや苦しいことをこなさなければいけない。
 お給料をもらう、とは、とても大変なのだということ…。
 いつか自分もそうやって働いていかなければならない世界があること。嘉穂は、どんな道を歩むのだろう…。

 育ててもらっている身分の香春にはまだ想像もできない。同じように父親も働く姿を時々見せてくれたが、現実は他人事だった。その現場に行って、カッコイイと思ったかもしれないが、歳を追うごとに薄れていく。
 どうしても香春には、筑穂のほうが"上"に見えていたからだった。
 こんなことを父親が聞けば嘆くのだろうが、宿題をスラスラと答えてくれたところから、頭脳と地位の違いを感じ始めた。

 筑穂と福智がいないのなら、必然的に嘉穂がまた鞍手家に泊まってくれる…。
 淡い期待は次男の穂波によって打ち砕かれるものとなった。
 今日も嘉穂が鞍手家で夕飯まで過ごしたことに、迎えに来た穂波に母親がリビングまで上がらせた。
 一緒に遊び、嘉穂と一緒に鞍手家に預けられた過去がある慣れ親しんだ場所は穂波も同じで、何の抵抗もなく上がり込んでくる。
 母親として筑穂の労働状況を聞くには、嘉穂よりもずっと穂波のほうが頼りになった結果だった。筑穂と福智が不在になる日まで、あと2日ある。
 その日のことを問えば、穂波はすぐに口を尖らせた。
「兄貴、うるせぇし…」
 ポツリとした答えは、"嘉穂に外泊をさせるな"という意味を含んだ。同時に穂波も自宅待機を言い渡されている。
 穂波にしてみたら、それこそが不満だったのだろう。
 小さな不満を確実に母親は拾った。
「ちくちゃんが心配するのは、ほらくんがまだ成人していないからよ。色々な意味で、何かが起きた時に責められるのは"環境"なの。もしも犯罪になるようなことが起きたら、ほらくんだけに留まらず、家族だからって言われてくる。こんなことを言っては失礼だけれど…。世間の目って、結構冷たいの…」
 母親の言わんとすることは穂波の胸に直に届いていた。

…親がいない子だから…。

 きちんとした躾けがなっていないと罵る人間はどこにだっている。
 世間の厳しさを、言葉の裏に含ませていた。その厳しさは、穂波もこれまでにいたるところで受けていた。だから気にしていないはずだった。気にしないよう、筑穂が育ててくれた。
 だが、筑穂と嘉穂が絡んでくれば、思いは違ってくる。
 何より責められるのは、穂波からみても、社会的信用を築き上げた筑穂なのだろう。
 そうあってはいけない…。無意識のうちに、家族全員が"守り"の態勢になっている。未成年の穂波が問われることがなくても、筑穂はそうはいかない。分かるから筑穂に従う。
 嘉穂に外泊を許さなくなったのも、筑穂なりの考えがあるからなのか。
 そこのところは穂波も理解するのだろうか。だから、出張の時も、自宅にいて、二人を監視しあう状況にした。
 兄弟、それぞれ、道を外さないためにも…。

 しかし、本当の意味は違っている…。
 それを香春の母親は気付いていた。
「ほらくん。その日の面倒は全部、おばさんが引き受けてあげる。ちくちゃんが出ていった時から、ほらくんは自分の目指す道に進めばいい。あとの嘉穂くんの時間はおばさんの責任よ。こんな若い時から、弟の世話なんて背負いこむものじゃないわ」
「でも…」
 明るく朗らかに笑ってくれた人に穂波は次の句を告げられなかった。暗に含まされる言葉は、滅多にない保護者から解放された時間であって、そんなときこそ、羽を広げて楽しめというもの。
 先に犯罪行為の厳しさを告げたのは、決してそんな状況にならないようにと匂わせていた。
 兄を気遣う穂波だからこそ、信頼がある。
『息子と同じように全ての責任を負う』…。
 どこかで確実に、筑穂と穂波から、"弟の世話"から解放してくれていた。穂波が喜べる道を…。

 筑穂は穂波の勉学面で嘆いたかもしれないが、穂波という子は状況を読むには長けた子だった。兄からの教育、弟への指導。その狭間で自分の自由を手に入れ、弟にも気を配れる、感心できる次男。
 他人ちの子供まで面倒を見る負担とはいかがなものなのだろうか…と穂波は香春の母親を心配した。だがそこは、一人の子供を育てている母親ならではの強かさがある。彼女には彼女なりの、思うところがあるのだろう。
 若い穂波は母親の指示通りに受け入れ、動いた。甘えた…というのが正しい。もしもまだ津屋崎家に親が健在だったなら、生きてきた道は大きく異なっていたはずだ。
 穂波は、嘉穂と同じ"男"として、すでに状況を把握していたのかもしれない。
『ふたりきり』にしたら確実に動き出すもの。
 男として、"守らなければならない"人(もの)がいるのだということ。兄の背を見た嘉穂は、それに気付くのが早かった。
 不安になり続ける香春。…息子に何を教えたいのか…。

 隣で話を聞いていた嘉穂と香春は意味が分からないとキョトンとしていた。
 暗黙の了解は穂波と母親の間で築かれる。ここでかわされる言葉は穏やかそうでありながら、何か張り詰めたものを宿している。
 その全てをふるい落すように香春の母親は立ち上がって、「もう、おそくなっちゃったわね」と嘉穂の重い腰を上げさせた。
 帰宅が遅くなっては筑穂が心配する…とは、端々から感じられることであって、また、信頼を生むものになる。それを思うからこそ、素直に行動に移す。
 玄関で去り際、香春の母親が空の星を見上げるようにそっと呟いた。

「たまにはパパとふたりきりで見ましょうかねぇ」

 ここ最近、話題になるような天文ショーはないはずだと思った人は何人いたのだろうか…。
『ふたりきり』…。
 どれだけ託した思いだったのだろうか。

 筑穂と福智がいなくなった日、香春は嘉穂の家に居た。
 事前の相談通り、穂波は帰ってこなかった。


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また視点が変わってしまっておりますが…。
どうしても上手く状況を説明できない、おバカな作者でした…m(__)m
伝わっているのかなぁ…(香春並みに不安…)

あと、久し振りに脇にアンケートを貼りました。12月上旬の締め切りの予定です。
一年お付き合いくださいました方々に、少しばかりでもお礼をしたいと思います。
(出来れば全部…なんですけれど、無理だしね)
強制ではありませんが、つぶやきコメントでもいただけると想像しやすいです(←あぁ、お題っていうアレですね)
すっかり読者様の妄想にアイディアを頼っている…とかそんなこと言わないで…。
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待っていたから 12
2013-11-01-Fri  CATEGORY: 待っていたから
ちょっとですが性描写があります。閲覧にはご注意ください。


 香春は津屋崎家の風呂を借りた。ここ数年、なかったといっていい。しかし自分の家とは違った造りがあっても、幼い頃から嘉穂と入浴していた香春には、特に戸惑うこともなかった。体に染みついていた…というべきだろうか。
 今日は当然ながら、一人ずつの入浴で…。
 筑穂と福智がいない夜、珍しく母親が津屋崎家で夕飯を用意してくれた。筑穂が残していった食品があるから…と言い訳めいた言葉があったが、本当のところは、夜になってもお腹をすかせない配慮があったのだろう。嘉穂は自宅にいれば、遠慮することがない。
 香春は母親が先に帰宅する時、自宅に帰って来いと言われなかった。もともと津屋崎家と一緒で暗がりの中を歩かせてはくれない。穂波がいなくて嘉穂に「送れ」と頼むのも憚られることから、それは『泊まっていい』という合図だろう。
 勝手な解釈をしたが、夕食を食べ終わっても鳴ることのない携帯電話は、親の不安がないことを意味している。信じられていると言うべきか。何かあれば津屋崎家に迷惑がかかる。だから、ここから出ることは、ある意味、許されない。

 風呂から上がって、嘉穂の部屋に行った。まだ寝るには早い時間だが、広い居間にいる気にはなれない。そこには泊まるための布団もなかった。それは用意してくれる人がいないからなのだが…。
 小さい頃は一つの布団で並んで寝たものだ。今でもそうあってくれるのだろうか…。
 淡い期待が胸に湧いて、しかし、『インラン』だと思われたくないから平然と振る舞う。
「嘉穂くん、部屋が綺麗になった?」
 いつも以上に整理された部屋に見えたから素直に口にしてしまえば、肩を竦められた。
「香春まで言う? 片付けろってほらくんにも言われるし、にぃちゃんがこの前、『いる、いらない』の判別でほとんど捨てられたの」
 散らかっていたものたちは、兄の教育で選別され、スッキリとした現状に至ったらしい。
 ベッドの前の空いた場所に座る。以前は物をどかしてから座る場所を作ったのに、今日はすんなりと腰を下ろせた。
 嘉穂は「何かお菓子、持ってくる」とスッと部屋を出ていってしまう。
 香春は緊張しながらも綺麗にされた部屋を見回す。香春も母親に良く「片付けなさい」と言われる。嘉穂が来ると分かるから綺麗にしていたが、それは嘉穂も同じなのだろうか。
 今日のこの日のために…。待っていたような雰囲気を感じてしまうのは、自分の浅ましい考えだからなのか…。
 少しして嘉穂はポテトチップスと牛乳を持ってくる。トレーに乗せられたものは青い絨毯の上に直に置かれた。整理されたとはいえ、部屋にある小さなテーブルは物で埋め尽くされていた。今更それらをどかす気はないようだ。
 香春の隣に嘉穂は座る。ベッドに寄りかかるようにして…。座椅子の代わりになっている。
 香春は「いただきます」とグラスに注がれた牛乳を一口飲んで、乾いた喉を潤した。何を話したらいいのか分からない緊張感を解させる意味もあった。
 嘉穂を前にして、こんなに心が緊迫したことなどあっただろうか。そしてまた、嘉穂にこの緊張を悟られないためにも、"普通"に振る舞わなければいけないと思ってしまう。
 緊張は嘉穂にも伝わったのか、 躊躇ったような嘉穂からスッと腕が伸びてきた。

…触れてもらえる…。その瞬間がこらえようもない感激になる。

 ただ抱きしめられる、それだけなのかもしれない。
 でも違う熱が全身を包んでいった。今までとは全く違う熱…。
「香春…」
 掠れた声はいつもと違っていて、嘉穂の緊張まで伝わってくる。背中まで回された太い腕が、何かを確認するかのようにギュッと絡まれる。
 胸の奥が痛いのに、嬉しくて、弾みそうになる。
 嘉穂は香春のもの…。そう思うから香春も嘉穂の体に手を伸ばした。自分よりもずっと、すごく大きい体がある。
「嘉穂くん…」
 囁かれる声に返すように香春も嘉穂を呼んだ。抵抗する気など何もないと体で告げる。
 分かってくれたのか、嘉穂は顔を寄せてくる。何をするのかはすぐに悟れる。

 唇が温かくなった。チュッと小さな音がした。
 キスをするのは初めてではないが、気持ちが全然違っていた。
 まだ幼い頃から、「かわらはかほくんのおよめさんになるの」と周りに言いふらしていた頃。いつだって嘉穂を独占してきた。不安になっていた最近が、この瞬間にも吹き飛んでいく。
…もっと欲しい…。

 何でもいい。本音を言葉にして欲しいと願いが込められる。
 香春は離れていきそうな唇にまた寄った。「やましい」と言われてもしかたがないくらい、嘉穂を求めていた。
「こんな、俺…、嫌じゃない?」
 吸いついてくれた嘉穂が不安げに問うてくる。今更何を聞こうと言うのだろう。
 なんだって、全て嘉穂のものなのに…。
 告げられる全てが嘉穂の戸惑いだと気付いた。これまで躊躇った何かは香春に対してのもの…。
 嘉穂が避けたのは、こんな状況になりたくなかったから…。
「いやってなに?」
 逆に聞いてみる。
 香春のことを嫌わないでいてくれたらそれだけでいい。
 躊躇った嘉穂がいたが、正直に心の声を吐きだしてくれた。
「俺、変なんだ…。香春のことを思うと、ココが熱くなる…。こんなふうに、すぐ…」
 そっと手を引かれる。
 触れたトコロはまず、滅多に目にすることがない場所。一緒にお風呂に入って先に意識してしまったのは香春だったが、もしかして嘉穂も同様だったのだろうか。硬くて、熱を帯びた箇所はそそり立っていて、布地で隠れてはいたが明らかに普段とは違う。
「か、嘉穂くん…?」
 香春はもちろん動揺したが、それが自分を求めてのことだと分かれば、嫌悪感も何もなかった。
 香春も時々、股間が熱くなる時がある。濡れて恥ずかしくて父親にも言えなかったが、保健体育の時間で"精子がつくられる"授業を受けて、少しばかり納得した。まぁ、それはもっと以前のことだが。
 興奮する…。
 それが自分に対して…となったら、こちらが興奮した。
 次に待ち構えるもの。嘉穂が絶対的に自分のものになるということ。
 その"確信"が得られるのなら、嘉穂の求められるようにしたい。体の全部を差し出す意味が分かってくる。

「香春…。好きなんだ…。俺、いつ、香春に酷いことするかと思って近づけなかった…。香春と一緒に風呂に入った時、怖かったんだ。…香春、綺麗すぎて…」
「え…?」
 だから、接触を避けたのだという。
 筑穂に頼んで、絶対に泊まらせない状況も作ってきたのだという。
 香春が心の底から望んでいたことは、故意的に避けられたのだと言われたら落ち込みもしたが、この時を待ったのだと伝わると反対に嬉しくなった。
 そこまで求められること…。嬉しすぎて舞い上がる。

 母親は気付いていたのだろうか…。
 穂波も…。
 だからゆずられた、一晩…。

「ちくちゃんには絶対に内緒よ」
 イケナイ遊びを楽しむ前に母親は釘を刺していった。
 犯罪にならない限り、親はやってこない…。

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R いらなかった??? お子様のエチは書いていいのだろうか…(←すっごい気が引けているんですけれど…。私の中で最年少だよ。中学生……。中学二年生ってえっちなことに興味、持ち始めるのかなぁ。まぁ、嘉穂は兄がいるだけにねぇ。きっと福智あたりが『奪われる前に奪っとけ』とか言ったんだろうね。ちくちゃんに内緒で…。福智、何かネに持っていたりして…???)
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待っていたから 14
2013-11-03-Sun  CATEGORY: 待っていたから
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


 香春の震えを嘉穂も感じたのだろうか。動きが一瞬止まった。
『好き』…。その声に反応したようにも思えた。
「嘉穂くん…。好きだよ…」
 戸惑わせないようにもう一度囁いてみた。
 驚いたような、だけれど苦しそうな顔が見下ろしてくる。
 嘉穂は何を考えているのだろうか…。香春は分からなくて不安になって、また「嘉穂くん…」と呼びかけてしまう。
 温かな唇がまた降ってきた。
…キスって気持ちいい…。
 そう思わせてくれる、口腔内の蠢きが感じられる。

 嘉穂の手が、自分でも見たことのない場所を擦ってくる。
「ここ…。ここで、繋がるんだって…」
 体の中に誰かを受け入れることは、"特別"なことなのだとどこかで聞いた。
 今がその瞬間なら受け入れるべきだと思う。
 それでも嘉穂には戸惑いがあるのだろうか。ぎこちない動きはまた、香春までも不安にさせた。
 お互いに知らないことだらけだと、この時にも思う。
 もしかしたら、嘉穂はすでに、誰かと関係があったのかという不安は、このぎこちなさのもとで吹っ飛んでいった。分からないから、ためらうのだ。
 後孔の上を嘉穂の指がさする。
 小さくて窮屈な場所に、嘉穂のナニが打ち込まれるのだろうか。
 想像しただけで怖くもあったが、それで嘉穂の全てが手にいれられるのなら…。

 躊躇うことなどなかった。

「好きにして…」
 大人っぽいセリフを吐いた。嘉穂の好きに弄っていいと訴える。
 嘉穂はまたくちづけて、最後の躊躇いを振り払ったようだった。
「香春…。好きだよ…。誰よりも、大事にしたいんだ…」
 嘉穂の全ての思いだと香春は受け取った。それがどれだけ嬉しいものになるのか、嘉穂は知るのだろうか…。
 きつく抱きしめていた腕の力を解くと、スッと嘉穂の体が滑り落ちていく。
 汚れた場所であるはずなのに、小さな性器を嘉穂の口の中に収められた。
 ぬるりとした、とても温かい口腔内に全身が戦慄く。
「あ…っ、嘉穂く…んっ」
 じゅるっといやらしい音が響いてきた。
 気持ち良すぎて自分が分からなくなる。
「あ…、あぁ…」
 香春は分からない喘ぎを口から零す。
 その言葉までも拾うかのように、嘉穂は香春の滴を舌先で掬った。

 唇を離して、嘉穂が少しだけ香春から離れた。気持ち良さからも離されて、香春は「なに?」と動きを追ってしまう。
 どこに隠していたのだろうか。ベッドの下から、嘉穂は何かを引っ張り出してきた。
 一つはどこかで見たことがある、包み紙。もうひとつは母親が使う美容液のような容器だった。
「福智さんが、絶対使え…ってくれたの…」
 コンドームとローションは、大人だからこそ手に入れられるものなのだろうか。
 卑猥なことしか思い浮かばないそれぞれに顔を赤くしたが、香春のことを思って準備してくれたと分かれば照れは消えていった。
 今更、全身を曝け出しているのだから、羞恥心は違うのかもしれない。

 美容液に似た、ぬるりとしたものを嘉穂は掌に取り出した。
 福智に聞いたというのだから、その手順まで教えられたのだろう。今度、どんな顔をして福智に会えばいいのかと戸惑いも襲ったが、頼りになるお兄さんの印象は強くなるばかりだ。
 自分たちのことを蔑ろにされているのかと不満を持ったこともあったが、心の底では心配されていたと知る。だからこそ、教えられた、アレコレ。
 冷たい液体が体の奥に繋がる場所に付けられて、ビクッと震える。
 それに嘉穂も動きを止めた。
「いや?」
 拒絶されているのかと思われるのは本意ではなくて、首を横に振った。嘉穂の好きにしていいと言ったのは自分だ。覚悟くらいできている、と一層、足を開いてみた。

 液体に塗られた場所が、冷たかったはずなのにじんわりと温かくなっていく。嘉穂の指がきゅっきゅっとさすって、小さな入口をまさぐった。
「あっ」
 どうしたって声が漏れてしまって、香春は怖さから逃れるためもあって、枕に顔を埋める。
 汗ばんだ嘉穂が萎えかけた性器を舐めとった。
「いやだったらいやって言って…。香春に酷いことはしたくないんだ…」
 ずっと堪えていたものがこぼれ出す。こうなることが怖かったから、嘉穂は香春を避け続けた。それが分かれば怖がることなんてしたくない。
 怖いだなんて言えない…。
 香春は首をプルプルと振る。
「いやなんかじゃないよ…。分かんなくて…。でも僕、嘉穂くんのものになりたい…」
 勇気を出して口にした言葉は、しっかりと嘉穂の耳に届いている。
「香春…」
 嘉穂のドクドクとした剛棒が太腿の上で蠢いた。
 続いて「待てそうにない…」と呟かれた。
 何のことだと香春は見つめ上げる。
 強張った嘉穂の顔は見たことがなくて、何か失敗したのかと不安になった。しかし嘉穂は香春の頬に手を当てて、「我慢できない…」と、また言葉を重ねてきた。

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福智ぃぃぃっ。あんたって人は(義)弟に何を教えているのっっっっヽ(`Д´)ノ
保健体育の先生役もするのか…。
また兄(筑穂)は卒倒するよぉ。
穂波の時だって大変だったのにね…。→行ってみよう♪
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待っていたから 15
2013-11-03-Sun  CATEGORY: 待っていたから
間違えてUPしちゃった…。泣く.・゜゜・(/□\*)・゜゜・



R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


…我慢できない…。待てないってどういうことだろう…。
 香春は嘉穂の次の動きを待った。
 嘉穂の手が香春の手を引き寄せる。触れた灼熱の陰茎にドキリとしながら、嘉穂の手と一緒に握りこんだ。
「一回、イきたい…」
 嘉穂が希望し、体が覆いかぶさってきながら、またくちづけを受ける。
 先程香春は、あまりの気持ち良さに吐き出してしまったものがあったが、嘉穂は辛い状態でいるのだろうか。
 それが分かれば、香春もできるだけのことをしてあげたくなる。
「嘉穂、くんのも、舐めたほうがいいの…?」
 香春が尋ねると、大きく戸惑いを見せた。
「あ、いや、それは…。このままでいい…。…香春の手…、あったかくて気持ちいいから…」
 ゆっくりと扱き始める。嘉穂の手にまとわりついたローションのぬめりとは違う、嘉穂自身から零れてくる体液と混じって、滑りはよくなるばかりだ。
 嘉穂の大事な部分を握っている…。そこに羞恥はあるが、それよりも嘉穂の溶けていきそうな表情に気を取られる。
『気持ち良い』と嘉穂が言うのなら、このままでもいい…。
 扱く手が速められると、嘉穂は目を閉じてすぐに苦しそうに眉根を寄せた。嘉穂の腰も大きく揺れる。
「あっ、香春っ」
 そして、もっと熱い体液が嘉穂の先端から飛び出して、香春の腹の上に広がった。
 同時に嘉穂もぐったりと体を落としてくる。筋肉質な体が香春の上にかぶさって、早い心臓の動きと荒い息使いが響いてきた。
 重いけど、重くない…。
 満たされていく気持ちが上回る。
 まだ握ったままの灼熱は全く硬さを失わなかった。
 香春はもう少し触っていたくて、少し手を動かしたら、嘉穂に「うっ」と呻かれた。
「ま、待って、香春…。すっごい、カンジル…」
 慌てふためいた態度に、思わずクスっと笑みが浮かんでしまうのだが…。
 嘉穂のことを考えると、そのまま一ミリも手を動かせなくなった。
…感じるのか…。感じてくれているのか…。
 そう分かると胸がホッと安堵をついた。

 嘉穂はティッシュの箱を引き寄せて、汚れた箇所を拭き取ってくれる。
 それから不安げに香春の瞳を覗きこんできた。
「…まだ、…していい?」
 戸惑いがちに尋ねられて、何のことかと一瞬脳裏を過る。嘉穂の指先が奥の蕾を弄ったことですぐに理解ができた。
…香春の中に入りたがっている…。
 萎えようとしない嘉穂の性器を見ては、嘉穂の気持ちがダイレクトに伝わってきた。
「う、うん…。いいよ…」
 無意識に受け入れる言葉が零れていく。
 嘉穂も一度吐き出したことで、少しは冷静になれたのだろうか。
「今度はちゃんと着けるから…」
 そう言って、脇に放置されていたコンドームの封を切った。
 反り立ったモノに被せていく様子をじっと見てしまっていたら、「見ていないで…」と照れられる。慌てて視線を彷徨わせながら、香春にはつけなくていいのかと不思議になった。
 飛び出すものは同じだろうに…。
「嘉穂くん、僕は…?」
 疑問を投げかければ「香春はいい」と答えられる。
「中、汚しちゃいけないんだって。だから…。それとも香春、射れたい?」
「そ、そんなこと…」
 自分が嘉穂に対して何がしてあげられるのか分かりはしない。今は嘉穂に全てを任せてしまうのが最善だと思われる。
 小さく首を振ると、装着を終えた嘉穂が、「結構、キツイな…、これ…」と嘆いた。
…それは嘉穂のモノが大きいからじゃないだろうか…。
 ふと思ったけれど、そこは言わない。
 いや、改めてその大きさに驚いたというほうか。
 本当にこんなものが香春の中に入ってくるのだろうか。入るのだろうか…。入れるために、香春は小さい場所を大きくしておく必要があるのではないかとも思う。しかし、どうすればいいのか、これっぽっちも思い浮かばなかったけれど。

 嘉穂の体がまた覆いかぶさってくる。もう、今日何度目か分からないキスを贈られて、また香春はうっとりと酔った。
 胸の粒が嘉穂の手で擦られて、少し大きくなって硬くなっていく。
 ジンジンとして、痛みのようなものは体を痺れさせながら、下肢に繋がっていった。
 ピクンっと勃ってしまった分身に恥ずかしさが浮かぶが、嘉穂はそこまで気が回っていないらしい。
 何か夢中になったように、胸を弄り、腰を揺らめかせてくる。
 その弄っていた指が下へ下へと動いていき、隠れた場所をまた触る。
 ぬるぬるとしたローションは残されていたから、滑っていく指がクチュクチュと卑猥な音を立てた。
「あ…っ」
「やっぱり嫌?」
 もう一度最後の確認をされるように見つめられて、咄嗟に首を横に振る。
…嫌なわけがない…。
「僕、大丈夫…」
 答えたけれど、嘉穂はその負担を知るのだろう。香春の体を宥めるように抱きしめてくれた。
「痛いんだって…。最初はすごく痛いんだって…。だから絶対に無理しちゃだめだって言われたの…。俺、香春を泣かせるのはいやだよ…」
 福智は何を嘉穂に教えたのだろうか。
 そうやって脅えたらこの先、何も進まないと香春の方が思ってしまう。
 躊躇った嘉穂の肉茎に指が添えられる。
「嘉穂くんは僕の…。嘉穂くんが欲しいもの、全部あげるから…っ。僕を離さないでっ」
 どれだけ痛くて辛くても、半身を失うようなことはしたくない。
 小さな、そして大きな願いに嘉穂は答えてくれた。
 嘉穂は何回もローションを注ぎ足して、香春の体内に塗りこめていった。嘉穂の太い指が増やされることに窮屈な苦しみが生まれる。
 歯を食いしばっていると嘉穂が何度もくちづけてきて、そのたびにホッと吐息がこぼれた。やがて体の中がじわじわと熱くなる。少しばかり、痒みまで伴ってきた。嘉穂の指が擦ってくれることが気持ちいいくらいに…。
「香春、お尻、こっち向けて…」
「え?」
 嘉穂にうつ伏せになるよう言われて、おずおずと体の向きを変える。動物みたいな四つん這いの姿勢は恥ずかしかったが、腰を強く掴まれて灼熱を宛がわれたら、気持ちというものが霧散していった。
 蕾をこじ開ける。
 
 それは、痛み、というよりも、体を喰い尽される勢いだった。
 自分がこっぱみじんに吹き飛ばされてしまうような…。それほどの衝撃が貫く。
 嘉穂も、待てる理性なんて、持ち合わせていなくて、一気に差し込まれた。凄まじい痛みが全身に響く。 

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20話で終わるのかなぁ…。

祝2000記事です。良く書いたなぁ…。
確か1000の時が圭吾と孝朗だった気がするから、あ、ダブルデートだ。それ思うと、1000話ってかなり昔なのね。そっか。一年365日だもんね…。

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