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BLの丘
見下ろせる場所 5
2011-07-02-Sat  CATEGORY: 見下ろせる場所
一人で…と聞いて、「さようでございますか。ではこちらのお店はいかがでしょう」などと案内できるはずがなかった。
だが、皆野が紹介しなくてもたぶん勝手にホテルを抜け出すのは目に見えている。それも確実に連絡が取れない方法で。
やると思ったことは実行するくらいの行動力はあるはずだ。昨日の岩槻が発言した『奔放』という言葉が脳裏を過る。
どんな内容かは知らないが、なにがなんでも『嘘つき』の兄に一泡吹かせてやりたいのだろう。
甘やかして育ててきたツケはこんなところに表れるものなのか…。

プライベートに突っ込んではいけないと知りながら、皆野は慎弥の真意を探りたく、「岩槻様はご一緒ではないのですか?」と遠回しに話を振ってみた。いないのはすでに承知だが、それをこちらから言ってしまえば意味がない。
昨日知った岩槻の態度では、夜の街に慎弥を、ましてや見知らぬ土地のこの場所で出掛けていいと言っているとは到底思えない。
先程の光景を見られていなかったと慎弥には捉えられたようだ。
慎弥は警戒することなくクルクルと表情を変える。
皆野に指摘されたことが悔しかったのか、兄に言われたことを思い出したのか、頬を膨らませて見せた。
「本当はこの後、ご飯、食べる予定だったんだ。それが、先方の人と、『お互いに時間が取れたから出掛けてくる』って…。だから今日はルームサービスにしなさいって…」
慎弥は俯き加減でポツリ呟いた。『淋しい』と言わんばかりである。
皆野はまたもや溜め息をつきたくなった。
置いてきぼりをくらった嫌味で無断外出か…。そして自分はまたこの兄弟喧嘩に首を突っ込んでしまったわけだ…。

「えーと、ですね…」
呆れたいのだが余りの可愛い反応に、客相手の口調も崩れてしまう。頬が緩むのも止められなかった。
そんな皆野の態度に感じていることを悟ったようで、ますます慎弥の機嫌が悪くなる。
「もういいよっ!!草加さんだって仕事でしょ!!俺のことは放っておいてっ!!」
いつまでも子供っぽい感情でいるのだとは本人も自覚しているらしい。素直と言えばそれまでだが…。
駆け出しそうになる慎弥の腕を慌てて捕まえた。
本来ならこのような行動に出てはいけないのは百も承知している。
しかし、慎弥の話を聞いてしまった以上、放っておけるはずがなかった。あえて言うなら、知りながら放置したことになる。岩槻の不信感を買うだけだ。ましてや話を聞いたのが皆野であれば…。
「お待ちください。少しお時間をいただけませんか?実は私、もう就業時間を終えているのです。少々残務処理がありますがすぐに片付けますので、ご案内いたしましょう」

皆野自身、どうしてこんな台詞が漏れたのか理解できなかった。
ただ、甘えられるものを失って自棄になりかけている彼を野放しにできなかったし、元気づけてやりたい程度だったのだと思う。
そして慎弥の、万華鏡のように変わっていく表情をもっと見たくもあった。
ホテルにいるのは嫌とすでに聞いた話で、例え皆野と一緒でも館内で過ごす慎弥ではない。
だったらこちらから連れ出してやった方が大人しく付いてくるだろうし面倒がない。
案の定…というべきか。慎弥は長い睫毛を瞬かせて、「ほんとにっ?!」と途端に嬉しそうな笑顔に変わる。
穢れを知らない無垢な微笑みだ。
「じゃあ、俺、着替えてくる~。この格好、嫌だったんだ~」
「終わりましたらお部屋にお迎えに伺います」
「ううん、いいよ。ロビーで待ってるから」
皆野はがっくりと項垂れたくなった。それはまさに無言の『仕事をさっさと終わりにしろ』アピールにしかならない。
だけど気付かないのだ、そんなことは。
颯爽と駆け出していった後姿を見守りながら、困ったと思いつつ、自然と笑みが浮かんでしまう。
フロントに戻った皆野は、この後の時間を担当するフロント係に、岩槻への伝言を頼んだ。
少なくとも自分が一緒にいると分かれば安心してもらえるはずだ。皆野の連絡先はホテル側が承知している。
無断外出したわけではなく、皆野が連れだしたことが伝わればいい。

さすがに岩槻の御曹司(?)と理解したからなのか、皆野が残していた処理は口頭で全て済ませることで、すぐに片付いた。
皆野も私服に着替えて慎弥を出迎えると、ぱちくりと睫毛を上下させる。
「なんかさー。草加さんって制服着てると老けて見えるよね」
本音を隠すこともなくビシバシ言ってくる。少し言い方を変えれば『落ち着いている』くらいの回し文句になりそうなのだが、そういった気遣いはないらしい。
思わず気落ちしそうになる。
「さっきだって最初、誰だったか分からなかったもん」
ロビーで声をかけた時のことを言っているのだろう。
こんな職に就いていれば浮かれた雰囲気など醸し出せるわけがなく、自然と貫禄のようなものが身に付いてしまうのだろうか。
それを言えば慎弥だって私服とスーツでは随分と印象が変わるものだ。もちろん口に出すことはないが。

「車での移動でもよろしいですか?」
「うん!もちろんっ!!遠くに連れていってくれるの?」
近隣を案内するだけだと思っていたのか『車』という単語は慎弥に強く響いたようだ。
無邪気な万遍の笑みを披露してくれる。なんとなく、岩槻の心境が分かる気がしなくもない皆野だった。
これは『過保護』に働くだろう…。
「遠く、というほど遠くでもありませんが…」
「俺、遅くなるの、全然構わないから~」
それは俺が構う…と内心でぼやきながらも、我が儘王子の笑顔に癒されていたりするのだ。


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毒牙が…
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