2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
見下ろせる場所 6
2011-07-03-Sun  CATEGORY: 見下ろせる場所
皆野が向かったのは羽生の店だった。
味にも定評があり、客の好みにも対応してくれる。親しい仲だからこそ、口に出しやすい部分もあるし、先日慎弥と会っていることで立場を理解しており、皆野の現状を何の説明もなく悟ってくれる。
残務処理と移動のおかげで遅くなってしまったが、慎弥は文句も言わずについてきた。
羽生の姿を視界に入れて、慎弥は一瞬驚いたようだったが、わざわざここまで来たことにも納得ができたらしい。

メニューを前に好き嫌いを聞いても、「特にない」と答えられる。
「おすすめとかの、おまかせでいいから」と言われて、皆野は慣れたようにいつものコースを注文した。

「お部屋でのお食事では味気ないものでしょう?」
慎弥が抱いた感情はさておき、ルームサービスを嫌がった点だけに的を絞って話を進めると、露骨に嫌な顔をされた。
何かマズったか?と皆野に僅かな緊張が走る。
「草加さんって、いっつもそういう口調なの?違うでしょ?もう仕事、終わっているんだしさぁ。ここまできて『客』だと思わなくていいから」
「ですが…」
「ってか、明らかに俺の方が年下じゃん。畏まられると逆にどうしていいか分からなくなる…。…せめてこういうところでは普通でいてよ…」
強気な発言をしたかと思えば、言葉尻が情けないほどに弱々しくなっていく。
一種の照れ隠しなのだと気付くまでにさほど時間はかかりはしなかった。素直に言うことができないから上から目線の強い口調になり、だけど相手に意に沿わないと言い渋られて、結局正直に伝えたいと言葉に出す時、こうして照れが纏うのだろう。
そういえば昨夜の帰り間際もこんな感じだったな…と振り返った。
あの時は騒動を起こしたことだと皆野は勘違いしていた。結局は岩槻に言われて事実が発覚したが、本音が出る時ほど、羞恥心を抱くようだ。
受け答えてくる反応はあまりにも無垢なのに感情を吐露するのは違うようで…。内心でそのギャップが不思議に思えてくる。
多少口調を弛められたとしても、岩槻の手前を思うと完全に崩せることなどできるはずがなかった。

話の中で慎弥は海洋学を学ぶ大学院の研究室にいると教えてくれた。
将来も岩槻家の事業には携わる気はないのだという。
そんなことを聞いてしまっていいのかと焦るが、すでに血の繋がった親子ではないとまで知らされていれば、岩槻の耳に入っても問題視されないだろう。無論、言いふらすわけでもない。
慎弥が事業に関わりたくないというのには、思うところもあるのかと返す言葉を失った。
一見、仲の良い親子兄弟のように見せておきながら、そうせざるを得なかった深い傷が潜んでいるのだろうか。
しかし、皆野が見ていた限り、無理して演じているようにも感じられない。慎弥が岩槻に寄り添う姿は自然な態度だ。
本音でぶつかっていけているのは、受け止めてくれる力を信じているからだろう。

皆野の対応もあるのか、慎弥の態度もどんどんと砕けていく。
話の内容も意味深いものが次々と込められてきて、最初は躊躇したが、慎弥が話したいと思ってくれたことは嬉しいことでもあり、また皆野に信頼をおいてくれていると思える証拠でもあった。
「俺のお父さん、岩槻のお義父さんの秘書をしていた人で…。だから征司くんとは産まれた時から知ってたようなものなの」
「そうでしたか…」
「お父さんたち、仲が良かったんだよ。だけど、俺のお母さんが死んじゃってからお父さんも体調悪くし始めて…、そのまま…。…で、お義父さんに『うちの子になろうな』って言われたの」
暗くならないようにとわざとらしく笑みを浮かべる姿が痛々しかった。
このことを、こうして何人の人間に語ってきたのかと想像すると胸が痛くなる。
岩槻は『物事の判断ができた歳』と言っていたから、就学する前か…。
兄のような存在は、本当の『兄』になってしまったわけで、それでも岩槻家に引き取られたのは、慎弥の中で救いだったのかもしれない。
岩槻家の人間が、”甘やかしまくった”理由も分かるような気がした。

コース料理を食べ尽し、気がつけばレストランの閉店の時間だ。
ここからホテルに向かえば10時前の到着になる。さすがに岩槻も戻ってくる頃だろうと慎弥に声をかけると、「ねぇねぇ、まだ遊びに行こうよ」ととんでもない返事が返ってきた。
「ゲームセンターとかボーリングとか。夜中までやっているところ、あるでしょ」
「しかし…」
「いーじゃん。征司くんだって勝手に出て行っちゃったんだもん。俺だって好きに遊ぶー」
そんなところで対抗心を燃やしてどうするんだ、と言いたくなるもんだ。
少なくとも片や仕事の延長のようなものだろう…。
それでも逆らえずに付き合ってしまうのは、顧客の要望に応えたいからなのか、個人的に希望を叶えてあげたいからなのか…。

複雑に絡み合う心理状態を抱えながら、皆野は慎弥をボーリング場に連れていくことでご機嫌をとった。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ぽちっとしていただけると嬉しいです。
小悪魔だ…。
関連記事
トラックバック0 コメント0
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.