2人で行うボーリングゲームなどあっというまに1ゲームが終了してしまう。
久し振りのレジャー施設ということと、慎弥の無邪気な反応に皆野も頬が緩み、頑なだった口調も崩れ、周りと同じようにハイタッチなども繰り広げた。
「草加さん、上手過ぎ~」
「そんなことないって」
「ストライク連続5回とかありえな~いっ」
慎弥はジタバタと剥れていたがそれすらも楽しそうである。友達と遊びに行くこともあるだろうに…。
皆野が買ってきたスポーツドリンクをコクコクと飲み干しながら、まだやる、という慎弥に付き合って、2ゲーム目も中盤に差し掛かった時、皆野の携帯が鳴った。
そういえば…と皆野はふと思った。
皆野の前で一度も慎弥が携帯電話を出してこないのは、案の定、持ってきていないのだろう。
例え皆野からの伝言を聞いたところで、岩槻なら真っ先に慎弥に連絡をしてきていいはずだ。
かけてきたのはホテルのフロントスタッフだった。岩槻が帰ってきたという報告である。
意外と遅かったのだな…と腕時計を見下ろした。このまま2ゲーム目を終わりにして送り届けても日付が変わるまでにはまだ時間がある。
「もうすぐ戻るから…」
その場で小さく答えて通話を終わりにすると、聞いていたらしい慎弥が居心地の悪そうな表情を浮かべた。
はしゃいでいた気分が一気にしぼんだといった感じだ。
「どうしたの?慎弥くんの番でしょ?」
気に掛けさせないように、通話の中で固有名詞なども出さなかったつもりだ。従業員も理解しているから無駄な話などしない。話した言葉など、それこそ、一言二言だった。
俯いてしまった慎弥に皆野は、そっと近づく。
「突然どうしたの?」
「もしかして、今日、草加さん、予定あったんじゃ?」
「??何もないけど?」
「だって今『すぐ帰る』って…」
どうやら、慎弥は先程の会話から、相手を皆野の恋人かなにかと勘違いしているらしい。
奔放に振舞うかと思えば、時折こうしてきちんと気遣いをしてくるんだから…。本当に良く分からない子だ。
同時にその内容で落ち込まれることに優越感を覚えた。皆野は心配ないと笑顔を向けた。
「相手がいたらいくらなんでもこないって」
それでも納得いかないといった雰囲気は消えない。自分が起こした行動が慎弥の楽しみに水を差したのは確かだった。
ここで電話を受けてしまったのはまずかったな…と少々は後悔する。腕時計を見たのも逆効果だ。
「慎弥くんを連れだしたの、俺でしょ?」
たとえどんな流れであれ、慎弥に声をかけたのは皆野の方だった。
そう言い含めると、少しは状況を思い出したのだろうか。
「…ん…」
どうにもいじらしくて、自然と手が伸びてしまう。
岩槻がしていたように頭上に掌を乗せると、擦り寄ってくる猫のような動きをした。そのことに皆野の方が驚かされる。
慌てて手を離した。
手に吸い付く…というのはこのようなことをいうのだろうか…。
慎弥の気持ちを回復させる、というより、自分の気持ちを落ち着かせたくなる。
…なんだ…、この反応…。
慎弥も、いつもとは違う手の温もりを感じ取ったのか、岩槻に対してと同じ行動をとってしまったと恥じらいを見せた。
皆野はわざと気付かないふりをした。
平然とするしか、この場を収める方法が見つからなかった。
なんだか釈然としないまま2ゲーム目が終わり、さすがにこれ以上続けようとは慎弥も言い出さなかった。
はしゃいでいた時間が幻だったかのように他愛もない会話を繰り広げ、車窓を眺めている。
突然訪れた外出の時間は、やはり呆気ないほどの勢いで終了の時を迎えるのだ。
そのことがひどく恨めしく、残念で仕方がない。
皆野はボーリング場を出る前に電話を入れていた。あとどれくらいで到着するかが分かれば岩槻も安心するだろうと、フロントの人間に伝言を頼んであった。
ホテルの玄関前、脇にあるスペースに車を停める。本来駐車場ではない場所だったが、今の時間では邪魔になることもない隅だ。
「草加さん、今日はありがとう」
慎弥は笑みを浮かべて礼を言ってきたが、部屋までは送り届けてやろうと皆野も車を降りる。
一緒に入っていくと、真っ先にフロントに立つ従業員と視線が合い、その視線は無言でロビーにある席に移動された。
即座に皆野も視線の先を追う。
一分の隙もない精悍な姿は、慎弥がこのロビーで見送った時のそのままだった。
岩槻が疲れの表情を滲ませながら、入ってくる客(この場合、客になるのか…)を逐一観察していたようだ。
岩槻の存在に気付くことなく、まっすぐエレベーターに向かおうとする慎弥の腕を引いてしまう。
「草加さん?」
「慎弥…っ」
怒鳴るわけではない、だけど低く込められた声ですら、夜も遅いこのフロアではよく響いた。
その声に反応して、慎弥の視線が皆野から反れていく。
「あ…、征司くん…」
ようやく気がついた、という態度で慎弥が呼び声をかけると、つかつかと歩いて寄ってきた岩槻が二人の前に立ちはだかった。
「このたびは…」
皆野が頭を下げて言いかけたその時、ヒュッと風を切る音とパシンっという乾いた音が重なった。
「え…?」
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久し振りのレジャー施設ということと、慎弥の無邪気な反応に皆野も頬が緩み、頑なだった口調も崩れ、周りと同じようにハイタッチなども繰り広げた。
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「そんなことないって」
「ストライク連続5回とかありえな~いっ」
慎弥はジタバタと剥れていたがそれすらも楽しそうである。友達と遊びに行くこともあるだろうに…。
皆野が買ってきたスポーツドリンクをコクコクと飲み干しながら、まだやる、という慎弥に付き合って、2ゲーム目も中盤に差し掛かった時、皆野の携帯が鳴った。
そういえば…と皆野はふと思った。
皆野の前で一度も慎弥が携帯電話を出してこないのは、案の定、持ってきていないのだろう。
例え皆野からの伝言を聞いたところで、岩槻なら真っ先に慎弥に連絡をしてきていいはずだ。
かけてきたのはホテルのフロントスタッフだった。岩槻が帰ってきたという報告である。
意外と遅かったのだな…と腕時計を見下ろした。このまま2ゲーム目を終わりにして送り届けても日付が変わるまでにはまだ時間がある。
「もうすぐ戻るから…」
その場で小さく答えて通話を終わりにすると、聞いていたらしい慎弥が居心地の悪そうな表情を浮かべた。
はしゃいでいた気分が一気にしぼんだといった感じだ。
「どうしたの?慎弥くんの番でしょ?」
気に掛けさせないように、通話の中で固有名詞なども出さなかったつもりだ。従業員も理解しているから無駄な話などしない。話した言葉など、それこそ、一言二言だった。
俯いてしまった慎弥に皆野は、そっと近づく。
「突然どうしたの?」
「もしかして、今日、草加さん、予定あったんじゃ?」
「??何もないけど?」
「だって今『すぐ帰る』って…」
どうやら、慎弥は先程の会話から、相手を皆野の恋人かなにかと勘違いしているらしい。
奔放に振舞うかと思えば、時折こうしてきちんと気遣いをしてくるんだから…。本当に良く分からない子だ。
同時にその内容で落ち込まれることに優越感を覚えた。皆野は心配ないと笑顔を向けた。
「相手がいたらいくらなんでもこないって」
それでも納得いかないといった雰囲気は消えない。自分が起こした行動が慎弥の楽しみに水を差したのは確かだった。
ここで電話を受けてしまったのはまずかったな…と少々は後悔する。腕時計を見たのも逆効果だ。
「慎弥くんを連れだしたの、俺でしょ?」
たとえどんな流れであれ、慎弥に声をかけたのは皆野の方だった。
そう言い含めると、少しは状況を思い出したのだろうか。
「…ん…」
どうにもいじらしくて、自然と手が伸びてしまう。
岩槻がしていたように頭上に掌を乗せると、擦り寄ってくる猫のような動きをした。そのことに皆野の方が驚かされる。
慌てて手を離した。
手に吸い付く…というのはこのようなことをいうのだろうか…。
慎弥の気持ちを回復させる、というより、自分の気持ちを落ち着かせたくなる。
…なんだ…、この反応…。
慎弥も、いつもとは違う手の温もりを感じ取ったのか、岩槻に対してと同じ行動をとってしまったと恥じらいを見せた。
皆野はわざと気付かないふりをした。
平然とするしか、この場を収める方法が見つからなかった。
なんだか釈然としないまま2ゲーム目が終わり、さすがにこれ以上続けようとは慎弥も言い出さなかった。
はしゃいでいた時間が幻だったかのように他愛もない会話を繰り広げ、車窓を眺めている。
突然訪れた外出の時間は、やはり呆気ないほどの勢いで終了の時を迎えるのだ。
そのことがひどく恨めしく、残念で仕方がない。
皆野はボーリング場を出る前に電話を入れていた。あとどれくらいで到着するかが分かれば岩槻も安心するだろうと、フロントの人間に伝言を頼んであった。
ホテルの玄関前、脇にあるスペースに車を停める。本来駐車場ではない場所だったが、今の時間では邪魔になることもない隅だ。
「草加さん、今日はありがとう」
慎弥は笑みを浮かべて礼を言ってきたが、部屋までは送り届けてやろうと皆野も車を降りる。
一緒に入っていくと、真っ先にフロントに立つ従業員と視線が合い、その視線は無言でロビーにある席に移動された。
即座に皆野も視線の先を追う。
一分の隙もない精悍な姿は、慎弥がこのロビーで見送った時のそのままだった。
岩槻が疲れの表情を滲ませながら、入ってくる客(この場合、客になるのか…)を逐一観察していたようだ。
岩槻の存在に気付くことなく、まっすぐエレベーターに向かおうとする慎弥の腕を引いてしまう。
「草加さん?」
「慎弥…っ」
怒鳴るわけではない、だけど低く込められた声ですら、夜も遅いこのフロアではよく響いた。
その声に反応して、慎弥の視線が皆野から反れていく。
「あ…、征司くん…」
ようやく気がついた、という態度で慎弥が呼び声をかけると、つかつかと歩いて寄ってきた岩槻が二人の前に立ちはだかった。
「このたびは…」
皆野が頭を下げて言いかけたその時、ヒュッと風を切る音とパシンっという乾いた音が重なった。
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お兄ちゃん心配したのはわかりますけど
大人げないな~
わがままで意地っ張りさみしがりやな僕ちゃんも、10歳以下なら可愛いい甘えん坊さんで済むけど…
こうなっては今更だけどしっかりと躾しなおさないと!
でも、皆野さんたらそんな子猫ちゃんを放っておけない体質とみた!!
大人げないな~
わがままで意地っ張りさみしがりやな僕ちゃんも、10歳以下なら可愛いい甘えん坊さんで済むけど…
こうなっては今更だけどしっかりと躾しなおさないと!
でも、皆野さんたらそんな子猫ちゃんを放っておけない体質とみた!!
甲斐様
おはようございます。
> お兄ちゃん心配したのはわかりますけど
> 大人げないな~
> わがままで意地っ張りさみしがりやな僕ちゃんも、10歳以下なら可愛いい甘えん坊さんで済むけど…
> こうなっては今更だけどしっかりと躾しなおさないと!
> でも、皆野さんたらそんな子猫ちゃんを放っておけない体質とみた!!
お兄ちゃんも思うところがあるんでしょうが…。
いけないですよね~突然、これでは。
甘えん坊で我が儘な坊やになっちゃったのは誰のせいなんでしょうね~。
躾直しね~。
皆野、これまでも放ってないし~。そういう性質なんでしょう。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> お兄ちゃん心配したのはわかりますけど
> 大人げないな~
> わがままで意地っ張りさみしがりやな僕ちゃんも、10歳以下なら可愛いい甘えん坊さんで済むけど…
> こうなっては今更だけどしっかりと躾しなおさないと!
> でも、皆野さんたらそんな子猫ちゃんを放っておけない体質とみた!!
お兄ちゃんも思うところがあるんでしょうが…。
いけないですよね~突然、これでは。
甘えん坊で我が儘な坊やになっちゃったのは誰のせいなんでしょうね~。
躾直しね~。
皆野、これまでも放ってないし~。そういう性質なんでしょう。
コメントありがとうございました。
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