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BLの丘
見下ろせる場所 16
2011-07-13-Wed  CATEGORY: 見下ろせる場所
昼の羽生の店は女性客が多かったが、慎弥は特に気にした様子もなく、舌鼓をうった。
昨夜は皆野にオーダーを任せてしまっていたが、今日は興味を示したように店員に尋ねて単品の注文もしていた。店員との会話も楽しんでいる。
気楽に過ごせる、そんなスタイルも慎弥の中では新鮮でスーと馴染むもののようだった。
心のまま笑顔を向けてくる表情は活き活きとしていて良い。
「堅苦しさがないよね~、このお店」
「そうですか?」
「そう!唯一硬いのは草加さんだよ~。いつまでそんな口調でいるの?」
羽生とする砕けた会話も聞かれた今となっては、別扱いされることが慎弥の中で気に入らないらしい。
あくまでも慎弥を『客』と捉えている部分が強く出るのか、慎弥からは不貞腐れるような頬を膨らませる仕草が見えた。
いじらしいと言うべきか、幼い仕草と言うべきか…。
分け隔てなく過ごそうとしていることに、自然と皆野の頬も緩んでくる。
羽生の店にいる、ということも追い風になっているのだろうか…。

「ではお言葉に甘えさせていただきましょうか」
皆野だっていつまでも畏まった態度でいるのは気が落ちつかない。慎弥が許してくれるのであれば、ありのままを見せ、逆に自身を知ってほしいくらいだった。
だれしも自然な態度でいたいという願望をもつのは当然のこと。
「だから昨日から言ってるのに~」
わざと明るく振舞うのか、皆野には判断がつきかねたが、昨夜の淋しさを伺わせない態度は、岩槻に対して我が儘を言い続けていた時と同じように見える。
虚像を作ることに慣れた体なだけに、少々の不安を残してもいた。無理して繕うことなどないのだと…。
わざとではなくて、本当の意味での慎弥の本音を知りたい…。

最後のデザートを運んできたウェイターの姿に、慎弥の視線が注がれ、「あっ!」という正直な驚きの表情を見せた。
突然のことになんだろう、と皆野も神経をとがらせる。
「あ…、っと、えっと…。…この前、一緒にいた人でしょ?」
自分たちが座ったテーブルの脇に立ったのは春日だ。昨日もここに来たのに、春日が居ることに気付かなかったのは皆野にしても驚きだった。
それだけ、人を見る目というか、配置に向ける意識が違っている、といえばそれまでだが…。
慎弥に問われて春日が僅かに苦笑いを浮かべながら、接客態度に支障がない反応を見せる。
「そのせつはお部屋までご招待いただいて…。すごく広いお部屋でびっくりしました」
「招待だなんて…。所詮ホテルのものだし…」
呼び込むことになった発端は慎弥にあることを思い出したのか、途端に照れを纏い俯き加減になってしまう。
春日にしてみれば普段入れないような部屋に入れたことに、単純な感動があっただけのようだが、慎弥には慣れたものである。
「俺、初めてだったから驚き過ぎちゃって…」
「え?そうなの?草加さんと知り合いならいつでも泊まれるんだと思ってた…」
「個人的な予約でしたら幾らでも承りますが」
いくらホテルに関わる人間とはいえ、破格の値段は早々あり得ることではない。暗に、自分ではどうにもできないと言葉に含ませてしまう。羽生が予約してくれるのであれば大喜びで取ってはやるが特別扱いなどあるわけがなかった。ましてや自腹を切るなど…。
「うん…。皆野さんのホテルからはうちも近いし。泊まる必要がないって言えばそれまでですけど…」
春日はにこりと微笑みながら皆野の立場も考慮してくれる。
こういった点は羽生仕込みとも言えるのだろうか。実に便利(?)だった。

「家が近ければ確かに必要ないよね。だから飲みにも来ていたんだ…」
あの日のことを振り返ったのか、状況を把握したらしい慎弥はそれ以上口にしなかったし、春日も「ごゆっくりどうぞ」と言葉を残して去っていった。
働いているせいか、春日よりも年下だと思っていた慎弥も、歳を聞けば27歳と、春日と同い年だということが判明して、こちらのほうに皆野は驚いていた。
すでに話の流れから、皆野と羽生が元同僚であることは知れている。更に羽生と春日の関係も…。
春日の落ち着いた雰囲気も被っているのだと思う。年の話は慎弥にとっても意外だったようだ。

腹ごしらえを済ませた後、皆野は一つだけ慎弥に断りを入れてみた。
「少し、自宅に寄ってもいいかな。ちょっと下ろしたい荷物もあって…」
正確には突然宿泊するために使用してしまった衣類などを置きたい程度のことだったのだが…。
いつまでも車の中に置いておきたいものでもなく、できるなら片付けてしまいたかった。
慎弥は素直に頷く。
「うん、いいよ。それって、草加さんちに俺も入れてくれるってこと?」
またもや無邪気な笑みを零した姿に、抱いてはいけない邪な感情が浮かんだ気分だった。

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コメント

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No title
コメントきえ | URL | 2011-07-13-Wed 10:25 [編集]
拍手コメ秘コメ様
こんにちは~。

>きえさま 早起き~ 私は起きたというより寝そびれた、という感じですw バナー見ましたよん  これからもっと増えるのかしら、楽しみです。

こちらこそ、朝早くからのご訪問感謝です。
夜寝るのが早いから朝も早い…ってことで…。
朝書ける時はいいんですけど書けないとダラダラと昼近くになったりしてしまうんです~。
バナー、それぞれにあったものを作って行けたらいいです。
コメントありがとうございました。
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-07-13-Wed 16:29 [編集]
お宅ご訪問ですか
無邪気なしんちゃん
きっと何にも下心も期待もないとは思います
けど皆野さんは?
No title
コメントらぅら | URL | 2011-07-13-Wed 20:03 [編集]
Σ(・艸・*)エェ!!慎弥って春日と同い年だったの!?
見えない・・・(~▽~;) アハッ

ってか。。。
皆野のお家訪問ですか。
何やら起こりそうな予感( ´艸`)ムププ
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-14-Thu 10:15 [編集]
甲斐様
こんにちは~。

> お宅ご訪問ですか
> 無邪気なしんちゃん
> きっと何にも下心も期待もないとは思います
> けど皆野さんは?

自宅に誘い込み~。
慎弥は興味だけでついていくんでしょうが…。
皆野、うまくリード(?)できるといいんですけどね。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-14-Thu 10:23 [編集]
らぅら様
こんにちは~。

> Σ(・艸・*)エェ!!慎弥って春日と同い年だったの!?
> 見えない・・・(~▽~;) アハッ

見えないです。
そこは接客業で鍛えられた春日なのか、我が儘に育てられた慎弥の違いなのか…。
春日、何気に苦労人生歩んでたんで…。

> ってか。。。
> 皆野のお家訪問ですか。
> 何やら起こりそうな予感( ´艸`)ムププ

らぅら様、相変わらず良い勘を…。
今度は何をやらかしてくれるんでしょうか。お坊ちゃまは…。
コメントありがとうございました。
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