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BLの丘
見下ろせる場所 17
2011-07-14-Thu  CATEGORY: 見下ろせる場所
招待する…というにはあまりにもお粗末な家だな…と皆野は内心で溜め息をついた。
岩槻家は瀟洒な造りの邸宅である。それに比べて皆野は『ウサギ小屋』とも言えそうな2LDKの賃貸マンションだった。
しかし慎弥にしてみれば10階という高さですら興味の対象のようで、そわそわした感じを隠しもせずについてくる。
玄関を入って片側に水回り、反対側に寝室があり、その奥がリビングとなる。
慎弥をリビングに案内し、ペットボトルに入っていたお茶をグラスに注いでやっただけで、皆野は一日留守にして、最低限しなければいけないことだけを手に付けることにした。
「荷物まとめたらすぐ出られますから」
衣類を洗濯機に放り込むだけにし、新しい着替えをバッグに詰め込む。それだけでいいと思っていた。
休み明けに持って行くのでも構わなかったが、どうせこの後慎弥をホテルまで送らなければならなかったし、置いておいて困るものでもない。
だけど皆野の言葉に慎弥からは「えーっ」と不満そうな声が漏れた。
「せっかく来たのに…。ねぇねぇ、ベランダに出てもいい?」
慎弥には部屋の造りを色々と見て回りたいようだった。
男の一人暮らしに見られることに対しての抵抗感はなかったし、好きにすればいいと頷く。
「いいですけど。身を乗り出さないでくださいよ」
「落ちないってばぁ」
楽しいものを見つけた、といった感じで慎弥はそそくさとベランダに置いてあったサンダルに足を通した。

その間に皆野は荷物をまとめてしまおうと動きだす。
洗濯機を回すのは明日でもいい。寝室のクローゼットの中から必要なものを取り出し、ついでに寝起きそのままで放置してあったベッドを軽く整えた。
慎弥がここまで足を踏み入れることはないだろうが、万が一を考えた時に、乱れたものを見られるのは気分がいいものでもない。もちろん、見栄というものも含まれる。

バッグを片手にリビングに戻ると慎弥の姿が見当たらなかった。
まだベランダにいるのかと一間の広さしかない窓の向こうに視線を走らせても、見慣れた風景があるだけだ。
「慎弥くん?!」
開けっぱなしの窓からさわさわと流れ込んでくる風で、レースのカーテンがなびいていた。
皆野は慌ててベランダに駆け寄る。
「慎弥くん?!」
もう一度呼びかけると「なぁに?」となんとも間の抜けた返事が返ってくる。
死角となった壁の隅にしゃがみこんだ慎弥の姿があった。
慎弥の前には台の上に長方形のプランターが二つ並べられており、それを眺めていたらしい。
姿を確認できたことで、皆野はホッと肩から力が抜けた。サンダルは一つしかなかったため、皆野は体を乗りだす格好で何をしているのかと尋ねる。
「これって何か植わっているの?」
プランターは数年前に羽生からもらったものだ。当時は「簡単にできるから」と実用的なナスとトマトが植え付けられていた。
皆野自身、料理を得意とする人間ではなかったが、徐々に育っていくものを見るのは楽しかった。
しかし年が過ぎ、土の入れ替えだ、苗を買いに行くのだ…などということがやがて面倒になり、今では土に雑草が生えている程度の邪魔ものになっている。
途中で飽きて、しかもそのまま片付けもせずに放ったらかしにしたものを見つけられたことに情けなさが浮かんだ。

「今は何もないけど…。また何かを育てるのもいいかな…」
心にも思っていないことが咄嗟に口から出てくるのは、やはり面子を保とうとした意地か…。
だが、そんなことに、慎弥に飛びつかれるとは思ってもいなかった。
「ホントに?!俺もやりたーいっ」
「え?!」
見事に墓穴を掘ったわけだが、今更前言撤回するのもどうかと思われて思考を巡らせてしまう。
「えー…と、…、その時期ごとに植える物とか育つ物が違ってくるんですけど…」
暗に今の時点で何かを始めようとは考えていないと含ませたのだが、慎弥は全く気付かなかった。
「そうなんだ。今って何がいいのかなぁ。園芸屋さんとかに聞いたら教えてくれるかな」
慎弥の頭の中は、今まさに、この瞬間に始めることを意味している。
「あー、土作りとかね。準備はいろいろとあって…」
「畑じゃないんだし。こんなちっちゃいプランターの2つならすぐにどうにかなるんじゃないの?」
あれこれと言い訳を立ててみるのだが、どうにも話が噛みあわない。
ちっちゃい…と言えるのかどうなのか、肩幅くらいの幅しかないプランターである。
「ねーねー、どっかお店ない?今から行こうよ」
「えぇ?!今からっ?!」
「うん。どこかに遊びに行くのでもいいけど…。俺、これ、やりたい」
皆野の驚愕など見事に無視して我が儘全開な姿が復活した。

慎弥にとって興味を持つ物がなんであるのか、なんとなく理解できたような気がした。
海洋学を学んでいるだけに生態系や地質学などの自然科学的なことが多いのだろう。
植物を栽培するというのも、自然の恩恵を受けるという点では変わらない。
慈しみ深い感情を持つ姿は見ていて気分が良くなるものでもあった。
こんなのを見せられては、これ以上反論する気も起らず、皆野は流される形で了承するしかなかった。

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コメント

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No title
コメントらぅら | URL | 2011-07-14-Thu 20:12 [編集]
プランターやるのはいいが・・・
誰が育てるんだ?慎弥が皆野のお家に通って育てるのかな?
それとも・・・一緒に住む?!(*ノωノ)キャー

無理ですね。。。(~▽~;) アハッ
皆野、頑張って育てないとね(笑)
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-07-15-Fri 00:05 [編集]
家庭菜園ってやってみると結構はまりますよね
ちっちゃいプランターだから大したものいじゃないけど
おまけに買ったほうが安くておいしかったりしても
成長を見守っていくのが楽しい
それって人にも言えるかも
甘えん坊の男の子がいろんなことを経て成長していくのを見守ったり、
手助けしたりして大きくなるのを見てるのっていいかもですよー、皆野サン
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-15-Fri 12:01 [編集]
らぅら様
こんにちは~。

> プランターやるのはいいが・・・
> 誰が育てるんだ?慎弥が皆野のお家に通って育てるのかな?
> それとも・・・一緒に住む?!(*ノωノ)キャー

誰が育てるんでしょう。
一緒に住む!!!
オー、ナイスアイディア!!(←?!)

> 無理ですね。。。(~▽~;) アハッ
> 皆野、頑張って育てないとね(笑)

皆野、頑張ることがいっぱい増えちゃって~。
でもこうして慎弥のこと、色々しっていくのでしょうね。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-15-Fri 12:17 [編集]
甲斐様
こんにちは~。

> 家庭菜園ってやってみると結構はまりますよね
> ちっちゃいプランターだから大したものいじゃないけど
> おまけに買ったほうが安くておいしかったりしても
> 成長を見守っていくのが楽しい
> それって人にも言えるかも
> 甘えん坊の男の子がいろんなことを経て成長していくのを見守ったり、
> 手助けしたりして大きくなるのを見てるのっていいかもですよー、皆野サン

一度始めると気になって仕方なくなりますね。
売ってるもののほうが断然見栄えが良かったりするのに、
いびつだからこそ可愛げがあったりしてね。
自分で育てるのは楽しい。
↑まさに慎弥のことでしょうか…。
皆野、すでに懐かれていますからね。
今後どうなっていくのか、是非成長を見守りたいはずです。
コメントありがとうございました。
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