ホテルには戻りたくない…。
はっきりと言いはしないが、それとなく雰囲気が語っているようで、皆野はどう言葉にすればいいのかとしばし悩んだ。
慎弥だって岩槻の立場は理解している。これ以上兄弟間の溝を深くしたくないのは双方同じ気持だろう。
岩槻は慎弥の言い分を何でも受け入れてしまうところがあったし、そのことを慎弥自身も承知していた。
慎弥にしてみたら、ホテルのロビーではむかったのは、動揺もあったのだろうが、甘え以上の信頼があったからこそ。
子供と同じように感情にまかせて動いてしまったことが、冷静になって考えられた時、半ば照れともなって慎弥の中で燻っているのだと思う。
岩槻と、そして岩槻家との関係…。
皆野では想像しえない、昔からの確執もそこには隠れているのだろうか…。
さらに岩槻同様…とまではいかないが、慎弥の願うままに案件を叶えてきたのは皆野だ。
そうすることで懐かせたのは汚い手でもあったかもしれないが、いざ飛びこまれてきた時には試練も一緒にやってきたような感じだ。
「泊まる…って、えーとねぇ…」
昨夜は寄り添っていた…かもしれないが、一応ツインルームであった。
皆野の家にはセミダブル幅のベッドが一つしかない。
しかもスィートルームとは雲泥の差がある仕様だ。寝心地がいいとはとても言えない。
仮眠室などで寝慣れた皆野とは体の作りが違っているだろう。
「寝心地がどうこうっていうより、外泊の許可がとれるんですか?」
「あのさぁ。いくつだと思ってるの~?でもそれってダメって言われているわけじゃないってこと?」
しっかり突っ込んでくるあたり無敵だ…。
ダメどころか、寧ろ大歓迎…なんて答えたら何を言われるのやら…。
溜め息をつきたい気持ちをグッと抑え込みながら、皆野はまたもや頷くしかない。
「うちに泊まられるのは構いませんけれど…」
「本当に?」
「えぇ。ただ、今日、これから…という急な話はどうかと…。きちんと予定を立てられてからのほうがご家族の方も安心されるんじゃないですか?」
「そっかぁ…。じゃあ次にここに来るときは征司くんと草加さんで話をしてもらってからのほうがいいのかな」
確かに保護者の確認済のほうが皆野としても後ろめたさがなかったが、逐一報告しなければならないような状況はどうなのか…。
今更岩槻は深く突っ込んではこないだろうが、ますます自分の首を絞めるような気がした。
「それと寝心地の悪さは覚悟してくださいよ」
「大丈夫、大丈夫~。良かった~。俺、頑張って育てるからね!」
許しの言葉を与えてしまえば天真爛漫な笑みが返ってくる。ついつい何でも言うことを聞いて甘やかしたくなる岩槻の気持ちが痛いほど知れてきた。
もしくは、だからこそ守られてきた笑みなのだろうか…。
別にいますぐ成長するわけでもないのに、慎弥はやたらとプランターを眺めたがった。
夕食は簡単なものでいいと、外食しなくてもいい旨を告げられ、だからといって口に合うものが作れるかと自問自答すれば『否』の答えしか返ってこない。
ホテルに送るついでもあったから、「やっぱり外で…」と促すが、頑として首を縦には振ってくれなかった。
「たまごかけご飯とか素うどんとかでも全然構わないし」
「そんなの、食べるの?!」
「食べるよ~。ねぇ、ちょっとさぁ。草加さん、俺んち、どんな家だと思ってるの?」
ホテルではスィートルームに泊まり、外食では雑多なレストランより質の良いコース料理を提供してくれる店を好む。
端から見れば身分が違うと思わせておきながら、家に入ってみれば質素極まりない食事で満足……。
そんなメニューがあることを知っていることのほうに驚かされたと言うべきか。
「でも栄養バランスとかいろいろと、ね…」
「今日の昼間、がっつり食べたじゃない。フォアグラにでもしたいの?」
言うことなすこと、全てもっともらしく返され、言いくるめられている気がしてくる。
これは、人の上に立つ『岩槻』という人間を間近で見てきたからこそ、無意識のうちに蓄積されているものであるのだろうか…。
「えーと、冷蔵庫の中身が…」
「じゃあ買い物に行こう!そうだ!近所の地理、教えてもらえたら今度来た時にも便利だよね」
昨日といい、今日といい、移動に使ったのは車ばかりだった。
慎弥が来た時に気軽に出かけられる近所のことを知っているのと知らないのではまた違うだろうという意味で言っているのだろう。
二人一緒にいれば、一人で出歩かせることもないのだから…と皆野は少し思ってしまったが…。
もうこれ以上の返す言葉を失って、玄関の鍵を手にするしかない。
飛び跳ねるように浮足立つ姿を見ては皆野の頬も緩んでしまう。
感情を素直に表してくれる。たったそれだけのことが今の皆野には酷く嬉しいことに感じられた。
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はっきりと言いはしないが、それとなく雰囲気が語っているようで、皆野はどう言葉にすればいいのかとしばし悩んだ。
慎弥だって岩槻の立場は理解している。これ以上兄弟間の溝を深くしたくないのは双方同じ気持だろう。
岩槻は慎弥の言い分を何でも受け入れてしまうところがあったし、そのことを慎弥自身も承知していた。
慎弥にしてみたら、ホテルのロビーではむかったのは、動揺もあったのだろうが、甘え以上の信頼があったからこそ。
子供と同じように感情にまかせて動いてしまったことが、冷静になって考えられた時、半ば照れともなって慎弥の中で燻っているのだと思う。
岩槻と、そして岩槻家との関係…。
皆野では想像しえない、昔からの確執もそこには隠れているのだろうか…。
さらに岩槻同様…とまではいかないが、慎弥の願うままに案件を叶えてきたのは皆野だ。
そうすることで懐かせたのは汚い手でもあったかもしれないが、いざ飛びこまれてきた時には試練も一緒にやってきたような感じだ。
「泊まる…って、えーとねぇ…」
昨夜は寄り添っていた…かもしれないが、一応ツインルームであった。
皆野の家にはセミダブル幅のベッドが一つしかない。
しかもスィートルームとは雲泥の差がある仕様だ。寝心地がいいとはとても言えない。
仮眠室などで寝慣れた皆野とは体の作りが違っているだろう。
「寝心地がどうこうっていうより、外泊の許可がとれるんですか?」
「あのさぁ。いくつだと思ってるの~?でもそれってダメって言われているわけじゃないってこと?」
しっかり突っ込んでくるあたり無敵だ…。
ダメどころか、寧ろ大歓迎…なんて答えたら何を言われるのやら…。
溜め息をつきたい気持ちをグッと抑え込みながら、皆野はまたもや頷くしかない。
「うちに泊まられるのは構いませんけれど…」
「本当に?」
「えぇ。ただ、今日、これから…という急な話はどうかと…。きちんと予定を立てられてからのほうがご家族の方も安心されるんじゃないですか?」
「そっかぁ…。じゃあ次にここに来るときは征司くんと草加さんで話をしてもらってからのほうがいいのかな」
確かに保護者の確認済のほうが皆野としても後ろめたさがなかったが、逐一報告しなければならないような状況はどうなのか…。
今更岩槻は深く突っ込んではこないだろうが、ますます自分の首を絞めるような気がした。
「それと寝心地の悪さは覚悟してくださいよ」
「大丈夫、大丈夫~。良かった~。俺、頑張って育てるからね!」
許しの言葉を与えてしまえば天真爛漫な笑みが返ってくる。ついつい何でも言うことを聞いて甘やかしたくなる岩槻の気持ちが痛いほど知れてきた。
もしくは、だからこそ守られてきた笑みなのだろうか…。
別にいますぐ成長するわけでもないのに、慎弥はやたらとプランターを眺めたがった。
夕食は簡単なものでいいと、外食しなくてもいい旨を告げられ、だからといって口に合うものが作れるかと自問自答すれば『否』の答えしか返ってこない。
ホテルに送るついでもあったから、「やっぱり外で…」と促すが、頑として首を縦には振ってくれなかった。
「たまごかけご飯とか素うどんとかでも全然構わないし」
「そんなの、食べるの?!」
「食べるよ~。ねぇ、ちょっとさぁ。草加さん、俺んち、どんな家だと思ってるの?」
ホテルではスィートルームに泊まり、外食では雑多なレストランより質の良いコース料理を提供してくれる店を好む。
端から見れば身分が違うと思わせておきながら、家に入ってみれば質素極まりない食事で満足……。
そんなメニューがあることを知っていることのほうに驚かされたと言うべきか。
「でも栄養バランスとかいろいろと、ね…」
「今日の昼間、がっつり食べたじゃない。フォアグラにでもしたいの?」
言うことなすこと、全てもっともらしく返され、言いくるめられている気がしてくる。
これは、人の上に立つ『岩槻』という人間を間近で見てきたからこそ、無意識のうちに蓄積されているものであるのだろうか…。
「えーと、冷蔵庫の中身が…」
「じゃあ買い物に行こう!そうだ!近所の地理、教えてもらえたら今度来た時にも便利だよね」
昨日といい、今日といい、移動に使ったのは車ばかりだった。
慎弥が来た時に気軽に出かけられる近所のことを知っているのと知らないのではまた違うだろうという意味で言っているのだろう。
二人一緒にいれば、一人で出歩かせることもないのだから…と皆野は少し思ってしまったが…。
もうこれ以上の返す言葉を失って、玄関の鍵を手にするしかない。
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感情を素直に表してくれる。たったそれだけのことが今の皆野には酷く嬉しいことに感じられた。
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おおーすっかり慎弥くん通い妻だよ~
一緒にお買い物して、ご飯作って、子育て…じゃなくて野菜育てて、、、若奥様ですね
でも、そんな慎弥くんをお兄ちゃんはどう思うのか心配だな
一緒にお買い物して、ご飯作って、子育て…じゃなくて野菜育てて、、、若奥様ですね
でも、そんな慎弥くんをお兄ちゃんはどう思うのか心配だな
甲斐様
おはようございます~。
> おおーすっかり慎弥くん通い妻だよ~
> 一緒にお買い物して、ご飯作って、子育て…じゃなくて野菜育てて、、、若奥様ですね
> でも、そんな慎弥くんをお兄ちゃんはどう思うのか心配だな
通い妻決定!!!
子育て(爆)…いや、野菜ね。
お兄ちゃん、嫁に出したからね~。
戻ってこようものなら叱咤激励(←あれ?意味が…)してまた送りだすんじゃないでしょうか。
それとも囲ってしまうのでしょうか。それはそれで皆野、また試練でしょうが…。
コメントありがとうございました。
おはようございます~。
> おおーすっかり慎弥くん通い妻だよ~
> 一緒にお買い物して、ご飯作って、子育て…じゃなくて野菜育てて、、、若奥様ですね
> でも、そんな慎弥くんをお兄ちゃんはどう思うのか心配だな
通い妻決定!!!
子育て(爆)…いや、野菜ね。
お兄ちゃん、嫁に出したからね~。
戻ってこようものなら叱咤激励(←あれ?意味が…)してまた送りだすんじゃないでしょうか。
それとも囲ってしまうのでしょうか。それはそれで皆野、また試練でしょうが…。
コメントありがとうございました。
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