プランターへの水やりはどうやら朝夕が良いらしい。
その話を口にすればすぐにでも動きだした慎弥がいた。現金なものだ…と内心で苦笑する。
岩槻に連絡を取ってもらい、皆野と電話を代わった時、岩槻はあまりのことに一瞬言葉を失っていた。
まさかといった感じだ。そこまで慎弥と皆野が親密になっているとは想像していなかったのだろう。
昨日の一日(正確には半日)を過ごしてホテルに戻っているものだと思っていたものが、実際には帰ってもいないのだと判明し、より一層驚愕させたらしい。
今更何をどうこう言っても言い訳にしかならないが、ただ、そう簡単に手出しをしていないことだけは信じてもらいたかった…。岩槻の脳内ではどう判断されているのだろうか…。
皆野が慎弥を自宅まで送り届ける旨を伝えると、休みである岩槻が指定された時間に伺うと申し渡される。
これ以上の手を煩わせたくない感情が通話口からでもひしひしと伝わってくるようだった。
そこを皆野は、「自分の意思ですから」と、隠すことなく伝えて岩槻の承認を得た。
二人が同意の上となっては、外野は口を出すものではないという持論があるらしく、それ以上食い下がられはしなかった。ただ、皆野の真意を確かめる質問を何度かされはしたが、その程度で治まった。
やはり即席で決まったような立場は疑われてしかたない。
慎弥の家柄を知れば付け入る人間もいるということなのか…。
皆野の信頼を保証してくれているのは、職場で知り合った、ということもある。
働く光景を見られ、これまで築き上げた社会的地位を棒に振るような人間ではないと思われているのは喜ばしい。
…とはいえ、やはり、いきなり、慎弥と同室に寝かせた岩槻の神経は、計れないところがあったが…。
「朝ご飯、食べるでしょ?」
起き抜けからプランターに話しかけていた慎弥がリビングに戻ってくると、皆野は朝食の準備をしようとキッチンに向かう。
その後を興味深そうに慎弥が追いかけてきた。
皆野は首を傾げた。
「どうしたの?飲み物?」
「ちがう…。ねぇ、俺がここで何か作っても文句言わない?」
「ん?」
なんのことかと見返せば、キョロキョロとキッチン内を見回した。
大したものがあるわけではない。常に出しっぱなしになっているようなフライパンと鍋、それにやかん。
どこに何がはいっているんだか…というような3ドアの冷蔵庫と、その扉にマグネットで張り付けた網籠には、無造作に突っ込まれた調味料。
まともに料理をする人間でもいればもっとマシな道具や食材があるのだろうが、所詮寝に帰るような一人暮らしの男部屋だ。
見られて恥ずかしいことはなかったが、何かと比較されるような居心地の悪さは感じた。
少なくとも岩槻家には家庭を見守る母親もいるし、家政婦も雇っている。
『文句言わない?』の意味は、盛大に汚してしまっても…という意味だろうか…。
「えー、と…、まぁ、ものによるけど…」
慎弥の真意が探れなくて遠まわしに尋ねるような口調になってしまう。
慎弥は少し俯き加減になりながら、「だってさ…」と呟いた。なんとなく恥じらいも籠っているような態度だ。
「『人の家の台所と寝室は、住む人にとって恥ずかしい場所だから、勝手に入ってはいけません』…ってお義母さんに聞いたから…」
岩槻家の人間がどのような意味を込めて教えたのかは知らないが、生活の一端が見える場所として見られたくない人が多々いるのは理解できる。
女性の視点から見ればまた考え方も変わるだろう。
子供だからといって許されるわけではないことを、きっと幼い頃からしっかりと教えられてきたのだ。それは慎弥が後ろ指さされないよう、恥ずかしい行動に出さないための予防線であり、親なりの躾だったと頷ける。
成長し、一人暮らしの友人たちと付き合う感覚とも異なる皆野との立場。
どこで境界線を引いたらいいのかという戸惑いが浮かんだのか…。
皆野はフッと笑みが浮かんでしまう。
「俺はそんな細かいこと、気にしないから。好きに使っていいよ」
慎弥の緊張をほぐすように冷凍庫を開けて、しまっておいたマフィンを取りだす。
それから卵やベーコンも出してきて、「こんな朝ご飯でもいい?」と聞いてみる。
気を許した……、皆野が今更ながらはっきりと分かる行動に出たことで慎弥の躊躇っていたものが次々と剥がれていく。
汚すことではなくて、人のテリトリーに入り込むことに抵抗があっただけのこと。
…ほんとうに……。
皆野は心の中でなんとも言えない笑みを浮かべた。苦笑いなのか微笑ましいのかも自身でわからなかった。
容赦なく入り込んでくるかと思えば、こうして戸惑い控え目な態度に出る。
そのギャップがあまりにもありすぎて…。
こんなふうにありのままの姿でいてほしいと、この2日間で何度思ったことだろう。
強引に出る態度も振りまわされる楽しさがあったが、無理して自分を試すような態度に出られたくはない。
慎弥が見せる強気が彼なりの自己防衛と知ったから余計に、そんなふうに脅えながら我が儘を言ってほしくなかった。
岩槻は慎弥の我が儘を何でも受け入れるところがある。
それが慎弥にとっては甘やかしであり、負担だったのだと、今では思うことができた。
彼とは違う自分を見せてやりたい…。
『嫉妬』…。そんなものか…と自分自身にすら苦笑を洩らしたくらいだ。
岩槻と比べられて敵うものなど何もない気がするのに、唯一慎弥が皆野を慕ってくれいることだけが心を震わせるものだった。
朝食用の目玉焼きとベーコンを焼き、温めたマフィンにそれらを挟みこむ。
慎弥に手伝わせることで控え目になる壁をとっぱらった。
頼りにされる…。それはどんな人間にとってもやる気を沸き起こす起爆剤となる。
『ここにいていいのだ』と、そっと皆野は伝えた。
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ぽちっとしていただけると嬉しいです。
本当は違う話を書いたなら、1日2話上げられたらいいなぁぁぁ、と思っておりますが…。
さくさくとは進まないです~。・゚・(ノД‘)・゚・。
お詫びに別宅に鯛を飾ってきました。→別宅
話の中でいいものを食べているんだろうな~っていう人はいっぱいいるけど…。
その話を口にすればすぐにでも動きだした慎弥がいた。現金なものだ…と内心で苦笑する。
岩槻に連絡を取ってもらい、皆野と電話を代わった時、岩槻はあまりのことに一瞬言葉を失っていた。
まさかといった感じだ。そこまで慎弥と皆野が親密になっているとは想像していなかったのだろう。
昨日の一日(正確には半日)を過ごしてホテルに戻っているものだと思っていたものが、実際には帰ってもいないのだと判明し、より一層驚愕させたらしい。
今更何をどうこう言っても言い訳にしかならないが、ただ、そう簡単に手出しをしていないことだけは信じてもらいたかった…。岩槻の脳内ではどう判断されているのだろうか…。
皆野が慎弥を自宅まで送り届ける旨を伝えると、休みである岩槻が指定された時間に伺うと申し渡される。
これ以上の手を煩わせたくない感情が通話口からでもひしひしと伝わってくるようだった。
そこを皆野は、「自分の意思ですから」と、隠すことなく伝えて岩槻の承認を得た。
二人が同意の上となっては、外野は口を出すものではないという持論があるらしく、それ以上食い下がられはしなかった。ただ、皆野の真意を確かめる質問を何度かされはしたが、その程度で治まった。
やはり即席で決まったような立場は疑われてしかたない。
慎弥の家柄を知れば付け入る人間もいるということなのか…。
皆野の信頼を保証してくれているのは、職場で知り合った、ということもある。
働く光景を見られ、これまで築き上げた社会的地位を棒に振るような人間ではないと思われているのは喜ばしい。
…とはいえ、やはり、いきなり、慎弥と同室に寝かせた岩槻の神経は、計れないところがあったが…。
「朝ご飯、食べるでしょ?」
起き抜けからプランターに話しかけていた慎弥がリビングに戻ってくると、皆野は朝食の準備をしようとキッチンに向かう。
その後を興味深そうに慎弥が追いかけてきた。
皆野は首を傾げた。
「どうしたの?飲み物?」
「ちがう…。ねぇ、俺がここで何か作っても文句言わない?」
「ん?」
なんのことかと見返せば、キョロキョロとキッチン内を見回した。
大したものがあるわけではない。常に出しっぱなしになっているようなフライパンと鍋、それにやかん。
どこに何がはいっているんだか…というような3ドアの冷蔵庫と、その扉にマグネットで張り付けた網籠には、無造作に突っ込まれた調味料。
まともに料理をする人間でもいればもっとマシな道具や食材があるのだろうが、所詮寝に帰るような一人暮らしの男部屋だ。
見られて恥ずかしいことはなかったが、何かと比較されるような居心地の悪さは感じた。
少なくとも岩槻家には家庭を見守る母親もいるし、家政婦も雇っている。
『文句言わない?』の意味は、盛大に汚してしまっても…という意味だろうか…。
「えー、と…、まぁ、ものによるけど…」
慎弥の真意が探れなくて遠まわしに尋ねるような口調になってしまう。
慎弥は少し俯き加減になりながら、「だってさ…」と呟いた。なんとなく恥じらいも籠っているような態度だ。
「『人の家の台所と寝室は、住む人にとって恥ずかしい場所だから、勝手に入ってはいけません』…ってお義母さんに聞いたから…」
岩槻家の人間がどのような意味を込めて教えたのかは知らないが、生活の一端が見える場所として見られたくない人が多々いるのは理解できる。
女性の視点から見ればまた考え方も変わるだろう。
子供だからといって許されるわけではないことを、きっと幼い頃からしっかりと教えられてきたのだ。それは慎弥が後ろ指さされないよう、恥ずかしい行動に出さないための予防線であり、親なりの躾だったと頷ける。
成長し、一人暮らしの友人たちと付き合う感覚とも異なる皆野との立場。
どこで境界線を引いたらいいのかという戸惑いが浮かんだのか…。
皆野はフッと笑みが浮かんでしまう。
「俺はそんな細かいこと、気にしないから。好きに使っていいよ」
慎弥の緊張をほぐすように冷凍庫を開けて、しまっておいたマフィンを取りだす。
それから卵やベーコンも出してきて、「こんな朝ご飯でもいい?」と聞いてみる。
気を許した……、皆野が今更ながらはっきりと分かる行動に出たことで慎弥の躊躇っていたものが次々と剥がれていく。
汚すことではなくて、人のテリトリーに入り込むことに抵抗があっただけのこと。
…ほんとうに……。
皆野は心の中でなんとも言えない笑みを浮かべた。苦笑いなのか微笑ましいのかも自身でわからなかった。
容赦なく入り込んでくるかと思えば、こうして戸惑い控え目な態度に出る。
そのギャップがあまりにもありすぎて…。
こんなふうにありのままの姿でいてほしいと、この2日間で何度思ったことだろう。
強引に出る態度も振りまわされる楽しさがあったが、無理して自分を試すような態度に出られたくはない。
慎弥が見せる強気が彼なりの自己防衛と知ったから余計に、そんなふうに脅えながら我が儘を言ってほしくなかった。
岩槻は慎弥の我が儘を何でも受け入れるところがある。
それが慎弥にとっては甘やかしであり、負担だったのだと、今では思うことができた。
彼とは違う自分を見せてやりたい…。
『嫉妬』…。そんなものか…と自分自身にすら苦笑を洩らしたくらいだ。
岩槻と比べられて敵うものなど何もない気がするのに、唯一慎弥が皆野を慕ってくれいることだけが心を震わせるものだった。
朝食用の目玉焼きとベーコンを焼き、温めたマフィンにそれらを挟みこむ。
慎弥に手伝わせることで控え目になる壁をとっぱらった。
頼りにされる…。それはどんな人間にとってもやる気を沸き起こす起爆剤となる。
『ここにいていいのだ』と、そっと皆野は伝えた。
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本当は違う話を書いたなら、1日2話上げられたらいいなぁぁぁ、と思っておりますが…。
さくさくとは進まないです~。・゚・(ノД‘)・゚・。
お詫びに別宅に鯛を飾ってきました。→別宅
話の中でいいものを食べているんだろうな~っていう人はいっぱいいるけど…。
しんちゃんは血統書付きのしつけのいい子猫ちゃんですね
皆野サンはしんちゃんと一緒に過ごすごとに
見方や感じ方が変わってきて
どんどん好きになってきているって感じがします
無自覚ながら独占欲とか嫉妬のかけらみたいな感情が
ぽろっとこぼれてくるのが面白い
皆野サンはしんちゃんと一緒に過ごすごとに
見方や感じ方が変わってきて
どんどん好きになってきているって感じがします
無自覚ながら独占欲とか嫉妬のかけらみたいな感情が
ぽろっとこぼれてくるのが面白い
甲斐様
こんばんは~。
> しんちゃんは血統書付きのしつけのいい子猫ちゃんですね
血統書(o´艸`o)
確かに、しつけはきちんとされた、どこに出しても恥のない…ぅん?…育ち………(…←いささか疑問ですが…)
> 皆野サンはしんちゃんと一緒に過ごすごとに
> 見方や感じ方が変わってきて
> どんどん好きになってきているって感じがします
知らないこと、いっぱい知って、より一層泥沼(違う、悪魔…それも違う…)、魔性の虜にヽ(゚∀゚)ノ (なんかあまり変わらない…)
普通なら目にすることのない慎弥の内面にどんどんと惹かれているのでしょうね。
> 無自覚ながら独占欲とか嫉妬のかけらみたいな感情が
> ぽろっとこぼれてくるのが面白い
皆野もいっぱいがんばっているところがあります。
あーー、もぅーーーっみたいな感じで皆野の感情も出てくるんでしょうね。
慎弥が無邪気に接してくれているだけに余計。
コメントありがとうございました。
こんばんは~。
> しんちゃんは血統書付きのしつけのいい子猫ちゃんですね
血統書(o´艸`o)
確かに、しつけはきちんとされた、どこに出しても恥のない…ぅん?…育ち………(…←いささか疑問ですが…)
> 皆野サンはしんちゃんと一緒に過ごすごとに
> 見方や感じ方が変わってきて
> どんどん好きになってきているって感じがします
知らないこと、いっぱい知って、より一層泥沼(違う、悪魔…それも違う…)、魔性の虜にヽ(゚∀゚)ノ (なんかあまり変わらない…)
普通なら目にすることのない慎弥の内面にどんどんと惹かれているのでしょうね。
> 無自覚ながら独占欲とか嫉妬のかけらみたいな感情が
> ぽろっとこぼれてくるのが面白い
皆野もいっぱいがんばっているところがあります。
あーー、もぅーーーっみたいな感じで皆野の感情も出てくるんでしょうね。
慎弥が無邪気に接してくれているだけに余計。
コメントありがとうございました。
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