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BLの丘
見下ろせる場所 23
2011-07-24-Sun  CATEGORY: 見下ろせる場所
近所のことをもう少し知りたいという慎弥に付き合って、ぷらぷらと道案内を兼ねて昼過ぎまで過ごし、夕方の水やりまではいるという慎弥の好きにさせる。
さすがに今日は家族で夕食を共にしたほうがいいと促せば、慎弥も納得したようだった。
ホテルに泊まること3日(正確には一晩は皆野の家だったが)。
朝方に慎弥と岩槻が交わした電話での会話の様子は特に緊張感など持たせなかったが、昨日から顔を合わせていないことは確かで、そのことを慎弥はどのように捉えているのだろうか。
皆野に縋ってくれたのは優越感以外の何物でもなかったが、これをきっかけに血のつながりがない家族間で浮いてしまう存在だけは避けてやりたかった。
もっとも岩槻がそんな失態をするとも思えないが…。

慎弥が来られないときは成長記録を写メで送ってという要望にもこたえることにした。
送り先のアドレスを交換する、たったそれだけが、中高生にでもなったような高揚感を生む。
雑談を繰り広げるだけであっという間に時間は過ぎた。
じゃれあう空間が良い方に働いたのか、皆野の中から『客』という括りが落ちたような気がする。

玄関を出ようという頃、まだ名残惜しそうにベランダに視線を向ける慎弥の姿がある。
愛しいものに視線を向ける…。そんな感じがして、たかが植物相手に嫉妬している自分の心の狭さに、自ら呆れ返った皆野だ。
「またくればいいから…」
本心はこのままここにいてほしいが、生活していく環境はあまりにも違いすぎる。
おとぎばなしの国のように、夢を見るだけで生きていけないことは、社会人として過ごしてきた皆野が痛いほど知っているし、慎弥も厳しい世界で生き抜いている『家族』を見ているはずだ。
それに慎弥はまだ『学生』という身分だ。学び、糧とするものをこの先たくさん身につけなければならない。
「うん…」
僅かに頷いた慎弥の体があまりにも小さい気がして、皆野は手を伸ばしかけて直前で止めた。
抱きしめてやりたいが、慎弥自身は皆野をどう思っているのだろうか。
ただの『親切な人』と思われている時に過剰な接触は嫌悪感を抱かせることになる。
感情が昂っていた時とは違っている。寝る前の無意識に向けられる淋しさとも異なる。
勢いだけで抱きしめることなんてできない。少なくとも今は、冷静に判断できる時だけに誤魔化しも聞かないし、慎重にならざるを得ない。

玄関扉を開けようとした皆野の手を、まだ廊下に立ったままの慎弥がふと引き止めた。
「草加さん…」
言いたくても言えない言葉があるのだろうか。躊躇いがちに長い睫毛が揺れている。
包み隠さず話してほしいと、またもや思わせる態度で慎弥が俯く。
「慎弥くん?」
からめとられた指先を弄ぶように、慎弥の指が絡みついた。
ホテルのラウンジでいきなり飛びつかれた時よりもずっと…、扇情的な印象だ。
ドクンドクンと心臓が早鐘を打って…。…なんだろう、この後ろ髪を引かれるような思いは…。

ほんのわずか数秒のこと。それなのに、無言の時間が長い。
「どうしたの?」
つとめて明るく振舞ったつもりだった。
絡め取られた指とは反対の手で、俯いた慎弥の後頭部を撫でてやる。
言い淀む姿は『いじらしさ』そのものだ。

「ここに…」
いいかけた慎弥の言葉が途切れた。
「?」
首を傾げた皆野は先を促す。何を言われても慎弥を受け入れるし、発言することに脅える必要などないのだと言いたい。
頭部を撫でる手に、隙あらば抱え込んでしまおうという力を滾らせながら、先を促す。

「あれ、育てるの、俺と草加さんだけ…」
恥ずかしそうに囁かれた言葉はしっかりと皆野の耳に届く。
今更皆野だって、他の誰かに代理を頼もうなんて思ってもいなかった。そもそも、この場所に訪れる客だって少ない。
どういうことかと一瞬疑問に思うものの、慎弥が他人の手を加えたくない思いだけはひしひしと伝わってきた。
慎弥に強請られれば…、いや、強請られなくても、他の人間に触らせるようなことはしない、と言い切りたい。
慎弥が『育てたい』と言い出したものである。いくらここにあるからといって、簡単に人にさわらせてなるものか。
思いは同じだというように、皆野が笑顔を浮かべると、ホッとしたように慎弥からも笑みがこぼれた。

「指きりでもしようか?」
言い出した皆野でさえ、照れを纏うような台詞だな、と思った。
子供だましの台詞のようで言い終えてから恥ずかしさを纏う。
だけど慎弥は気にした様子もなく、コクリと……、頷いたのか、うつむいたのか…。
握ったままの指先に力を込めてきた。指きりをするような、そんな力の込め方ではなくて…。
絡まった指先に皆野の視線が落ち、それからゆっくりと正面の慎弥の表情を捕らえる。

スーッと引かれるような力が手のひらに籠った。
僅かに前かがみになった皆野の目の前。小さすぎるほどの赤い唇が艶やかさを纏いながら蠢く。
「指きりより、こっちのほうがいい……」

赤い唇が視界から消えたのは、自分のそれと重なっているからだと気付くまでに、時間などかからなかった。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-07-25-Mon 00:36 [編集]
わお
大人の指きりですね
〝うそついたらkiss1000回♪~″
でしょうか
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-25-Mon 09:34 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> わお
> 大人の指きりですね
> 〝うそついたらkiss1000回♪~″
> でしょうか

大人の指きり~~。
皆野にとっては美味しいだけの話のような気が…。
大胆な行動に出てくれる慎弥です。
でも皆野は大人しい(?)から慎弥に動いてもらわないと…ね。
コメントありがとうございました。
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