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BLの丘
見下ろせる場所 25
2011-07-28-Thu  CATEGORY: 見下ろせる場所
休日ということもあって岩槻は寛いだ服装でいる。とはいっても、ブランド物の服をセンス良く着こなしている姿は、洗練されている印象を充分に持たせた。
スーツを着用している時は堅苦しさが全面に出てしまうのはいたしかたないことなのかもしれないが、今の岩槻には柔らかな印象の方が際立っていた。
「慎弥…」
岩槻はまず最初に、無事慎弥が帰ってきたことを確認するように、慎弥に視線を投げかけた後、皆野に向き合った。
岩槻に戸惑いが感じられるのは、一昨日の夜から会っていなかったせいだろうか。
さすがに車に乗りっぱなしという状況は失礼な気がして、咄嗟に皆野も降りたった。
「草加さん、このたびは本当に多大なご迷惑をおかけいたしました。まさかホテルに戻っていなかったとまでは…」
丁寧に頭を下げられてはこちらのほうが恐縮してしまう。
下心まであったのだから逆に責められても文句も言えない立場である。
「いえ、私は一向に構いませんので…」
喧嘩別れ(?)した後で、一人ホテルに戻るのを淋しがった慎弥の気持ちも分かるだけに、放っておけなかったのは皆野の方だったが。
たぶんその心理状態は岩槻も理解しているのか、慎弥を責めることはしなかった。

皆野は一つだけ気になっていることがあった。
突然岩槻がホテルでの宿泊を蹴飛ばしたことだった。
どれだけ多忙な仕事だったのかは知らないが、慎弥が連絡を貰ったのは夕食を食べる前の時間帯である。
その時間に帰れないと決められる状況、そして理由とは…。
実際に自分でここまで車を走らせてみて分かることでもあるが、無理して自宅に帰れない距離でもない。
最初、3泊目をさせずに慎弥を帰らせる気でいたらしいが、少なくとも岩槻はあの部屋に泊まるつもりで取っていたのだろうに。
慎弥が自宅に帰らない…。もしかして、そのことに関係しているのだろうか。
慎弥の心境を理解していながら距離を置いたのは、最初から”何か”が決まっていたのではないか…。
突然起こってしまった兄弟喧嘩は予想外な出来事で、しかし心配をしても慎弥を優先させることもできなかった…。
人のことを詮索するのは悪いと思いながらも、慎弥に関わることとなると、どうしても気が向いてしまう。
かといって、それを確認することなどできない皆野だが。

「慎弥、先に中に入っていて。話したいことがあるから」
岩槻は慎弥を促す。
「でも…」
一瞬渋っては見せたが、皆野が「また…」とにっこり笑いかけると、皆野にとって不利なことは言われないと理解したのか、大人しく従って庭を歩いていく。
皆野と岩槻が無言のままで慎弥の背中を追い、玄関の中に吸い込まれていくのを見守った。
姿が見えなくなった後、一拍の間をおいて岩槻が皆野に視線を戻す。
「もう、なんとお礼を申し上げたらいいのか…。草加さんがいてくださって本当に助かりました」
「そんなことは…」
「あんなことの後では、慎弥は必要以上に自分を責めて落ち込むんです。表向き、文句を言っては来るんですけれど内心では変に彷徨ってしまうと言いますか…」
「えぇ…」
ホテルで起きた喧嘩のことを思い出す。慎弥は強気な発言と態度に出ていたが、実際にはどこに向かったらいいのかも分からず自分の気持ちすら掴めずにいた。
誰かに包んでもらうことでそこに居てもいいと自分自身に言い聞かせることができる。慎弥の根底はあまりにも脆い。
「そんな時に一人にさせなくて済んだのは良かったことです」
「ご両親のこともあるんですか…。置いていかれる恐怖心のようなものを常に持っているんでしょう」
「そうですね。人一倍淋しがり屋なんです…」
「岩槻様の状況は充分理解されていますよ。先日の件についてはあまりお心を痛まれませんように…」
「ありがとうございます。私もあの時は感情が昂っていて…。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「抑え込む感情ばかりでは良くありませんから」
ホテルでの騒動は大した問題でもなかったと安心させるように伝える。
実際、あの件がなければ慎弥と今のようになることもなかったのだから、結果良しとも言えることだった。
何より、慎弥の中に隠すように埋もれている気持ちに気付けたのだ。
この兄弟は、二人して何を探り合っているのかという、見た目とは違う付き合いも…。

「草加さんはやはり、人の行動などを分析するのが上手な方ですね」
「分析、だなんて、そんな…」
岩槻も充分に人の感情を読んでくれる。たぶん事業を抱える人として身に着いたものなのだろう。そうでなければ多くの人を上手に使うことなどできないはずだ。
「いいえ。先日も短時間で慎弥のことを深く察してくれたことに驚かされました。慎弥のような子には先読みできる草加さんのような方が合っていると思いますよ」

…えーと、それは……。
皆野は岩槻から発された言葉の意味を理解するためにしばらく黙ってしまった。
先日、ホテルの部屋を出る前に岩槻から伝えられたことも脳裏を巡っていく。
『付き合う』という意味での許可を、完全にもらえたということだろうか。

「ところで草加さん。慎弥とはすでに?」
ホッと一息つきたくなる間を取らせずに、単刀直入に聞かれる質問がある。
褒め倒したかという後にはしっかりと真相を探る言葉が続いた。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-07-28-Thu 18:09 [編集]
草加さんのような方が合っているっていうのは
つまりまたまた「娘をよろしく」的なニュアンスのような…

"すでに?"
すでになんでしょう
"すでにもうヤっちゃってるんですか"
なわけないですよね

しんちゃんにとっては、甘えたいお兄さん
皆野サンにとっては放っておけない弟+α
のはずなんです
たぶん
きっと
でも深層心理ではどうなんでしょうねぇ
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-07-29-Fri 10:13 [編集]
甲斐様
こんにちは~。

> 草加さんのような方が合っているっていうのは
> つまりまたまた「娘をよろしく」的なニュアンスのような…

娘?!息子をよろしく…なんでしょう。
認められてるよ。良かったね~。

> "すでに?"
> すでになんでしょう
> "すでにもうヤっちゃってるんですか"
> なわけないですよね

いや、そこでしょう。
聞くことは聞いておかないと安心できないお兄ちゃんです。←って聞くなよ~~!!!

> しんちゃんにとっては、甘えたいお兄さん
> 皆野サンにとっては放っておけない弟+α
> のはずなんです
> たぶん
> きっと
> でも深層心理ではどうなんでしょうねぇ

とっても清らかな関係ですね~ヽ(゚∀゚)ノ (←)
慎弥にとって次の兄弟ができあがったのか~。
でも【兄弟】ってだけじゃ済まされない何かが心の中にうようよと…
コメントありがとうございました。
No title
コメントきえ | URL | 2011-07-29-Fri 10:21 [編集]
拍手コメ り様
こちらにもありがとうございます。

>あ~いいところで…続きます…ですね。 慎弥の小悪魔っぷりが皆野の心を捉えるのに時間はかからなかったですね~ 胸がキュンキュンしますね! お兄ちゃん的にはまだ手をださないでください。でしょうか? それとも…やっぱり手をだしちゃいましたか?でしょうかね~ 皆野、頑張れ~

小悪魔に翻弄されております。
でも放っておけない優しい皆野ですね~。あっというまに心を鷲掴みにされちゃって~。
お兄ちゃんも複雑な心境なんでしょうか。
手出したの?出してないの?どっち???と気になるんでしょう。
皆野、頑張ってこのあとね~…(たった3日くらいの出来事が長いな~。しかもエチもなく…)
コメントありがとうございました。
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