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BLの丘
見下ろせる場所 30
2011-08-03-Wed  CATEGORY: 見下ろせる場所
兄の幸せを祝福できない慎弥でもない。
皆野が「そばにいる」と抱き締めると、間をあけずに守ってくれる人がいることを感じ取って安堵したようでもあった。
岩槻と同等、もしくはそれ以上の存在として見てもらえることは皆野にとっても嬉しいことだった。

簡単な夕食と、着替えを用意してあげて入浴を済ませる。
皆野がいるからなのか、無理して元気なふりを見せようとするのを痛々しく思いながら、黙って受け止めた。
あれこれと言葉を差し向けても、今の慎弥には返って辛いものにしかならないだろう。
それでも皆野との時間が少しずつ慎弥の孤独感を埋めているのも確かだった。
「草加さん、もう寝よう…」
皆野も翌朝からの勤務があったし、慎弥も午後からとはいえ研究室に向かわなければならなかった。
慎弥を送り届けてやれる時間がないのは心残りではあるが、ここまで一人で来られて一人で帰れないはずがないと言いくるめられる。
まぁ、確かにそうなんだけれど…。

慎弥に腕を引かれて寝室に向かう。以前は先に記憶を落としてしまった慎弥の隣に潜り込んだ形の皆野だったが、はっきりと意識がある現在で狭いベッドに並んで入るのはどうかと、些かの戸惑いを持った。
昔使っていた古い布団が押し入れに突っ込まれているのを思い出したが、今の時間からそれを取り出して使用するのも抵抗がある。
だけど今の慎弥が離れたがらないのも、過去の経験を持って承知していた。
人の家の寝具だということも全く気にしない態度で、ベッドに上がり込んだ慎弥が皆野を呼びつけた。
無意識でやっているんだろうが、行動力がありすぎるのもいかがなものなのか…。
内心でがっくりと肩を落としながら、横向きになった慎弥の隣に並んで入る。
待たれているようでスッと両手を差しのべれば、猫が丸まるような仕草で寄り添ってきた。
この仕草も慎弥をより一層幼いものに見せ、頼りなさを伺わせる。同時に庇護欲をかりたてられる。

「草加さんって、最初から優しかった…」
出会ってまだ10日と経たないことを忘れる。
最初は客という意識があったのだから当然のことなのだが、逆に慎弥は自分の面倒を見てくれる従業員、とは捉えていなかった。
そんなことも、今の慎弥の頭からはすっぽりと抜け落ちているのだろうか。
「最初はどうしても、ね…」
「でも普通、怪我までしないよ」
「あの時はすでにね…」
「『すでに』?」
なんだ?と問いかけるつぶらな瞳が上目遣いで見上げてきた。
勢いで突っ走った部分がありはするが、自分の立場を考えて躊躇っていたものを吹っ切れたのは、あの逃走劇のおかげかもしれない。
思えばはっきりと気持ちを伝たわけでもなかった。
「うん…」
何と答えようかと考えを巡らせながら、慎弥の額にくちづけを一つ落とす。
「大事にしてあげたいと思っていたから…」
腕に力を込めると二人の体がさらに密着する。
額同士を合わせると、ふわりと慎弥が微笑んだ。穢れを知らない無垢な笑みだ。
過去に付き合った相手がいたとしても、たぶん誰からも守られ傷付けられるようなことはなかったのだと思う。
それとも先回りして岩槻が潰してしまっていたのか…。

慎弥の腕が皆野の背に回った。慎弥から触れるだけのキスが届けられる。
やることなすことがすべて大胆なくせに可愛らしい仕草に見えてくる。
僅かに触れては離れていく。思わず皆野の頬も緩んで、一度離れたものを追い掛けた。
啄ばむくちづけを何度か繰り返し、舌で慎弥の唇の柔らかさを味わい、そっと間に差し込む。
歯列を這ったあと開かれた熱い口腔内へと潜り込んでいく。

こんな時なのに、こんな時だからこそ…。
どこで止めることができるだろうか、と皆野は思っていた。

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