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BLの丘
見ていた場所 1
2012-07-21-Sat  CATEGORY: 見下ろせる場所
夜景が綺麗なラウンジバーは、かつて草加皆野(そうか みなの)が勤めていたホテルでもあった。
久し振りに会ったという、皆野の同居人…つまり、恋人の岩槻慎弥(いわつき しんや)は、目の前に座った戸籍上の兄、岩槻征司(いわつき せいじ)に甘えたい限りの態度を見せる。
征司についてきた恋人の越生志木(おごせ しき)は苦笑いで、事の成り行きを見守っていた。
志木は征司と同い年だと聞いた。
皆野と征司が5歳違いなのだから、37歳なのだろう。
その割には随分と若く見える風貌の男だったが…。
意欲的に働く征司とは対照的に、どことなくおっとりとした雰囲気が伺える。
伸ばしたままの髪だというのに、身汚さはなく、中世的な表情を見せるものに変わった。
多少すいてはあるのだろうが、後ろ髪は肩まで届いている。さらさらと零れる前髪が額にかかるたびに、額から全体的にかきあげる仕草は色っぽさすら生んだ。
目鼻立ちがはっきりとしたところは、日本人離れしているようでもあり、初めて出会った時に、皆野は何と声をかけようかと戸惑ったほどだった。
対人面には慣れたはずなのに…。
その一瞬は今でも語り草となってしまったほど…。
よどみなく動くはずの皆野の動揺は、慎弥にしても征司にしても意外性があったようだった。
「見惚れたの?」と突っ込まれた慎弥の嫌味にも言葉を失い、冗談と分かっても征司の失笑を買った。
惹きつける力は確かにあったけれど…、慎弥ほどめくるめく変わる印象はなかった。
声を失ったのは、何語で話しかければ…という焦りがあったからだった…とは内緒にしておく。

じゃれあう兄弟を見ては、いまさら…といった態度で受け止めている志木なのか…。
ゆったりとしたソファ席はU字に作られており、隣り合う近さがあるにはあったが…。
あからさまに、抱きつき、猫のようにゴロンゴロンされる姿を見せられるのは、皆野にとって、あまり気分の良いものではなかった。
その心情を悟ってくれるのか、征司は寄り添ってくる慎弥を軽く諌めて、皆野の元へと返してくる。
普段、征司とは仕事先で顔を合わせるが、こうしてプライベートの時間まで一緒になるのは、本当に久し振りのことだった。
皆野、慎弥、征司、志木と並んだ席で、届けられたグラスをそれぞれ口に運んだ。
皆野が「自宅でなくて良かったんですか?」とこの場所での交流を心配した。
現在、岩槻家に婿養子さながら収まっているのは皆野であり、家を出てしまった征司が唯一の血の繋がった息子だった。
慎弥も『息子』ではあるが、友人の息子を引きとったという立場であり、真の親子ではない。
だが、何の差別もなく、大事に育てられ、また皆野も温かく迎えられていた。
皆野の心配ごとには慎弥が返してくる。
「家になんかいたら、征司くんとお義父さんで仕事の話ばっかで…、今なんか、皆野もまじっちゃって、俺と志木さん、仲間外れだよ~っ」
「そうかもね」
不貞腐れる慎弥に同情するように志木もニコリと笑いながら相槌を入れてきた。
それは過去の経験もあるのだろうか…。

征司が新しく興した企業の中、皆野は抜擢された形で働いている。
もともと岩槻家が持っていた事業があるだけに、親子とはいえ、顔を合わせれば仕事の話になってしまうのは否めなかった。
事実、皆野も義父との話題の九割方は経済の話になる。

皆野が慎弥と付き合う、共に住む…ことをほとんど条件としたように、征司は家を出て志木との同居に踏み切っていた。
長年考えていたことだったとは、暗に知らされた事実である。
気掛かりだったのは、慎弥自身のこと…。
幼い頃に引きとり、甘やかして育てた存在は、どうしても目を放せるものにはならなかった。
運良く…と言ってはなんだが、現れた皆野はトントン拍子…というくらいにうまく物事を運ばれた結果となった。
もちろん、悪い意味ではなくて…。
征司の積極性があったからこそ、現状を築けているのだとは嫌というほど知る。
征司の物事の運び方は、的確で無駄がない。ビジネスの面でもプライベートの面でも驚かされ感心させられることばかりだった。

「慎弥だって、研究結果とか報告できることがあるだろう?」
征司が宥めるように慎弥を促すが、その内容を真剣に聞こうとはしていない態度など雰囲気だけで感じられるのだろうか。
「誰が、海の流れがどうとか、生物があーだ―って聞いてくれるのっ?どの魚が何年かかって帰ってくるとか、興味の対象外でしょっ。意味の半分だって理解していないじゃないっ。つか、聞かないじゃないっ」
ますます慎弥は不貞腐れていく。
興味の対象外…。それは自分たちの『経済情報』に対しての意見なのかもしれないが…。
少なくともこうやって外で飲む分には、仕事の話を離れられるのは皆野も知ることだった。
志木が笑みを浮かべながら、手のひらをパタパタと振って見せる。
「あー、それも勘弁ね。ここにあるマグロのカルパッチョ、食べるまでに慎弥くんの説明聞いていたら、鮮度悪くなるから~」
冗談半分にはぐらかして、場を和ませてくれるのは、さすがに年の功か…。
フォークを手に、軽食を口に運ぶ志木を見ては、隣の征司が手を差し伸べて垂れる液体を掬った。

面倒見が良いところは、さすが”兄”だなぁなどと感心していた皆野だったのだが…。

二人の間を邪魔していたのが慎弥だった…とは、さすがに誰も口にしない。
慎弥自身も気付いているところがあるのだろうか。
初めて二人が一緒に住むと聞いた時に、明らかに動揺して皆野に縋ってきた。
縋る場所があると分かったから、征司も言い出したことだったのだろう。
そこまで、どんな思いで、ふたりとも黙認してきたことなのか…。

何も口にしないふたりの”兄”に、ある意味感謝と感心する気持ちを持つ。

「ここではほどほどにして部屋で飲みますか?」
「うんっ、それがいいっ」
「部屋?」
征司の提案に慎弥は即座に同意し、皆野は何のことかと瞬きを繰り返した。
志木が肩を竦めてみせる。
「前回、泊まり損ねちゃったから。こんなことでもないと、”外泊”もしないしね」
悪戯に笑う笑みは、小悪魔にも感じられた。
家から遠い…という距離ではないけれど、帰りたいと思える距離でもない。
志木の笑みを見て、遠くない過去が甦る。慎弥と出会ったばかりの頃…。

“前回、泊まり損ねちゃった”…に、皆野は今夜用意された部屋が、以前と同じスィートルームだと、感じ取ることができた。
外泊…とは…。
あの時、慎弥を先に帰して、ふたりで泊まる予定だった三泊目が浮かび上がる。
理解していたとはいえ、慎弥がいる場所に、志木を連れ込めなかった躊躇い…。
今は皆野がいるからいい…といった感じなのだろうか…。

それにしても、まさか、またスイートルームに泊まれるようになるとは…。
皆野は内心で冷汗をかいていた。
当時からは信じられない、進歩である。

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アンケートの意味は何もない…と言われそうですが…。思い出させてくれるものでした。

もとになる話はこちら→見下ろせる場所
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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2012-07-21-Sat 12:05 [編集]
昨日までの英人くん同様私の気になる子信弥くんの続編うれしいです。
相変わらずの甘ったれ小悪魔だな~
そして兄様と恋人のこともいろいろありそうだからとても楽しみです。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-21-Sat 17:41 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 昨日までの英人くん同様私の気になる子信弥くんの続編うれしいです。
> 相変わらずの甘ったれ小悪魔だな~
> そして兄様と恋人のこともいろいろありそうだからとても楽しみです。

気になる子、その2、でしたか~。
はい、あいっかわらす、小悪魔度全開です。
兄弟と恋人たちネェ。
なに、するんでしょうかねぇ。
忘れていたものを思いだしながら書いています。
寄り道するかもしれないけれど…。
コメントありがとうございました。
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