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BLの丘
ただそこにいて 12
2011-09-05-Mon  CATEGORY: ただそこにいて
「仁多まで手玉にとってさぞかし良い気分だろうよ。こんなところで働くより、どっかの班にいる、仕事掛け持ちしている奴に、『別の仕事』紹介してもらったほうがいいんじゃねーの?ちょっと媚び売ればチップの一束もくれるだろっ」
「倉岳!!」
班長に制されて倉岳は俊輔を睨みつけた後、その場を離れていった。
心配そうに俊輔を抱えた吉賀を見て発された倉岳の台詞は、完全な蔑みだった。

借金に追われて自由も奪われた人の中には、ここで働かされた上に別の場所で仕事をさせられているものがいる。
表立ってそれが何なのかは口に出されないけれど、体を売る仕事であることは察しがついていた。
相手を選ぶこともできずに、言われるがまま向かってくる人間の相手をしなければならないらしい。
彼らが月々に支払う金額も知らなければ、体を張って得られる金額も知らない。ただ、うまくいけば、工場で一カ月働く金額と同じ額が4日で手に入るとは耳にしたことがある。つまり借金返済の近道だ。
掛け持ちならどれくらいの収入なのだろう。しかし本人に自由などないのだが…。
工場の、それも寮に入れているのは、全てを監視するためだと聞いた。
初めてその話を聞いた時、逃げた父を恨んでいたのに、裏稼業を営む会社に借金をされなかったことを感謝したくらいだった。
母と妹を盾に取られたら、俊輔は自分を投げ打っていただろう。

もちろん、家族ではなく本人自ら作った借金地獄、というパターンもありはしたけど…。
強制的に働かされている連中とは違って、自分から望めば半分はとられる仲介料なしでほぼ全額の金が手元に入るわけだ。
『足、開いてこい』というような倉岳の言葉に涙が零れ落ちた。
津和野のことといい、吉賀の態度といい、双方に色気を撒いてかき乱していると言われているようだ。
こんなところでなく、別の場所にしろ…と…。
自分の意思とは関係なく、周りの受け止め方が違っているとはこれまでに幾度も体験してきたが、今ほど誤解を与えて辛辣な言葉を浴びたことはなかった。
親切にされることは、媚びをうったことになるのだろうか…。

「俊輔、部屋に食事届けるから。今日はもう部屋に戻れ」
力が抜けた体を吉賀に抱き起こされて小さく頷く。
食事なんて、とてもではないが喉を通らない。それらを無駄にすると分かるから「いらない…」と掠れた声が漏れた。
「食えよ。おまえ、ただでさえ体力ないんだからさ」
先程の倉岳とのやりとりなどなかったように、吉賀の声はいつものように優しい。
濡れた眦を指先で拭われる。優しくされればされるほど誤解したくなる気持ちが湧く。
何が悪かったのか、その一つも見つけ出せない。
俊輔はさりげなく吉賀の手を払った。これ以上の誤解を与えたくない。
少なくとも吉賀がこの班の中で居心地が悪くなるような状況は作りたくなかった。
自分と吉賀は関係ない…。

「俊…」
「ごめん…。も、い…。構わないで…」
「俊輔っ?!おまえ何言ってんの?!」
他の人と距離を置いたような関係。それが借金を抱える者にとってこの工場内で普通のこと。
吉賀はその合間を埋める役どころをずっと担ってきてくれた。無邪気な発言、人懐っこい性格、誰も怒らせることのない不思議なオーラ。
俊輔が一瞬でも独り占めしたような、特別扱いしている感覚は、親しくする他の人間にもあるのだろうか。
吉賀は誰とだって仲良くなれた。
倉岳に言われたように、吉賀まで蔑まれたくはない。

どこで誤解が生まれてしまったんだろうか。何が悪かったんだろうか。
きっと倉岳は俊輔と話す時間なんてとってくれないだろうから、言い訳もできないし、事の流れは第三者から聞くしかない。
同じ班で働くのに、こんなに気まずいことは就職してから初めてのことだった。
陰口ならまだともかく、あれほどはっきりと嫌悪を表されては、どうしていいのかすら分からない。
だけど今、仕事を辞めるわけにもいかなかった。
相手がベテランな人間だけに、俊輔の言い分より倉岳の意思の方が尊重されるだろう。

追ってくる吉賀の手を払うと、傍にいた班長が吉賀に向かって小さく首を横に振っていた。
借金の問題などは他の人間からはどうにもできない…。具体的な話を詳しく知る者もいない。そんな意味もあるのかもしれない。
長いこと経験してきた班長だ…。

「俺…、なにしてるんだろう…」
突然、虚しさが湧いた。
家族のためにって頑張って、風邪の一つも引かないようにって気をつかって働き続けて、働けることの充実感を見出した先…。
それが嫌だったわけではないけれど…。
こんなに頑張って、自分のために何が得られるんだろうか…。
ふと己のことを考えた時、倒れる前以上に全身から力が抜けた。

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