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BLの丘
ただそこにいて 37
2011-09-30-Fri  CATEGORY: ただそこにいて
津和野がやってきたのはその日の夕方…というよりも夜だ。
病院の診察時間は終わっていたし、津和野も勤務時間を終えた後のこと。
前もって連絡があったのか、現れた津和野を伊佐は笑顔で迎えてリビングに招き入れた。
俊輔は一日、何をしようかと思いつつ、ダラダラと映画を見たり雑誌をめくって過ごしていた。
こんな日が何日続くのかという不安もあった。
だけど、伊佐は早々勤務に戻すつもりはないようだったし、本気で俊輔の借金を清算する気でいた。
これまで張り詰めていたものがプツリと切れた感覚はここに運び込まれた後でも味わったが、今はその時ともまた違っている。
働くだけが全てだと思っていたのに、それを取り上げられ目標を見失った喪失感ではなく、今感じているのは腑抜けになっていくほうの不安だ。
伊佐の傍は確かに居心地が良い。だけど、それだけではない何かを、体のどこかが求めている…。

「俊くんを追いつめるものがなくなれば、正確な判断ができるようになると思うけどね」
伊佐がいうその言葉の意味は、良く理解できなかったけれど、「そばにいて俊くんのためになることをしてあげるよ」と言われた台詞は深く俊輔の胸に突き刺さってきた。
これが、全てを支えてくれるという大人の余裕と自分に注がれる愛情なんだろうか。
吉賀に縋れなかったものが、どうして伊佐には甘えられるのか。その違いが俊輔自身でも分からずにいる。
ただ、たったこれだけの短い間でありながら俊輔のほとんどを把握し受け止めてくれる大きさは何にも代えがたい。
その隙間にすっぽりと嵌り堕ちた。
だからといって借金の肩代わりはどうしたって抵抗がある。
伊佐に拒んでみせれば、「全て清算すれば考え方に余裕が生まれる。余力がないから卑屈な考えになるんだ」と宥められてしまった。
早々にも纏わりつくものから解放させたい伊佐の思惑が見えたようだった。
俊輔はその時、伊佐を手に入れるために体を支払ったことを痛感した。
『この体をもらうから』…。
伊佐が呟いた台詞に応えたのは紛れもない俊輔自身である。

リビングに入ってきた津和野は、ソファに座って寛ぐ俊輔を視界に入れて、一瞬の驚きを瞳に乗せた。
「あ~れ~。なんだか、俊くん、見栄えよくなっちゃって~」
それは伊佐が用意した服にも影響されているのだろうか。みすぼらしいヨレヨレだった服はここには一着もない。
更に狭い寮の8畳間ではなく、豪華な家具が置かれた高級感のある場所にいるのだ。映り方は変わって見えて当然のような気がした。
津和野の発言は一種の優越感を植え付けた。
広々としたリビングの『コ』の字型に置かれたソファの対面に津和野は腰を下ろした。
「津和野先生、俺、仕事…」
「俊輔、仕事のことは考えるなと言っただろう」
俊輔にホットミルクを、二人分のブランデーの入ったグラスを用意していた伊佐が我が物顔でキッチンから即座に会話を止めに入ってくる。
数日ぶりに会った津和野に話しかける俊輔に向かって、見た目通りの少しキツイ伊佐の言葉が投げかけられると、俊輔は一度口を閉じた。
ここにいても時間の無駄があるようで、仕事復帰は俊輔の中でも望まれていたことだった。
借金云々はともかく、妹を進学させるための費用や生活面でかかるお金は少しでも自分で貯めていきたい。

ふたりのやりとりにすぐに反応するのは、やっぱり津和野だ。
「『俊輔』?」
津和野の瞳には明らかに分かる訝しさが混じっていた。
一瞬にして和やかだった空気が張り詰めた。津和野と伊佐の、長年の付き合いから感じ取れる”何か”なんだろう。
津和野が向けた視線の先では伊佐が薄笑みを浮かべていた。勘の良い津和野が気付かないわけがないといった感じだし、何を言われても返せる余裕が伊佐には見える。
「武雄(たけお)サン、どうやら頼んでいないことまで手を回してくれたみたいだね」
「ご要望通りに添えないことも世の中には起きるんだよ」
ニヤリと笑いあう二人の雰囲気がどこか冷たく、ピリピリとしたものを纏っていた。仲が良いとされる二人だからこそ、本音で言い合えるのだろうか。冷えた笑みを浮かべているのにお互いの腹積もりは読めるようだ。
思わず逃げ出したくなる俊輔を、津和野の穏やかな…否、やっぱり鋭い視線が見つめてくる。
「俊くん、こいつに何されたの?騙されて傷つくのは俊くんなんだよ」
「騙す…ってあのなぁ…」
「いたいけな青少年を嬲って今更何を言うか…。あれほど言ったのに…っ」
「だってしょうがないじゃん。二人して求めあっちゃったんだもん」
誤魔化しも何もきかない伊佐の台詞には俊輔が動揺するだけだった。さすがに何の話をしているのかその内容は理解できる。しかも昨日の今日。
そんな簡単に『二人の仲』をバラさないでほしい。なにがあったのかまで漠然とした会話からだって詳細を知れる津和野になにもわざわざ…。
返す言葉もなく頬を染めて俯くだけの俊輔に、盛大な津和野の溜め息が聞こえた。

「それでいいって俊くんは思ったわけ?本当は何が欲しいのかもう一度良く考えてごらん。目の前に美味しそうなリンゴがあるからって、すぐに食べちゃうのはどうかと思うけど。毒入りだったら眠りのお姫様だ」
津和野は俊輔に諭してくる。咄嗟に掴んでしまったのは確かだけど…。
いいと思ったから…。俊輔は自分自身にそう言い聞かせた。
グラスふたつとカップを乗せたトレーを持った伊佐が俊輔の隣に座った。
頭上をポンポンと掌が覆う。もう慣れてしまった仕草だ。
「もし眠ってしまったとしても、起こす役目の王子がいるだろう。それに俊輔は今、片方の靴をどこで落としたか分からない状態なんだよ。その片方を俺が持っているかな。…慌てることはないさ」
伊佐はいつも『慌てなくていい』という。根本的な考えは津和野も同じようだが、今は目指している方向性が二人の中で違っているようだった。
津和野はまたもう一つ、大きくて長い溜め息をはいた。

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毒リンゴを渡したのは魔法使いだっけ?と思わず調べちゃいましたよ…(←過去に読んだ。曖昧な記憶)
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2011-09-30-Fri 10:58 [編集]
私の妄想では...(*゜▽゜)。o ○
伊佐と津和野は 割り切った大人の関係ありかと...
でも実際 二人の会話を目にしたら 純粋?なお友達みたいですねσ(*´∀`照)えへへ

よ~く考えると 一連の伊佐の言動は、俊輔に 何かを気づかせる為のカウセリング!?
ちょっと暴走気味だけど そのくらいしないと 俊輔は気づかないようだしね。

しかし いつ気づくのか?何が切欠で?
...( = =) トオイメ...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-09-30-Fri 13:55 [編集]
けいったん様
こんにちは。
私も思いました――――。
伊佐と津和野。
だけど途中で二人はどっちがどうなの―――????となってね…。(上と下が思い浮かばなくて…)
純粋なお友達です。


> よ~く考えると 一連の伊佐の言動は、俊輔に 何かを気づかせる為のカウセリング!?
> ちょっと暴走気味だけど そのくらいしないと 俊輔は気づかないようだしね。
>
> しかし いつ気づくのか?何が切欠で?
> ...( = =) トオイメ...byebye☆

気付くのか…。
気付いてほしい俊輔(と、私…)なんですけど。
分からないから余計に突っ込んだ態度で伊佐も接するのでしょう。
伊佐もいっぱい色々と考えているんですけど、
けいったんさんが言うように、どのタイミングで…、
今はまだ暴走していない伊佐を見て安心している…?!
俊輔、この後、どれだけ自分自身を見極めていけるのでしようか。
でも間違っても守ってくれそうな人がいますけどね…。
コメントありがとうございました。

No title
コメント甲斐 | URL | 2011-10-01-Sat 02:24 [編集]
もう一人の保護者登場ですね

そっかー俊輔くんは森で迷った挙げ句、魔女に騙されて毒りんご食べちゃったのかー
でも昨日はりんごって言うより目の前のバナナ…

優しいけど厳しいお父さんと、包みこんで甘えさせてくれるお母さんみたいです
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-10-01-Sat 06:17 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> もう一人の保護者登場ですね
>
> そっかー俊輔くんは森で迷った挙げ句、魔女に騙されて毒りんご食べちゃったのかー
> でも昨日はりんごって言うより目の前のバナナ…
>
> 優しいけど厳しいお父さんと、包みこんで甘えさせてくれるお母さんみたいです

やっと登場しました。もう一人。
吉賀に経過でも聞いたんでしょう。
俊輔、彷徨っていますね~。
バナナ?!(そんなばなな…←)
まぁ、リンゴでもバナナでも毒入っているかどうかは分かりませんが…。
きっととっても美味しかったことと思います。
(毒っていうよりも媚薬だったりして…ボソ)
コメントありがとうございました。
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