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BLの丘
淋しい夜に泣く声 6
2009-09-08-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
…飛んで火の入る夏の虫…。

確かに英人は、デザインに関わる道で生計を立てられたらいい…という願望があった。
英人のことを調べつくしたらしいこの男が、その願いまでもどこかで聞いていてもおかしくない。
男から告げられた内容は、まさに英人が喜んで受けたいと思うものだったが…。

大学を卒業して僅か1年足らずでこの世界の厳しさを教えられ、自分の考えが甘いものだったと知った。
景気の悪さもあったが、なかなか次の就職口を見つけられなかったのは、狭き門に集まる人の多さだ。経験や実力を積んだものが何よりも最重要視され、即戦力になる者が重宝される。
大した経験もなく、僅かな期間で臨んだ世界から追い出された英人にはチャンスなどなかなか巡ってくるものではない。

それをこの男は、小さい子供に飴玉を上げるように英人に告げてきたのだ。…仕事をやる、と。
しかも法外な金額をちらつかせ、他との交渉権を得ないように監禁までする…と。

身体を目的として誘われ、たどり着いた部屋で告げられる内容にしては出来過ぎているところがある。まるで夢かおとぎ話のようだと思った。
どれだけもっともらしいことを並べられても、危機感や猜疑心を持てと言われたばかりで、この男の言うことを信じる気にはなれなかった。
受けるということは、煌々と照らされた灯りの中に飛び込んでいく虫のような気がした。
ようやく放心したような頭を巡らせ、状況を理解した英人は、尚も消えない恐怖心を隠すこともせず、震える声を絞り出した。
「ア、 ンタの、本当の目的って…?」

男は再び薄い笑みを浮かべた。
「こんな体勢を取らされていたら、信じろって言っても無理だよな。抱いて欲しければ抱いてやるが、目的はあくまでもおまえの隠れた才能だよ」
「ならば、なんで、こんな…」
脅迫まがいのことをするのかと尋ねたかったのだが、部屋の呼び鈴を鳴らす音が聞こえて、英人の声は途切れた。
「さすがに早いな」
英人の問いなど、全く無視して、男は立ち上がった。

身体は羽根布団で隠されていたが、ベッドヘッドに繋がれたままの腕は晒されている。
威圧感を漂わせる男と共に入ってきたのは、紺色のスーツに身を包んだ細身の男だった。
電話口で話していたことを追えば、たぶん秘書なのだろう。ほっそりとした顔は穏やかさを湛えていたが、一瞬で物事を判断するかのような奥二重の瞳は、英人を捕らえるなり細められた。
気の毒に…と思うよりも、愉しんでいるといった風で、先程までそばにいた男よりも背筋を撫でられるような悪寒が一気に走りぬけた。

「また随分と無茶を…」
秘書と思われし人物のバリトンが部屋に響いた。
「『危険』という言葉を知らせてやったんだ。感謝ぐらいされたいもんだな」
「これこそ訴えられますよ」
「感じる身体に挿れるのは合意の上だろ」
「社長ご自身がおやりに?」
「べつにお前でもいい。ただその時は見学くらいさせてもらうがな」
「どちらでも。…それにしても…。写真で見るよりも格段に上物ですね」
「プロジェクトの方で使えなければ、写真でも映像でも金は取れそうだろ?」
「彼が聞いていますよ」
秘書は咎めるように『社長』と呼ばれた男の言葉を遮る。

悪魔同士が会話しているのかと思った。英人は嫌な汗が全身から噴き出すのを感じた。
与えられた仕事に失敗すれば、またこうやって足を開く世界に嫌でも連れ戻される。それも自分の意思とは関係なく…。
炎の中で燃え尽きる虫になるのだと、絶望のようなものが心に沸いた。

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