榛名に「先に寝ろ」と言われ、リビングにいても仕事の邪魔になるだけかと思えば、英人は促されるまま寝室に足を踏み入れた。
さっきまで縛り上げられ恐怖の中を漂った場所で眠りにつこうというのだから皮肉なものだ。
寝室に入って、当たり前のことに英人は気づいた。
ここにはどれだけ大きいとは言ってもベッドは一つしかない。
それは当然、榛名と一夜を共にするということで、仮に榛名が性行為の対象として英人を見ていないとしても躊躇いが生まれる。
英人はもう一度リビングに戻った。
再び英人がリビングに戻ったことで、デスクの端に腰を掛けて書類の束を手にしていた榛名は顔を上げた。
神経質そうな眉がスッと動いた。
「どうした?一人では眠れないのか?」
「そ、うじゃなくて…。俺があそこで寝ちゃったら、社長はどうするのかと思って…」
からかうかのような口調に、しどろもどろに答えれば、そんなこと…と一笑された。
「俺はここで寝るから気にしなくていい」
そういってそばのソファに視線を向ける。
いくらベッドの代わりになりそうだとはいっても、榛名の身長や体格を思えば安眠が取れるスペースとは言い難かった。
それと同時に、榛名は自分と共に寝る気などないのだと再確認させられる。これまで強請らなくても欲しいと思う快楽を与え続けられていた英人には『興味がない』と告げられているようでショックのほうが大きかった。
だからといって抱かれたいわけでもなかった。
自分に恐怖を与え続けた男に身体を許す気などなかったのだが、少しでも自分を求めてほしいという淋しい願望は渦巻いている。
全く正反対のことなのに、単純に自分に興味を持ってほしいという、子供のような感覚が英人を占めていた。自分は常に求められている…。そんな優越感がこれまでの英人を支えていた。
それをこの男はバッサリと切り捨ててくれた…。少なくとも英人を求めていない…という態度で。
「そう…」
まるで身体だけが自分の取り得と思うような英人に、榛名の態度が冷たく当たれば、自分には何の価値もないのだと思わされる。
おずおずと寝室に戻り、広い海のようなベッドに身体を横たえた。
美術家としての価値を見出されたのに、この満たされない感覚はなんなのだろう…。
眠りに付けずに、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
不意に寝室のドアが開けられ、オレンジ色の柔らかな灯りが飛び込んでくる。
クローゼットを開け、予備の毛布を取りだす榛名の姿が陰影を付けて視界に入った。
初めて出会った時にも感じた、吸い込まれるような顔の造り。しっかりとした体躯は見たものを威圧する。
引きこまれるかのように、英人は半身を上げた。
「…ねぇ…あそこじゃ、狭いんじゃないの…?」
突然上げられた声に、驚いた顔の榛名が振り返った。
「まだ、起きていたのか…?」
「…あ、寝られなくて…」
戸惑いがちに答える英人に、榛名はクスっと笑みを浮かべた。
「まだ何か心配が? 気に病むことはない。おまえのことは守ってやる。誹謗中傷はこちらで受けるから、好きなだけ自由な発想をしろ」
あくまでも絵に対する期待を込められるだけで、英人は言いようのない絶望感を覚えていた。
自分自身を認めていられるはずなのに、この男に対しての不満は募るばかりだ。
「そんなんじゃなくて…」
思わずついた言葉に、英人でさえ驚きがあった。この先に何を求めるというのだろうか…。
全てを悟ったような男が、手にしていた毛布を置くとベッドへと歩み寄り腰かけた。
「一緒に寝たいならはっきりとそう言え」
英人の柔らかな髪が撫でられる。核心をつかれたようで、英人の動きが止まった。
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さっきまで縛り上げられ恐怖の中を漂った場所で眠りにつこうというのだから皮肉なものだ。
寝室に入って、当たり前のことに英人は気づいた。
ここにはどれだけ大きいとは言ってもベッドは一つしかない。
それは当然、榛名と一夜を共にするということで、仮に榛名が性行為の対象として英人を見ていないとしても躊躇いが生まれる。
英人はもう一度リビングに戻った。
再び英人がリビングに戻ったことで、デスクの端に腰を掛けて書類の束を手にしていた榛名は顔を上げた。
神経質そうな眉がスッと動いた。
「どうした?一人では眠れないのか?」
「そ、うじゃなくて…。俺があそこで寝ちゃったら、社長はどうするのかと思って…」
からかうかのような口調に、しどろもどろに答えれば、そんなこと…と一笑された。
「俺はここで寝るから気にしなくていい」
そういってそばのソファに視線を向ける。
いくらベッドの代わりになりそうだとはいっても、榛名の身長や体格を思えば安眠が取れるスペースとは言い難かった。
それと同時に、榛名は自分と共に寝る気などないのだと再確認させられる。これまで強請らなくても欲しいと思う快楽を与え続けられていた英人には『興味がない』と告げられているようでショックのほうが大きかった。
だからといって抱かれたいわけでもなかった。
自分に恐怖を与え続けた男に身体を許す気などなかったのだが、少しでも自分を求めてほしいという淋しい願望は渦巻いている。
全く正反対のことなのに、単純に自分に興味を持ってほしいという、子供のような感覚が英人を占めていた。自分は常に求められている…。そんな優越感がこれまでの英人を支えていた。
それをこの男はバッサリと切り捨ててくれた…。少なくとも英人を求めていない…という態度で。
「そう…」
まるで身体だけが自分の取り得と思うような英人に、榛名の態度が冷たく当たれば、自分には何の価値もないのだと思わされる。
おずおずと寝室に戻り、広い海のようなベッドに身体を横たえた。
美術家としての価値を見出されたのに、この満たされない感覚はなんなのだろう…。
眠りに付けずに、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
不意に寝室のドアが開けられ、オレンジ色の柔らかな灯りが飛び込んでくる。
クローゼットを開け、予備の毛布を取りだす榛名の姿が陰影を付けて視界に入った。
初めて出会った時にも感じた、吸い込まれるような顔の造り。しっかりとした体躯は見たものを威圧する。
引きこまれるかのように、英人は半身を上げた。
「…ねぇ…あそこじゃ、狭いんじゃないの…?」
突然上げられた声に、驚いた顔の榛名が振り返った。
「まだ、起きていたのか…?」
「…あ、寝られなくて…」
戸惑いがちに答える英人に、榛名はクスっと笑みを浮かべた。
「まだ何か心配が? 気に病むことはない。おまえのことは守ってやる。誹謗中傷はこちらで受けるから、好きなだけ自由な発想をしろ」
あくまでも絵に対する期待を込められるだけで、英人は言いようのない絶望感を覚えていた。
自分自身を認めていられるはずなのに、この男に対しての不満は募るばかりだ。
「そんなんじゃなくて…」
思わずついた言葉に、英人でさえ驚きがあった。この先に何を求めるというのだろうか…。
全てを悟ったような男が、手にしていた毛布を置くとベッドへと歩み寄り腰かけた。
「一緒に寝たいならはっきりとそう言え」
英人の柔らかな髪が撫でられる。核心をつかれたようで、英人の動きが止まった。
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