「や…だ…」
蚊の鳴くような声が英人から漏れた。
一刻も早くこの状況から逃げ出したくて、掛けられた布団が肌蹴るほど大きく身体を動かすのだが、繋がれた手首はびくともしない。
これからどんな狂宴がはじまるのかと思えば、竦んだ身体は一ミリだって開かない気がした。
「そんなに暴れないで。痛い目には合わせませんから。まったく、社長が冗談ばかりおっしゃるから…。可哀想に。かなり怯えていますよ」
ベッドから距離を置いたところで、目を細めた秘書は、英人の肌蹴られた身体に視線を落とした。
困ったように笑う瞳は冷静に物事を見極めているようだ。
英人は自分の体を品定めされているような錯覚を覚えた。
…『可哀想に』?! そう思うんだったら、この手を外せよっ!!…
心の叫びは音となって喉から漏れることはなかった。喉はカラカラに乾き、じっとりとした汗が全身から噴き出す。
今にも壊れるのではないかというくらい、心臓はばくばくと音を立てて、押し付けられるような胸の痛みを覚えた。
高まる緊張感に、英人はこれまでの人生を幾度となく後悔をした。
飲食店のアルバイトだけでは家賃だってままならない生活…。『快楽』だけを求め、手軽な存在だった男たち…。自分の容姿をそれなりに理解していたから、誘われる度に身体と引き換えに金をもらった。
一端途切れたはずの涙が、ぷっくりと英人の瞳を覆い、あっという間に零れ落ちた。涙は濁流のごとく止まることがなかった。
「心配するな。悪いようにはしないと言っただろう。おまえが大人しくうちとの契約に応じればいいだけのことだ。おまえだってまともな生活が送れるようになる」
「もうお話されたんですか?…もっとも説得力のない口説き方ですね…」
涙に濡れる英人を案じるかのように社長は淡々と告げた。続いて溜め息まじりに社長を咎める秘書の声が聞こえた。
これまでされた話のどの部分が真実でどれが嘘なのか、精神的に疲労していた英人はまともな判断などできなかった。
悪戯に心も身体も弄ばれている気がして、どんどんと自分が惨めになっていくようだった。
近づいてきた男の大きな掌が再び英人の頬を撫でた。
「もう一度野崎から全ての説明をさせるから落ちつけ。こんなことをして悪かったと思っているが、これまでのおまえの行動はあまりにも無防備だったからな。よく今まで無事に過ごせてきたもんだ」
「…は、な…して…」
一瞬でも垣間見える優しさにすがりたかった。涙で掠れる声が届いたのかどうかもわからないくらいか細い声だった。
「少しは身持ちが堅くなったか?人の趣味嗜好にとやかく言う気はないが、うちのプロジェクトに関わる人間にもしものことがあっては困るんだよ。金だけ払って大した仕事もしてもらわないうちにその辺で死なれたらかなわないからな」
男の言葉は嫌でも身に染みてくる。
恐怖から解放されるような予感がして、英人はひたすら頷いた。
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蚊の鳴くような声が英人から漏れた。
一刻も早くこの状況から逃げ出したくて、掛けられた布団が肌蹴るほど大きく身体を動かすのだが、繋がれた手首はびくともしない。
これからどんな狂宴がはじまるのかと思えば、竦んだ身体は一ミリだって開かない気がした。
「そんなに暴れないで。痛い目には合わせませんから。まったく、社長が冗談ばかりおっしゃるから…。可哀想に。かなり怯えていますよ」
ベッドから距離を置いたところで、目を細めた秘書は、英人の肌蹴られた身体に視線を落とした。
困ったように笑う瞳は冷静に物事を見極めているようだ。
英人は自分の体を品定めされているような錯覚を覚えた。
…『可哀想に』?! そう思うんだったら、この手を外せよっ!!…
心の叫びは音となって喉から漏れることはなかった。喉はカラカラに乾き、じっとりとした汗が全身から噴き出す。
今にも壊れるのではないかというくらい、心臓はばくばくと音を立てて、押し付けられるような胸の痛みを覚えた。
高まる緊張感に、英人はこれまでの人生を幾度となく後悔をした。
飲食店のアルバイトだけでは家賃だってままならない生活…。『快楽』だけを求め、手軽な存在だった男たち…。自分の容姿をそれなりに理解していたから、誘われる度に身体と引き換えに金をもらった。
一端途切れたはずの涙が、ぷっくりと英人の瞳を覆い、あっという間に零れ落ちた。涙は濁流のごとく止まることがなかった。
「心配するな。悪いようにはしないと言っただろう。おまえが大人しくうちとの契約に応じればいいだけのことだ。おまえだってまともな生活が送れるようになる」
「もうお話されたんですか?…もっとも説得力のない口説き方ですね…」
涙に濡れる英人を案じるかのように社長は淡々と告げた。続いて溜め息まじりに社長を咎める秘書の声が聞こえた。
これまでされた話のどの部分が真実でどれが嘘なのか、精神的に疲労していた英人はまともな判断などできなかった。
悪戯に心も身体も弄ばれている気がして、どんどんと自分が惨めになっていくようだった。
近づいてきた男の大きな掌が再び英人の頬を撫でた。
「もう一度野崎から全ての説明をさせるから落ちつけ。こんなことをして悪かったと思っているが、これまでのおまえの行動はあまりにも無防備だったからな。よく今まで無事に過ごせてきたもんだ」
「…は、な…して…」
一瞬でも垣間見える優しさにすがりたかった。涙で掠れる声が届いたのかどうかもわからないくらいか細い声だった。
「少しは身持ちが堅くなったか?人の趣味嗜好にとやかく言う気はないが、うちのプロジェクトに関わる人間にもしものことがあっては困るんだよ。金だけ払って大した仕事もしてもらわないうちにその辺で死なれたらかなわないからな」
男の言葉は嫌でも身に染みてくる。
恐怖から解放されるような予感がして、英人はひたすら頷いた。
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