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BLの丘
ただそこにいて 50
2011-10-13-Thu  CATEGORY: ただそこにいて
そこにいるのが吉賀だったら…。
伊佐との現在のやりとりをどう説明しようか。そんなことが頭をよぎる。
妙な誤解は与えたくない。
だが扉の外から掛けられてきた声は津和野のものだった。
「俊くん?ここにいるの?」
おそらく、伊佐から連絡をもらって、伊佐の家に帰っていない俊輔の行きそうな場所を探したのだろう。
「あ…」
『俊輔?どこで何しているんだ?』
伊佐の問う口調がきつくなるのは心配されているからだ。
もう一度呼び鈴が鳴る。その音は電話越しに伊佐の耳にも届いていた。
『寮か…』
小さな吐息混じりの声には、安堵も含まれていた。
「せ、先生が来てくれて…」
『分かった。今迎えに行く』
言葉が足りない短いやりとりからも、伊佐は状況を読みとってしまったらしい。
返答する間もなく電話は切れていた。

零れた涙をグイと甲で拭ってから、俊輔は玄関の扉を開けた。
「俊くん、武雄のところに帰ったんじゃなかったんだ。……どうしたの?」
ドアを開けるや否や、存在を確かめた津和野が開口一番に俊輔を認めたが、直後様子がおかしいことに気付かれる。
先程泣いてしまった表情は簡単に隠すことはできなかった。
「中に入って」と津和野に背を押され、部屋に戻った。
人の往来がある廊下で出来る話ではないと悟られている。
床にペタンと座り、膝を突き合わせるような位置で津和野が俊輔を覗きこんだ。
だからといって吉賀と何をしたのかを話すのは恥ずかしすぎる。
「仕事で何かあった?」
班変えをしなかったのは津和野だ。一週間ぶりの復活に問題が起きてもおかしくない。
もっともそれくらいで問題が起きるような職場ではないとは津和野の方が知っているのだろうが。
ブンブンと首を横に振れば、違う件が俊輔を悩ませているのだと嫌でも知られる。
「じゃあ武雄の家に帰りたくない理由でもできた?」
それにも首を横に振る。
伊佐と何があったのかは既に知られた話だから、揉め事が起きれば居づらさを覚えても不思議ではなく…。
となれば、原因は一つしか残っていない。津和野の消去法である質問に俊輔はしっかり誘導されたのも同然だった。
「また仁多くんか…」
溜め息がつかれて、吉賀を責められているようで咄嗟に俊輔は首を振った。
「ちが…っ、吉賀は何にも悪くなくて…。…俺が…、俺が…」
「二人で話をしたの?」
顔を合わせれば話すことがあって当然のことで。
その内容がどうであったかの詳細がなくても、話した末で憔悴している俊輔がいるのはそれとなく想像されてしまうものなのか…。
頷く俊輔の頭上に手を乗せてきた。
「また裏目にでたかな。仁多くんから”嘘”が漏れれば俊くんが素直に自分の気持ちを伝えられるかなって思っていたけど」
やはり故意的だったのだと改めて知る。
その点については確かに正直になれたけれど…。
「…言った…よ…」
俊輔の返事には津和野の方が驚いたようだった。俊輔の気持ちを聞いて吉賀から拒否されるとは思っていなかったのだろう。
先程の俊輔の発言を聞けば、明らかに俊輔自身が己を責めているものである。
それは『俊輔から』という意味にも聞こえなくない。
「まさか俊くんが嘘をついたっていうことはないよね?」
伊佐との関係を事実として吉賀に伝えたとなれば、吉賀は受け入れざるを得ないし、その行動をとった俊輔が後悔して今の様子になっているのも頷けるといったところ。
津和野の疑問に俊輔は「ちがう…」とかぶりを振った。
「君たちは何をどんなふうに話しあったわけ?」
回りくどいやりとりをすることなく、直球で聞かれ、俊輔はこれを津和野に話してもよいものなのかと悩んだ。
津和野は職場という自分たちに近い場所にいるからだ。伊佐は二人を詳しく知る人間ではないから『他人』という目で甘えられたような気がする。
伊佐に相談したところでいずれ津和野の耳に入るのだろうが、直接話すのと間に人を挟んで聞かれるのは精神的なものが違った。
それに今となっては、伊佐の方が俊輔の意思を汲んでくれて、伝わり易いのだ。
黙ってしまった俊輔に、しばらくは津和野も黙って待っていてくれたが、大きな吐息を漏らすと、「武雄に任せたほうが良さそうだな」と諦めたようだった。
携帯電話を取り出すとどこかに掛け、「俊くん、見つかったよ」と話しかけるところから相手が伊佐なのだと分かった。
すでに聞いた話と伝わったのか、「あっそっ」と短い返事をして通話が切れる。
それから「医務室で待っていよう」と俊輔を立ち上がらせた。
俊輔を一人にさせない津和野の気遣いだった。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-10-13-Thu 12:55 [編集]
ん~も~、吉賀くんは…
彼はいい子なんだけど
どうしても自分の気持ちを優先してしまうところがあるますよね
好き好きばかりで、気持ち伝えたくて
相手の心も体もほしくて
って、自分が求めるばかりじゃないですか
大人になれよ俊輔くん
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-10-14-Fri 07:06 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> ん~も~、吉賀くんは…
> 彼はいい子なんだけど
> どうしても自分の気持ちを優先してしまうところがあるますよね
> 好き好きばかりで、気持ち伝えたくて
> 相手の心も体もほしくて
> って、自分が求めるばかりじゃないですか
> 大人になれよ俊輔くん

いい子なんですけどね~。
感情ばかりが先に走ってしまってます。
もう少し相手のことを考えられる落ち着きを持てるようになったらいいんですけど。
今回の一件でどうなっていくことやら…。
コメントありがとうございました。
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