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BLの丘
ただそこにいて 57
2011-10-20-Thu  CATEGORY: ただそこにいて
一日の休暇を過ごしてから俊輔は会社に戻った。
伊佐に口を酸っぱく、「何かしようとするなら休みの前にしろ」と注意をされた。
安易に体を晒すな、ということである。
仕事を休む羽目になった原因は自分が良く知る。意味が分かるだけに顔を赤らめて家を出ることになってしまった。
吉賀がどんなふうに受け止めているのかと緊張もあったけれど、伊佐との行為のおかげで、もう脅えることはないんだなという落ち着きがある。

会った吉賀はいつもと変わらない態度に見えもしたが、どこか機嫌が悪そうでもある。
やはりこの前の反応がまずかったのかと不安が生まれた。だが俊輔を責めるというより、自分自身にいらついている様子だった。
その態度を見れば、俊輔がまだぎこちない動きをしていて疑われたわけではないと知れてくる。
しかし仕事中に話す時間など取れるわけがなく、昼の休憩時間まで待つことになった。
食堂でかき込むように食事を取り、それぞれの時間を過ごす為に銘々が動きだす。
談話室に向かう者、庭となった芝生で昼寝をする者、私用の用事を片付けに行く者…。
食事の間中、吉賀と言葉を交わすことがなかったから、俊輔はこの後をどうしようかと考えてしまった。
いつもであれば、連れだって散歩に出たり、休憩所でダラダラしたりするのだが…。
なんとなく気まずさが二人の間を流れている。
沈黙を破ったのは吉賀のほうだった。
「俊輔、時間ある?ちょっと、寮に戻って話しねぇ?」
「え?寮?」
少々距離はあるが休憩時間中に部屋に戻ることは充分可能である。実際、一度戻って転寝をしている人すらいるくらいだ。
人に聞かれたくない話があるのだとは瞬時にも察することができる。
俊輔の中に浮かぶのは、先日確かめ合った気持ちの撤回かという不安が湧いた。
今まで端々に感じられていた人懐っこさが見られず、緊張が走っていく。
「…うん…」
かろうじて頷いては、ただ黙って吉賀の背中を追いかけることしかできなかった。

吉賀の部屋に入ると、買っておいたらしい缶コーヒーを出される。
余所余所しい態度がなんとも居心地の悪さを運んでくる。
いつもの場所、斜向かいのところに座った吉賀が、俊輔の顔をまっすぐに見つめてきた。
「俊輔さ、…俺たちのこと、先生に言ったの?」
脈略もなく始まった話、しかも津和野の名前まで出されては何の事かとキョトンと見返してしまう。
「え?先生?」
問い返した俊輔から一旦視線を反らした吉賀が、また視線を合わせた。
津和野に具体的な話をしていなくても、すでに知られた二人の感情である。俊輔は伊佐の家で聞かされていたが、吉賀にしてみたら津和野が知っているなどとは寝耳に水だったのだろうか。
「昨日、先生から説教くらったの。俊輔に無理させたってこと、バレてるし…。それ、俊輔が相談でもしたのかと思って…」
吉賀が言いたいのは一昨日この部屋で勢い任せで進んでしまった行為のことだろう。
土壇場で脅えて逃げた俊輔が、何があったのかと津和野に話をしていてもおかしい出来事ではないし、津和野経由で聞かされれば吉賀だって当然頼ったと思って当たり前のこと。
俊輔の容体のことについては、吉賀よりも津和野の方が詳しいとも捉えられた現在。
「あ、べつに…。相談とかしてないけど、…なんとなく知られちゃった…って感じ…かな…」
「そうなの?…なんつーか、…俺が悪いの、充分なくらい分かってるけど、でも俊輔のこと、先生から言われるの、ちょっとムカついてて…。しかも、…話の内容が、アンナコトじゃん…」
吉賀が言う『あんなこと』って…。津和野のことだから隠すわけでもなく単刀直入に性についての話を切り出したのがなんとなく伺えた。
そんな話をいきなりされたら、誰だって驚いていいはずだ。
機嫌の悪さは間に津和野が入ってしまったことか…。
「ごめん…」
「俊輔が謝ることじゃないだろう。そりゃ、びっくりしたけどさ…」
「うん…」
吉賀の体が俊輔に近づいてくる。伸びてきた掌が俯いてしまった俊輔の頭を撫でた。
「ごめんな…。俺、やっぱ、相当焦ってたんだって、改めて思った…」
「吉賀?」
見上げた先、苦笑いを浮かべた吉賀は、幾分感情を抑えた、少し背伸びをした姿に映った。
俊輔の心の中に冷めた感情が入り込んでくる。
『距離を置こう』…。そんなふうに言われている気分だ。

「昨日、仕事が終わった後、先生に呼び出されて、みっちり怒られた」
「え?」
「おまけに何をどうするべきかの手順までしっかり教えられてきた」
「え?…、そ、それって…」
俊輔の脳内を巡ったのは、俊輔と伊佐が絡み合う姿…ならぬ、吉賀と津和野のやり取りの方だ。
しかし、何一つ想像できるものはなかったけれど…。
「俊輔を守りたいんだったら、正しい知識を身につけろって…」
吉賀の苦笑いの奥には、自分が未熟者であったと悟る気持ちが見えてくる。
俊輔自身、伊佐に教えられたことは多々ありはするが…。
吉賀の胸の中にグイっと引き寄せられる。
倒れこんだら逞しい胸板に鼻先が押し付けられた。クンと嗅いだ香りに、吉賀に嫌われていないことを知り、不安に思っていた感情が少しずつ解けだす。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-10-20-Thu 11:53 [編集]
吉賀くんもやっと『あんなこと』の正しいHOW TOを学んだんですね
っていうか遅いよ!
吉賀くんにとっても何もかも筒抜けでぜーんぶ知られてるっていうのは
恥ずかしかったりムカついたりするとこでしょうが
想いを試されている!?みたいですね
とりあえずまだ昼休みですから
暴れん坊な獣くんには落ち着いてもらいましょうよね
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-10-21-Fri 06:54 [編集]
甲斐様
おはよようございます。

> 吉賀くんもやっと『あんなこと』の正しいHOW TOを学んだんですね
> っていうか遅いよ!
> 吉賀くんにとっても何もかも筒抜けでぜーんぶ知られてるっていうのは
> 恥ずかしかったりムカついたりするとこでしょうが
> 想いを試されている!?みたいですね
> とりあえずまだ昼休みですから
> 暴れん坊な獣くんには落ち着いてもらいましょうよね

遅いwww
ですよね~。
筒抜けでムカついてても良い情報を仕入れられたということで。(笑)
暴れん棒は大人しくしてもらわないとね。
俊輔も釘を刺されていることだし。
コメントありがとうございました。
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