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BLの丘
新しい家族 14
2012-01-18-Wed  CATEGORY: 新しい家族
ダイニングテーブルで繰り広げられる勉強の状況は日生を不安に陥れていた。
だが、このたびの家庭教師の男は、よほど言われているのか、過去の家庭教師のように触れてくることはなかった。
家の中にこもること。そのことを逆に心配される。
一か月もたたない時、日生は話しかけられた。
「いつもさぁ、家の中にいるだろ。たまには表、出たいとか思わないの?」
不思議そうに尋ねられて、『外の世界』というものに興味を惹かれた。
昔、和紀に連れられてショッピングセンターや遊園地を回ったことはあった。清音とも買い物などで出ることはあるが、遊ぶというものは無縁だった。
目の前の男は、「少しぐらいハメはずすのもいいもんだよ」と、日生の日頃を心配してくる。
世間一般的な遊び。

「参考書を買いに行く」という理由をたてて、日生は男に連れ出された。
外出はあまりにも久し振りで…、しかも和紀とは異なる歩き方を見せてくれた。
日生は夢中になり、食べ歩きや店員との会話のやりとりに嵌った。
与えられたお小遣いはある。そのなかでやりくりすることを、日生は初めて知った。いつも和紀や周防が買い与えてくれるものばかりだった。
自分で買ったことなどなかったのだ。
映画館によって、ポップコーンとジュースを渡される。
その味に映画よりも夢中になった日生だった。懐かしくて、嬉しかった。
和紀との時間が戻った気がした。昔を思い出して…疑似体験、とでもいうのだろうか。
とにかく『楽しい』という言葉しか浮かばない。
ずっと味わうことのなかった感動だった。

楽しい気分を心に抱き、家に帰りついた時、玄関の扉を開けた途端、仁王立ちする和紀を見た。
家庭教師は送ってくれたが、その姿は和紀の視界に入っているのかいないのか…。
「こんな時間までっ…っ!!」
参考書を買いに出たには遅すぎると、和紀は玄関前で別れようとした家庭教師に掴みかかっていた。
「和紀、やめなさいっ」
周防の冷静な判断はいつもと変わらない。
心配をかけてしまったことに、改めて気付いて、日生は俯いた。
「ごめ…」
「日生だって、久し振りに出掛けてみたいものなどあったのだろう。遅くまでつき合わせて悪かったね」
周防は労いの言葉を男にかけた。
あまりでかけたがらない日生を知っている。
出かけたついで…と周防は言ってくれた。
だけど、男は二度と日生の前に現れることはなかった。
和紀が、勝手な振る舞いと判断して、クビにしたのだ…。

孤立…という言葉を知る。
和紀も周防も日生を守ってくれようと動くが、ひとりぼっちにされた淋しさは日生に覆いかぶさってきた。
新しくやってくる家庭教師は、今まで以上に時間を短くされた。
課題だけを出され、一人でもどうにかやりこなして、褒められてはいたが…。
和紀が気にかけてくれること。和紀のために頑張ること…。唯一の日生の救いになる。
和紀と周防に答えられるような人間になることが、日生の人生での目標であったのだ。

十七歳になったとき、周防は日生に大学に行くよう勧めてくれた。しかも和紀が卒業した私大だった。
そこにかかってくる金額など嫌でも知れてくる。
今までの教育費を考えても、これ以上かけられる費用ではないと日生は首を振った。
大学を出なくても、三隅家に仕える方法はあるだろう。
「日生。無理は言わない。だが学んで今後困ることはないはずだ。日生の学習能力の高さはずっと見てきて知っている。埋もれさせるのはもったいないんだよ」
この先も、できることなら自分たちのために、三隅家の動かす企業の一員となってほしいと、さりげなく伝えられた。
逆らう術を、日生は持っていなかった。

真庭奈義の姿を見たのは随分と久し振りだ。
マンションに立ち寄った姿に、清音はお茶を出し、「日生と話がしたい」との発言に、大人しく家を出た。
付き添いの人も玄関の外に出したままだ。
何かあったら呼ぶよう、日生は昔から言われている。
奈義が周防の信頼を置いている人間だと清音も信じていたから、この場を二人きりにしてくれた。
もうすでに五十代の半ばを迎え、今まで以上に貫禄をつけた男だった。
あの時、周防に言われて手放してくれたからこそ、今の日生があった。

「和紀に、随分と可愛がられているようだな」
唐突に告げられたことは日生に理解できないものだった。
ここ最近、和紀は日生に構ってくることはない。差を置かれていると、日生の方が思うくらいで、『可愛がられている』とは昔の話だろうと思った。
いや…手をかけられているのは周防の方ではないだろうか…。

「見合い話、ことごとく断られてさぁ。俺もどうしていいんだかなぁ。親子揃って頑固だぜ」
極道と一般市民。その間で何かしらの繋がりを持ちたいのだと感じることができた。
周防はそういったことに全く関心を示さず、奈義とのこともただの友情だと割り切っている。
和紀に関しては、関係を断ち切りたい強ささえ見え隠れした。
そこに現れた関係性…。

「うちからの融資を断ってくれるのはかまわねぇけど。このまま潰すのは俺としても惜しいんだよ。危険な状況だって周防も理解しているんだろう。助けられた恩、ここら辺で返さねぇか。周防も和紀もそういったことを言いはしねぇだろうから、気付きもしないだろう。一稼ぎ、しろよ」
日生は何を言われているのか、一つも理解できなかった。
友人を思うもの。日生には隠された周防たちの今の状況。
奈義から発されたことは、経営状況がかんばしくない周防の会社のことで、日生一人の雇い口があるということだった。

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二人目のパパが出た…(←え)
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-01-18-Wed 01:34 [編集]
和紀兄は、ひなを守ると言う名目で籠の鳥にさせてますよね。
それもこれも 嫉妬から来てる気がする...

いつも 日生の事を一番に考えてくれた周防の会社が危ない!
真庭からの話し、一稼ぎって そんな都合のいい仕事があるのでしょうか?
(´・ω・`)b...どうする、ひな?

それはそうと 真庭は、日生のもう一人のパパになるの!Σ(・ω・;)パパって...byebye☆


え?
コメントちー | URL | 2012-01-18-Wed 05:17 [編集]
一稼ぎ?なにそれ?
まさか、昔ひーくんがやってたこと?
考えすぎ?

二人目のパパ、ひなちゃん狙ってる?
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-18-Wed 10:05 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 和紀兄は、ひなを守ると言う名目で籠の鳥にさせてますよね。
> それもこれも 嫉妬から来てる気がする...

自分以外の人間と親しくするのが許せない模様です。
その割に放ったらかしなんだから、日生も可哀想なのですが…。

> いつも 日生の事を一番に考えてくれた周防の会社が危ない!
> 真庭からの話し、一稼ぎって そんな都合のいい仕事があるのでしょうか?
> (´・ω・`)b...どうする、ひな?
>
> それはそうと 真庭は、日生のもう一人のパパになるの!Σ(・ω・;)パパって...byebye☆

何をやらせようとしているんでしょうかね。
真庭も色々と考えていることがあるようです。
最初の引き取り手は真庭でしたからね~。
パパとはお金を恵んでくれる人です(←たぶん、きっと…)
コメントありがとうございました。

Re: え?
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-18-Wed 10:13 [編集]
ちー様
こんにちは。

> 一稼ぎ?なにそれ?
> まさか、昔ひーくんがやってたこと?
> 考えすぎ?
>
> 二人目のパパ、ひなちゃん狙ってる?

昔のひーくんがやっていた仕事…。
でも日生はそこまでスレていないですからね。
純情少年のままです。
(ひーちゃんとかちーちゃんとか似たような名前ばっかりだなぁ…ボソ)
日生、大きくなって益々何かのオーラでも発しているんですかね。
二人目のパパはたぶん…。
オヤジはいくつになっても若い子が好きなんだと思います。
コメントありがとうございました。
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