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BLの丘
新しい家族 15
2012-01-19-Thu  CATEGORY: 新しい家族
二人のどちらかが結婚することで救われるものがあるというのだが、どちらも奈義の話に応じる気はないらしい。
和紀の結婚というものには、少なからず日生はショックを受けた。ずっと自分のそばに居てくれるという思いがどこかにあったようだ。
最近は必要以外話をすることも減っていたが、頼っている部分は大きい。
和紀や周防のためにできることがあるなら…と日生は考える。
「僕…、何ができるんですか…?」
「その容姿を生かせよ。うちの店で働かせてやるからさ。おまえならすぐ客がつくだろう」
「客?」
「あぁ。まぁ接客業だな」
奈義は簡単に言い放ってくれるが、働いたことなどない日生が接客業などできるとは思えなかった。

「三千万だぞ」
「え?」
不意に発された奈義の言葉に、何のことだと顔を上げた。
「三千万。周防がおまえを引きとる為に払った金だよ。おまえの父親が作った借金を肩代わりしたんだ」
その話を改めて聞いたことはなかった。
日生が尋ねようとしても、周防も和紀も曖昧に誤魔化してきた。
いつの間にかこの家で暮らすことを当たり前と思い、昔のような生活に戻りたくない思いが追究を避けたのかもしれない。
今となって、金額の大きさ、その価値を知る。
小さい頃であれば『三千万円』がどれほどのものなのか、分かりもしなかっただろう。
「そんなお金…」
日生は呆然としてしまった。
それだけでなく、ここまで育てるために、いくら使ってきたのか…。
自分の本当の父親とは何をしていたのか…。
会社の危機を迎えて、自分にできることがあると奈義は言ってくれる。
周防のために、和紀のために、奈義が言うように『恩返し』するべきだと日生も思った。
「僕…」
日生は覚悟を決めた。できることがあるのなら、やろうと…。

しかし、奈義がマンションまでやってきたことはすぐに周防の耳に入り、夕方帰宅するなり、何の話があったのかと厳しく問われた。
周防の友人とはいえ、奈義の家業を考慮すると和紀や日生と関わらせることを嫌った。
日生だけでなく奈義にも確認の連絡は入れられているのだろう。双方で異なったことを口にすれば徹底的に追及してくる。
結局日生は、会社の状況や働けと話を持ちかけられたことを打ち明けた。
周防の答えは奈義に告げられた内容と違っていた。
会社の経営状況は悪くないらしい。日生を安心させるためにそう言っているのか、詳しくは分かりはしないが、和紀は苛立った様子で口を荒げる。
「ひなが欲しいから口実を作ったんだろっ。昔の話まで引っ張り出してくるなんて、どこまで汚い奴なんだっ」
「見た目の良さは昔から気に入ってたからな。いつかって狙ってたんだろう」
「クソジジイっ」
「日生も迂闊に人の話を信じるんじゃない。純粋な部分につけ込んできたんだ」
「でも三千万円…て…」
今更でも一度聞いた金額は頭から抜けていくことはない。いかに大きな金額なのか…。
「日生が幸せだと思えた時間に金額は関係ない。日生が気にすることではないんだ」
周防は日生を宥めてくるがすんなりと受け入れられるものではなかった。
世間を知らない自分が何をしてやれるのか…。
「ひなはまだ働くなんて考えなくていいんだよ。しかもあんな男の…っ。それより大学は?勉強は進んでるの?」
和紀に突っ込まれて押し黙る。今となって、これ以上費用のかかる大学進学など考えられない。
「僕、大学は…」
戸惑いを見せると周防が溜め息を吐いた。将来的な事を考慮しても進学を勧められる。決して無駄にはならないと重要性を説かれる。
「まだそんなことを言っているのか。遠慮などしなくていいと何度言わせるんだ。それに経済的に無理があるのなら、こんな話はしないぞ」
それは奈義が話したことを否定するものでもあった。
三隅家の人たちに応えてやるためにも、望まれる道を選ぶべきなのだとは充分承知している。
分かるからこそ、今までの勉学にも力を入れてくることができた。やってくる家庭教師ですら、日生の学習能力の高さを評価してくれる。
家の中で勉強しているだけで、こんなに知識を持つものなのか…と。

「はい…」
日生は俯きながら、小さな返事をした。周防と和紀の満足を得ること。特に和紀の…。
会話が少なくなった分、和紀が喜んでくれることを目指したかった。そうやって昔のように構ってほしいと願ってしまう。
距離があいた淋しさを日生はいつも抱えていた。
だけど小さい頃のように言い寄ることは、もうできない。それ自体が負担になると思うから…。

奈義に声をかけられたことは、必要と思ってくれる人間がいると、日生に感じさせるものになった。
周防も日生には充分甘かったが、どこかで恩義というものを感じ、それこそ『遠慮』する精神を持ってしまう。
純粋に甘えられた時代は幾つの頃だっただろう。
周防にも和紀にも、奈義の話を全否定されたが、心の奥底に芽生えた『誰かのため』という思いは消えることがなかった。

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コメント

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嘘?
コメントちー | URL | 2012-01-19-Thu 04:12 [編集]
本当に嘘?
優しい嘘じゃないと良いなあ。

ひなちゃんが、おじさん達に弄ばれませんようにって、昨日ずっと思ってました。仕事なのに(笑)
Re: 嘘?
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-19-Thu 07:10 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 本当に嘘?
> 優しい嘘じゃないと良いなあ。
>
> ひなちゃんが、おじさん達に弄ばれませんようにって、昨日ずっと思ってました。仕事なのに(笑)

嘘だったようです。
三隅親子は経営難になるようなバカなことはしない、優秀な人たちです。
ひな、何をさせられるところだったんでしょう(笑)
お仕事中まで考えてくださいましてありがとうございます。
コメントありがとうございました。

No title
コメントけいったん | URL | 2012-01-19-Thu 10:46 [編集]
嘘か真実か!?と、悩んでたけど 
きえ様が、ちーさんのコメレスで 嘘と仰ってたので ひと安心!

でもね、どうにか ひなを手に入れたい真庭が これで諦めるとは思えない。
それに 今のひなは、これまで以上に 三隅親子に「恩義」を感じてるしね~

まだまだ 何か仕掛けて来る不吉な予感が!!
..・ヾ(。>д<)シ こえぇぇぇ...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-19-Thu 17:20 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 嘘か真実か!?と、悩んでたけど 
> きえ様が、ちーさんのコメレスで 嘘と仰ってたので ひと安心!

一応、一安心です。

> でもね、どうにか ひなを手に入れたい真庭が これで諦めるとは思えない。
> それに 今のひなは、これまで以上に 三隅親子に「恩義」を感じてるしね~
>
> まだまだ 何か仕掛けて来る不吉な予感が!!
> ..・ヾ(。>д<)シ こえぇぇぇ...byebye☆

真庭ねぇ。わざわざ乗り込んで来たくらいですからね。
ひなに何かを囁きそうです。
いやっ、でもそこはね。優秀なボディーガードに頼んで…事なきを得ましょう。
あとはひなの意思の問題であります。
コメントありがとうございました。

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