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BLの丘
新しい家族 11
2012-01-16-Mon  CATEGORY: 新しい家族
日生が描いたものは、文字にも絵にもなっていない。単に丸や四角が並んでいるだけのもので、清音は知能の低さをまざまざと見せられた形だった。
鉛筆もまともに握れなくて、何度も持ち方を教えた。
良い点…というには悲しすぎるが、日生が一切の反抗を見せないことが、飲み込みを早くしている。
紙の上いっぱいに、自由に描けることが日生を楽しませていたようだ。
しばらくついていたのだが、夢中になる日生に安心して、清音は片付けものと、昼ごはんの用意をしようとキッチンへと向かった。
キッチンが奥まっているために直接姿が見られないのは不安でもあったが、大人しい日生が何かをするとも考えられない。
時々顔を出しては様子を伺うが、何も変わらず、日生は鉛筆を握っていた。

清音は三隅と和紀の予定をほとんど把握していた。二人とも清音に迷惑がかからないようにとできるだけのことは伝えようとしてくれているのが幸いしている。
冷蔵庫には和紀の取った講義のスケジュールが貼られていたし、三隅の一週間のスケジュールは秘書からファックスが届く。
一番は朝夕に負担がかからないように、というもので、昼間の日常の作業が終わってしまえば清音の自由時間とも言えた。
そこに増えた育児は、確かに大変なものであるのだろうが、施設でも下の子の面倒を見させられていた清音にとって、慣れたものでもある。
しかも、和紀を育てた後のこと…。
和紀がはしゃいでいたことに触発されたのか、清音にも浮足立つものが沸いていた。
ここ最近、何をしても反応の薄くなった『親子』である。…いや、感動を求めるのは間違えているのかもしれないが…。
自分だってささやかでも楽しみたいと思ってしまうものに久し振りに出会った気分だった。

「ひな~ぁ」
昼前、元気いっぱいにリビングに飛び込んできた和紀の姿を見て日生は一瞬固まった。大きな瞳をぱちくりさせた直後には和紀の両腕に抱え込まれていた。
「ひな。いい子にしてた?今日は何してたの?お絵描き?」
リビングテーブルに広げられた紙を見返しながら、ニコニコと日生を覗きこんでくる。
何故こんなに嬉しそうなのかと不思議に思うくらい、和紀は笑みを絶やさない。でも嫌なことではない。
今までの生活で何をしていたのかなどと尋ねられることはなかった。自分がやっていたことが何というものになるのかの言葉も知らない。
白い紙はもう隙間がなくなるくらいに、塗りこまれたり線が引かれたりしていた。
ずっと膝を立てて鉛筆を握っていたのだが、背後から抱えられて膝の上に座らせられると、高さが低くなるものの描けなくはない。
座ったままで、日生は頷きつつ、また三角に描いた場所に色を塗った。
「ひな、自分の名前、書ける?」
問われて『自分の名前?』と疑問を持ち、ぷるぷると首を振った。
鉛筆を握っていた手が和紀の手に包まれた。空いていたスペースに手を向けられ、「『ひ』…『な』…。『な』は難しいかな」と一緒に手を動かす。
「『せ』…。ひなせ。これ、ひなの名前だよ」
初めて書いた文字に驚きと感動が生まれた。見たことはあっても書いたことはなかった。
思わず嬉しさに、何度も真似をして書きたくなった。横を見て繰り返し続ける作業に、笑みを向ける和紀がいる。
「あ、書き順が違うよ。こっちから…」
ずっと見つめていた和紀は、正しいことを教えてくれようと日生の姿をずっと追ってくれていた。こんなふうに気を回されるのも初めてのことだ。

「さぁ、そろそろご飯にしましょう。買い物って意外と体力と時間を使うものなんですよ」
清音がキッチンからダイニングテーブルに料理を運んでいる。美味しそうな匂いはリビングにも漂っていて、日生の胃袋を刺激してくれた。
きちんとした時間にご飯など食べたことのない日生にしてみたら、三食食べられることが意外だった。
和紀に抱きかかえられてダイニングテーブルにつく。段ボールとクッションで高さを出された椅子は日生が一人で食事をするのにちょうど良くなっている。
その前に出されたお皿に、日生の目は釘付けになった。
「え…?」
「清音さん、これって…っ」
同じように和紀も驚いたらしい。清音はふふふと嬉しそうに笑っているだけだ。
「和紀さんが好きだったものですから日生さんのお口に合うかしら。久し振りに作ったのでどうでしょうね」
大きなお皿の上に、和紀たちに出すハンバーグよりも小さめのものと、赤く色づけされた丸いご飯、動物の形に組み合わされたソーセージがレタスの中で動物園を作っている。
清音が日生のために精根こめたのが伝わってくる料理だった。
「わぁっ」
「ひな~っ、お子様ランチだよ~っ。良かったね~っ」
和紀も久々に見た作品に懐かしさが湧いた。何かあるごとに、清音は『お子様ランチ』を作ってくれた。勇気や希望をもらったものだ。
今も日生のために手を尽くしてくれたこと…。
見たこともない豪華なランチプレートはもったいなくて食べられそうになかった。
和紀がぐりぐりと頭を撫でてくる。その下で、日生は胸の中に込み上がってくるものが抑えきれなくなっていた。
ぷくっと目の中に浮かんでくるもの…。
視界が歪んであっという間にポロポロと涙が零れた。
「ひな?」
覗きこんだ和紀がどうしたのかと訝る。
困らせてはいけないと思うから首を振るのだが、溢れる涙は止まることがなかった。
全く知らなかった世界。温かな雰囲気がそこかしこに溢れ、日生を柔らかく包んでくれる。
あたりまえのように過ごす人がいること…。今までの生活が異常だったのだとなんとなく気付いてしまう。
それは同時に脅えに変わった。
…失いたくない…。ずっとここにいたいと…。この温かさを自分のものにしたいという願望が胸の中を占めていった。
ご飯が食べられる、それだけではない。痛い思いをしなくて済む場所…。安心できる場所…。
何かを悟ったように和紀が胸へと抱き締めてくれる。強くて逞しい、守ってくれる者…。
こうやって誰かに、大事にされたかった気持ちがあったことを改めて知った。どこかで諦めていた生活に光が灯る。
『いい子』でいるから…っ!!と日生は何度も胸の奥で叫んだ。
…もう、あのアパートには戻りたくない…。

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コメント

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連コメだぁ~♪
コメントけいったん | URL | 2012-01-16-Mon 00:33 [編集]
ひなが、泣いちゃった。。。

私も泣いちゃうぅ~。・゚・(つД≦`)・゚・。
ひなの様に 庇護欲そそられる程 可愛くはないけど(*´・∀・`*)ゞエヘヘ

ひなの初めての望みは、絶対に叶うよ
☆彡 *.:*:.。.: (人 *) 願い事願い事...byebye☆
思わず
コメントちー | URL | 2012-01-16-Mon 05:14 [編集]
涙が出ました。ひなちゃんの気持ちに。
優しいお兄ちゃんとおばちゃん。
それに、お父さん。

きっと、幸せになれるからね。
甘えて良いからね。

育児日記、好きです。
続いて欲しいけど無理ですね(笑)
Re: 連コメだぁ~♪
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-16-Mon 07:01 [編集]
けいったん様
連コメありがとうございます~♪

> ひなが、泣いちゃった。。。
>
> 私も泣いちゃうぅ~。・゚・(つД≦`)・゚・。
> ひなの様に 庇護欲そそられる程 可愛くはないけど(*´・∀・`*)ゞエヘヘ
>
> ひなの初めての望みは、絶対に叶うよ
> ☆彡 *.:*:.。.: (人 *) 願い事願い事...byebye☆

ひなは庇護欲のかたまりみたいなものでしょうか。
けいったん様も可愛いです(〃▽〃)
一緒に泣きましょう。・゚・(ノД`)・゚・。
ひな、切実に願い始めましたね。
あったかい家族、家庭…。
求めるものを味わってしまって余計に欲求は高まったと思います。
がんばれ、ひな(←)
コメントありがとうございました。

Re: 思わず
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-16-Mon 07:06 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 涙が出ました。ひなちゃんの気持ちに。
> 優しいお兄ちゃんとおばちゃん。
> それに、お父さん。
>
> きっと、幸せになれるからね。
> 甘えて良いからね。
>
> 育児日記、好きです。
> 続いて欲しいけど無理ですね(笑)

いつまで育児日記…の状態です(苦笑)。
こんなのでも喜んでくれる人がいて嬉しいです。
お兄ちゃん、お父さん、おばちゃんと、優しい大人に囲まれてひなは幸せになっていくことと思います。
どこかで進展をみせないとね~。
そろそろ動きを出そうと考えます。
コメントありがとうございました。
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