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BLの丘
新しい家族 22
2012-01-29-Sun  CATEGORY: 新しい家族
胸元を広げてやると淡いピンク色の粒が見えた。
本当に和紀に弄られているのかと思うような純情な淡さが、珍しく奈義の喉奥をゴクリと鳴らした。
興奮を覚えるという意味を久々に知ったような気分だ。
奈義が再び塞いだ手のおかげで嗚咽すら漏れてこないが、戦慄き涙する表情と相まってますます煽ってくる。

ニヤリと口角を上げた時だった。聞き慣れない物音が耳に入った気がして動きを止めた。
この店で騒ぎを起こす客など滅多にいない。会員制にしているのは面倒事を少なくする意味もあった。
皆が立場や状況を把握し、すべきことを心得ている。自ら火の中に飛び込む馬鹿など…。
日生は奈義に襲われる恐怖と、どうにか逃れたく体を動かそうとすることに必死で気付かなかったが、奈義には自分たちの席から一番離れた入り口付近が騒々しい空気を運んできていることを感じ取り、警戒心を強めた。
周りには何人か部下を配置させているので直接ここまでくることはないだろうが…。
日生の艶やかな首筋から顔を上げたが、両手を拘束した手も口を塞いだ手も、全身で抑え込んだ体も離さないまま周囲の様子を耳をそばだててうかがう。
奈義が想像していた”すぐにここまでは来ない”という考えが楽観的なものだったと知らしめられたのは直後のことだった。
「お待ちください、三隅様。勝手に人様のお席を物色されるというのは…」
「……」
『三隅』という名前には嫌でもピクリと反応する。
話しかける男の声に少々の動揺が混じるのは、来店している奈義の存在を考えてのことか、相手にしている人間から殺気でも感じているのか。
返事がないのが何よりの証拠のような気がした。
「「お疲れ様です」」
声を揃え、頭を下げる部下の友好的な姿まで脳裏を横切っていく。そこは頭を抱えたくなってもいたが…。
奈義は慌てて身を起こしたが時すでに遅し…。周防の行動とは意外と速いものだ。

般若の形相で現れた周防は、分かっていたとはいえ、改めて目の前に突き付けられた現実問題に、「貴様っ!!」と、奈義に一言も発せさせず掴み上げて通路に引きずり出した。
胸の内に込み上がってくるものには憎悪も混じる。奈義の家業を考慮しても多少のことは目をつぶってきたが、これは許せそうにない。
堂々と友人の子供にまで手を伸ばせる落ちぶれた根性…。情けなさすら浮かんだ。
今、周防が纏うものは、これまで奈義でも見たことがないと言っていいほど、全身を滾らせている。どれだけの怒りを買ったのかと、頭の隅の方で漠然と思う。
地雷を踏むとは、こんなことなのかと呑気に状況を悟っていたくらいだった。
勢いよく無様に転がった奈義の姿を見て、呆然としたのは周りを囲んでいた連中だった。
間に入るべきなのだろうが、周防に気圧されて動けずにいた。
「く、組長…」
「奈義っ、俺は幾度も『日生に関わるな』と言ったはずだぞ。それをもう忘れたか?こんな老いぼれを上に持つんじゃ下の連中は浮かばれねぇな」
周防は土足のまま奈義の胸元に片足を乗せ踏みつけてから、その両頬を張った。
温和な面を知るからこそ、この一変は肝を冷やす原因にもなる。動きを鈍らせもした。
本当ならこの程度で済ませたくはなかったが、日生が見ている手前を考えると、”動けなくなるほど”というわけにもいかない。
素早い一連の動きに、誰もが呆気にとられ、状況を把握しきれずにいる中、立ち上がった周防は奈義の脇腹を一蹴りした。
一瞬ですら奈義に攻撃をさせようという隙を作っていないのだから、ある意味感心できる攻め方だと、また奈義は片隅でそんなことを思っていた。

周防は振り返って、ソファの奥で蹲っている日生に声をかけた。まだ声に怒りの部分が混じってしまうが、日生に向けているものではないと分かってもらえるだろうか。
「日生、帰るぞ。自分が来るところじゃないと分かっただろう」
よりによって、真っ先にこのような場所に連れてくるなど…。
恐怖に脅え、涙に濡れた姿は痛々しいほどだ。やはりあと二、三発蹴りでも入れないと腹の虫が治まらない。
今度はどんなエサを撒かれてここまでやってくることになったのか、そちらもじっくりと聞かなければならない。
そしてどう日生を納得させるか…。何をそんなに気にすることがあるのかと…。
取りだしたハンカチで目元を拭ってやると、何かを堪えるようにまた大粒の涙を落とした。
「…クッ、周防!おまえ、なんでここが分かった?!」
ようやく半身を起こした奈義が切れた口端を手の甲で拭いながら問う。
「日生にはGPSを持たせてあるんだよ。不当な輩が言葉巧みに近付いては騙そうとするからな。居場所だけはすぐに知れた方がいい」
「はっ、どこのお坊ちゃまだってんだっ」
「うちの『お坊ちゃま』だ。親が子供を守ろうとするのは当然のことだろう。おまえらみたいな”擬制家族”とは根本的なものが違うんだ」
「所詮、赤の他人じゃねぇかっ」
呆れたように話す奈義に対して、すかさず周防の蹴りが太腿に入った。
「だったら何をしてもいいと?おまえは自分を守ってもらうために部下を見殺しにできるかもしれないが、俺は日生と和紀を守るためなら自分の命をくれてやる」
言い捨てた周防に、奈義もそれ以上何も口にする気になれなかった。心の奥底に憧れと妬ましさがあるなどとは口が裂けても漏らすものではない。
同時に、日生に手を出したかったら周防を殺してからにしろと言われているようだった。

日生はまだパニックの中におり、だけど周防の登場で、無事で済んでいるのだとは理解できた。
奈義と関わったことで、また周防に心配と迷惑をかけたのだということも…。
周防に謝ろうと思うが、そのタイミングすら取れなく日生は、こんなところには一秒も居たくないと発している背中を追いかける。
どれだけ慌てていたのかが分かるような、店の真正面に横付けされた周防の車に大人しく乗り、終始無言で帰路を辿った。
お互い、どこから話そうか思考を巡らせているうちに家に着いてしまった感じだ。
車は地下の駐車場へと入り込んでいく。
一度だけ、途中で周防に和紀から連絡が入ったようだった。
「家にいろ」の短い一言で通話は終えられている。
事の顛末は和紀の耳にも入っているのだろうか…。
自分に触れてくる人間は和紀だけでいいと痛感させられた。
咄嗟の時にいつも脳裏に浮かび、真っ先に助けを求めてしまう人が誰なのか、どんな存在なのか。
和紀が日生を抱く目的が自己満足の世界であったとしても、…昔と同じように日生”だけ”を見てくれなくても…。
他の人間ではダメなのだ。和紀の代わりにはなれない。
『そばにいろ』という言葉がずっと続いてくれるように、心の中で祈った。ささやかな繋がりでも持っていたい。
……和紀のために自分は存在する……。

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コメント

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コメント | | 2012-01-29-Sun 17:10 [編集]
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パパ!
コメントちー | URL | 2012-01-29-Sun 18:09 [編集]
流石パパ!
いやー、ひなちゃんより私がホッとした。パパ、強いんですね。
ひなちゃん、大学に行くにも見張りが付きそうだ。
いや、付けてください。

清音さんとかね。
No title
コメントけいったん | URL | 2012-01-29-Sun 18:15 [編集]
キタ━━(━(-( ( ( (。・`∀´・。) ) ) )-)━)━━!!
さすが、我が愛しの周防様~♪

奈義、テメェーー!
三隅様のご子息に手を出すなんて 命知らずなんだよっ!!!!プンスカo(。・`ω・´。)oプン!!

ひな、家に着いたら 周防パパと和紀兄からのキツイお説教です。覚悟しなさい!
”恩返し”は、別の方法でね♪
(*`Д´)っ))ガミガミ...(´・ω・`)ショボーン...byebye☆


Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-30-Mon 11:20 [編集]
J様
こんにちは。

> ・・・・・・
> 「うちの『お坊ちゃま』だ」
> ・・・・・・
> のセリフに、胸がキュンとなりました。
> 素敵なパパですね。

胸キュンでしたか~。私は笑っていましたが(爆)
そう言っちゃうんだ~、って~。
締めますね、パパ!!
コメントありがとうございました。
Re: パパ!
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-30-Mon 11:31 [編集]
ちーさま
こんにちは。

> 流石パパ!
> いやー、ひなちゃんより私がホッとした。パパ、強いんですね。
> ひなちゃん、大学に行くにも見張りが付きそうだ。
> いや、付けてください。
>
> 清音さんとかね。

パパは強いです。一家の大黒柱ですから~。デデデデーンと構えてます。
大学に行く時…、あまり通わなくて済む通信教育なので、そこは救いかな。
見張りに清音さん…。この方も強そうですね。
一度悪霊(?)撃退してますしね。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-30-Mon 11:42 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> キタ━━(━(-( ( ( (。・`∀´・。) ) ) )-)━)━━!!
> さすが、我が愛しの周防様~♪
>
> 奈義、テメェーー!
> 三隅様のご子息に手を出すなんて 命知らずなんだよっ!!!!プンスカo(。・`ω・´。)oプン!!

ヒーロー登場です。
日生がいなかったらもっとボコボコにやられちゃっているんでしょうかね。
奈義も懲りるでしょうか。
けいったん様も怒っていることだし。

> ひな、家に着いたら 周防パパと和紀兄からのキツイお説教です。覚悟しなさい!
> ”恩返し”は、別の方法でね♪
> (*`Д´)っ))ガミガミ...(´・ω・`)ショボーン...byebye☆

一人で考え込むよりもみんなであれこれと話した方がいい知恵が出るというものです。
恩返し、急いではいけないですよね。
コメントありがとうございました。
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