個室である病室に、あまりうろつかれたくない人間がうごめく。
大きな果物の盛りカゴはどうしろというのだろうか…。
ベッドの上につなげられる可動式のテーブルの上を占領し、また、迷惑だと言わんばかりの大きな花束が隣に置かれた。
それだけでいっぱいだ…。
どうにもしようがない、精一杯の気持ちが込められているのを感じる。他に、表しようがなかったのだろう。
状況を分かるのだろう。連れてきた人間は、一見ビジネスマンとも見られるスーツ姿の男たちだった。
余計な心配を周防にかけたくないからだろうか…。
たった二人の男を携えて、奈義は周防の病室に飛び込んできた。
ベッドの背を起こし、ビジネス書を見ていた時だ。
「なんだ。元気そうじゃねぇか」
かけられた言葉に本は閉じられ、一見迷惑そうな、だけど緩む頬を見ることができた。
「おまえなんかにうろつかれたら、休んでもいられないだろう」
周防の嫌味は、今では心地いいくらいだった。幾度でも聞いていたい…。
もちろん、そんなことを感じさせはしない。
「人がせっかく来てやったっていうのによぉ」
「頼まない事はするんじゃないよ」
精一杯の強がりが見えた気がした。だがお互い嫌味ばかり、そんなことを口にするほど子供でもない。
束の間の沈黙をあびて、周防が、奈義の背後に立った人間に、そっと目配せをした。
周防の権力はすでに知る。そしてこの場所。何やら告げたいことがあるのだということも、気付かないほど鈍感な付き人たちではなかった。
「私達は外でお待ちしております」
静かに扉の外に出ていく姿を見送った。
扉が閉まった途端に、小さな吐息が漏れたのは、どちらだったのだろうか…。
「周防…」
ベッドの脇に腰かけた奈義が、その名を胸に刻むように声をかけた。
話には聞いていた。だがどこかで冗談で済ませたい気持ちも湧いていた。
改めて入院する姿を見つめれば…。
「和紀に聞いたのか…?」
今更隠す気がない潔さも感じる。なにがあっても受け止められるその精神は、やはり見習いたいものなのかもしれない。
何となしに明るかった口調も、生きてきた過去を話題にして次第に闇を帯びていった。
束の間語られた昔話。
決して今後を頼もうともしない強い意思は、頑なな和紀を思ってなのか、それほど表舞台にたって権力を発するなという意味なのか…。
だけど本心違っているのだろう。
生きる世界が違うとは何年も前に感じたこと。
周防から認められたと感じる今、その家族に対しても迷惑をかけることはしたくないと奈義は思う。
だが、その影で頼まれたことは、甘くはない…。
今更口にはしなかった。
和紀が奈義の元に出向いて、いまこうして見舞いに来たことで全てが悟れるのだろうか。
人の感情に対してもなんでも、すべてにおいてデキる人間だった周防なのだ。
当然、奈義が抱えた苦しみも悲しみも理解している。
奈義の部下を視線だけで去らせたこと。
昨日の和紀のようだ。
ここには、奈義と、周防しかいない。
部下の前で弱みなど決して見せられないが、今のこの時だけは…。
周防の前だからこそ、感情を剥き出しにした思いが吹きだせること…。
周防を前にして語りたい何かを悟ってくれるからこそ、黙って二人の空間を用意してくれた。
どこまでも人に気を使い、何もかもを心の底から晒せてくれるようにしてくれる人…。
だからこそ、ほれられたのだと…。
浮き上がった腰が、痩せた肩を掴んで抱いた。
慰めるべきは自分であるはずなのに、周防を前にしては何もできない歯がゆさがある。
「奈義…」
耳に響いた自分の名前が心地良かった。
泣いていいと告げてくる。
本来なら、どちらがその立場に立つのだろう…。
そう、捉えさせるだけ、自分はまだ弱い人間なんだろうか…。
ずっと聞いていたい名前だ…。
「周防…」
同じように囁いた声に、背を抱いてくれる腕があった。
抱き締められたこの温かみをいつまでも感じたい。
同じく語り続けたい…。
誰もいない部屋の中で、抱き合った無言の会話が続く。
僅かに触れた首筋だけで、生きている匂いを感じた…。
にほんブログ村
ポチっていただけると嬉しいです。
和紀とひなはどうしたの~???といただきそうですが…。
すみません。どうしてもこのシーンを書きたかったんです(←自己満足の世界)
大きな果物の盛りカゴはどうしろというのだろうか…。
ベッドの上につなげられる可動式のテーブルの上を占領し、また、迷惑だと言わんばかりの大きな花束が隣に置かれた。
それだけでいっぱいだ…。
どうにもしようがない、精一杯の気持ちが込められているのを感じる。他に、表しようがなかったのだろう。
状況を分かるのだろう。連れてきた人間は、一見ビジネスマンとも見られるスーツ姿の男たちだった。
余計な心配を周防にかけたくないからだろうか…。
たった二人の男を携えて、奈義は周防の病室に飛び込んできた。
ベッドの背を起こし、ビジネス書を見ていた時だ。
「なんだ。元気そうじゃねぇか」
かけられた言葉に本は閉じられ、一見迷惑そうな、だけど緩む頬を見ることができた。
「おまえなんかにうろつかれたら、休んでもいられないだろう」
周防の嫌味は、今では心地いいくらいだった。幾度でも聞いていたい…。
もちろん、そんなことを感じさせはしない。
「人がせっかく来てやったっていうのによぉ」
「頼まない事はするんじゃないよ」
精一杯の強がりが見えた気がした。だがお互い嫌味ばかり、そんなことを口にするほど子供でもない。
束の間の沈黙をあびて、周防が、奈義の背後に立った人間に、そっと目配せをした。
周防の権力はすでに知る。そしてこの場所。何やら告げたいことがあるのだということも、気付かないほど鈍感な付き人たちではなかった。
「私達は外でお待ちしております」
静かに扉の外に出ていく姿を見送った。
扉が閉まった途端に、小さな吐息が漏れたのは、どちらだったのだろうか…。
「周防…」
ベッドの脇に腰かけた奈義が、その名を胸に刻むように声をかけた。
話には聞いていた。だがどこかで冗談で済ませたい気持ちも湧いていた。
改めて入院する姿を見つめれば…。
「和紀に聞いたのか…?」
今更隠す気がない潔さも感じる。なにがあっても受け止められるその精神は、やはり見習いたいものなのかもしれない。
何となしに明るかった口調も、生きてきた過去を話題にして次第に闇を帯びていった。
束の間語られた昔話。
決して今後を頼もうともしない強い意思は、頑なな和紀を思ってなのか、それほど表舞台にたって権力を発するなという意味なのか…。
だけど本心違っているのだろう。
生きる世界が違うとは何年も前に感じたこと。
周防から認められたと感じる今、その家族に対しても迷惑をかけることはしたくないと奈義は思う。
だが、その影で頼まれたことは、甘くはない…。
今更口にはしなかった。
和紀が奈義の元に出向いて、いまこうして見舞いに来たことで全てが悟れるのだろうか。
人の感情に対してもなんでも、すべてにおいてデキる人間だった周防なのだ。
当然、奈義が抱えた苦しみも悲しみも理解している。
奈義の部下を視線だけで去らせたこと。
昨日の和紀のようだ。
ここには、奈義と、周防しかいない。
部下の前で弱みなど決して見せられないが、今のこの時だけは…。
周防の前だからこそ、感情を剥き出しにした思いが吹きだせること…。
周防を前にして語りたい何かを悟ってくれるからこそ、黙って二人の空間を用意してくれた。
どこまでも人に気を使い、何もかもを心の底から晒せてくれるようにしてくれる人…。
だからこそ、ほれられたのだと…。
浮き上がった腰が、痩せた肩を掴んで抱いた。
慰めるべきは自分であるはずなのに、周防を前にしては何もできない歯がゆさがある。
「奈義…」
耳に響いた自分の名前が心地良かった。
泣いていいと告げてくる。
本来なら、どちらがその立場に立つのだろう…。
そう、捉えさせるだけ、自分はまだ弱い人間なんだろうか…。
ずっと聞いていたい名前だ…。
「周防…」
同じように囁いた声に、背を抱いてくれる腕があった。
抱き締められたこの温かみをいつまでも感じたい。
同じく語り続けたい…。
誰もいない部屋の中で、抱き合った無言の会話が続く。
僅かに触れた首筋だけで、生きている匂いを感じた…。
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和紀とひなはどうしたの~???といただきそうですが…。
すみません。どうしてもこのシーンを書きたかったんです(←自己満足の世界)
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何か可愛いじゃないですか。
オヤジ殿。←少しランクアップ。
オヤジ殿、パパが好きなんだね。
・・・どういう好き?
パパとオヤジ殿の関係が好きです。
前話のお兄ちゃんもパパもオヤジ殿も、みんなせつなくて愛しい。
パパ、元気になってー(;_;)
オヤジ殿。←少しランクアップ。
オヤジ殿、パパが好きなんだね。
・・・どういう好き?
パパとオヤジ殿の関係が好きです。
前話のお兄ちゃんもパパもオヤジ殿も、みんなせつなくて愛しい。
パパ、元気になってー(;_;)
ちー様
おはようございます。
> 何か可愛いじゃないですか。
> オヤジ殿。←少しランクアップ。
>
> オヤジ殿、パパが好きなんだね。
> ・・・どういう好き?
> パパとオヤジ殿の関係が好きです。
おー。オヤジ、ランクアップしましたか~。
一時は日生に手を出して嫌われまくったかと思いましたが(笑)
…どんな好きなんでしょうね~。
そこはたぶん、『親友』なのではないでしょうか。
時に友人て、恋人より強い絆がありますよね…。
いい、関係でいてほしい二人です。
> 前話のお兄ちゃんもパパもオヤジ殿も、みんなせつなくて愛しい。
> パパ、元気になってー(;_;)
パパが元気になればこんなふうにみんながセンチメンタルになることはないのです~。
パパ、がんばろうね~(←)
(そういえば、オヤジに『殿』が付いていた…。格上げ?)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 何か可愛いじゃないですか。
> オヤジ殿。←少しランクアップ。
>
> オヤジ殿、パパが好きなんだね。
> ・・・どういう好き?
> パパとオヤジ殿の関係が好きです。
おー。オヤジ、ランクアップしましたか~。
一時は日生に手を出して嫌われまくったかと思いましたが(笑)
…どんな好きなんでしょうね~。
そこはたぶん、『親友』なのではないでしょうか。
時に友人て、恋人より強い絆がありますよね…。
いい、関係でいてほしい二人です。
> 前話のお兄ちゃんもパパもオヤジ殿も、みんなせつなくて愛しい。
> パパ、元気になってー(;_;)
パパが元気になればこんなふうにみんながセンチメンタルになることはないのです~。
パパ、がんばろうね~(←)
(そういえば、オヤジに『殿』が付いていた…。格上げ?)
コメントありがとうございました。
目を見れば、醸し出す空気で 言葉に出さなくても分かり合える友が、側に居る幸せ
共に年を重ねた分ほどの深さが 周防と奈義の友情にありますもんね
今日も お目目ウルウル...グスン p(´⌒`。...byebye☆
共に年を重ねた分ほどの深さが 周防と奈義の友情にありますもんね
今日も お目目ウルウル...グスン p(´⌒`。...byebye☆
けいったん様
おはようございます。
> 目を見れば、醸し出す空気で 言葉に出さなくても分かり合える友が、側に居る幸せ
>
> 共に年を重ねた分ほどの深さが 周防と奈義の友情にありますもんね
>
> 今日も お目目ウルウル...グスン p(´⌒`。...byebye☆
正確な年齢は書いておりませんが…。
長い月日の中で生まれた友(愛)情がありますよね。
言葉なんか必要ない、深~いものが二人の間には存在しているのでしょう。
(゚д゚)/◇ ハンカチざます。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 目を見れば、醸し出す空気で 言葉に出さなくても分かり合える友が、側に居る幸せ
>
> 共に年を重ねた分ほどの深さが 周防と奈義の友情にありますもんね
>
> 今日も お目目ウルウル...グスン p(´⌒`。...byebye☆
正確な年齢は書いておりませんが…。
長い月日の中で生まれた友(愛)情がありますよね。
言葉なんか必要ない、深~いものが二人の間には存在しているのでしょう。
(゚д゚)/◇ ハンカチざます。
コメントありがとうございました。
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