2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
新しい家族 37
2012-02-14-Tue  CATEGORY: 新しい家族
意外な来客に奈義はどうしたものかと黙り、一瞬声を出せなかった。
このヤクザがいる事務所に、なにがあってもやってくる人物ではないと思う。それこそ、周防が避け続けたのだ。
それが来て目の前にいる…。周防からは絶対に反対されたであろうこの地…。それなのに訪れるとは特別な意味があると知れてくる。
何が起こっても受け止められる、落ち着きくらいあるはずだった。少なくとも目の前の子供より。
そう思うのに不安は背を這い上がってくる。動揺など見せないと年上の威厳を保ちながら状況は喉の奥をようやく唾液で湿らせるほどだった。
ただごとではない何かが潜んでいる。
語られる全ては、冗談ではすまされないこと…。周防の全てにかかわるからこそ…。
奈義が周防に預ける信頼、頼りがい、声にしなくても大きい。
身近に寄る男たちを扉の外に出した。聞かせたくない内容であるのだとは和紀がここまできた事で充分だろう。
無人になった事務所の中…、語られた内容は奈義の想像しない域に辿り着いていた。
失う瞬間に出会ってしまったようだ。人には言えずとも、心の中にぽっかりと穴があくのを感じた。
夢でも何でも…、こんな現実は片隅にも想像しえなかった物事だ。
自分は周防を頼って生きてきたふしがある。
周防の死を身近に感じさせるものがやってくるなど…。

唐突に切り出された話。
「親父が…、癌だって知ってたのか…?」
「あぁぁぁっ?!」
奈義は何のことだと意味が分からずに叫び声を上げた。
和紀はこの瞬間にも、父親のもしかしたら『黙っていたかった』状況があったのでは?と勘繰る。
数週間共に過ごして、得たかったのは触れあう楽しみだったのだろうか。
しかし、その反面で感づいて欲しかったのではないか…。
隠し通したくはなくて、どこかで知ってほしくて、一番身近だと思う人と長く過ごし…、いてほしかったのではと…。
そばにいてほしい人は家族であり、もちろん友人も含まれるだろう。
自分では伝えられない。でも伝えてほしい…と心の隅で思っていたかもしれないと、言い訳を立てる。
状況を知れるのは家族だから…。家族と同じと思えるから…。
どのような人間でも父親が気を許した人物とわかったからこそ、奈義を認め、ここまで足を運べた。
「和紀よぉ。随分な冗談を言ってくるな…。子宮がんか?」
「だったら良かったよ…」
ありえない話で済まされてほしかった。
男にはないものだ…。

和紀の項垂れる姿に、さすがの奈義も言葉を失った。
これ以上の冗談を口にできないこと。母親を失っている過去を知るだけに、軽薄な口は控えられた。
そこまで不謹慎な人間にはなれない。
何故和紀がここに来たのかも、何となく気付くことができた。
どれだけ嫌おうが、母親の死に直面し、痛みを分けた父親の『親友』であるのだと、認めてくれたから…。
そして、たぶん、一人では抱えきれなかったものを、吐き出したい気持ちがあったのだろう。
周防は蹴りをいれるほど気を許していた。見下されても受け入れられている気持ちは和紀にも繋がっていたはずだ。
全てを乗り越えて抱えても、所詮、まだ若い『息子』なのだ…。
ショックは自分にもある。だけどそれ以上に…。
周防はこれを望むのだろう。期待したのだろう。ようやく並べた、と思ったことはきっと間違いではない。感じ取れるからこそ、奈義は自信を持てる。
奈義はソファに座った和紀の隣に寄った。そっと肩に手を伸ばす。
この部屋には誰もいない。
「泣けよ…」
嫌った人間の胸を借りるのは屈辱でも、そこは父親が信頼を寄せた人だった。
頼れる誰かを欲していた時…。
過去の何もかもを知る人だからこそ…。
新しい家族として、見守ってくれと、言葉を無しに周防が期待することが、今の奈義には見えたような気がした。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチっていただけると嬉しいです。
そろそろ終われるかなぁ…。
関連記事
トラックバック0 コメント4
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメントけいったん | URL | 2012-02-14-Tue 09:27 [編集]
人間という者は、勝手な生き物で
「知られたくない。」と、思う半面 自分一人で抱えるには辛すぎて 「察してくれ。」と、思っている所があるから・・・

周防も いつもと違った自分を奈義に感じ取って欲しかったのかも...
ただ その相手が、人の機敏に疎い奈義だったのが、残念だけどね(;´д`)=3トホホ・・

『新しい家族として見守ってくれ』
奈義に託した周防のその想い...泣いてですか?σ(TεT;)byebye☆


Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-02-14-Tue 13:55 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 人間という者は、勝手な生き物で
> 「知られたくない。」と、思う半面 自分一人で抱えるには辛すぎて 「察してくれ。」と、思っている所があるから・・・
>
> 周防も いつもと違った自分を奈義に感じ取って欲しかったのかも...
> ただ その相手が、人の機敏に疎い奈義だったのが、残念だけどね(;´д`)=3トホホ・・

奈義、気付きませんでしたね~。
それを和紀に教えられて動揺して、けど受け入れることができました。
おちゃめな親友持って…。そんな人だったから周防にしたら可愛かったんですかね~(←)
疎い子こそ可愛い(?!)

> 『新しい家族として見守ってくれ』
> 奈義に託した周防のその想い...泣いてですか?σ(TεT;)byebye☆

奈義に託したことも感じとれたのでしょうか。
もしかして書き方が悪かったでしょうか。
泣いたのは和紀です。
机上に振る舞っていても、縋れるものが欲しかったんでょうね。
ちょっと距離があった人たちも、近づけたようです。
コメントありがとうございました。

わぁ~違うの~ヾ( ゚ω゚;)ノ
コメントけいったん | URL | 2012-02-14-Tue 18:34 [編集]
最後の”泣いてですか?”は、打ち間違いで
→ ”(私)泣いて いいですか?”です。

パソの調子が悪くて キーボードの反応が悪い所があるから 強く打ち過ぎて 変な所まで打ったみたいです!

きえ様の書き方が悪いなんて ブン((oTдTo:≡:oTдTo))ブン トンデモナイです!
誤解させて すみませんでした┏○ペコ...byebye☆
Re: わぁ~違うの~ヾ( ゚ω゚;)ノ
コメントたつみきえ | URL | 2012-02-15-Wed 07:30 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 最後の”泣いてですか?”は、打ち間違いで
> → ”(私)泣いて いいですか?”です。
>
> パソの調子が悪くて キーボードの反応が悪い所があるから 強く打ち過ぎて 変な所まで打ったみたいです!
>
> きえ様の書き方が悪いなんて ブン((oTдTo:≡:oTдTo))ブン トンデモナイです!
> 誤解させて すみませんでした┏○ペコ...byebye☆

いえいえ、私もあちこち誤字脱字がある身分です。
本音が伝わってきたことは良かったです。
泣けるようなところがあったかしら(笑)
コメントありがとうございました。

トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.