和紀は会社の権利を全て引き継いだ。周防は完全に引退した形だ。
私的な財産なども名義を変えられたものが多い。一部は日生のものにもなっていた。
日生は周防と和紀のすることに遠慮し、そんな権利はないと拒絶したが、周防は「息子に残すものだ」と取り合わなかった。
全ての財産を息子にやるには過剰なくらいだろうと思うところもある。
だがそこは、母親を早くに亡くして心労もあっただろう和紀に対しての、周防なりの償いだった。
術後の経過は順調だった。
たまに周防は会社に顔を出して、和紀に迷惑がられている。
嫌う社員がいないところは喜びでもあったが…。
「家にいたら飽きるんだよ。日生がよく、ずっと家にいたもんだと感心できたな…」
「そんなふうに言わなくったって…」
「ひな。そんな話は聞かなくていいから」
かつての日、周防の行方を心配し涙にくれた暗さは今はない。
元気でいる姿を見られるから、自分も勇気をもらえていた。その人の前で悲しい顔などできないと日生は和紀に気付かされる。
社長室に現れた周防のそばで、お茶を運びながら日生は少し膨れた。
和紀は一般的ではない環境で過ごした日生のことを話に出されて不機嫌になる。改めて、今更過去を振り返らせたくなかった。
「それに家にいると清音さんに何かと気をつかわせるようでな…」
本音が漏れるのは、家族だからなのだろうか。
元気に出歩いている姿は、安心させる要素になる。
そういいつつ、清音の時間を優先させてやりたいことも感じられた。周防はいつも無言で過ごしやすい環境を整えてしまうものだ。
清音が持つ昼間の『自由時間』を知っているからこそ…。
本来、家族ではない人を縛ったという気持ちもあるのだろうか。
今更ながらに好きなように生きてほしいと…、羽を伸ばして自分のために時間を使ってほしいと願う思いを感じれば、和紀の文句の口数も少なくなった。
実際、周防が会社に顔を出してくることで、安心感というのだろうか、社員の気が安らぐのを感じている。
まだまだ自分ではやりきれない部分があるのだと、そっと知らされるし、今後のやりがいも与えられる。
刺激…、そのものの人間だった。
同時に頼りたいと思わせてくれる。…いつまでも…。
結局和紀と日生も周防の座るソファの向かいに腰を下ろし、仕事は一時中断した。
「今夜、奈義が来るって言っていたからな。適当に仕事、切り上げて来いよ」
「仕事を何だと思っているんだよ…」
「和紀くん、せっかくだからお邪魔しようよ」
「日生は物分かりがいいなぁ~」
周防はニコニコと笑顔を日生に向けた。
周防と奈義の、二人で過ごす時間がある時に、わざわざ訪れたりしなくなった日生と和紀だ。
こんなふうに声をかけられれば、二人の間で訪問を希望されていることがうかがえる。
人と介して察知することがうまくなった日生が周防の気持ちを汲み取って和紀に促してくる。
たまにはそんな時間が持てることも良いことであるのは、和紀自身も承知している。反対する理由などありはしない。
「全部準備してくれるんだろ?清音さんに来なくていいって伝えておけよ」
和紀は遠まわしに了解する旨を告げていた。
奈義の舎弟らが出入りする場所に清音を置きたくなかったこともある。彼らが器用に動き回ってくれることも、過去のことから知りつくしていた。
「僕も手伝おうか?」
「ひなは関わらなくていいから。仕事優先」
日生の協力しようとする思いを和紀は一刀両断した。自分たちは『迎えられる人』なのだと…。そのために早くに仕事を切り上げる必要もないと…。
その反応に周防も穏やかな笑みを浮かべる。
「あぁ。押しかけてくる連中なんだ。全てやらせればいいさ」
周防の中では、勝手に準備する連中に値しているのだろう。
その陰には、家の中を好きにさせる気を許した思いもある。
自分の家ではなくなった場所。和紀はその空間を、楽しむために使ってくれていることに嬉しさを覚えた。
「日生、何が食べたい?せっかくだから思いっきり豪華なものを注文してやろう」
「みっともない発言、あまりするなよ…」
日頃食べられないものがあるような言い方だ。周防の所得を考えたら奈義より懐は温かいのではないだろうか。
「僕、プリン食べたい」
日生の回答に周防はキョトンとし、和紀はがっくりと項垂れた。
こちらの発言も考えものだ。幼児が親にねだるもののようである。
昔から日生の好きな食べ物は『プリン』なのは、良く知ったことだったが…。
それも高級店のナントカではなく、スーパーに並べられている、庶民的なものが。
奈義も張り合いがないのではないかと、逆に心配してしまう商品だった。
周防はすぐにニコニコと相好を崩す。
「そうか。日生の好物だもんな。一番大きいやつを買って来させような」
「親父…」
「うんっ。和紀くん、楽しみだね~」
それくらいのものを人に頼むのもどうかと周防を咎めるが、笑顔を向けてくる日生の表情を見たら、和紀も何も言えなくなる。
こうして笑って過ごせる日々があることの大切さを感じるから…。
談笑できる時間を、この場所を、三人がそれぞれ噛みしめるように味わった。
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次回こそ最終回に…したい…。
私的な財産なども名義を変えられたものが多い。一部は日生のものにもなっていた。
日生は周防と和紀のすることに遠慮し、そんな権利はないと拒絶したが、周防は「息子に残すものだ」と取り合わなかった。
全ての財産を息子にやるには過剰なくらいだろうと思うところもある。
だがそこは、母親を早くに亡くして心労もあっただろう和紀に対しての、周防なりの償いだった。
術後の経過は順調だった。
たまに周防は会社に顔を出して、和紀に迷惑がられている。
嫌う社員がいないところは喜びでもあったが…。
「家にいたら飽きるんだよ。日生がよく、ずっと家にいたもんだと感心できたな…」
「そんなふうに言わなくったって…」
「ひな。そんな話は聞かなくていいから」
かつての日、周防の行方を心配し涙にくれた暗さは今はない。
元気でいる姿を見られるから、自分も勇気をもらえていた。その人の前で悲しい顔などできないと日生は和紀に気付かされる。
社長室に現れた周防のそばで、お茶を運びながら日生は少し膨れた。
和紀は一般的ではない環境で過ごした日生のことを話に出されて不機嫌になる。改めて、今更過去を振り返らせたくなかった。
「それに家にいると清音さんに何かと気をつかわせるようでな…」
本音が漏れるのは、家族だからなのだろうか。
元気に出歩いている姿は、安心させる要素になる。
そういいつつ、清音の時間を優先させてやりたいことも感じられた。周防はいつも無言で過ごしやすい環境を整えてしまうものだ。
清音が持つ昼間の『自由時間』を知っているからこそ…。
本来、家族ではない人を縛ったという気持ちもあるのだろうか。
今更ながらに好きなように生きてほしいと…、羽を伸ばして自分のために時間を使ってほしいと願う思いを感じれば、和紀の文句の口数も少なくなった。
実際、周防が会社に顔を出してくることで、安心感というのだろうか、社員の気が安らぐのを感じている。
まだまだ自分ではやりきれない部分があるのだと、そっと知らされるし、今後のやりがいも与えられる。
刺激…、そのものの人間だった。
同時に頼りたいと思わせてくれる。…いつまでも…。
結局和紀と日生も周防の座るソファの向かいに腰を下ろし、仕事は一時中断した。
「今夜、奈義が来るって言っていたからな。適当に仕事、切り上げて来いよ」
「仕事を何だと思っているんだよ…」
「和紀くん、せっかくだからお邪魔しようよ」
「日生は物分かりがいいなぁ~」
周防はニコニコと笑顔を日生に向けた。
周防と奈義の、二人で過ごす時間がある時に、わざわざ訪れたりしなくなった日生と和紀だ。
こんなふうに声をかけられれば、二人の間で訪問を希望されていることがうかがえる。
人と介して察知することがうまくなった日生が周防の気持ちを汲み取って和紀に促してくる。
たまにはそんな時間が持てることも良いことであるのは、和紀自身も承知している。反対する理由などありはしない。
「全部準備してくれるんだろ?清音さんに来なくていいって伝えておけよ」
和紀は遠まわしに了解する旨を告げていた。
奈義の舎弟らが出入りする場所に清音を置きたくなかったこともある。彼らが器用に動き回ってくれることも、過去のことから知りつくしていた。
「僕も手伝おうか?」
「ひなは関わらなくていいから。仕事優先」
日生の協力しようとする思いを和紀は一刀両断した。自分たちは『迎えられる人』なのだと…。そのために早くに仕事を切り上げる必要もないと…。
その反応に周防も穏やかな笑みを浮かべる。
「あぁ。押しかけてくる連中なんだ。全てやらせればいいさ」
周防の中では、勝手に準備する連中に値しているのだろう。
その陰には、家の中を好きにさせる気を許した思いもある。
自分の家ではなくなった場所。和紀はその空間を、楽しむために使ってくれていることに嬉しさを覚えた。
「日生、何が食べたい?せっかくだから思いっきり豪華なものを注文してやろう」
「みっともない発言、あまりするなよ…」
日頃食べられないものがあるような言い方だ。周防の所得を考えたら奈義より懐は温かいのではないだろうか。
「僕、プリン食べたい」
日生の回答に周防はキョトンとし、和紀はがっくりと項垂れた。
こちらの発言も考えものだ。幼児が親にねだるもののようである。
昔から日生の好きな食べ物は『プリン』なのは、良く知ったことだったが…。
それも高級店のナントカではなく、スーパーに並べられている、庶民的なものが。
奈義も張り合いがないのではないかと、逆に心配してしまう商品だった。
周防はすぐにニコニコと相好を崩す。
「そうか。日生の好物だもんな。一番大きいやつを買って来させような」
「親父…」
「うんっ。和紀くん、楽しみだね~」
それくらいのものを人に頼むのもどうかと周防を咎めるが、笑顔を向けてくる日生の表情を見たら、和紀も何も言えなくなる。
こうして笑って過ごせる日々があることの大切さを感じるから…。
談笑できる時間を、この場所を、三人がそれぞれ噛みしめるように味わった。
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次回こそ最終回に…したい…。
プリン~♪
私も小さい頃は大好きで 毎日 おやつに食べてたよ!
毎日 食べて 一時期 嫌いになるほどに(*´-`*)ゞ ポリポリ
周防、和紀、日生が 今ある幸せを噛み締め大切に大切にして 穏やかに過ごす素敵な時間
読んでる私も ほっこり笑顔♪(@^▽^@)ニコッ
でも もう明日には最終話だなんて 淋しいよ~
( ´-ェ-` )シュン...byebye☆
私も小さい頃は大好きで 毎日 おやつに食べてたよ!
毎日 食べて 一時期 嫌いになるほどに(*´-`*)ゞ ポリポリ
周防、和紀、日生が 今ある幸せを噛み締め大切に大切にして 穏やかに過ごす素敵な時間
読んでる私も ほっこり笑顔♪(@^▽^@)ニコッ
でも もう明日には最終話だなんて 淋しいよ~
( ´-ェ-` )シュン...byebye☆
次も続いて欲しい(笑)
はあ、ひなちゃんが俺って言ってる。
いつの間に・・・よよよ。
(゜ロ゜)!もう、行けるんじゃない?
パパとお兄ちゃんと三人で!
パパ、元気になって良かった。
オヤジ殿とのパーティー?楽しそうだなあ。ついでに、カムアウトしちゃえよ、オヤジ殿~(笑)
はあ、ひなちゃんが俺って言ってる。
いつの間に・・・よよよ。
(゜ロ゜)!もう、行けるんじゃない?
パパとお兄ちゃんと三人で!
パパ、元気になって良かった。
オヤジ殿とのパーティー?楽しそうだなあ。ついでに、カムアウトしちゃえよ、オヤジ殿~(笑)
けいったん様
おはようございます。
> プリン~♪
> 私も小さい頃は大好きで 毎日 おやつに食べてたよ!
> 毎日 食べて 一時期 嫌いになるほどに(*´-`*)ゞ ポリポリ
プリン、お好きだったんですね。
随分前、日生子育て日記を書いていた頃から、日生のプリン好きをどこかでまた披露したかっただけなのですが…。
庶民的な部分は変わっていない…というか、美味しいものが食べられた時の思い出の品なんでしょう。
> 周防、和紀、日生が 今ある幸せを噛み締め大切に大切にして 穏やかに過ごす素敵な時間
> 読んでる私も ほっこり笑顔♪(@^▽^@)ニコッ
>
> でも もう明日には最終話だなんて 淋しいよ~
> ( ´-ェ-` )シュン...byebye☆
三人とも幸せに過ごしていますね。
誰もが精一杯生きようとするのはかっこいいです。
遅かれ早かれ最終話の日はやってくるのです(`・ω・´)ノ
っていいながら、なんだか終わっていない模様…(汗)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> プリン~♪
> 私も小さい頃は大好きで 毎日 おやつに食べてたよ!
> 毎日 食べて 一時期 嫌いになるほどに(*´-`*)ゞ ポリポリ
プリン、お好きだったんですね。
随分前、日生子育て日記を書いていた頃から、日生のプリン好きをどこかでまた披露したかっただけなのですが…。
庶民的な部分は変わっていない…というか、美味しいものが食べられた時の思い出の品なんでしょう。
> 周防、和紀、日生が 今ある幸せを噛み締め大切に大切にして 穏やかに過ごす素敵な時間
> 読んでる私も ほっこり笑顔♪(@^▽^@)ニコッ
>
> でも もう明日には最終話だなんて 淋しいよ~
> ( ´-ェ-` )シュン...byebye☆
三人とも幸せに過ごしていますね。
誰もが精一杯生きようとするのはかっこいいです。
遅かれ早かれ最終話の日はやってくるのです(`・ω・´)ノ
っていいながら、なんだか終わっていない模様…(汗)
コメントありがとうございました。
ちー様
おはようございます。
> 次も続いて欲しい(笑)
>
> はあ、ひなちゃんが俺って言ってる。
> いつの間に・・・よよよ。
日生、成長しました!! したはずなんですけどね…。
まだどこかで幼稚な癖が残っているようで…。
> (゜ロ゜)!もう、行けるんじゃない?
> パパとお兄ちゃんと三人で!
>
> パパ、元気になって良かった。
> オヤジ殿とのパーティー?楽しそうだなあ。ついでに、カムアウトしちゃえよ、オヤジ殿~(笑)
幸せな環境は精神状態にも良く働いているのでしょう。
パパの人脈、培ってきたものはこんな時に人の良さとして表れるのではないでしょうか。
嫌っていたら面倒なんてみてくれないもんね。
オヤジ殿とのパーティーはいいんですけどね~。
いやいや、たぶん、奈義のプライドにもかけてそれは…。
今更口にしなくても…的な甘えも含まれているかもしれませんね。
周防、感じとるのが巧い人だし。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 次も続いて欲しい(笑)
>
> はあ、ひなちゃんが俺って言ってる。
> いつの間に・・・よよよ。
日生、成長しました!! したはずなんですけどね…。
まだどこかで幼稚な癖が残っているようで…。
> (゜ロ゜)!もう、行けるんじゃない?
> パパとお兄ちゃんと三人で!
>
> パパ、元気になって良かった。
> オヤジ殿とのパーティー?楽しそうだなあ。ついでに、カムアウトしちゃえよ、オヤジ殿~(笑)
幸せな環境は精神状態にも良く働いているのでしょう。
パパの人脈、培ってきたものはこんな時に人の良さとして表れるのではないでしょうか。
嫌っていたら面倒なんてみてくれないもんね。
オヤジ殿とのパーティーはいいんですけどね~。
いやいや、たぶん、奈義のプライドにもかけてそれは…。
今更口にしなくても…的な甘えも含まれているかもしれませんね。
周防、感じとるのが巧い人だし。
コメントありがとうございました。
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